中央銀行が短期金融市場で形成される短期金利の中の1つを政策金利と定め、その政策金利がゼロ付近になるように誘導する金融政策をゼロ金利政策という。
日本を例にとって説明すると、以下のようになる。
市中銀行は日銀に現金を預けるなどして日銀当座預金を得ている。この日銀当座預金は、よその銀行へ送金する預金者が現れたり、大量の現金引き出しをする預金者が現れたりすると、減少してしまう。
市中銀行は準備預金制度によって日銀当座預金の必要額を決められているのだが、その必要な金額を割り込んでしまうことがある。そうなると大変で、「準備預金制度を遵守できない不良な銀行」として金融庁の行政指導を受けるなど、大変なことになってしまう。
日銀当座預金が不足した民間銀行は、なんとかして日銀当座預金を補給しなければならない。そのときに使われるのが短期金融市場の銀行間取引市場のコール市場である。そのコール市場の中で無担保コール翌日物の市場が最も中心的な存在になっている。日銀当座預金をよその銀行から借りるとき、電話をかける(コール)だけで取引が始まり、国債のような担保が必要とされない手軽さがあり、一日単位で借りることができて翌日には返済することができるという超短期の市場である。
この無担保コール翌日物の金利を、日銀は政策金利として常に操作している。
短期金融市場や長期金融市場で日銀が資金吸収オペレーションをすれば、市場参加者が持つ日銀当座預金が減っていき、貸し手が少なくなって金利が上がって利上げになる。無担保コール翌日物の金利が利上げになれば他の短期金利もことごとく上がり、さらには市中銀行が企業・家計に対して1年以内の短期間で貸し付けするときの利率も上がっていく。そうなると世の中全体で借り手に取って厳しく、貸し手にとって優しい状態になり、需要を抑え込む形になってインフレを抑制することになる。
短期金融市場や長期金融市場で日銀が資金供給オペレーションをすれば、市場参加者が持つ日銀当座預金が増えていき、貸し手が多くなって金利が下がって利下げになる。無担保コール翌日物の金利が利下げになれば他の短期金利もことごとく下がり、さらには市中銀行が企業・家計に対して1年以内の短期間で貸し付けするときの利率も下がっていく。そうなると世の中全体で借り手に取って優しく、貸し手にとって厳しい状態になり、需要を促進する形になってインフレを促進することになる。
利下げを目一杯行って、無担保コール翌日物の金利がゼロ付近にまで下落することをゼロ金利政策という。
一般市民が市中銀行にお金を預けるときは普通預金の口座を開設することが多い。また1年以内の期間の定期預金を利用する人もいる。
普通預金や1年以内定期預金の利子を計算する利率は、短期金融市場で形成される短期金利の影響を大きく受ける。
このため中央銀行がゼロ金利政策を実行したり、あるいは中央銀行が量的金融緩和を行って結果的に無担保コール翌日物の金利がゼロ付近に張り付いたりすると、一般市民が利用する普通預金の金利もゼロ付近に落ちていく。
各国の中央銀行はしばしばゼロ金利政策を導入してきた。
景気が悪化するとまず短期金利の中の政策金利が引き下げられ(利下げ)、それでも景気回復しないのならさらに政策金利が引き下げられ、そしてついに政策金利がゼロ付近になるゼロ金利政策が導入される。
ゼロ金利政策が通用しないのなら継続的に買いオペレーションを行う量的金融緩和が実行される。
それでもダメなら、市中銀行が保有する中央銀行預金の一部にマイナスの金利を付けて短期金利がマイナスになるように誘導するマイナス金利政策が敢行される。
景気が悪化したときの金融政策は、どの国もだいたいこういう流れになっている。
1990年に地価と株価が急落してバブル景気が崩壊し、日本は不景気に突入した。日銀は政策金利を下げて金融緩和したが、景気の悪化をなかなか食い止められなかった。
1998年以降における日銀の無担保コール翌日物の金利(短期金利)の誘導目標を表にすると次のようになる(1998年以降の日銀の金融政策を振り返るときは量的金融緩和の記事も参照のこと)。
無担保コール翌日物金利の誘導目標 | 備考 | |
1998年9月9日 | 0.25% | |
1999年2月12日 | 0.15%で徐々にいっそうの低下を目指す | ゼロ金利政策導入 |
2000年8月11日 | 0.25% | ゼロ金利政策解除 |
2001年2月28日 | 0.15% | |
2001年3月19日 | なし。量的金融緩和が導入された | 結果的にゼロ金利になった |
2006年3月9日 | 量的金融緩和を解除する。 おおむね0%で推移するように誘導する |
ゼロ金利政策導入 |
2006年7月14日 | 0.25% | ゼロ金利政策解除 |
2007年2月21日 | 0.5% | |
2008年10月31日 | 0.3% | |
2008年12月19日 | 0.1% | |
2010年10月4日 | 0.1%~0% | ゼロ金利政策導入 |
2013年4月4日 | なし。量的金融緩和の一種である量的・質的金融緩和が導入された | ゼロ金利政策解除。ただし結果的にゼロ金利になった |
2001年3月から2006年3月までの量的金融緩和の間や、2013年4月以降の量的・質的金融緩和の間は無担保コール翌日物の金利を誘導目標にしていなかったが、大規模な買いオペを続けていたので結果的に無担保コール翌日物の金利がゼロ付近で張り付いていた。
ゆえに1999年2月から2000年8月までの期間と、2001年3月から2006年7月までの期間と、2013年4月から2021年11月現在までの3つの期間がゼロ金利の期間であると言うことができる。
ちなみに2021年10月28日の無担保コール翌日物の金利(短期金利)は、ゼロ金利を通り越して-0.03%程度になっていて、貸し手が金利を払っている。これはなぜかというと、2016年1月に導入されたマイナス金利政策で市中銀行の超過準備の一部に-0.10%の利子を付けているからである。市中銀行は「超過準備を持っていると罰金を喰らうから、他の銀行に貸し出そう。利子なんてもらわなくていい。-0.10%よりもほんのちょっと高い程度の利子でいい」と考え、なんとかして貸し出そうとしている。つまり、マイナス金利を課された日銀当座預金がババ抜きのババのような扱いを受けており、銀行が他の銀行に向かって「君のところで、日銀当座預金を引き取ってくれよ」と訴えかけているのである。
アメリカ合衆国の中央銀行に当たる組織は、FRB(連邦準備制度理事会)である。そのFRBは短期金融市場のフェデラルファンド金利(FF金利)を操作している。このフェデラルファンド金利が短期金利の代表格となっている。
2008年のリーマンショックに対応するため、2008年12月からゼロ金利政策が導入された。長らくゼロ金利政策を取っていたが、2015年12月にゼロ金利政策が解除され、利上げされた。
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最終更新:2024/04/19(金) 22:00
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