ソミュアS35とは (ソミュアエスサンゴとは) [単語記事]

概要

第一次世界大戦において戦車の標準的なスタイルを確立したルノーFT17の開発で注目を浴びたフランスだが、その車両が開発された後も「戦車は歩兵の突撃を支援するためのもの」という考えを持ち続けていた。すなわち戦車はあくまで歩兵部隊用の兵器であり、機動力を重視する騎兵部隊には装輪装甲車を充当するというものであった。

しかしその後の演習において、装輪式の車両では路外における機動力が戦車に劣ることから騎兵部隊には不向きであることが明らかとなった。そこでフランスは1930年より騎兵部隊向けの戦車を「騎兵戦車」、従来通りの歩兵部隊向けの戦車を「歩兵戦車」と、それぞれ区別して開発を行うようになった。

さらに1931年には、騎兵戦車というジャンルの中で以下のようなさらなる細分化もなされた。

AMD（Automit railleuse de Deco uverte、索敵用装甲車両の意）＝偵察用装甲車
AMR（Automit railleuse de Reco nn ais san ce、偵察用装甲車両の意）＝偵察用戦車
AMC（Automit railleuse de Comb at、戦闘用装甲車両の意）＝戦闘用戦車

1934年初頭には騎兵部隊で初めての機械化兵器として「ルノー AM R33軽戦車」が開発されたが、さらに強力な車両が必要であるとして1934年 6月に新型 AMCの発注が行われた。発注を受けたのはフランス初の戦車を製造したシュナイダー社に属する子会社のソミュア社で、同年10月より試作車両の製作が開始され1935年 4月に完成した。

試作車両は「AC3」と名付けられ1935年 6月（または7月）から8月にかけて試験が行われた。その後砲塔を搭載し各所にも改良を加えた「AC4」という増加試作車4両を製作、1938年 1月まで試験が続けられた。評価テストの最中である1936年 3月に「AM C35S（ソミュア製35年式戦闘用装甲車両）」として制式採用された。後にオチキス H35やルノーB1にならうように、本車も「ソミュアS35」という呼称で呼ばれるようになった。

性能

本車にはバリエーションが存在しないため、本項でその諸性能を記述する。

武装は47mmSA35戦車砲1門（携行弾数108発）と7.5mmM31機銃を砲塔同軸に1挺（携行弾数1250発）、装甲は最大56mm、最高速度は45km/hである。30年代の戦車としては非常に優れた性能を持っており、後に相対することになるドイツ製戦車と比べても、火力、防御力、速力の全てにおいて勝っていた。

なおAC4の段階では短砲身の47mmSA34戦車砲を搭載していた。また砲塔は「AP X-1」と呼ばれる、ルノーB1と同様のものであった（ルノーB1 bisでは「APX-4」）。量産車では改良型の「AP X-1 CE」となった。

足回りはシュナイダー AC1の設計も行ったブリリエ技師が担当し、当時チェコで開発に携わっていたLT-35（35(t)戦車）に近い構造となった。

実戦

ソミュアS35の装甲圧は最大で56mmと、ルノーB1に次ぐ厚さを持っていた。さらに車体から砲塔に至るまで全面的に取り入れられた鋳造工法によって、当時主流であったリベット工法に比べ生産性や乗員保護の面において有効であると共に防御力も優れていた。そして程よい曲線と傾斜で構成された車体は避弾経路が良好で、これらが相まって当時の主力であった37mmクラスの対戦車砲を容易に弾き返すことができた。また47mmの主砲はそれらよりも高い火力を発揮し、I号戦車やII号戦車といった軽戦車はもちろんIII号戦車やIV号戦車にも十分対抗できた。

しかし本車は同時に多くの欠点もあった。車体そのものは高い防御力を誇るものの、その側面は乗員の出入り口や機関室の点検用ハッチなどが多く設けられているために脆弱となってしまった。また車体は生産性を上げるためいくつかに分割された鋳造製の装甲板をそれぞれボルトで結合するという形式をとっていたが、これが外部からの衝撃などで破断された場合は車体がバラバラになり、たとえ貫徹していなくてもたちまち行動不能となってしまった。さらに生産性こそ高い鋳造製部品だが生産量には限界があり、細部に関しても部品メーカーによって規格が統一されていなかったために整備の面においても難があった。そして本車に限ったことではないが「防御力を生かした拠点防衛」という思想で分散配置してしまったことが仇となり、片端から袋叩きにされ本来の性能を発揮できずに終わった。

フランス軍が降伏した後はドイツ軍によって運用され専ら占領地区の警備など後方任務にあたったが、大戦後期になると戦車不足により東西問わずあらゆる戦線で連合軍と戦った。

「騎兵戦車」について

概要でも説明したとおり、この車両は「歩兵戦車よりも機動力のある戦車」として生み出されたものである。

一般的に「騎兵」と言えば足の速い馬に乗って戦う兵種として知られているが、そのことから現代においても「機動力の高さを武器にする部隊」という意味合いで比喩的に用いられ、本車はそういった用途に向いた車両として作られた。言うならば「足の速い『馬』」がそのまま「足の速い『戦車』」に置き換わったものだと考えればよい。

同じような分類法にイギリスの「巡航戦車」、ソビエトの「快速戦車」がある。なおドイツの「II号戦車D/E型」も騎兵戦車または快速戦車に分類されることもある。