タルコット・パーソンズ(1902~1979)とは、第二次世界大戦以後を代表する社会学者である。
アメリカのコロラド州に生まれる。アマースト大学を卒業後、ハイデルベルク大学で社会学・経済学の博士号を取得し、ハーバード大学で社会学の教授となった。
パーソンズの主張の根底には、功利主義がホッブス的な「万人の万人に対する闘争」を生じさせ社会的秩序を崩壊させるという、ホッブス的秩序問題がある。また当時のアメリカ社会学を支配していたのが経験主義的な方法であり、パーソンズは理論的一般化を重視する分析的リアリズムを推し進めたのである。それが構造―機能分析へとつながっていく。
パーソンズはまず行為者、目的、状況、規範的指向の4つの分析的要素からなる行為の準拠枠を考え、この枠内で高位はいかなる場合に秩序あるものになるかという考察を始めた。
パーソンズはその結果実証主義から離れ、アルフレッド・マーシャル、ヴィルフレッド・パレート、エミール・デュルケーム、マックス・ヴェーバーら非実証主義的思考につき、秩序形成には究極的目的と道徳的規範が共通価値から表れ、それへの同調を努力するという人間の意志を問題とした主意主義的行為論を提唱することで、当時の危機的状況を乗り越えようとしたのである。
しかし、それではまだ不安定であった。そこでパーソンズが着目したのは動機付けの概念である。彼はパレートやウォルター・ブラッドフォード・キャノンのホメオスタシス理論に基づき、行為を要素間の均衡維持的関係から構成される、システムとしてとらえたうえで、行為システムを「パーソナリティ・システム」、「文化システム」、「社会システム」という下位システムから構成されると考えたのだ。システムは構造と構造に作用する可変的要素から成り立ち、それゆえ構造―機能分析はシステムの構造分析と構造に対する機能分析から成り立つのである。
パーソンズはさらに社会システムの構造を「役割」のネットワークと考え、役割構造が制度化されていることが社会システムが均衡するための条件となる。しかしそのためには、動機づけの問題が必要なのだ。そのためには動機づけの過程である社会化と、そこから逸脱した行為を再度適正な方向へと動機づける社会統制が決定的な意味を持つのである。
社会システムにおける役割構造の制度化、パーソナリティ・システムへの指向の社会化は、文化システムを基準に行われるというのがその後のパーソンズの主張につながっていく。共通価値を媒介にしながら、パーソナリティ・システム、社会システム、文化システムを相互に関連付けたのである。パーソンズはさらにこの共通価値を感情性―感情中立性、自己中心的指向―集合体中心的指向、個別主義―普遍主義、所属本位―業績本位、限定性―無限定性の5組の選択肢からなるパターン変数として示したのだ。
こうしてパターン変数をもってパーソンズ理論はその頂点に達し、ロバート・フリード・ベールズの小集団分析、ポール・フェリックス・ラザースフェルドの4区画図式を応用し、AGIL分析、つまり適応、目標達成、統合、潜在性の4機能要件を手にした。これらはいずれもシステムが存続するために、システムがそれぞれが4機能を果たすtことでさらに4つの下位システムに文化し、機能的に文化した下位システムもまた4機能を担う下位システムに分化していく、システム全体の変動を説明する糸口を手に入れたのだ。
4機能要件からとらえると、生物有機体(A)、パーソナリティ・システム(G)、社会システム(I)、文化システム(L)と機能分化し、このうち社会システムはさらに、経済、(a)、政治(g)、コミュニティ(i)、信託および動機付け(l)といった下位システムに分化しながら、それぞれ「貨幣」(M)、「権力」(P)、「影響力」(I)、「委託」」(C)といった各システムに固有の一般化されたシンボリック・メディアを仲立ちにして制御される、資源の動的な境界相互交換を行い、ほかのシステムを補完するとみなされる。
このようにパーソンズは社会システムの変動や動的過程を動機づけ過程と境界相互交換を通して説明しようとした。そして彼はさらに進化論とサイバネティクス理論を応用しながら社会の歴史的変化を取り扱う、新進化論を展開しようとした。
こうしたパーソンズ理論は比類なき影響をもったが、具体的現象を軽視したことで60年代から70年代にかけて影響力を失い、この批判から生まれたのが現象学的社会学やシンボリック相互作用、エスノメソドロジーであった。しかしジェフリー・アレクサンダーらネオ機能主義の登場によってそれら批判理論との溝は徐々に埋められつつある。
パーソンズが意図した一般理論の構築は社会学では顧みられなくなったが、現在もなお一つの金字塔として歴史に残っているのである。
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最終更新:2024/04/24(水) 09:00
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