ダイヤモンドビコー

ダイヤモンドビコー（Diamond Biko）とは、1998年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牝馬。

重賞4勝を挙げ、2002年の古馬牝馬重賞戦線で目覚ましい活躍をした……こと以上に、同年のJRA賞の疑惑の受賞でその名が残ることになってしまった馬。彼女自身には何の罪もないのに。

主な勝ち鞍
2001年：ローズS（GⅡ）
2002年：阪神牝馬S（GⅡ）、中山牝馬S（GⅢ）、府中牝馬S（GⅢ）

2002年JRA賞最優秀4歳以上牝馬

概要

父*サンデーサイレンス、母*ステラマドリッド、母父Alydarという血統。
父は説明不要、日本競馬そのものを変えてしまったレジェンド種牡馬。
母はアメリカで2歳G1を3勝、3歳でもG1エイコーンSを勝ちG1を4勝した名牝。母My Julietは重賞6勝を挙げ、全姉Tis JulietもG1馬という良血である。社台ファームに繁殖牝馬として輸入され、ダイヤモンドビコーは日本で種付けした最初の仔にあたる。
母父アリダーは1978年のアメリカ三冠全てで三冠馬Affirmedの2着に敗れた馬。種牡馬としては大成功を収め、サンデーサイレンスのライバルEasy Goerの父でもある。その一方で若くしての不慮の死に保険金目当ての殺害疑惑があるなど何かと運が無さ過ぎた馬として有名。

というわけで、押しも押されぬ大種牡馬とアメリカの名牝の間に産まれた文句なしの良血馬。
*ステラマドリッドの牝系はこれ以降も大活躍しており、ダイヤモンドビコーの半姉Refinementの孫にラッキーライラック、*アイルドフランスの孫にミッキーアイルとアエロリットが出ている。
ちなみに父サンデーサイレンス×母父アリダーの組み合わせには1996年の芝ダート変則二冠馬イシノサンデーがいる。

1998年5月25日、千歳市の社台ファームで誕生。これだけの良血馬なので、1998年のセレクトセールではこのときのセール中3番目の高額となる1億7500万円（税抜）で落札された。

オーナーはビコーペガサスなどの「ビコー」冠名を用いる(有)レジェンド……ではなく、ゼンノロブロイやゼンノエルシドなど「ゼンノ」冠名の大迫忍である。なお、特に両者につながりもない。
大迫オーナーは「ビコー」冠名も併用しており、(有)レジェンドが名前の頭につける「ビコー○○」なのに対して、大迫オーナーは「○○ビコー」と名前の末尾につけていた。冠名の被りに対しては特に規制とか禁止はないのでたまにこういう紛らわしいことが起こるのである。

※本馬の現役時代は2001年の馬齢表記変更をまたいでいるが、煩雑さを避けるため記事内では現表記（満年齢）に統一する。

ダイヤモンドの美光

遅れてきても焦らずに

美浦の名門・藤沢和雄厩舎に入厩し、名手・岡部幸雄を鞍上に迎え、2000年10月7日の東京・芝1400mの新馬戦でデビュー。これだけの良血馬なので当然大きな期待を集め、断然人気だったが4着。
折り返しの新馬戦（芝1600m）で勝ち上がるものの、続く赤松賞（500万下）は4着、年末のフェアリーS（GⅢ）は6着と期待のわりにイマイチパッとしない走りが続く。

3歳となっても結局春の牝馬クラシックには間に合わず。しかし焦らず力をつけていき、4月に500万下を2着としたあと、5月と6月に500万下と900万下を連勝。8月の札幌・クイーンS（GⅢ）でヤマカツスズランやティコティコタックといった古馬を相手に2着と好走する。

秋華賞トライアル・ローズS（GⅡ）では2番手追走から直線で力強く抜け出し、オークス2着の1番人気ローズバドの追撃を3/4馬身抑えて完封。テン乗りの松永幹夫騎手も太鼓判を押す強い勝ち方で重賞初制覇を飾った。

トライアルを勝ったのだから当然、良血の期待に答えて残る一冠・秋華賞に向かうと思われた。しかし「1勝より一生」をモットーとする藤沢師は、短期間に美浦から北海道、阪神と二度の長距離輸送をして、ここからさらに京都への長距離輸送は負担が大きすぎると判断。なんとトライアルを勝ったのに秋華賞を見送ることになった。テイエムオーシャンが二冠を達成したその秋華賞ではローズバドが2着だったため、ダイヤモンドビコーが出ていればあるいは……と惜しまれたが、藤沢師らしい選択といえる。

少し休み、鞍上にはキーレン・ファロンを迎えて年末の阪神牝馬S（GⅡ）に向かったが6着に敗れ、3歳シーズンを終える。

牝馬戦線に煌めくダイヤ

明けて4歳、古馬となったダイヤモンドビコーは、引き続きファロン騎手と1月の京都牝馬S（GⅢ）から始動。先行からスムーズに抜け出し、他の馬は抑えきったものの、これが引退レースの6歳馬ビハインドザマスクに大外から差し切られて2着。

続く中山牝馬S（GⅢ）では名手オリビエ・ペリエを迎え、同期のオークス馬レディパステル、1歳上の秋華賞馬ティコティコタックを抑えて1番人気に支持されると、直線でこのGⅠ馬2頭を完全に置き去りにしてなんと5馬身差の圧勝。タイムも中山芝1800mのレコードタイ。ペリエ騎手もガッツポーズの圧巻の内容で重賞2勝目を挙げ、古馬牝馬戦線の主役へと躍り出る。

しかし続く混合戦の新潟大賞典（GⅢ）（鞍上・鹿戸雄一）は稍重の馬場に脚をとられて7着。エプソムカップ（GⅢ）（鞍上・岡部幸雄）は掛かりっぱなしで10着と、ともに1番人気に支持されながら撃沈。

牝馬限定戦に戻り、岡部騎手と挑んだクイーンS（GⅢ）では先に抜け出したミツワトップレディ、最後方から猛然と追い込んできたサクラヴィクトリアと横並びの大接戦となり、僅かにハナ差届かず2着。
しかし加藤和宏が騎乗した中山開催の府中牝馬S（GⅢ）は2番手追走から抜け出して押し切り、1馬身半差でレディパステルや前走敗れたミツワトップレディらに完勝。重賞3勝目を挙げる。ベテランの加藤騎手は3年半ぶりの重賞制覇だった。

そして古馬牝馬の大一番・エリザベス女王杯（GⅠ）に向かったダイヤモンドビコー。しかしこの年のエリ女は、3歳勢からとんでもない怪物が殴り込みをかけてきていた。そう、秋華賞を圧勝したマル外の超良血馬ファインモーションである。単勝1.2倍という圧倒的な支持を集めたファインモーションに対し、ダイヤモンドビコーは2番人気に支持されたが、オッズは8.3倍だった。
中山牝馬S以来のペリエ騎手は道中前にファインモーションを見る位置で徹底マーク。ペリエ騎手も「最高の競馬ができた」とコメントするレース運びをしたが、根本的な力の差はどうしようもなかった。4コーナーでのファインモーションのスピードについていけず、2馬身半差という着差以上の完敗で2着。ペリエ騎手も藤沢師もファインモーションの強さに脱帽するしかなかった。

気を取り直して年内ラストは阪神牝馬S（GⅡ）。ここは単勝1.3倍という圧倒的な支持を受けると、ハナを切ってレースを引っぱり、そのまま悠然と逃げ切り勝ち。格の違いを見せ付けるようにして前走の鬱憤を晴らし、充実の4歳シーズンを締めくくった。

その栄冠に輝くべきは？

さて、2002年のダイヤモンドビコーの戦績は8戦して重賞3勝。何より特筆すべきは牝馬限定重賞で6戦3勝、2着3回のパーフェクト連対という戦績である。

今でこそ中央の古馬牝馬限定重賞は11レースあるが、当時はまだヴィクトリアマイルと福島牝馬Sは存在せず、愛知杯は混合戦の父内国産馬限定重賞、ターコイズSはただのオープン特別だった。つまり2002年のダイヤモンドビコーは、当時存在した牝馬限定重賞7レース中6レースに出走し全連対を為し遂げたわけである。

混合戦では結果を出せず、エリ女では3歳馬ファインモーションにちぎられたものの、間違いなくこの年の古馬牝馬の主役といえる戦績を残したダイヤモンドビコーは、GⅠこそ勝てなかったものの、281票中133票を集め、見事にこの2002年のJRA賞最優秀4歳以上牝馬を受賞した。よかったね！　おめでとう！

……そう、素直に祝福できていれば良かったのだが。
結論から言えば、この2002年の最優秀4歳以上牝馬の結果は、JRA賞史上に残る疑惑の受賞として記憶されている。

え？　だって当時はVMが無かったんだから古馬牝馬GⅠはエリ女だけでしょ？　そのエリ女を3歳のファインモーションが勝ったんだから、他に混合GⅠを勝った牝馬がいなかったのなら、古馬牝馬代表はダイヤモンドビコーでいいんじゃないの？

それが、この年は古馬混合GⅠを勝った古馬牝馬がちゃんといたのだ。
そう、スプリンターズステークスを勝ち、エアグルーヴの1997年天皇賞(秋)以来5年ぶりの牝馬による芝混合GⅠ制覇を果たした同期のビリーヴである。

この年の最優秀4歳以上牝馬の得票数はダイヤモンドビコー133票、ビリーヴ109票。混合GⅠを勝ったビリーヴを差し置いて、GⅠを勝っていないダイヤモンドビコーの受賞という結果には、疑問の声が相次いだ。
その疑問の答え合わせになったのが、競馬ブック編集局員・村上和巳の「◆ビリーヴ嬢の悲運」というコラムである。現在もリンク先で全文を読めるが、そこにはビリーヴが受賞を逃したとんでもない理由が暴露されていた。

　そのビリーヴが４歳以上牝馬部門で１位に選出されなかったのには理由がある。ＪＲＡ賞が発表になるや否や、周囲から「古馬の牝馬はビリーヴやったな。ついつい短距離部門に入れてしもた」「そういえば、ビリーヴは牝馬やったな」という声が漏れたもの。なかには「ビリーヴが牝馬だと気づかなかった」（投票権のある知人の関東記者）なんて嘘のような声さえあった。つまり、ビリーヴ＝短距離のイメージが強すぎて、ビリーヴ＝牝馬という基本的な認識が薄れていたのだ。これが、彼女の悲運だった。その最優秀短距離馬部門でも、第１位のアドマイヤコジーンとは25票差の２位に甘んじたのだから、不運は重なる。

――村上和巳の編集員通信「ビリーヴ嬢の悲運」より　太字強調引用者

そう、ビリーヴが4歳以上牝馬部門の投票対象だということを忘れていた競馬記者が相当数いたという冗談みたいな話だったのである。この件は「ビリーヴが牡馬と間違われた」として語られることが多いが、「短距離馬は最優秀短距離馬部門の対象であって、最優秀○歳牡馬・牝馬とは別カテゴリー」という認識も大きかったものと思われる。
いずれにしても、年度代表馬の投票権を持つ本職の競馬記者たちのこの体たらくには批判の声が続出。しかも上記引用部にある通り、ビリーヴは最優秀短距離馬も逃して無冠に終わってしまったのだから尚更である。今だったらさらに派手に大炎上していただろう。

結果、ダイヤモンドビコーは「ビリーヴが牡馬と間違われたためにJRA賞を受賞できた馬」という、不名誉すぎる烙印が押されることになってしまい、2002年のJRA賞最優秀4歳以上牝馬部門は、現在ではほぼJRA賞の汚点という文脈でしか語られない。ダイヤモンドビコーには何の罪もないのに……。

確かに混合GⅠを勝ったビリーヴに比べれば、牝馬限定重賞3勝というダイヤモンドビコーの成績は若干格落ちという印象があるのは否めない。混合戦の2戦は惨敗しているし、エリ女も2着とはいえファインモーションに全く手も足も出なかったのも印象が良くないのも否定はしない。

それでも、さすがにいくらなんでも133票全ての投票者がビリーヴを忘れていたというわけでもないだろう。ダイヤモンドビコーの牝馬限定重賞年間6戦全連対という成績もまた、何ら恥じるところのない素晴らしいものであるということは、彼女の名誉のためにも今一度強調しておきたい。

ちなみに、その年GⅠ未勝利の馬がJRA賞（特別賞を除く）を受賞したのは、2023年現在も彼女が最後である。現在は古馬限定のヴィクトリアマイルがある以上、彼女が最後のGⅠ未勝利でのJRA賞受賞馬になるのかもしれない。

その後

疑惑のJRA賞受賞馬となってしまったダイヤモンドビコー。5歳も現役続行し、そのイメージを払拭する活躍を見せ……られれば良かったのだが、残念ながら5歳時の彼女の成績には特筆すべきことがない。金鯱賞（GⅡ）、函館記念（GⅢ）、オールカマー（GⅡ）と果敢に牡馬にも挑んだが、全て着外。掲示板入りしたのはクイーンS（4着）のみで、エリザベス女王杯を6着に敗れて現役を引退した。

通算23戦7勝、獲得賞金3億3361万9000円。しっかりセール取引額を大きく上回る賞金を稼いだ。大迫オーナーの所有馬では、ゼンノロブロイ、サプライズパワーに次いで3番目の獲得賞金額である。
GⅠ未勝利で重賞勝ちは牝馬限定戦のみ、牡馬相手や大レースでこれといった目立った好走をしたというわけでもないため、現在はビリーヴ落選事件絡みくらいでしか語られない馬であるが、ビリーヴ落選事件を語るときは、ダイヤモンドビコーもちゃんと古馬牝馬路線で立派な成績を残していたんだよ、ということは記憶の片隅にでも留めておいてほしいものである。

引退後は故郷の社台ファームで繁殖入りし、2012年から新冠町の村上欽哉牧場に移動。2014年1月、キングカメハメハ産駒の牡馬を出産した後に疝痛を発症、容態の悪化により安楽死となった。16歳没。その最後の仔は「ゼンノワスレガタミ」と命名され中央で4勝を挙げている。

直仔からは目立った活躍馬は出なかったが、4頭の牝馬が繁殖入りしてファミリーの血を繋いでいる。ステラマドリッド牝系から何頭も大物が出ているのは前述した通り。いつか彼女の血を引く馬が、今度は誰にも文句を言わせない成績でJRA賞を受賞するような活躍をする日を楽しみに待ちたい。

血統表

*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛	Halo 1969 黒鹿毛	Hail to Reason	Turn-to
			Nothirdchance
		Cosmah	Cosmic Bomb
			Almahmoud
	Wishing Well 1975 鹿毛	Understanding	Promised Land
			Pretty Ways
		Mountain Flower	Montparnasse
			Edelweiss
*ステラマドリッド 1987 鹿毛 FNo.6-a	Alydar 1975 栗毛	Raise a Native	Native Dancer
			Raise You
		Sweet Tooth	On-and-On
			Plum Cake
	My Juliet 1972 黒鹿毛	Gallant Romeo	Gallant Man
			Juliets Nurse
		My Bupers	Bupers
			Princess Revoked

クロス：5代内アウトブリード

関連動画

仕方ないけど残念ながら勝ったレースの動画はないので2着のレースを。

関連リンク

• ダイヤモンドビコー | 競走馬データ - netkeiba.com

関連項目

• 競馬
• 競走馬の一覧
• 2001年クラシック世代
• サンデーサイレンス系
• ビリーヴ