ダノンシャンティ(Danon Chantilly)とは、2007年生まれの日本の競走馬。黒鹿毛の牡馬。
NHKマイルカップで当時の日本レコードを叩き出したダノン軍団の初GⅠ馬であり、ダノックスはクラシックを獲れないという14年に渡る呪いの始まりを告げ、松国ローテを終わらせた(?)馬。
主な勝ち鞍
2010年:NHKマイルカップ(GⅠ)、毎日杯(GⅢ)
父フジキセキ、母*シャンソネット、母父Mark of Esteemという血統。
父は*サンデーサイレンス初年度産駒の「幻の三冠馬」。種牡馬としては不屈のダート王カネヒキリを筆頭に、キンシャサノキセキやストレイトガールなど、主に短距離~マイルで多くの活躍馬を輩出した。
母はイギリス産馬で、フランスで走り5戦未勝利。初年度は生後直死、2年目は不受胎、3年目で初仔のダノンシャンティを産んだあと、また2年連続で不受胎に終わり、ダノンシャンティがデビューした2009年に放牧中の事故で死亡した。そのためダノンシャンティは兄弟のいないひとりっ子である。
母父マークオブエスティームはアイルランド産のゴドルフィン所有馬で、1996年のイギリス2000ギニーとクイーンエリザベス2世Sの勝ち馬。
祖母Glorious SongはアメリカでGIを4勝し、繁殖としても名馬Singspielや名種牡馬Rahyを送り出したザ・名牝。日本ではJBCレディスクラシックを連覇したホワイトフーガや、名繁殖牝馬ハルーワスウィートがGlorious Songの牝系に属する。
Glorious SongはHalo産駒なので、ダノンシャンティはHaloの3×3というインブリード持ちである。
2007年4月28日、日高町のダーレー・ジャパン・ファームで誕生。2008年のセレクトセール1歳の部で、2750万円(税抜)で落札された。ダーレー・ジャパン・ファームの開業は2004年であり、ダノンシャンティは3期生となる。育成主任によると「とくに目立つ1頭というわけではなかったですが、バランスの良い馬でしたね」「ケガや病気とは無縁で手がかかった記憶があまりない」とのこと。
オーナーは「ダノン」冠名でおなじみダノックス。今でこそGⅠ戦線でおなじみだが、当時はまだダノンゴーゴーがファルコンSで所有馬重賞初制覇を挙げた、そんな頃であった。
馬名意味は「冠名+フランスの競馬場名より」。ジョッケクルブ賞(フランスダービー)、ディアヌ賞(フランスオークス)が開催されるシャンティイ競馬場が由来である。4歳下にダノンロンシャンがいるが特に血縁関係はない。
クロフネ、タニノギムレット、キングカメハメハ、ダイワスカーレットなどでおなじみ、栗東の松田国英厩舎に入厩。2009年11月22日、京都・芝1800mの新馬戦にて内田博幸を鞍上にデビューする。3.1倍の2番人気だったが、良馬場なのに1000m65秒2とかいうドスローの展開を3番手から鋭く差し切ってデビュー勝ちを飾る。こんなレース展開だったので勝ちタイムは1:52.5と、この年の2歳芝1800m戦では4番目に遅いタイムであった。
続いて年末のラジオNIKKEI杯2歳S(JpnⅢ)では、前走の勝ちタイムもあってかさほど評価は高くなく、27.8倍の7番人気だったが、好スタートから前目の好位を取り、道中やや下げつつ直線では内から脚を伸ばし、断然人気に応えたヴィクトワールピサから0.2秒差の3着に好走。内田騎手は「やや行きたがる面を見せましたが、直線はよく伸びています。まだまだこれからの馬。今日はよく頑張っていますよ」とのコメントであった。
明けて3歳は共同通信杯(GⅢ)から始動。吉田豊に乗り替わり、4.1倍の2番人気に支持される。今回は後方で折り合いをつけて進め、直線では断然の上がり最速の末脚で鋭く追い込んだものの、スローペースで先行した3番人気ハンソデバンドにハナ差届かず、写真判定の末2着。敗れたものの、前残りの展開に後方から見せた鋭い末脚で評価を高めた。
さて、共同通信杯2着で収得賞金もゲットしたが、皐月賞出走にはまだ若干心もとない感じとなったダノンシャンティ。普通ならトライアルで皐月の権利を取りに行くところだが、「能力があるけど競馬が上手ではない馬は中山を避けた方がいい」との松田師の方針で、皐月賞をパスして毎日杯→NHKマイルカップのローテを組むことになった。
松国厩舎で毎日杯→NHKマイルカップのローテといえば、言わずと知れたクロフネとキングカメハメハのローテである。迎えた毎日杯(GⅢ)、鞍上を任されたのはキンカメの主戦・安藤勝己であった。エアグルーヴの息子ルーラーシップ、ウインドインハーヘアの孫リルダヴァルという超良血2頭と人気を分け合い、3.7倍の3番人気に支持される。
レースはルーラーシップがその後お約束となる出遅れをかます中、ダノンシャンティはすっと前目の5番手を確保。直線で持ったままで前との差を詰めていき、残り300mで追い出すと前をあっさりと捕まえて抜け出し1と1/4馬身差という着差以上の完勝で重賞初制覇を飾る。
というわけでNHKマイルカップ(GⅠ)では、NZT勝ち馬サンライズプリンスと人気を分け合ったが、キングカメハメハの再現が期待され、2.6倍の1番人気に支持された。
レースはエーシンダックマンが最初の600m33秒4という狂気の超ハイペースでブッ飛ばす展開となり、ダノンシャンティは後方3番手で待機する。直線で大外に進路を取ったダノンシャンティは、ぶっちぎりの上がり最速33秒5の末脚で一気に前を呑み込み、最後は手綱を緩める余裕を見せて1馬身半差でゴール板を駆け抜けた。
先頭はダイワバーバリアン! 先頭はダイワバーバリアン!
しかし外からオレンジの帽子が突き抜けたー!!
ダノンシャンティさあダービーへ! 松国ローテ完成となるのか!?
ダノンシャンティー! 堂々と外から突き抜けました!
なんとなんとうわータイム1分31秒4! なんと1分31秒4!
外から突き抜けました! レコード! 当然レコード!
恐ろしいタイムで突き抜けていきました! ダノンシャンティです!
勝ちタイム1:31.4はキングカメハメハのレースレコードを1秒1も更新し、ゼンノエルシドが持っていた1:31.5を8年8ヶ月ぶりに更新した芝1600m日本レコード。2年後の安田記念でストロングリターンに更新されたが、レースレコードとしては2024年現在も残っており、その後NHKマイルカップで1分31秒台を出した勝ち馬もシュネルマイスター(1:31.6)のみである。
ダノックスはこれが嬉しいGⅠ初制覇となった。
府中がどよめく衝撃の勝ち時計で、本命の日本ダービーへと高らかに名乗りを挙げたダノンシャンティ。この年の日本ダービーは、皐月賞馬ヴィクトワールピサに、青葉賞を圧勝したペルーサ、皐月賞2着のヒルノダムール、プリンシパルSを圧勝したルーラーシップ、皐月賞4着から巻き返しを誓う2歳王者ローズキングダムと「史上最高のダービー」と言われたほどのタレント揃いだった。
ダノンシャンティも間違いなくその綺羅星の中の1頭として、キングカメハメハの再来を目指し、松国ローテの完成へと向けて、日本ダービーの大舞台へと向かう。
……はずだった。
5月30日の日本ダービー。28日の前々日オッズでは、ダノンシャンティはヴィクトワールピサとペルーサに次ぐ3番人気に支持されていた。だが……。
29日、舞い込んだのは悲報だった。
右後脚の第3中足骨近位骨折。出走取消。
日本ダービーの夢は挑むことすら叶わないまま、儚く散った。
松田師の信念であった「NHKマイルカップ→日本ダービー」の通称「松国ローテ」に挑んで結果を出した、クロフネ、タニノギムレット、キングカメハメハの3頭は、いずれも屈腱炎により3歳で引退を余儀なくされた。
そのため「クラッシャー」「松国タイマー」などと競馬ファンから揶揄された松田師。本人もキンカメが故障したときには相当ショックを受けたというが、「たとえ競走寿命が縮んでも、種牡馬価値を高めた方が馬のため」という師の信念にも実際一理ある。タニノギムレットが3歳で引退していなければウオッカは産まれていなかったわけで、種牡馬としては早期引退のメリットは間違いなく存在している。この信念と覚悟を持って管理馬にハードな調教を課したからこそ、この過酷なローテでのダービー馬を2頭輩出できたとも言えるだろう。
だがそれも、そもそも挑む前に終わってしまっては、まさしく本末転倒というものである。
ダノンシャンティの骨折は、競走寿命を縮めるリスクと天秤に掛け、これまで結果を出してきたハード調教・ハードローテという松田師の方針がとうとう裏目に出てしまった結果だった……のかもしれない。
結局、松国厩舎の管理馬がこのローテに挑んだのはダノンシャンティが最後だった。
そもそもこのローテに挑戦するクラスの馬がこれ以降松国厩舎に入って来なかっただけとも言えるので、実際のところ「ダノンシャンティの骨折が松国ローテを終わらせた」と言えるのかどうかは定かではない。ただ、翌年のベルシャザールは普通に皐月賞→日本ダービーのローテを走ったので、やっぱり松田師もさすがに何か思うところがあったのかもしれない。
……さて、なんだか日本ダービー取消でそのまま引退したみたいな書き方になってしまったが、ダノンシャンティはちゃんと骨折から復帰している。とはいえ、その後の競走生活はやはり、松国ローテの先輩たちと同じく短かった。
年末の有馬記念(GⅠ)にて、アンカツをペルーサに取られてフランシス・ベリーを鞍上に復帰したダノンシャンティだったが、後方から特に見せ場なく9着。
明けて4歳は京都記念(GⅡ)から始動。アンカツが鞍上に戻ったが、中団から脚を伸ばすも前に突き放されて4着。
そして産経大阪杯(GⅡ)では最後方から上がり最速の末脚を繰り出し、ヒルノダムールのレコード勝利から0.1秒差、自身も従来のレコードを更新するタイムで駆け抜ける4着。ダービー馬エイシンフラッシュともクビ差で、決して力が衰えているわけではないことを示した。
だが、レース後に右前浅屈腱炎を発症。松田師は「細心の注意を払って脚元をケアしてきたが、屈腱炎を発症したことは真摯に受け止めたい」と肩を落とし、結局そのまま5月に登録抹消、現役引退となった。通算8戦3勝。
ダノンシャンティのNHKマイルカップ以降、ダノン軍団はGⅠ戦線の常連となり、数多くのGⅠ馬を輩出していったが、なぜかクラシックを勝てないことで知られた。ダノンプラチナ、ダノンプレミアム、ダノンキングリー、ダノンファンタジー、ダノンザキッド、ダノンベルーガ……4頭の2歳王者を出しても、1番人気を送りこんでも勝てないクラシック。「ダノンはクラシックを勝てない」――そのジンクスの始まりは、このダノンシャンティの日本ダービー出走取消だったのかもしれない。
ダノンシャンティの日本ダービーの無念から始まったダノックスの呪いが打ち破られるのは、14年後の2024年、ダノンデサイルの日本ダービーでのことになる。
NHKマイルカップの日本レコードも評価されたか、引退後は社台スタリンステーションで種牡馬入り。初年度は153頭の牝馬を集め、初年度産駒からは毎日杯親子制覇など重賞4勝のスマートオーディン、交流重賞を勝ったサイタスリーレッドを輩出した。
しかしその後が全く続かず、2016年限りで社台SSも出されてしまい、2017年からはビッグレッドファームに移ったものの、種付け数は右肩下がりで、2020年限りで種牡馬引退。代表産駒のスマートオーディンが2021年から入れ替わりに種牡馬入りし、種付け数は少ないながら血を繋いでいる。
その後はヤマニンキングリー、グランデッツァ、アグネスジェダイ、ナカヤマナイト、サイレントディール、クーリンガーなどがいる岩内町のホーストラスト北海道で余生を送っている。
フジキセキ 1992 青鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ミルレーサー 1983 鹿毛 |
Le Fabuleux | Wild Risk | |
Anguar | |||
Marston's Mill | In Reality | ||
Millcent | |||
*シャンソネット 2000 鹿毛 FNo.12-c |
Mark of Esteem 1993 鹿毛 |
Darshaan | Shirley Heights |
Delsy | |||
Homage | Ajdal | ||
Home Love | |||
Glorious Song 1976 鹿毛 |
Halo | Hail to Reason | |
Cosmah | |||
Ballade | Herbager | ||
Miss Swapsco |
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2024/09/18(水) 15:00
最終更新:2024/09/18(水) 14:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。