ドラキュラ紀元とは (ドラキュラキゲンとは) [単語記事]

ドラキュラ紀元とは、イギリスの作家キム・ニューマンの小説である。原題は「Anno Dra cula」であり、これは勿論西暦、すなわちキリスト紀元（A.D./Anno Domini)のもじりである。シリーズ化されており、原題ではそれぞれの作品が「Anno Dra cula XX XX（作品の年代）」と表記される事もある。

本項では第1作の他、後のシリーズ作品についても記載する。

概要

ヴァン・ヘルシング教授に勝利したドラキュラは、イギリスの征服に成功。それによって世界の影で生きてきた吸血鬼達が表の世界へ現れ、人類との奇妙な共存が始まったとしたら、というブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」のパラレルワールド的作品である。

単に「吸血鬼ドラキュラ」だけにとどまらず、当時の実在人物や様々な小説や映画等に登場した架空の人物が入り乱れ、実際の事件や戦争等とも絡み、クロスオーバー的なお祭り騒ぎの様相を呈している。その数は膨大であり、巻末には50ページ以上にも及ぶ登場人物辞典が掲載されている程。

本邦では単行本第3作まで翻訳され、創元推理文庫から発売されていたが、現在は絶版。本国では第4作まで刊行され、更なる続刊も予定されている。

シリーズの主要登場人物

ドラキュラ
世界を根本から変えた男。長き時を生きる、長生者とされる吸血鬼の1人。ヴァン・ヘルシング教授に勝利したドラキュラは、ヴィクトリア女王との婚姻に成功し、イギリスの統治者となる。これにより世界中で様々な吸血鬼達が表舞台へと姿を現し、また吸血鬼へと転化する人間も多数現れる事となった。第1作でイギリスを離れたが、その後もドイツやローマへ現れ、世界へ大きな影響力を及ぼす。多くの長生者が自分の生まれた時代の価値観に縛られている中、ドラキュラは鉄道等の新発明にも大変理解的な人物として描かれている。しかしその一方、ホモ行為を行った者を串刺し刑に処する布告を出す等、古い時代の考えで行動する事も。出典は勿論「吸血鬼ドラキュラ」。
チャールズ・ボウルガード
本作の主人公の1人で、イギリスの闇内閣「ディオゲネス・クラブ」に所属する諜報員。主要な役職を吸血鬼に占められ、出世する為には吸血鬼への転化が必須とされる時代にあっても、なお人間として生きる事を選んだ男。ヴィクトリア朝時代から第二次世界大戦後まで、時代を越えてドラキュラと対峙し続ける。
ジュヌヴィエーヴ・サンドリン・ド・リール・デュドネ
15世紀のフランスで生まれ、16歳で吸血鬼になり、そのままの姿で現在まで生きている長生者の少女。切り裂きジャック事件を通してボウルガードと知り合い、やがて彼を愛するようになる。作者キム・ニューマンのお気に入りらしく、本作より前に、ジャック・ヨーヴィル名義で発表した小説「ドラッケンフェルズ」シリーズ等にも、パラレル的存在として同名の吸血鬼少女が登場している。本作のヒロインの1人だが第2作にはほとんど登場しない。
ケイト・リード
ジャーナリズムへ興味を持つ、ヴィクトリア朝における「新しい女」で眼鏡っ娘。ドラキュラの統治が始まった後、吸血鬼へと転化している。ジャーナリストとして、世紀を越えてドラキュラと敵対し続ける。本作のヒロインの1人だが、ジュヌヴィエーヴと比べると影の立場になってしまう為、その事に不満を漏らす事も。しかし第2作では大きな活躍を見せた。この娘も作者の別作品に出演しているらしい。出典は「吸血鬼ドラキュラ」の没キャラ。
ペネロピ・チャーチウォード
ボウルガードの亡き妻の従妹であり、後にボウルガードの婚約者となった。だが第1作での役割はジュヌヴィエーヴの当て馬に近い扱いであり、そのまま物語から姿を消すかと思われたが、第3作で突如として表舞台に復活。ローマにおけるドラキュラの居城を仕切る重要人物として再登場する。本作のヒロインの1人。
ルスヴン卿
イギリスの首相を務める吸血鬼で長生者の1人。ドラキュラとその治世をあまり快く思っておらず、ホモ行為禁止の布告に批判的だったり、ドラキュラの血統へ否定的な見解を持っていたりする。しかしドラキュラと国民の間に立ち、大英帝国を取りまとめる事ができる長生者は自分だけとも考えており、自身の職務はきちんと努めている。第1作での出番は多いが、舞台がイギリスから他国に移った第2作以降は出番が激減してしまう。第2作では選挙での苦戦を予想されたりもしていたが、第3作の時点ではまだ首相を続けていた。出典は近代的吸血鬼の祖とされるジョン・ポリドリの小説「吸血鬼」。

作品世界における吸血鬼の設定

この作品の吸血鬼は民間伝承に語られるような存在ではなく、近代の文学作品や映画等に登場するそれをベースとした存在である。平たく言ってしまえば現代人がイメージする吸血鬼そのものと言っても差し支えないだろう。ただ一般的イメージと言っても、個々の作品で吸血鬼の設定が微妙に異なるように、この作品にも勿論この作品なりの吸血鬼像は存在する。また、キョンシー等、日本では一般に吸血鬼とは別種の妖怪とされる怪物が吸血鬼として扱われていたりもする。

吸血鬼は一般に高い身体能力と身体再生能力を持つ。血を吸った人間を吸血鬼にする事が可能であり、これを転化と呼ぶ。子供を作る事はできないが、吸血鬼にした人間はその吸血鬼の「子（ゲット）」という扱いとなり、その血統が受け継がれていく。ドラキュラは自ら墓から蘇った吸血鬼であり、誰の「子」でもないとされる。霧や動物への変身能力等、吸血鬼は個体によって能力も様々であり、それは同じ血統の「子」らへと引き継がれていく。有害な特徴も引き継がれる為、ジュヌヴィエーブやルスヴン卿は悪い点の多いドラキュラの血統を汚染されているものとして蔑んでいた。この為、裕福な人間は高い能力を持つ吸血鬼へ大金を支払って転化してもらう事がある。その一方で貧困層は安易な不死を求めて吸血鬼娼婦に転化してもらったりするが、そうした者は大抵の場合は長生きする事ができないという。

ドラキュラの出現によって吸血鬼が一般化した世界において、普通の人間は「温血者（ウォーム）」と呼ばれる。ここから吸血鬼へ転化した者は「新生者（ニューボーン）」と呼ばれ、ドラキュラのように吸血鬼として長期間生きたものは「長生者（エルダー）」として扱われる。作中の一般人も吸血鬼は不老不死というイメージを持っている事が多く、温血者時代の負傷や障害、病気等が転化によって改善される事も少なくない。しかし大抵の新生者は長生きする事はできず、人間としての寿命以上に生きる事ができる者は稀とされる。吸血鬼がどの程度の歳月を生きれば長生者と呼ばれるようになるかは曖昧だが、数十年から数百年とも、通常の人生2回分以上の長さとも言われている。一般に、長く生きた吸血鬼はそれだけ能力を増大させて強大な存在となっていく。また精神的にも怪物へと近づいていくとされているが、作中に登場する長生者が揃って異常者揃いという訳でもなく、ルスヴン卿によれば血統の差によるところもあるようだ。

一般的に吸血鬼の弱点とされるものの中で、銀の武器は大変有効である。銀の武器による負傷の回復速度は大変遅いか、または全く不可能である。その為、銀の武器の販売等、その取り扱いは厳しく管理されている事がある。戦争では銀の弾丸が大量に必要とされた為、銀不足が深刻になっていた。十字架や聖水は吸血鬼へ実害を及ぼさない。しかし吸血鬼の中でも迷信深い者はこれを忌避する事もある。ニンニクが有効かどうかはその吸血鬼の血統による。太陽光の影響は吸血鬼として生きた歳月によって異なり、新生者には陽光が致命的なものとなる事もある。長生者であればこれに耐える事も可能であるが、それでも太陽光を好ましくは感じない。多くの吸血鬼は鏡に映らず、映画のフィルム等にも映らない。

ドラキュラ紀元

隠れ住んでいた吸血鬼達が表の世界へ姿を現し、人々も次々と吸血鬼へと転化していく1888年のイギリス。ドラキュラがイギリスの統治者として君臨するこの時代、ロンドンのイーストエンドで吸血鬼の娼婦ばかりを狙う連続殺人事件が発生した。闇内閣の命を受けた諜報員ボウルガードは事件の調査に乗り出すが、そんな中、自らを「切り裂きジャック」と名乗る犯行声明が新聞社に届けられる……。
（原題：Anno Dra cula）

ドラキュラ紀元の主要人物

ジャック・セワード
ヘルシング教授率いるドラキュラ討伐チームの元メンバー。教授の敗北後、トインビー・ホールの医者として失意の日々を過ごす。出典は「吸血鬼ドラキュラ」。
モンタギュー・ジョン・ドルーイット
実在の人物で、現実の「切り裂きジャック」事件の最有力容疑者の1人だった。作中ではトインビー・ホールの職員として働いている。
ゴダルミング卿アーサー・ホルムウッド
ヘルシング教授率いるドラキュラ討伐チームの元メンバー。しかしドラキュラ勝利後は自らも吸血鬼へ転化し、体制に迎合するようになった。ルスヴン卿の側近として野心を募らせる。出典は「吸血鬼ドラキュラ」。
教授
ロンドン暗黒街に拠点を置く犯罪結社ライムハウス同盟の最高幹部の1人。作中に名は出ないが、その正体はシャーロック・ホームズの宿敵である、ジェームズ・モリアーティ教授その人。吸血鬼に転化する事で長命を手に入れ、数学の深奥を探求をできる事を喜んでいた。出典はサー・アーサー・コナン・ドイルの小説「シャーロック・ホームズシリーズ」。
悪魔博士
ライムハウス同盟の最高幹部の1人で、別名「奇妙な死の王」。その正体は中国人犯罪秘密結社シ・ファンの幹部フー・マンチュー博士である。彼を主演とした映画は数多く作られているが、現代日本での知名度は高くない。その為か悪魔博士で検索するとドクター・ドゥームばかり出てくるが、別に関係は無い。出典はサックス・ローマーの小説「ドクター･フー･マンチューの秘密」。
マイクロフト・ホームズ
イギリスの闇内閣ディオゲネス・クラブの幹部の1人。かの名探偵シャーロック・ホームズの兄で、原作でも彼以上の推理力を持つとも、時にはイギリス政府そのものとも言われていた男。出典は「シャーロック・ホームズシリーズ」。
マンドヴィル・メサヴィ
イギリスの闇内閣ディオゲネス・クラブの幹部の1人。イアン・フレミングの小説「007 シリーズ」に登場する、イギリス情報局秘密情報部局長マイルズ・メサヴィ（M）の先祖という設定のオリジナルキャラクター。

ドラキュラ戦記

1918年のドイツ帝国。ドラキュラは首相兼軍最高司令官として再び世界の表舞台に姿を現した。戦禍に巻き込まれるフランスで、リヒトホーフェン率いるドイツの吸血鬼戦闘航空団が猛威を振るう。この事態に、ボウルガードの部下ウィンスロップは、航空団の拠点マランボア城の調査を命じられた。一方、ドイツへ移住したアメリカの詩人ポオもまた、密命によりマランボア城を目指していた。
（原題：The Bloody Red Baron：Anno Dra cula 1918）

ドラキュラ戦記の主要人物

マンフレート・フォン・リヒトホーフェン
ドイツ陸軍航空隊のエースで吸血鬼。連合軍のパイロット達を次々と撃墜する。第一次世界大戦における実在のエースパイロットで、その搭乗機のカラーリングから「レッド・バロン」や「赤い悪魔」の異名で知られていた。
エドガー・アラン・ポオ
実在した人物でアメリカの小説家。死後、吸血鬼として復活し、ドイツへ移住した。ドイツでは不遇の日々を託っていたが、密命を受け、リヒトホーフェンと深く関わる事となる。
エドウィン・ウィンスロップ
本編主人公の1人。ディオゲネス・クラブに所属する諜報部員。任務中の出来事をきっかけに、リヒトホーフェンを自ら撃墜するという強迫観念に近い考えを持つに至ってしまう。

ドラキュラ崩御

ドラキュラの新たな成婚に沸く1959年のローマ。老いた身でなおドラキュラの監視を続けていたボウルガードと、彼の世話をするジュヌヴィエーヴに会う為にローマに訪れたケイトは、ペネロピと思わぬ再会を果たす。一方、ディオゲネス・クラブの諜報員ボンド中佐もまた、ドラキュラを取り巻く国際的陰謀の渦中にあった。そんな中、ローマでは「真紅の処刑人」なる正体不明の怪人が次々と吸血鬼を殺害する事件が発生する……。
（原題：Dra cula Cha Cha Cha：Anno Dra cula 1959）

ドラキュラ崩御の主要人物

真紅の処刑人
ローマを訪れた吸血鬼達を次々に殺害していく正体不明の存在。出典はドメニコ・マッシモ・プピロ監督のゴシックホラー映画「惨殺の古城」に登場する殺人鬼。
ヘイミッシュ・ボンド
殺人許可証を持つディオゲネス・クラブの腕利き諜報員。作中明言されてはいないが、どこからどう見ても某世界一有名なスパイそのものである。なお、ヘイミッシュとはジェームズのスコットランド読みとの事。
トム
裕福な友人を殺害し、その財産を奪ったアメリカの青年。ペネロピの食客的立場で彼女の仕事を手伝っているが、彼なりの野心を心へ秘めている。出典はパトリシア・ハイスミスの小説「リプリー」の主人公トム・リプリー。ルネ・クレマン監督による映画化作品「太陽がいっぱい」でアラン・ドロンが演じた事で有名。

ジョニー・アーカード（仮）

1976年から1990年かけての時代を舞台とした連作短編集で、アメリカと映画業界を舞台に、ドラキュラの最後の「子」、ジョニー・アーカードが暗躍する。アンディ・ウォーホルやフランシス・コッポラ等の映画人を始め、当時の著名人も多数登場する。1998年の「ドラキュラ崩御」発売後、早くからタイトルは発表されており、収録作品の一部はWEB上等で公開されていたが、長らく未発売のままであり、単行本の形になったのは前作から15年後の2013年であった。収録短編のうち、「血の約束（原題：Promises to Keep: Anno Dra cula 1944）」がホラー&ダーク・ファンタジー専門誌であるナイトランド・クォータリーのVol.01に、「砂漠の城（原題：Castle in the Desert：Anno Dra cula 1977」が同誌Vol.05に訳出されているが、単行本そのものは本邦では未訳。
（原題：Johnny Alu card）

ジョニー・アーカードの主要人物

ジョニー・アーカード
ドラキュラの最後の「子」とされる若い吸血鬼。

ドラキュラ紀元1899（仮）

キム・ニューマンによるホラー系作品短編集。目玉タイトルとしてドラキュラ紀元シリーズ次回作の前日談的エピソード「妖怪街（Yokai Town: Anno Dra cula 1899）」が収録されている。本邦では未訳。
（原題：Anno Dra cula 1899 and Other Stories）

妖怪街の主要人物

およつ
ジュヌヴィエーブが日本で会ったろくろ首。妖怪は日本における吸血鬼という扱いで、例えば河童は「池に住む蛙顔の小人の血統で、農夫の肝臓を食べ、その妻達をレイプする。彼らは馬、または牛からしか血を吸わず、その動物の肛門に口を固定し、腸に触手状の舌を刺す」といったような説明がされている。ジュヌヴィエーブは彼女に自分はヨーロッパから来た妖怪と名乗り、その来訪を歓迎された。出典は十返舎一九の「列国怪談聞書帖」。
加藤
ジュヌヴィエーブ一行を妖怪街へ案内した日本軍の中尉。公式の地位は高くないが妖怪街ではそれなりの地位にある。魔人加藤とも呼ばれる手袋の男という特徴から、出典は恐らく「帝都物語」の加藤保憲であろう。妖怪と交流がある事から「妖怪大戦争（2005年版）」へゲスト出演した加藤保憲がベースなのかも知れない。

大怪獣（仮）

2017年 10月3日発売予定のシリーズ最新作。1899年、吸血鬼クリスティーナ・ライトは、東京の地に上海に似た吸血鬼居留地を得た。そして100年後の1999年。吸血鬼居留地を舞台に、サイバーパンク、怪獣、そしてヤクザの物語が始まる。
（原題：Dai kaiju：Anno Dra cula 1999）

大怪獣の主要人物

クリスティーナ・ライト
吸血鬼居留地の親玉で、文字通り光と化せる吸血鬼。世紀末の東京で100年越しの計画を進める。

その他の作品

その他に幾つか未訳の短編作品があり、2017年 3月より新規ストーリーのコミカライズシリーズも発売される模様。

ドラキュラ紀元単語

概要

シリーズの主要登場人物

作品世界における吸血鬼の設定