ナゴルノ・カラバフ 単語

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ナゴルノカラバフ

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ナゴルノ・カラバフとは、コーカサス(カフカス)南部アゼルバイジャン西部にある地域。

アルメニアアゼルバイジャンによる領土問題があることで知られる地域である。

概要

位置で言えば、黒海カスピ海の間にある地域といえば分かるだろうか。そのうち、カスピ海に面した国家アゼルバイジャンの領内西部にある自治州である。

民族的にはアルメニア人、アルメニア系が多く住む。その領域の大半はナゴルノ・カラバフ自治州およびアルメニア共和国によって実効支配されており、「アルツァフ共和」「ナゴルノ・カラバフ共和」として独立宣言を行っている。

……が、アゼルバイジャン内にある「ナゴルノ・カラバフ自治州」という呼び名で認識されていることも。独立は宣言されているものの際的な承認は得られておらず、際的には「アゼルバイジャン領土」とされている。日本政府においても「アルメニアによる占領地域」として扱われている。当のアルメニアすら国家承認しておらず、アブハジア共和南オセチア共和国(ともにジョージアからの独立、4ヶ国連加盟が承認)、沿ドニエストル共和国モルドバからの独立国連加盟からの承認なし)の間で相互に承認しているのみである。

当然アゼルバイジャンはアルツァフ共和の存在も同州の独立に関することも全て認めていないため、「アルツァフ共和」への入履歴がある人は、アゼルバイジャンへの不法入扱いされ、以降アゼルバイジャン領内へは入拒否される可性がある。

名称

日本語名のナゴルノ・カラバフはロシア語の「ナゴールヌィ・カラバフ」(Нагорный Карабах, 高地カラバフ)に由来する。

アゼルバイジャンでは、"Dağlıq Qarabağ"とされ、アルメニアでは Լեռնային Ղարաբաղ(Leṙnayin Ġarabaġ)いは古代アルメニア人王に由来するԱրցախ(Artsakh、アルツァフ)と呼ばれている。

歴史

18世紀に至るまで南コーカサスは西部オスマン帝国、東部をペルシア帝国サファヴィー朝、アフシャール、ザンド、ガージャー)が支配していた。しかし、18世紀末にはオスマン帝国を圧倒し、ロシア帝国が南コーカサスにまで到達。両国との領土紛争を経て19世紀末には、南カフカス(ザカフカース)全域を領有する。この間、この地域はロシア化政策が実行され、多くの農民が土地を失う。そのため、徐々に社会主義思想が広まる余地が生まれていった。後にグルジアからはヨシフ・ジュガシヴィリ(後のスターリン)が生まれている。

第一次世界大戦が勃発すると、この地域はオスマン帝国ロシア帝国戦場となる。ロシア革命によってロシア帝国が崩壊すると、この地域はザカフカース民主連邦共和立されるも民族性の違いから僅か1か4日で瓦解。グルジア民主共和が、27日にアゼルバイジャン民主共和が、28日にアルメニア共和国立されることとなる。

第一次世界大戦中のアナトリア東部ではオスマン帝国によってアルメニア人虐殺が発生しており、その結果アルメニア人口が現在の南コーカサスに流入。急な人口構成の変化と、独立したばかりの熱いナショナリズムによって、アゼルバイジャンアルメニアはナゴルノ・カラバフを巡って交戦状態となる。混沌とした情勢が続くも、ロシアでは赤軍が優勢となり、三ではボリシェヴィキ政権が立。この時、ナゴルノ・カラバフはアルメニア領と裁定されるもすぐにアゼルバイジャン領として覆る。ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン領内の自治州として存置されることとなった。

更に、三のボリシェヴィキ政権は統合され、ザカフカース社会主義連邦ソビエト共和となった。1936年には、スターリン憲法制定に伴い、これも解体され三それぞれのソビエト社会主義共和ソビエト連邦構成となった。

その後も、アルメニアソ連邦内でナゴルノ・カラバフの返還運動継続ゴルバチョフペレストロイカが進行する中、アルメニアは幾度となくナゴルノ・カラバフの編入を請願。一方、アゼルバイジャンは対抗する形で一体性をし、両者の関係は一気に冷え込んだ。1988年には両者は戦闘に突入。

1991年にはソ連崩壊に伴い、アルメニアアゼルバイジャンはそれぞれ独立すると、ナゴルノ・カラバフ自治州もまたアゼルバイジャンからの独立を宣言。戦闘継続した。ロシアイランが停戦交渉を続ける中、1994年にようやく停戦が実現した。しかし、ナゴルノ・カラバフは独立を宣言し、また、アルメニアアゼルバイジャンの南西地方を占領し続け、事実アルメニアとナゴルノ・カラバフの領土が地続きになっていた。

更に、それ以後も2008年2016年2020年9月27日以降、2023年9月軍事衝突が起こっている。

ナゴルノ・カラバフ紛争

2020年の紛争

2020年9月後半に再び戦闘が発生。この規模のものは1994年の停戦以来の大規模なものとして扱われている。

今回の紛争における負傷者や死者は、双方が"大本営発表"であるため10月時点での死者は公式的には1000人を下回っているが、10月時点でのロシアによるデータでは5000人近い死者が出ているとの見方を示している。 [1] [2]

ナゴルノ・カラバフはアゼルバイジャン軍の攻撃により次々に地域を喪失。アルメニア側本の制権もアゼルバイジャンに取られており、11月8日には、地域の中心都市ステパナケルトに近くアルメニア首都エレバンにも通じる交通の要衝であった、都市シュシャ(シュシ)が陥落した。

11月9日ロシア仲介による停戦合意が行われ、11月10日ごろに停戦発効となった。アルメニア側には喪失地域の返還はなくさらに周辺の占領地返還も行うことに合意しており、事実上の敗北(降)と見られている。本来のナゴルノ・カラバフ自治州外の占領地は全て返還され、さらにアゼルバイジャンにより占領された自治州南部地方を喪失することとなった。 [3] [4]

以下はアルメニアアゼルバイジャンロシアの共同明文。

停戦協定 声明文

  1. ナゴルノ・カラバフ紛争地域における全面的停戦と戦闘行為中止をモスクワ時間2020年11月10日午前時に実施する。アゼルバイジャン共和国アルメニア共和国、(以後“当事”)は確保した現在の位置に留まる。
  2. アグダム地区とアルメニア側が確保しているアゼルバイジャン共和国ガザフ地区は、2020年11月20日までにアゼルバイジャン側に返還する。
  3. ナゴルノ・カラバフの界線とラチン回廊沿線に、1960人のロシア平和維持軍が展開する。平和維持軍の装備は90輌の装甲車、380台の車両と特殊機材とする。
  4. ロシア平和維持軍はアルメニア軍の撤収と並行して、5年間の期間で駐留する。もし双方が半年前までに反対を表明しない場合、平和維持軍の駐留期間は自動的に5年間延長される。
  5. 停戦合意事項の管理を効率的に実施すべく、平和維持センターを設置する。
  6. アルメニア共和国2020年11月15日までにケルバジャル地区を、12月1日までにラチン地区をアゼルバイジャン共和国に返還する。  ただしラチン地区に関しては、アルメニアとナゴルノ・カラバフを接続する幅5キロ回廊を保する。
  7. 内の避難民難民国連難民高等弁務官事務所管理のもと、ナゴルノ・カラバフ、およびその周辺地区に帰還する。
  8. 捕虜、拘束者、遺体の交換を行う。
  9. アルメニア共和国は、アゼルバイジャン西部と(アゼルバイジャン飛び地)ナヒチェヴァン自治共和を接続する輸送路建設を保する。輸送路管理は露連邦保安庁下の警備隊が行う。

アゼルバイジャンでは戦争に対する勝利として祝賀ムードになっており、アリエフ大統領は「人々は(取り戻した)土地に帰り生活する。われわれの30年に及ぶ苦難が終わる」と演説している。[5] [6]

逆にアルメニアでは停戦に合意した政府民が一斉に反発し首相の辞任を要、数千人の暴徒化した民衆が政府庁舎を包囲した。パシニャン首相責任は認めつつも「戦闘がこれ以上継続されれば(中心都市の)ステパナケルトも奪われ、全てが崩壊していた」とし苦渋の決断だったとしている。 [7]

2023年の衝突

もともと2022年12月自称環境活動家がラチン回廊を占拠、アルメニアからの輸入が遮断された。2023年4月アゼルバイジャン回廊に検問所を設置、ロシア平和維持部隊はどちらにも加担せず、アルツァフ共和の物資不足が深刻な状態となっていた。

2023年9月19日にアルツァフ共和との付近でアルメニア側が地雷を設置したことで少なくとも6人が死亡したとアゼルバイジャン外務省が発表。それに対する「対テロ活動」の開始を発表し、アルメニア軍の撤退とアルツァフ共和の解体を要した。

アルツァフ共和側は抵抗らしい抵抗もろくにできずに翌9月20日ロシアの仲介で停戦。アルメニア軍の部隊兵士の撤退、武装組織の解散、全武装解除で合意、事実上の降となった。アゼルバイジャンは「権を回復した」と発表。9月28日アルツァフ共和大統領2024年1月1日までの解散向けた手続きに署名。再統合に向けて進み始めた。ナゴルノカラバフ アルメニア系勢力の“共和国” 組織解体へ(NHK 20239281756分)exit

なお、アルメニアのパシニャン首相は今回の軍事衝突にアルメニアは関与していないと発表している。

余談・その他

関連動画

解説動画

ニュースなど

関連項目

脚注

  1. *ナゴルノ・カラバフの死者は「5千人近い」 プーチン氏が説明 (BBCニュース 2020年10月23日)exit
  2. *ナゴルノ紛争の死者「5千人近い」 ロシア大統領 (時事通信 2020年10月23日06時46分)exit
  3. *ナゴルノ・カラバフ紛争が“完全停戦”で合意 。アルメニア首相は「苦渋の決断」と訴えるも反対デモ激化 (ハフィントンポスト日本語版 2020年11月10日 19時44分 JST )exit
  4. *ナゴルノ停戦にアルメニア国民激怒、首相辞任求め抗議デモ (AFPBB News 2020/11/12 15:48)exit
  5. *【カラバグはアゼルバイジャン】 勝利に沸く国民たち (TRT 10.11.2020 ~ 13.11.2020)exit
  6. *アゼルバイジャンが「失地回復」 ナゴルノ紛争、1カ月半で終結 (時事通信 2020年11月11日07時12分)exit
  7. *ナゴルノ・カラバフ紛争が“完全停戦”で合意 。アルメニア首相は「苦渋の決断」と訴えるも反対デモ激化 (ハフィントンポスト日本語版 2020年11月10日 19時44分 JST )exit
  8. *世界でもっとも危険な原発、アルメニア原発 (SYNODOS -シノドス- 2011.05.03 Tue)exit
  9. *【オンラインセミナー】「2020年石油価格戦争」と「アルメニア・アゼルバイジャン紛争」(3) (新潮社 Foresight 2020年10月5日)exit
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