ナヒュールとは、第二次世界大戦時にアルゼンチンが開発した戦車である。
第二次世界大戦において中立国であったアルゼンチンが自国開発した戦車である。大戦終結により連合国軍の中古戦車が大量に市場に放出されたことから本格的な量産には至らなかったが、南米の地域大国としての矜持を見せることには成功した、のかもしれない。
20世紀初頭より小麦や食肉の輸出によって外貨を獲得し、アルゼンチンは南米の強国の一角を確保していた。しかし大恐慌によって輸出は低迷、なんとかスターリング・ブロック(英国経済圏)に入れてもらうことに成功したものの大幅な経済・政治的譲歩を強いられ、反英感情が広がることとなった。
さて1939年、第二次世界大戦勃発。国内では連合国寄りの参戦派と枢軸国寄りの中立派の抗争が続き、1940年に中立派が政権掌握。ここにアルゼンチンはWW2への中立を宣言したのである。
ところが隣接するもうひとつの地域大国・ブラジルは42年に連合国入りを表明。必然的に連合国の一員として兵器供与を受けることとなったブラジルに対し、アルゼンチンが保有していたのは戦前に購入していた英国製Mk.Ⅲ軽戦車(カーデンロイド豆戦車に砲塔をつけた戦間期の軽戦車)がごく少数。国境近くに供与戦車であるM3軽戦車・M3中戦車、のちにはM4中戦車の配備を着々と進めるブラジルの前に、パワーバランスの崩壊は時間の問題となっていた。しかし時はWW2真っ盛り、中立国に一線級戦車を売ってくれるほど余裕がある参戦国はどこを探しても無い有様であった。
かくして、南米大陸の片隅においてWW2のとんだとばっちりを受けたアルゼンチンによる、必死の戦車開発がスタートしたのである。
1943年に最初の試作車がとりあえず完成、後述する事情で本格量産が中止された後もちょくちょく手がいれられた車両である。
主砲は当時アルゼンチン陸軍が大量に保有していた75mm30口径野砲を採用。ぶっちゃけ旧式砲ではあるがよく言えば「枯れた」兵器であり、とりあえず砲も弾丸もたっぷり在庫があるんで急造戦車に載せるには困らない。これに12.7mm機銃を同軸装備した鋳造一発成形の全周周回砲塔を持ち、さらに車体前面にはこれまたアルゼンチン陸軍の標準的軽機関銃・マドセン機関銃を3丁装備。ちなみにこのマドセン機関銃は日露戦争においてロシア軍が使用したこともあるベストセラー、これも「枯れた」装備である。
車体は米のM4中戦車に似たデザインであり、正面装甲は傾斜装甲で80mm。砲塔側面装甲に60mm、車体側面装甲に50mmを奢っている。エンジンは1930年代の航空機用エンジン・ロレーヌ12E(450馬力)を用いており、アルゼンチン国内でも既にライセンス生産で10年以上生産を続けている実績がある、「枯れた」エンジン。搭載する通信設備は独・テレフンケン社の製品を国内でライセンス生産していたものを改良して搭載している。
総じて枯れたコンポーネントの寄せ集めでありながら、アルゼンチンが当時保有していた技術を総結集した結果、急造兵器でありながら1943年の戦車としては世界中どこに出しても恥ずかしい思いはせずに済むだけの立派なものが出来上がった。アルゼンチン恐るべしである。
ナヒュールには「ライオンの歯」を意味するDLという付属名がつけられた。当時の米国の新聞に「歯の無いライオン」と風刺されたアルゼンチンの矜持を示す車両としての意味合いがあるとされる。ちなみに「ナヒュール」とは南米先住民の言葉で大型猫科生物のことであり、ヒョウとかそこらへんを連想するといいのかもしれない。
まあしかしトランスミッションの完成度を上げるのには手間取っており、本格生産が開始される前にWW2の終結が見えてきてしまったことでナヒュールの導入には「?」マークがつけられてしまうこととなった。そりゃそうだ、大戦が終われば米軍のM4中戦車が大量に中古市場に売りに出されるのは火を見るよりも明らかなのだから。南米大陸唯一の自国製戦車を装備する国、という誇りをとるか、投げ売りM4中戦車を大量購入してブラジルとのパワーバランスを取り直すことを優先するか……。
結論は後者。かくして、大戦後のアルゼンチン陸軍はM4中戦車とファイアフライの導入を推し進めることとなり、ナヒュールの本格生産計画は中止されたのである。総生産数は12両とも16両とも言われるが、どっちにしろ戦力となるような数ではなく実戦経験もないまま、「アルゼンチンの国産戦車」としてちまちまとした改良をうけつつパレードにおける国威発揚に使われ、1960年に全車退役・解体となったのである。
掲示板
9 ななしのよっしん
2017/12/02(土) 06:49:28 ID: 42q5hJ9tQc
ナヒュール>>>>>>>>>>>スーパーXⅢ、鎧モスラ>>>>>>>>>>>グレンラガン>>>>>>>>>>>完全生命体イフ
10 ななしのよっしん
2018/04/04(水) 16:38:56 ID: suJ9FbsHXV
>>7
走向装置は一流の戦車生産国である独ソ米でも大苦戦する代物だから
非列強国が30t級戦車作って一応でも動くんだったら大したことないどころか普通に凄いぞ
操作が重いって位だったら最低でもソ連戦車並みの構造だろうしね
(同調装置もない選択摺動式ギアとサイドクラッチの組み合わせより古く作る方が難しいかと)
T34の場合だと、ハンマーでギアチェンと言うと重い分頑丈なイメージが付きがちだけど
ギアやクラッチの部品強度自体が低い(鉄の質や焼き入れが悪い)、構造が古すぎる等で
米軍の調査だと「あっちゅうまにギアの歯が全部折れた」
「クラッチは議論の余地なく劣悪ですぐ損耗する」など
操作性のみならず強度も非常に低い、と押しなべて酷い評価がされてる
11 ななしのよっしん
2019/08/31(土) 23:37:09 ID: t2ddRtSt9k
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最終更新:2024/04/25(木) 13:00
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