ハーフウェット(MotoGP)とは、濡れた部分と乾いた部分が混在する路面の状態のことを指す。
雨が降り続けてサーキットの路面を濡らした後に雨が止むと、路面がしだいに乾いていく。こうなると濡れた部分と乾いた部分が混在するようになる。この状態をハーフウェットという。
ハーフウェットのことをセミウェットと表現することもある。
濡れた路面と乾いた路面が混合(ミックス)しているのでミックスコンディションと言うこともある。
ハーフウェットの路面で濡れた部分はウェットパッチ(wet patch)と言われる。乾いた部分は白っぽく、ウェットパッチは黒っぽくなっていることが多い。
スリックタイヤは乾いた路面のためのタイヤであり、濡れた路面では走りにくい。
水しぶきが上がるヘビーウェットの路面をスリックタイヤで走ると、このように滑りまくる。
スリックタイヤは表面に一切の溝がなく、つるんと丸いタイヤである(画像)。このため、タイヤと路面の間に水の膜が発生して滑るハイドロプレーニング現象が起こりやすい。
濡れた路面を冷えたスリックタイヤで走り、強めにアクセルを開けると、このように滑る。
カル・クラッチロー(35番)とダニ・ペドロサ(26番)の2人ともアクセルを強めに開けて、リアタイヤがスピンして、マシンが思いっきり蛇行したのである。
濡れた路面を冷えたスリックタイヤ(スタート開始直後のタイヤ)で走るときはアクセルを弱めに開けねばならず、レインタイヤのマシンについて行けない。
この動画では、99番の青いマシンのホルヘ・ロレンソがスリックタイヤのマシン、その他のほとんどのライダーがレインタイヤのマシンで発進した。ホルヘ・ロレンソは2番手スタートなのに、全く加速できず、次々と追い抜かれている。
濡れた路面を温まったスリックタイヤで走る場合は、どうにか走ることができる。
スリックタイヤで何周か走るとタイヤの温度が100度程度にまで上昇するので、うっすら濡れた路面をちょっと踏むぐらいならなんとかなる。
ただ、濡れた路面を踏みまくるのは当然禁物である。濡れた路面に乗り上げることで、スリックタイヤの表面温度が一気に下がり、タイヤがグリップしなくなって転倒してしまう。
この動画は、ハーフウェットの路面をスリックタイヤで発走したホルヘ・ロレンソが、14周目にハイサイドした様子を捕らえている。14周目だから十分にタイヤが温まっているのだが、それでも濡れた部分に乗り上げてしまって急激に表面温度が下がり、スリップしてしまった。
やはり、スリックタイヤでは乾いた路面を選んで走りたい。ところがハーフウェットの状況では、乾いた路面は走行ライン1本分だけの狭い範囲しか存在しない。
2016年ドイツGPのマルク・マルケスのように、わずかな乾いた部分だけを凄まじい集中力で走ることは、なかなか難しく、スリックタイヤ走行中にウェットパッチを踏んでツルッと転倒することが多い。
ハーフウェットの状況だと路面の大部分が濡れていて、乾いているところは走行ライン1本分だけである。
そういう場合、周回遅れのライダーを非常に抜きにくい。抜きにかかるとウェットパッチを踏んでしまう。
また、周回遅れのライダーにとっても、後ろからやってくるライダーに道を譲るのがとても難しい。道を譲るには走行ラインから外れてウェットパッチに乗り上げねばならず、それは転倒に直結する。「後方のライダーに道を譲れ」という意味の青旗が振られていても、従うに従えない。
先ほども紹介したこのシーンでは、ハーフウェットで周回遅れを抜くことの難しさが浮き彫りになった。周回遅れのジェームズ・エリソンは道を譲りたくても譲れない。そのジェームズの後ろに、ジェームズよりも1周で5秒も速いペースでホルヘ・ロレンソが迫ってきた。ホルヘはジェームズに追突することを避けるため抜こうとしたが、抜くときにウェットパッチを踏み、タイヤが滑ってハイサイド転倒してしまった。
レインタイヤは、溝の入った排水性の高いタイヤで、水しぶきが上がるほどのびっしょり濡れたヘビーウェット路面のためのタイヤである。
ちょっと濡れた路面では、今ひとつ耐久性に欠ける。
乾いた路面では、全く耐久性がない。また、スリックタイヤとは比べものにならないほど遅い。
乾いた路面を溝の付いたレインタイヤで走ると、レインタイヤがあっという間にボロボロになる。
タイヤの溝の部分が変形して動き、強く発熱し、急激に摩耗してしまう。「乾いた路面をレインタイヤで走ると3周程度しかもたない」と盛んに言われる。その3周が過ぎると溝が完全にすり減って溝がなくなり、ペースを全く上げられず、レースが終わるまでツーリング走行するしかできなくなる。
レインタイヤで乾いた路面を走り続けたときのリアタイヤの画像はこちら。溝が完全になくなるまですり減っている。
このため、レインタイヤでハーフウェットの路面を走るとき、あえて濡れた路面を選んで走ることがある。濡れた路面なら過度の発熱を抑えることができ、タイヤの消耗を抑えることができる。
乾いた路面を溝の付いたレインタイヤで走ると、非常に遅い。
レインタイヤは溝を付けてある分、接地面積が少なくてタイヤ自体の剛性も低い。レインタイヤで走るライダーが30秒の差を付けていたとしてもスリックタイヤで走るライダーに追いつかれてしまうのは時間の問題である。それぐらいの速度差がある。
だからといって、濡れた路面をレインタイヤで走るのが特別速いわけではない。濡れた路面をレインタイヤで走る速さは、乾いた路面をスリックタイヤで走る速さに全く及ばない。
路面が濡れていようが乾いていようが、レインタイヤの走行は遅く、タイムを稼げない。
ハーフウェットの状況はスリックタイヤでもレインタイヤでも走りにくく、どちらを選ぶかはまさしくギャンブルとなる。雨が降らずに乾いていくと信じるライダーはスリックタイヤ、雨が強くなることを信じるライダーはレインタイヤ、といった具合に、空模様と天気予報を交互に見つつ、自分を信じて決断する。
Moto2クラスの前半までは雨が降っていたが、そこで雨が止んだ。空はどんよりとした曇り空で、気温が13度と低く、乾くペースがとても遅い。レースの最後まで乾いている部分は走行ライン約1本分の、難しいレースになった。
ホルヘ・ロレンソと中須賀克行とステファン・ブラドルの3人がスリックタイヤのマシンでグリッドに付く。それ以外の18名のライダーは、レインタイヤのマシンでグリッドに付いた。
ウォームアップラップをしているうちに4人のライダーが「スリックタイヤにすべきだ」と気づき、ピットイン。スリックタイヤのマシンに乗り換えてピットスタートした。
ピットスタート組は約7秒遅れてコーナーに飛び込んでいく。
勝ったのはピットスタート組のうちの1人であるダニ・ペドロサ。ホルヘ・ロレンソ、ステファン・ブラドル、カル・クラッチローが表彰台圏内を走行中に転ぶなか、中須賀克行が見事に走りきって2位に入った。この日、中須賀には第二子が誕生していて、二重の喜びとなった。
スタート直前に強い雨が降り路面が濡れたが、レース直前のウォームアップラップの頃には乾いていた。
ウォームアップラップの最中に「スリックタイヤのマシンじゃないと駄目だ」と気付いた14名のライダーが揃ってピットイン、スリックタイヤのマシンに乗り換えてピットスタートすることを選んだ。グリッド上には9人のライダーが残り、ピットレーンにはそれより多い14名のライダーが密集。なんとも面白いというか珍妙な風景になってしまった。
ピットスタート組は約7秒遅れてコーナーに飛び込んでいく。
グリッド上に残った9名はスリックタイヤを履いていたが、「レインセッティングのマシンにスリックタイヤを履かせただけ」という無理な状態だったようで、次第にペースを落としていった。ステファン・ブラドルも「タイヤはスリックタイヤで間違いなかったが、マシンはレイン向けの間違ったものだった。ピットインして『スリックタイヤを履いたドライセッティングのマシン』に乗り換えればよかった」と語っている(記事)。
スリックタイヤのマシンでスタートしたら雨が降り、ライダーたちはピットインしてレインタイヤのマシンに乗り換えた。すると雨が上がってしまい、路面が乾いていったので、ライダーたちはピットインしてスリックタイヤのマシンに乗り換えた。乗り換えが2回行われた非常に珍しいレース。
大半のライダーがマシン乗り換えを2回行ったが、ゼッケン38番の黒いマシンに乗るブラッドリー・スミスは乗り換えを一度もせずにスリックタイヤのマシンで走り続け、雨が降ってきたときに滑りながらも耐えきって走り、見事に2位表彰台を獲得した(記事)。
濡れた路面の状態から走行ラインだけが乾いていくという難しい状況。
いち早くピットインしてスリックタイヤのマシンに乗り換えたマルク・マルケスが、走行ライン1本分だけ乾いている路面を恐るべき集中力で走っていく。G+の解説に来ていた青山博一が「凄い集中力ですね」と感嘆しつつコメントしていた。
ジャック・ミラーが予選最速タイムを叩き出し、ポールポジションを獲得していた。
スタート直前に強い雨が降り路面が濡れたので、ほぼ全員がレインタイヤのマシンでピットを出て、サイティングラップを終えてスタート位置に付いた。
ところが、スタート位置に付いてメカニックやグリッドガールたちに囲まれている最中は全く雨が降らず、各ライダーは「ピットへ入って、スリックタイヤの付いたマシンに交換しよう」と決意した。ピットレーンには扉があり、そこを通ってピットに戻ることができる(動画)。ピットレーンからウォームアップラップに参加すれば、最後尾スタートになるが、レインタイヤのマシンで走り続けるよりはずっとマシである。
※ピットレーンからウォームアップラップに参加すると最後尾スタートになる、ということは、スタート(MotoGP)の記事で解説されている。
そのように考えるライダーがあまりに多いことを察知した運営は、「ウォームアップラップが始まるとき、ピットレーンに20人以上のライダーが密集して危険」と判断して、全てをやり直ししようとした。ディレイ(delay 遅延)を宣言して、全ライダーをピットに戻し、最初からやりなおそうとした。
このとき運営の指示に従わず、たった一人スタート位置に残って「さっさとレースを始めよう」とアピールしたのがジャック・ミラーだった。彼だけはスリックタイヤのマシンでピットを出ていた。ジャックの主張の通りにレースが始まると、ジャック1人だけが1番手から普通にスタートして他の全員が最後尾スタートなので、1~2秒ほどのリードを得ることになる。
ジャックの主張には正当性があるので運営もジャックを強制排除できない。ところが、ジャックの言うとおりにスタートさせるのはちょっと無理だった。ジャックを1番グリッドに置き、他の23人全員が最後尾スタートなので、25番グリッドから47番グリッドに順に並べればよいのだが、このときのサーキットには39番グリッドまでしか白線を書いていなかった。
結局どうなったかというと、ジャック・ミラーは1番手から発進で、他の23人は17番グリッドから39番グリッドまで順に並ぶ、という形になった。ジャックにとって、要求の8~9割程度が反映されたと言えるだろうが、こんな具合の珍妙すぎる光景になった。
典型的なハーフウェットのレースになり、ウェットパッチに乗り上げたダニ・ペドロサが転倒(画像)、ウェットパッチに乗り上げたマルク・マルケスが上手く止まれず他者と接触することを2回繰り返す(画像1、画像2)、と大荒れの展開となった。
2018年アルゼンチンGPで草レースのようなレース運営をしてしまったドルナとFIM。日本の識者にも「前代未聞」「見たことがない」「わけが分からない」と手厳しく批判されていた。
このため、ドルナとFIMは2018年イタリアGPの直前にレース規則を改定した。
MotoGPの決勝の流れは以下のようになっている。
2.の5分間ピットレーンオープンの最中に、「路面が乾いている。スリックタイヤのマシンにしよう」と考え、サイティングラップを1周回ってもスタート位置に付かずピットインしてマシンを乗り換え、もう1周サイティングラップを行ってからスタート位置に付くことは、従来通り許可される。
5.や6.の時点で「路面が乾いている。スリックタイヤのマシンにしよう」と考え、スタート位置からピットに直行し(ピットウォールには扉があり、通ることができる)、マシンを乗り換えてピットレーンから7.のウォームアップラップに参加する場合は、「予選で決まったスタート位置からレース開始してよいが、ライドスルーペナルティ」となった。
従来は「最後尾スタートだが、ライドスルーペナルティは課せられない」だったので、この方法をとることが難しくなった。
ライドスルーペナルティとは長いピットロードを時速60kmで走るペナルティで、サーキットによってピットロードの長さが違うのだが、だいたい30秒ほど遅れることになる。
7.のウォームアップラップの最中に「路面が乾いている。スリックタイヤのマシンにしよう」と考え、スタート位置に付かずピットインしてマシンを乗り換え、ピットスタートする場合は、「約7秒遅れるピットスタートに加えて、ライドスルーペナルティ」となった。
従来は、「約7秒遅れるピットスタートだが、ライドスルーペナルティは課せられない」だったので、この方法をとることも難しくなった。
ウォームアップラップを行った後にスタート位置に付き、レーススタートして、1周回った後にピットインしてマシンを乗り換えることのほうが、まだマシである。こちらの方式でも長いピットロードを時速60kmで走るので30秒ほど遅れるのだが、7秒遅れるピットスタートをせずに済むので、多少はマシな選択肢になる。
ゆえに、2012年バレンシアGPや2014年ドイツGPのような光景はもう見られなくなる。
要するに、「マシン交換は4.のピットレーン封鎖までに済ませる。5.以降でマシン交換すると30秒損するライドスルーペナルティが課せられて大損」という規則になったと言える。
ハーフウェットでよく見られるマシン乗り換え(swapping)には、2017年から新ルールができた。
2017年チェコGPまでは、以下のような光景が広がっていた。
メカニックたちがマシンを用意しているので、ライダーがその内側に平行に駐車する。ライダーは外側に駐車してあるマシンに乗り、発進していく。
こちらは、各ライダーの乗り換え練習の様子を撮影した動画である。
マルク・マルケスは元気がいいのでマシンからマシンへ飛び移っていた。
2017年チェコGPはハーフウェットの乗り換えレースとなった。その中でアレイシ・エスパルガロがアンドレア・イアンノーネと接触、イアンノーネが転倒した。
こちらがそのときの動画だが、遠目の画像なので詳細がよく分からない。
こちらやこちらやこちらの動画は近くから撮影された。アレイシが制止を振り切り焦って発進、そこにイアンノーネがやってきて接触転倒となった。なかなか危ないシーンだった。
このとき怪我人は出なかったが、すぐに安全委員会の議題になり、新ルールが話し合われることになった。
次戦の2017年オーストリアGPの安全委員会で話し合われて制定されたルールは以下のようになる。
マシンの並びかたがV字を描く置き方になった。この記事の画像を見るとよく分かる。このため、先ほどのようなマルク・マルケスの元気が良い飛び乗りは見られなくなった。
こちらやこちらは、新ルールにのっとった方法で乗り換え練習をしているときの動画である。
ロリポップ(lollypop)とは、棒が付いた指示標識のことで、stopの文字がある。
ロリポップとはもともとペロペロキャンディのことだったが、F1の世界で誰かが指示標識のことをふざけてロリポップと言い始め、それが定着していった。
F1ではレース中のピットインが盛んに行われるので、2008年以前はロリポップの出番が多かった。スポンサーの絵が入った洒落たデザインのものが多く見られた。※2009年以降のF1ではロリポップを使わず、各チームが用意した信号機を使ってドライバーに停止と発進を指示するようになった。
マシン乗り換え(swapping)のことをフラッグトゥフラッグ(flag to flag)とも呼ぶ。
この呼び方の語源には2つの説がある。
昔は、旗を振ってレース開始を宣言し、旗(チェッカーフラッグ)を振ってレース終了を宣言していた。それゆえ、フラッグトゥフラッグとは、「レース開始の旗からレース終了の旗まで」という意味になり、それが「レース開始からレース終了まで一切中断しない」という意味になり、「雨が降ってもレースを中断せずマシンを乗り換えてレース続行」という意味に転じ、マシン乗り換えを意味する言葉になった。
MotoGP最大排気量クラスの決勝レースにおいて雨が降ると、レッドクロスが振られてライダーに降雨を知らせ、さらに白旗が振られてライダーにマシン交換の許可を知らせる。マシン乗り換えのレースの際は、最も注目される旗が、レッドクロス旗から白旗へ移り変わる。このため、マシン乗り換えのことをフラッグトゥフラッグ(レッドクロス旗から白旗への移り変わり)と呼ぶようになった。
オレンジ色枠の説も、緑色枠の説も、どちらも有力な説とされている。
※この項の資料・・・ホンダ公式サイトMotoGP学科3限目2ページ
2014年第3戦アルゼンチンGPまで、最大排気量クラスの乗り換えは、異なる種類のタイヤを履いたマシンのみに限られていた。レインタイヤ装着マシンからだとスリックタイヤ装着マシンにしか乗り換えられなかった。
2014年第4戦スペインGPから、同じ種類のタイヤを履いたマシンに乗り換えることが可能になった。レインタイヤで走行を続けて異様に摩耗した場合、ピットに入ってレインタイヤのマシンに乗り換えて良いことになった。
マシンを雨天走行用に変更する際の変更箇所を示した動画はこちら。タイヤの付け替え、サスペンションを前後とも交換、電子制御の変更。2017年サンマリノGP以前の最大排気量クラスならブレーキディスクの交換も行っていた。メカニックは、雨が降ると大忙しになる。
タイヤ(MotoGP)の記事にあるように、MotoGPのマシンが走っているとき、タイヤの表面温度は100度から110度程度にまで上昇する。それだけの熱い物体を持つバイクが25台ほど通ってくのが約2分おきに繰り返されることになる。雨が止んだときに、サーキットの路面の走行ラインが一気に乾いていくのはこのためである。
決勝レーススタートの前、スターティンググリッドにマシンが並んでグリッドガールやメカニックに
囲まれているとき、運営はウェットレース宣言(画像)かドライレース宣言(画像)をおこなう。ウェットレース宣言やドライレース宣言の意味については、スタート(MotoGP)の記事に解説がある。
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最終更新:2024/04/24(水) 07:00
最終更新:2024/04/24(水) 07:00
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