ヒースヘンとは、キジ目キジ科に属するソウゲンライチョウの亜種の一種、ニューイングランドソウゲンライチョウの通称である。
日本における正式名称はあくまで後者だが、通称であるヒースヘンのほうが世間一般では馴染まれた呼称である。
そのため、本記事ではこのニューイングランドソウゲンライチョウのことをヒースヘンとして主に記す。
全長は40cm、体重は900g程度、ソウゲンライチョウとしては小型の種類である。
かつては北アメリカ大陸に無数に生息していた。オスには首の両側にオレンジの袋が付いているのが特徴。
この袋を揺らし、音を出すことで求愛していたと言われている。その姿はさながらダンスのようだったと言われる。
卵はメスが抱卵し、頑なに巣から離れようとしなかったという。この習性は、ヒースヘンを絶滅へと追い込んでいく大きな理由の一つになった。
当時、ヨーロッパで宗教迫害を受けて新大陸である北アメリカ大陸にやってきた、ピューリタンの一団がいた。
そしてそこで見つけた鳥が、ニューイングランドのあちらこちらに生息していたこのヒースヘンであった。
最初、ピューリタンはヒースヘンを食料として大量に銃で狩猟した。しかし食べてみるとこの鳥の肉には強い癖があり、やがて好んでは食べられなくなった。労働者が「食事にヒースヘンの肉を使うな」と争議を起こした例すらあったほど。
食料としての価値が見出されなくなったヒースヘンは、こうして人間の興味の対象外と……ならなかった。
当時はたいした娯楽もなかった時代、狩猟というのは今よりもっとポピュラーな趣味であった。
そんな中、ヒースヘンという標的は、比較的難易度が低かった。卵を暖めているメスは巣へ異常に執着するため、狙うのに苦労しなかったのである。よってヒースヘン狩りは当時結構な人気を誇っていた。
自然環境保全に感心のある政治家は、その状況を見かねて禁猟シーズンを主張した。実際1791年頃にはニューヨーク州では繁殖期の狩猟を禁ずる法律を作った。
しかし、あまりにも数がいたためかまるで相手にされず、狩猟ペースは衰えを見せなかった。こうしてニューヨーク州付近のヒースヘンは絶滅を迎えてしまった。
ヒースヘンが個体数を減らした理由は、これだけではない。
当時、開拓に躍起だった人々がなだれ込んできたことで、ヒースヘンの住処であった森林は急速に伐採されていく。
さらに、犬や猫を持ち込んだことによって卵やヒナが襲われる……などの要因が重なり、北アメリカでは普遍的だったはずのヒースヘンは、一気にその数を減らしていった。
そんな、ヒースヘンに絶滅の危機ありの感が見られた中でも、鳥類学の権威の中には「ヒースヘンが絶滅とかありえん」と声高に主張していたものもいた。
これは絶滅が危惧される10年ほど前のことだったという。権威()
1907年、既にヒースヘンの生息地マサチューセッツ州の島のみという限られたものとなり、加えて数はわずか77羽というところまでに衰えていた。
50年ほど前ならば、ここまで来ても保全など考えもしなかったであろうが、この頃にもなると、人類は種の保存というものに理解を持つようになっていた。
ヒースヘンを守るため、活動家が募金活動を行い、保護のための費用が回収、保護区などが制定されるなど、人々は強力な保護体制を敷いた。
狩りのしやすい営巣地に至っては、特に強い監視体制が敷かれ、狩猟家達をしっかり追い返していたようだ。
実際、その成果は目に見えて現れ、ヒースヘンは約2000羽までその個体数を回復したという。
このままいけば、ヒースヘンは今でも見られるライチョウとなっていたに違いない。
しかし、自然界は決して甘くはなかった。
ヒースヘン最後の生息地で大きな山火事が発生。ヒースヘンはその数を再び105羽まで落ち込ませた。
個体数がそこまで減った最大の原因は、山火事が起きたのがヒースヘンの繁殖期であり、メスの巣に対する執着心が悪い意味で発揮されてしまったからであった。
多くのメスは巣から離れようとせず、火災に巻き込まれてほぼ全てが焼け死んだという。
このため、生き残ったヒースヘンの多くはオスだった。運良く生き残ったヒナも、その年の異常低温という気候に翻弄され、ほとんど根絶やしにされてしまった。
それでも人々はあきらめず、600羽まで個体数を回復させることに成功する。だが、運命はヒースヘンに対してどこまでも過酷な試練を突きつけた。
この頃、人間が持ち込んだシチメンチョウから、黒頭病が大流行してしまう。
感染症にかかったヒースヘンは、今度はオスもメスも関係なく疫病に苦しみ、やがては死に絶えていった。
そして1932年3月11日。最後のオスが死に絶えたことで、ヒースヘンは今度こそ絶滅を迎えた。
この出来事は、「動物を保護したところで、2000羽程度で満足していては絶滅回避できたとは言えない」「例え個体数がそれなりに回復していても、狭い1カ所に集中していれば不慮の災害に脆くなる」という強い教訓を人々に与えることとなったと言われている。
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最終更新:2024/04/24(水) 05:00
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