ビッグバンとは、宇宙のはじまりの時にあったとされる、高密度・高エネルギーの状態のことである。
かつての天文学では、宇宙は定常的で始まりはない、とする考えが一般的であった。この考えに一石を投じたのは、エドウィン・ハッブルが発見した、「ハッブルの法則」と呼ばれるものである。
1929年、アメリカ・カリフォルニア州のウィルソン山天文台で宇宙に無数に散らばる銀河の観測を行っていたハッブルは、銀河が互いに遠ざかっていること、しかも互いの距離が離れているほど速いスピードで遠ざかっていることを発見した。これがいわゆる「ハッブルの法則」である。
ハッブルの発見した、銀河同士が互いに遠ざかっているという法則から導き出されるものは何か。その意味にいち早く気付いたのが、ロシア出身の物理学者ジョージ・ガモフであった。
ガモフはこう考えた。
「銀河同士が互いに遠ざかっているということは、逆に言えば、過去に遡れば銀河同士の距離は今よりも近かったはずだ。それを突き詰めれば、宇宙の初期は極めて高密度・高エネルギーの『火の玉』であったに違いない。」
そして、この火の玉状態の最初の数分間の内に、ばらばらに飛び回っていた陽子と中性子が結合し、現在の宇宙にあるいろいろな元素の原子核が生成された、とガモフは考えた。宇宙に大量にあるヘリウム(質量比にしておよそ1/4、残りは水素)は、恒星内の原子核反応によって生成されたと考えるにはあまりに多すぎるのだが、ガモフの説はこれをうまく説明することができた。(ただし、その後よくよく計算してみるとヘリウムより重い元素は実際にはほとんど生成されないことが分かった。現在では重い元素は恒星内で生成されたものと考えられている。)
ガモフはまた、こう予言した。「もし宇宙が高密度・高エネルギーの『火の玉』から始まったとするならば、どこかでその名残が観測されるはずだ」と。しかし、当時としてはあまりにも斬新すぎたガモフの考えは証拠がなかったこともあり、しばらくの間受け入れられることなく天文学の表舞台に出ることはなかった。
宇宙が火の玉から始まったとするガモフの説が一躍脚光を浴びるきっかけとなったのは、意外にも天文学とは直接関係のない場所であった。
アメリカ合衆国のベル電話研究所。1964年、この研究所のアンテナが正体不明の雑音を拾ったのだ。ロバート・W・ウィルソン、アーノ・ペンジアスら研究者たちはこの雑音の発生源を特定しようとしたが、不思議なことにこの雑音はあらゆる方向からやって来ていた。しかも、鳩の巣や市街地からの電波といった考えうる雑音をすべて取り除いても、この雑音は消えることがなかった。この雑音の正体は、宇宙からやってくる背景放射…これこそが、ガモフの予言した『火の玉宇宙』の名残だったのだ。この宇宙背景放射の発見により、宇宙が高密度・高エネルギーの状態から始まったとする説の優位は確定的なものとなった。
ちなみにこの『火の玉』をビッグバンと名づけたのは、火の玉宇宙説と対立する「定常宇宙論」の支持者であったフレッド・ホイルである。彼は宇宙に始まりがあるという考えを嫌い、火の玉宇宙説を「とんだビッグバン(大嘘つき)だ」と馬鹿にしたのだが、それがそのまま名前として定着してしまったのだという。まさかホイルもこんな展開になるとは予想もしていなかっただろう。
銀河が互いに遠ざかっているという観測結果から導かれた、ビッグバンという宇宙誕生の瞬間。しかし、ビッグバンが起こる前はどのような状態だったのか?当然このような疑問が湧いてくる。これを説明するために考えられたのが、佐藤勝彦やアラン・グースによって提唱されたインフレーション理論である。
インフレーション理論によると、宇宙は次のようにして生まれたと考えられている。
宇宙が生まれてから10-44秒後、宇宙はその真空のエネルギーによって急膨張をはじめ、直径10-34cm(0.0000000000000000000000000000000001cm)だった宇宙はわずか10-33秒後には直径1cm以上にまで膨れ上がった。また、その際に莫大な熱エネルギーが解放され、宇宙はさながら火の玉のようになったという。この急膨張を「インフレーション」といい、そしてインフレーションによって火の玉になった瞬間こそがいわゆる「ビッグバン」なのである。
ちなみに、このときの温度は約1028℃(10000000000000000000000000000℃)、ゼットンやラギュ・オ・ラギュラもびっくりの灼熱の世界だったようである。
その後も宇宙は膨張を続け、宇宙の温度は次第に低下。その過程で、自由に飛び回っていた素粒子クォークはやがて互いに結合して陽子や中性子になり、さらにその陽子・中性子そして電子から原子が作られた。こうして、現在の宇宙に存在するあらゆる物質の基礎が出来上がったのだ。
ではインフレーションのさらに前、宇宙誕生の瞬間はどうだったのかという疑問が当然わき上がってくるが、今のところよくわかっていない。これに関しては「無からの宇宙創成」というような研究もあるが、そもそも現在の宇宙論の土台となっている一般相対性理論が破綻してしまうので、量子重力理論が確立しないことにははっきりとしたことはいえない。
始まりがあれば、終わりもあるもの。宇宙の誕生を想定したとき、同様に宇宙の終焉を想定するのは、人間の知的探究心の自然な振る舞いである。ビッグバン理論により宇宙の始まりが示されたことで、宇宙の終わりかたを議論することも重要な意味を持つようになったのである。
宇宙がどのような末路を辿っていくのかについては何通りかのパターンが想定されているが、それを決定する上で重要な役割を果たす要素として、ダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)の存在が考えられている。このあたりの話は暗黒エネルギーの項で詳しく説明されているので、そちらを参照していただきたい。
宇宙誕生の瞬間というスケールの大きさや、バーンと勢いのある語感が好まれるためか、創作の世界などでビッグバンがモチーフとして用いられることがある。宇宙最強のミジンコゼロムスの使う技(正確には「ビッグバーン」だが)だったり、テイルズシリーズに登場する魔法だったり、某王子の使う技だったり、悪の組織の総帥にしてその正体は主人公の父親だったり。
他にも、日本ハムファイターズ(北海道日本ハムファイターズ)の打線をビッグバン打線と呼んだり、韓国出身の男性5人組アイドルグループがBIGBANGと名乗っていたりする。
掲示板
32 ななしのよっしん
2023/10/24(火) 02:19:56 ID: mJ0mfmP3be
ビッグバン理論は覆りそうだけど
定説は説に過ぎず実際に確認されたわけじゃないものは覆って当たり前って思考を持っておかないと新しい発見はないよね
33 ななしのよっしん
2024/02/20(火) 03:00:00 ID: h4M1oVwQzX
すばらし
34 ななしのよっしん
2024/12/02(月) 11:43:28 ID: 4rRoQTkmAa
>ビッグバン理論は覆りそうだけど
こういうの見るたびにビッグバンを肯定するどの観測結果に関してどんな新事実や新理論が発見されたんだ?じゃあ次に来るのは定常宇宙理論か?それとも別の?と思ってワクワクしながら探すんだけど全然見つからないか具体的な説も作られてない単発の観測結果のニュースしか出て来ないの何なの
「俺は定説がひっくり返る新説を見つけた!」ならその人だけがそう思えば十分だけど「覆りそうだ」「実は否定されてるらしい」ってレベルなら新説があるだけじゃなくてそれを支持して次の研究に取り組んでいる研究者の集団が表立って居ないとおかしいけど全然見つからない
ビッグバン以外の新説だとどんなに怪しくてもそれなりの対立仮説なり集団なりはあった上でそういう人が出るのに
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最終更新:2025/03/16(日) 22:00
最終更新:2025/03/16(日) 22:00
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