ファンテール体とは、書体の一種。主に見出しに用いられる、縦線よりも横線の方が太いタイプフェイスのことを指し、英語圏ではリバース・コントラスト(Reverse-contrast、逆転した対比)という呼称がこれと同義である。 |
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“To be hated, it needs but to be seen.”
――嫌われる為には、まず目につかせる必要がある。
明朝体 |
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ヘブライ文字などは横線の方が太く書かれることが多いが、欧文や漢字、和文といった文字では元来、縦を太く、横を細くする対比が自然であり、美しいとされている。欧文では古来からローマン体などの多くのセリフ体やカリグラフィーがそのコントラストの法則に従っているし、和文でも明朝体などに顕著である。また、図形において同じ幅の縦と横の線があったときには、錯視によって横線が微妙に太く見えるので、ゴシック体においても大抵の場合横線が僅かに細く調整されるということがある。
多くの活字の鋳造目的は長らく本文のためであったが、17世紀以降の諸タイプファウンドリーではモダン書体やディスプレイ(見出し用)書体といった分類が登場し、開発されるようになる。目を引くためにしばしば特徴的な、強く独創的なデザインがなされるようになったのである。そうした潮流の中――つまり欧文圏において――活字体としてのリバース・コントラストはその芽を出した。
最も初期のリバース・コントラスト書体は、Calson社の「Italian」(1821年推〜)とされている。この書体は、Didoneや当時のレタリングをパロディし、そのコントラストを徹底して逆転し誇張している点に特徴があるスラブセリフ書体である。例えば“𝐀”は活字において左の線が細く右が太いように書かれるものだが、Italianでは逆に右が細く左が細い造形に作られている。
また、Thorowgood社のスラブセリフ体「Clarendon」に横線の強調を適用した「French Clarendon」の登場も代表的であった。以降、多くのデザイナーがリバース・コントラストの書体を開発し、タイプファウンドリーから発売されることになる。こうした書体は、やはりポスターのデザインや看板などに使用されていった。
Italian(上)とDidone(下) | 東京築地活版製造所の書体見本 |
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ファンテールという名前が日本においてリバース・コントラストの字様に定着したのは、アメリカのタイプファウンドリーMackellar, Smiths & Jordan社の「Fantail」書体に由来するとみられる。Fantailとは扇形の尾を持つ鳥のことを指す言葉で、同書体はその尾のような横線の広がりが特徴であったが、日本でかつて最盛をみせたタイプファウンドリー東京築地活版製造所がこの書体を輸入していた。そして、同社はその「縦線よりも横線が太い」特徴を持った書体を和文でも作成し、「フワンテール形」としてリリース、また縦幅が3分の2である平体の「三分ノ二 フワンテール形」もリリースしていた。これは1903年(明治36年)に刊行された、同社の見本帳に確認することができる。こうして本邦での当書体はファンテール体として世に出ることとなる。活字のみならずレタリングなどでもたまにみられた。ちなみに、「ゴシック体」などの名称も同様の由来を持つ。
株式会社写研のロゴ |
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写真植字機メーカーである写真植字機研究所(写研)の石井茂吉は、恐らく東京築地活版製造所の書体に影響を受けており、自身の開発した「石井太ゴシック」を下敷きに石井ファンテール(1937年〜)を制作した。石井ゴシックの骨格を受け継いだフトコロの狭い造形が特徴だが、これは戦時、主に軍部での地図の標題などに用いられた。また、この石井ファンテールによって「ファンテール体」が書体の選択肢の一つとして位置づけられた。
後年の写研のロゴには、フトコロの広めで角丸なファンテール体が用いられた。このロゴを拡張する形で制作されたのがファン蘭(1981年〜)で、同社から写植機用書体として発売され、複数の企業のロゴなどに用いられている。
和文のデジタルフォントとしては、大手ではダイナコムウェアのDF雅藝体、Fonts66のF66ワッフル、FONT1000のTA-シグマなどが各種フォントパック製品などで発売されている。TA-シグマはAdobe社のフォントサブスクリプションサービス「Adobe Fonts」に収録されたことでその用例を増やしている。
C&GシステムズのC&Gブーケは線に癖が少ないが、隷書体系の筆法が取り入れられている。
富士通ミドルウェアの製品FontCityにはFCウェブラインというファンテール体が含まれていたが、同製品が販売を終了していることから現在ではみられることがない。写研・ダイナコムウェアを除いた、モリサワやフォントワークスなどといった他の大手と言われるタイプファウンドリーでは、ファンテール体を取り扱っていない。
中村長体52/72というコンデンス(長体)のファンテール体は、ファン蘭の開発に関わった中村征宏の個人開発による書体である。個人開発では、ぱれったいぷの雪ファンテールも挙げられる。
ニューヨークの書体設計士、廖恬敏(TienMin Liao)は書体「Ribaasu」を設計した。欧文のリバース・コントラストにみられる有機質なイメージを和文・欧文・漢字全てに適用させたリバース・コントラスト書体で、欧文のモリサワ「タイプデザインコンペティション 2019」では銅賞に選ばれている。Ribaasuはデジタルフォントなどの活字体としての発売はなされていない。
現在、ファンテール体は印刷の主流には無く、「古めかしい」書体と評されることさえある。しかし、ファンテール体の持つ無機質すぎない線の柔和さは、やはりどこか真面目になりきれない、天邪鬼な茶目っ気を有している。あるいは、横に組んだ際のラインの整列感が、文字列の一体性を高めてくれる。そういった特性をうまく扱えば、ファンテール体は力を発揮するだろう。
TA-シグマ |
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最終更新:2024/04/24(水) 14:00
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