フグ(河豚、鰒、鯸、鮐)とは、フグ目の主にフグ科の魚の総称である。
ふっくらとした体を持ち、怒ると体を膨らませて威嚇するのが特徴。
なお小さな淡水フグは観賞魚としての人気が高い。
脂身が少なくあっさりとした口当たりと、それに反するかのような豊かな旨味を併せ持った味わいが特徴の高級魚として知られる。
同時に、テトロドトキシンをはじめとする猛毒を備えた危険な魚としても知られる。その為、市場に流通する際には必ず免許を持った調理師による除毒が必要とされる。
主に刺身や鍋で食される。小ぶりの個体を唐揚げにしても美味。
身は非常に弾力があるため、刺身にする場合は、透けて見えるほど薄く切る。また多くの場合、絵皿の上に花のように美しく盛り付けられる。→ふぐ刺し
雄の精巣は「フグの白子」として知られ、ホイル焼きや鍋にすると非常に美味しい。フグの部位の中では一番高級である。
また、ひれをあぶって日本酒に浸す「ひれ酒」に最も適した魚のひとつでもあり、日本酒に豊かな風味とコクをもたらす。
珍味としては、石川県の郷土料理の「フグの子の糠漬け」がある。
これはフグの卵巣を2年という長い年月をかけて塩漬け・糠漬けにしたもの。卵巣はフグの中でも特に毒が強い部位のはずなのだが、なぜか毒が抜けて美味しく食べられるようになっている。なお毒が抜けるメカニズムはいまだに不明。
ちなみに糠漬けの製造は免許を持った業者に限られており、検査を通して無害である事が確認されてから出荷される。ご安心ください。
名産地として知られるのは、なんといっても山口県(の下関市)と大分県。
ただし、天然ものの水揚げ量でいえば富山県・石川県・福岡県などが、養殖物の出荷量でいえば長崎県などが、実は両県よりも上である。
下関市では南風泊(はえどまり)市場でふぐを競り落とす際、「袋競り」と呼ばれる伝統的な方式を取る。
これは仲買人が「ええか、ええか」と声を張り上げる中、仲買人と買い手が布の袋の中に手を差し入れ、握った指の数で値段を知らせるというもの。
非常に取引のスピードが速く、瞬く間に行き先が決定する。ただし業者専門で一般見学は出来ない。
フグ毒として知られるのはテトロドトキシンだが、サキトキシン・パフトキシンと言った他の毒素を併せ持つ種もある。
テトロドトキシンがいかにやばい毒かは当該記事を参照。万が一、フグ毒に当たった場合は即救急車である。
ちなみにフグ自身も、テトロドトキシンに対する耐性が非常に強いだけで全然平気なわけではない。狭い水槽でストレスを感じ、テトロドトキシンを過剰に溜めすぎて中毒死するなんてことがある。
古来よりフグが有毒である事は広く知られていた。縄文時代からフグを食べていた事が解っており、室町以降は為政者による取り締まりが頻繁に行われていた。
フグ食禁止が決定的になったのは、豊臣秀吉が「河豚食禁止の令」を出した事だとされる。これは文禄・慶長の役において九州に参集した武士の間でフグ毒による中毒死が相次いだのが原因で、その後も武士に対してはフグを食べる事を固く禁じる藩が多かった。特に長州藩と尾張藩では厳しく触れが出されており、万が一フグを食べた事が発覚すると家禄没収、追放といった厳しい処分が下され、提供者も同罪とされた。
ただし実際には料理として流通しており、調理法を記した書物や「ふぐ汁や 鯛もあるのに 無分別」といった俳句が残されている事からも、なんだかんだでこっそり食べられていた事が判明している。
バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。
1887年(明治20年)、初代内閣総理大臣・伊藤博文が下関の料亭・春帆楼(しゅんぱんろう)に逗留した際、折からの時化で良い魚が手に入らなかったところに「うまい魚が食べたい」という伊藤の要望に対し、当時の女将が打ち首覚悟でフグを提供。伊藤はこれを大層気に入り、翌年山口県令・原保太郎に命じて山口県下に限りふぐ食を解禁させた。
以後はフグ毒に対する研究や法整備が進み、徐々に解禁が広まった。最終的には1983年に定められた基準に基づいた販売・提供が行われている。
フグは種によって毒のある部位に違いがある。
たとえばフグの白子は高級食材だと述べたが、精巣に毒がある種もいる。また皮に毒を持つ種も多く、それらはしっかり皮を除去しないと食べられない。ドクサバフグに到っては内臓や皮はもちろん、身にも毒があるため食用不可である。
そんなこんなで、百種類はいるフグのうち、食用として認可されているのは現在わずかに22種のみである。
中毒死のリスクが非常に高い部位にフグの肝臓があるが、これが非常に美味と言われ、なんとか食べようとしてフグ毒に当たる人が後を絶たない。
特に、「少しだけなら致死量までには至らない」という危うい線引きでフグの肝臓を食べるようになり、そのうちに量を見誤って中毒死した人の例が多い[1]。食通として知られた歌舞伎役者、八代目坂東三津五郎が「あと少しだけ、あと少しだけ」とついつい食べ過ぎた末に中毒で急死した逸話は有名である。ちなみに「止めといた方が……」と躊躇しつつも肝を出し続けた料理人は執行猶予つきの有罪判決を食らっている。
昭和天皇もフグを食べたいとご所望になったことがあるが侍医が許可しなかった。そのことで口論になったことがある。
フグの肝臓の毒性には個体差があるため、フグ肝を食べて平気だったという人は、致死量を見極めることに成功したのではなく、たまたま毒性の弱い個体にありついて無事に済んでいるだけであることが多い。
ただし、実際に当たって九死に一生を得た人が「もう一度食べたい」と言うほど[2]であるから、本当に美味なのだろう。フグ目はカワハギやマンボウ(これらは無毒)など、肝が特に珍重される魚が多い。ハコフグ類もフグ目だがフグ科ではないためテトロドトキシンを持たず、やはり肝が美味であると言われていたのだが、別の毒をため込むことがあるらしく、食中毒が何件も起きて現在は肝臓・卵巣・皮の食用が禁じられている。
なお、テトロドトキシンはフグが作り出しているわけではなくエサに含まれているものを体内に溜めているだけなので、完全養殖して無毒なフグを生産することも可能である。東京新聞に掲載されて話題となった水を吐くフグもこの無毒フグを紹介した記事である。
安全に食べられるようにフグをさばくためには豊富な知識と高い技術が必要であり食品営業においてはふぐ処理師資格を必要とする。取り除いた部位も毒の危険性から厳しく管理され、都道府県の条例に基づき産業廃棄物として処理される。特にふぐ需要の多い東京都・大阪府・山口県においては鍵のかかるボックスに保存して専門業者により焼却処理される。
ふぐ処理師(東京都はふぐ取扱責任者)の受験資格は、かつては調理師免許の取得と3年以上の実務経験が必須要件となっていたが、東京都が令和4年度の試験から調理師免許および実務経験の要綱を廃止し各都道府県も追従、実務経験に絡む年齢条件も無くなり小学生からYouTuberまで誰でも受験できるようになった。山口県では要件撤廃後に10歳の女児がふぐ処理師資格を取得している。
ただし実技を練習する機会は限られるため、取得の際は各自治体のふぐ協会・ふぐ組合が開催する受験対策講座の受講をおすすめする。
なお、ふぐ処理師資格は各都道府県が発行するため、効力は受験した都道府県内でのみ有効である。
一方で、他人に食わせず捌いた本人だけが食べる分には規制されてはいない。
ただ素人がフグを調理して中毒死する事故は毎年発生しており、日本の食中毒死の大半はキノコとフグの素人料理によるものという説もある。
フグは昔、フク(布久)、フクベ(布久閉)と呼ばれており、由来にはいくつかの説がある。
ちなみにカワハギ、ハリセンボン、マンボウはフグ目に属する魚である。
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2024/11/13(水) 11:00
最終更新:2024/11/13(水) 10:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。