ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ(Bruno von Silberberg)とは、銀河英雄伝説に登場するキャラクターである。
新帝国暦1年(帝国暦490年)6月当時、33歳。ローエングラム朝銀河帝国において工部尚書(国土交通+経済産業大臣のようなもの)を務めた少壮の官僚。
“ローエングラム王朝における最高級の技術官僚(テクノクラート)”と評され、物語に多くの異才・奇才・秀才の将星が出てくるなか、数少ない異才として描かれる文民である。
皇帝ラインハルトの信頼も厚く、フェザーンへの遷都計画推進を任されていた。
初登場は6巻飛翔篇。新帝国暦1年のローエングラム王朝開闢にあたり、帝国における経済的ハードウェアの建設と社会資本整備を任務として新設された工部省の長、初代工部尚書として内閣に名を連ねた。
この時、シルヴァーベルヒは、工部尚書のほかにもうひとつ非公式の職名として“帝都首都建設長官”の官職を得ることとなった。皇帝ラインハルトはすでに、帝都を旧帝国ゴールデンバウム王朝の中枢であったオーディンから帝国と同盟の中間、人類宇宙の結節点たるフェザーンへと移転する構想を抱いており、来たるべき同盟完全併呑のあかつきには遷都と新帝都建設を実施する責任者という立場を任されていたのである。
同年9月、即位より100日をまたずして皇帝ラインハルトがフェザーンに大本営を移したのにあわせ、新設まもない工部省の組織もフェザーンへと移った。フェザーン移転それ自体が新帝国の技術官僚たちにとって大きな刺激となったが、なかでもシルヴァーベルヒは大本営近くの古ぼけたビルを拠点とし、昼夜兼行の激務を果たしながらも、フェザーン遷都の構想、そして新皇宮“獅子の泉(ルーヴェンブルン)”の建設計画を推し進めていった。
この大本営の移転を手始めに、帝国の首都機能は事実上フェザーンへ移転されてゆき、翌新帝国暦2年2月には同盟が完全な滅亡を迎える。しかし、シルヴァーベルヒが正式な遷都令の発布を見ることはついになかった。同年4月12日夜、フェザーン代理総督官邸で開かれたワーレン、ルッツ両上級大将の歓送迎会において発生した爆弾テロに巻き込まれたのである。シルヴァーベルヒは19時50分の爆発で重傷を負い、ただちに病院へと移送された。しかし、多量の出血にくわえて頭骨にくいこんだ金属片が彼の意識回復をはばみ、23時40分、心臓の停止によって死に至ったのだった。
死後、国葬。テロ事件直後にワーレンの指揮で仮葬儀されたのち、遠征中の皇帝より服喪一日が発令された。国葬は皇帝帰投後の7月7日午前、先立つ“回廊の戦い”で戦死したファーレンハイト、シュタインメッツ両上級大将と合同のかたちで営まれた。葬儀委員長は軍務尚書オーベルシュタイン元帥。工部尚書の職務は工部省次官グルックが代行し、のちに役職も引き継いだ。なお、遷都令は7月29日に発令されたが、新皇宮”獅子の泉”の建設は最高責任者の死をうけて設計・候補地選定の段階で一時中断されることとなった。
新王朝開闢にあたり新設された工部省の管轄は、恒星間輸送および通信、資源開発、民間用宇宙船および開発資材の生産、都市・鉱工業プラント・輸送基地・開発基地の建設といった広範囲の行政にわたった。同盟の属国化によって飛躍的に広大化した帝国の領域全土における経済的ハードウェアの建設、そして社会資本の整備にあたる、新帝国の創成期において重要無比の官庁であったのである。
工部尚書はその長として政治的構想、行政処理、組織管理の三者にきわめて高い水準の能力が要求される職務といえたが、シルヴァーベルヒは自身「二者はそなえているつもり」と語ったように、その任にふさわしいだけの力量を有していた。その政治能力、とくに構想力と実務能力は皇帝ラインハルトの信頼をうけるところであり、軍事の“帝国軍の双璧”と比肩する、精力的かつ創造的な政治面の重臣といえた。その死後、皇帝ラインハルトに集中する政治的負担をわかちあうことが可能だったであろう、と、キルヒアイスと並べてその才を惜しまれているほどである。
フェザーンに移ってのち、激務のなかでシルヴァーベルヒは一週間だけ病気休暇を取ったが、このとき職権を代行したグルック工部省次官は、尚書と同量の仕事をこなす事ができず自信喪失し、皇帝に辞職を願い出たほど。しかし皇帝ラインハルトから慰留され、グルックは次官に留まることとなった。皇帝ラインハルトは、新帝国建設の時期なればこそシルヴァーベルヒのような異才が必要であるとして、やがて国家機構と社会体制の安定が成れば、堅実なグルックを基準にして工部省の巨大な機構と権限を縮小・適正化させようと考えていたのである。
つまり、特殊な能力を持つ職人に頼るのは最初だけで、やがては簡便な普及型に移行させるということである。逆に言えば新帝国建設の時期にあって、シルヴァーベルヒの異才は極めて重要という事でもあった。
軍人でこそなかったとはいえ、シルヴァーベルヒの能力は帝国軍の将星に匹敵する、異才と呼ぶにふさわしいものであったが、彼は同時に技術官僚として巨大な自負と野心を持っていた。
むろん王朝最初の、そして人類宇宙史上においても最初の工部尚書というだけで彼の名が後世に残ることは確実であったが、フェザーン遷都の責任者として、彼は自らの名をさらに黄金と真紅でもって絢爛華麗に飾りたてるべく、「惑星フェザーンが宇宙に存在するかぎり、彼の名が忘れ去られることのないようにしたかった」というほどの壮大な遷都計画を企図してもいた。
そして彼は、ふたつの大きな野望を持っていた。「新王朝の社会資本と産業基盤を完全に整備し、征服につづく経済的建設の時代を招来せしめること」、「その時代を指揮する技術官僚群の中心人物として、いずれ帝国宰相の座につくこと」。開闢以来、皇帝親政のもとに宰相がおかれていないローエングラム王朝においてなお、これを「さほど大それた望みとは思わない」という本人の豪語は、自身の能力に対する強烈なまでの自負を感じさせるものであった。
彼が志半ばに斃れたとき、前者は戦乱の時代が終わりつつあるなか、たしかに動き出しつつあったといえる。後者において、構想能力と実務能力で彼に匹敵し凌駕しうる技術官僚は全宇宙にひとりもいなかっただろう。「たしかに実現性も高かったであろう」とすら評されるふたつの野心を抱えたままにして、“ローエングラム王朝における最高級の技術官僚”は世を去った。
掲示板
52 ななしのよっしん
2020/12/01(火) 00:24:29 ID: aKXOwl5k1j
よくよく考えると、この人、No2どころでなく極めて危険な気がする。シルヴァーベルヒ個人というより、彼に象徴されるグローバリズム(効率&利得至上主義)が。
国家の発展期は、「王朝への忠誠」と「効率的発展」は同心円を描く。しかし、次第に両者が乖離した時、民はいずれを仰ぐのか。「ローエングラム朝の紋章」か、それとも「ラインハルトの肖像が刷られた紙幣」か。
「グローバリズムの発展 VS. 反動としてのナショナリズム勃興」という構図、この世界でも繰り返されそう。
効率追求主義の極北では、皇統の価値すら解体されかねない
(ラインハルト本人は、有名無実な血脈による支配など願い下げだろうが)。
かといって、グローバリズムを全否定することもできない。
新王朝は「高貴な腐敗貴族」による旧王朝を否定して成立しており、社会運営に効率が必要なのは当然のこと。
臣民間の格差拡大や、人間疎外、拝金主義の蔓延など、グローバリズムの負の側面と、本来的な意味での「経世済民」の差異・乖離を、オーベルシュタインはどう捉えているのか。
53 ななしのよっしん
2021/02/15(月) 02:15:18 ID: uNjoVM+J8t
まあ作中世界で数少ない戦後世界のビジョンを持ったキャラではあるな
54 ななしのよっしん
2023/08/05(土) 08:58:57 ID: 6emv5Gcs++
アフターを描く人たちは、ヤン、ロイエンタール、オーベルシュタイン、シルヴァーベルヒと、ビジョンを描けるキャラを徹底して全滅させてると嘆いてる
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最終更新:2024/04/19(金) 11:00
最終更新:2024/04/19(金) 11:00
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