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プロポフォール(Propofol)とは、全身麻酔や鎮静に用いられる静脈麻酔薬である。2,6-ジイソプロピルフェノール。先発医薬品の販売名はディプリバン®。
プロポフォールは、静脈麻酔薬である。1973年、イギリスの獣医師ジョン・B・グレンが発見した。速やかな麻酔の導入および覚醒が得られる麻酔薬として世界中で広く利用されており、現代医療に必要不可欠な医薬品として世界保健機関(WHO)の必須医薬品モデルリストにも収載されている。2018年、プロポフォールの発見と開発に携わったジョン・B・グレンは、ラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞[1]を受賞した。
プロポフォール(2,6-ジイソプロピルフェノール)は、その名称や構造式から分かるようにイソプロピル基を2つ有するフェノール誘導体であり、水にほとんど溶けない。しかし、水に可溶でなければ血液中に注入できないため、ディプリバン®などのプロポフォール製剤はダイズ油や精製卵黄レシチンを添加し、プロポフォールを水に溶けやすく(乳化)している。このため薬液は白色の懸濁液となっており、アメリカ合衆国では俗に“Milk of amnesia(記憶喪失のミルク)”と呼ばれる。
脂肪乳剤であり汚染されると細菌が増殖するため、製剤は無菌的に取り扱う。とくに、脂肪乳剤中の微生物は12時間を超えると急激に増殖することが知られているため、使用開始後12時間で薬液および投与に使用したチューブは廃棄して交換するべきだとされる。また、一部のプラスチック製の医療資材(ポリカーボネート製の三方活栓など)はプロポフォールのような脂肪乳剤にさらされると強度が低下することが知られており、過酷な使用条件下でひび割れが生じた事例も報告されている。
プロポフォールの投与には、TCIポンプを用いてもよい。TCI(Target controlled infusion)とは、血液中や組織中など体内の特定の箇所において、設定した薬物濃度になるようにコンピュータが自動で薬物注入量を調整するシステムである。ただし、あくまでコンピュータによる予測濃度であること、患者の年齢や肥満の程度などに影響されることから、適正な麻酔深度の維持には脳波モニタの使用が推奨される。
2009年、アメリカ合衆国の歌手マイケル・ジャクソンは、プロポフォールの過量投与によって死亡した。2014年、日本の東京女子医科大学病院において、2歳の小児が成人用量の2倍を超える量のプロポフォールを投与され死亡する医療事故が発生した。いずれの事故もプロポフォールの不適切な使用が原因であった。
局所麻酔や検査時の鎮静に用いられることもあるが、本邦では適応外である。
COVID-19のパンデミック期においては、人工呼吸管理を要する患者の急増によってプロポフォールの需要が跳ね上がってしまい、出荷調整(限定出荷)が行われる事態も生じた。
全身麻酔の導入においては、0.5mg/kg/10secの速度(TCIなら目標血中濃度3.0μg/mL)で就眠が得られるまで静脈内投与する。通常、2.0~2.5mg/kg(3.0~6.0μg/mL)で就眠を得られる。
全身麻酔の維持においては、通常、4~10mg/kg/hrの速度(目標血中濃度2.0~5.0μg/mL)で適切な麻酔深度を得られる。プロポフォールに鎮痛作用はないため、鎮痛薬(麻薬性鎮痛薬や局所麻酔薬など)を併用する。
集中治療における人工呼吸中の鎮静においては、0.3mg/kg/hrの速度で静脈内への持続注入を開始する(急速投与しない)。通常、0.3~3.0mg/kg/hrの速度(全身麻酔の用量より少量)で適切な鎮静深度を得られる。必要に応じて鎮痛薬を併用する。通常、7日を超えて投与しない。また前述のように、微生物増殖による感染防止のため、12時間ごとのルート交換が推奨される。なお、小児への本目的での投与は禁忌。
プロポフォールは、広く中枢神経に抑制的に作用する。中枢のGABAA受容体を活性化させ中枢神経系の機能を抑制することにより、鎮静・催眠作用を発揮する。また、NMDA型グルタミン酸受容体を抑制する作用も有する。抗けいれん作用はあるが、鎮痛作用はない。
プロポフォールは、疎水性基であるイソプロピル基を2つ有している。このような脂溶性の高い物質は細胞膜を通り抜けて中枢に移行しやすく、実際にTCIによる投与開始後1~3分程度で就眠を得られる。さらに、プロポフォールは主に肝臓で代謝されるが腎臓や肺でも代謝されるため、肝機能が低下している患者でも意識の回復が早い。
小児への集中治療における人工呼吸中の鎮静目的での投与は禁忌。これは、高用量・長時間のプロポフォール投与によって、プロポフォール注入症候群(PRIS)をきたすことがあるため。PRISは、初期には乳酸アシドーシスや横紋筋融解症などを伴い、進行するとショックや重篤な不整脈が発現して救命が困難になる。PRISは成人での症例も報告されており、原因不明のアシドーシスや横紋筋融解を認めた場合には年齢に関係なくただちに投与を中止する。なお、小児においては適応のある全身麻酔での使用にあたっても、ほかの麻酔薬と組み合わせるなどしてプロポフォール減量を図ることが望ましい。
ディプリバン®などのプロポフォール製剤には、油である精製卵黄レシチンやダイズ油(製剤によってはココナッツ由来のヤシ油=ココナッツオイル)が添加されている。そのため、これらの食品にアレルギーをもつ患者への投与は慎重を期すべきとされ、医療者向けのマニュアルなどにおいて「禁忌」と記されている例もある。ただし、卵アレルギーや大豆アレルギーをもつ患者の大多数は卵や大豆のタンパク質にアレルギーを示しても油成分にはアレルギーを示さず、また「プロポフォール製剤で実際にアレルギーが生じた患者らを調べてみたところ、とくに卵アレルギーや大豆アレルギーを持っていなかった」という報告、さらに「ある医療機関で卵アレルギーをもつ患者らにプロポフォールが用いられた過去の数十例を収集し検討したところ、少なくともその施設では重篤なアレルギー反応は1回も生じていなかった」という報告なども存在しており、これらの食品へのアレルギーをもつ患者においてプロポフォール製剤投与を「禁忌」とするためのエビデンス(根拠)は不足している。そのため、「禁忌と考えるべきではない」と強調する文献・専門家もいる[2]。ただし、本剤の成分によってアレルギーを引き起こした患者への投与は禁忌。
プロポフォール投与時には血管痛を生じやすい。血管痛の軽減のため、太い静脈の使用、局所麻酔薬リドカインの前投与、麻薬性鎮痛薬の前投与などの対策がなされる。乳化のために添加する油分の配合調整により血管痛が軽減されることも知られており、プロポフォール製剤の日本国内市場で多大なシェアを占める丸石製薬株式会社は自社製品にこの配合調整を加えている。
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最終更新:2024/04/25(木) 16:00
最終更新:2024/04/25(木) 16:00
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