4歳の菊花賞、有馬記念、5歳の宝塚記念、そして6歳春の天皇賞。
まさに狙い定めたように数々のビッグタイトルを獲得してきた。
阪神大賞典でのナリタブライアンとの歴史に残る名勝負も記憶に新しい。
田原成貴の手綱さばきとともに相手が強くなればなるほどその戦法は変幻自在だ。
いつ動きだすのか、どこから来るのか、ライバルたちは常にトップガンの脅威に晒される。
狙いは正確にして機を見るに敏、勝利を射程に収めると一気に加速するその決め手は
まさにマッハの衝撃波だ。
マヤノトップガン (Mayano Top Gun)とは、1992年生まれの競走馬。
97年古馬三強の内の一頭であり、2つのグランプリを含むGI4勝を上げた名馬である。しかし馬よりも鞍上の方が目立っていたかもしれない。
主な勝ち鞍
1995年:菊花賞(GI)、有馬記念(GI)
1996年:宝塚記念(GI)
1997年:天皇賞(春)(GI)、阪神大賞典(GII)
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「マヤノトップガン(ウマ娘)」を参照してください。 |
父*ブライアンズタイム、母*アルプミープリーズ、母父Blushing Groomという血統。*ブライアンズタイムは当時、ナリタブライアンを出してブイブイ言わせていた種牡馬で、マヤノトップガンも期待の1頭だった。ブライアンズタイム産駒というのは面白いことに、筋肉ムキムキで腹袋が大きい見るからにパワー型のダート馬というような馬が芝の中長距離でよく走ったりしていた。マヤノトップガンも見た目はアメリカのダート馬みたいな馬であった。
体質が弱く、デビューは4歳になってから。やっぱり見た目がダート向きに見えたからかダートを使われ、かつソエ(骨膜炎)が出たことから負担の少ない短距離を走らせたのだが、4戦目に初勝利、日本ダービーと同日の7戦目に500万下を勝ったもののいまいちパッとしない。とはいえ、鞍上には武豊、田原成貴と名手を乗せ続けていたのだから期待は高かったし、パッとしないと言っても勝った2戦以外は3着4回5着1回と堅実に走っている。後の成績から見ればダートの短距離は明らかに適性外だっただろうから、能力は高かったのだ。2勝目を中距離で上げたこともあり、そろそろ体質も固まってきただろうと芝中距離を走らせたら好走し、7月の4歳限定900万下特別で完勝したことで、陣営は秋の目標を菊花賞に定める。
秋に入り、マヤノトップガンは神戸新聞杯・京都新聞杯を連続2着して菊花賞へ向かった。この年は前年の3歳王者フジキセキが怪我で春に引退、皐月賞馬ジェニュインは距離不適と見て天皇賞秋へ回り、ダービー馬タヤスツヨシは秋になってダメダメで、9月にフランス遠征を終えて帰国してきたばかりのオークス馬ダンスパートナーが一番人気に支持されるという混戦模様だった。2番人気は春のクラシックで好走を続け、京都新聞杯ではマヤノトップガンを抑えて勝ったナリタキングオーである。この馬、ナリタの勝負服にシャドーロールという見た目で、厩舎も血統も全く無縁なのにナリタブライアンのイメージを重ねるファンが多かったのだ。トライアル連続2着とはいえ重賞勝ちが無いマヤノトップガンが「夏の上がり馬」代表として3番人気に推されたくらいで、「パッとしないメンツだなあ」と皆が思っていた。
このレース、マヤノトップガンは坂の下りで先頭に立って直線押し切ってレコード勝ちという強い競馬を見せる。しかしながら面子が面子であったことに加え、レース後に田原成貴騎手が「十字を切って投げキッス」というデットーリのパクリの派手なパフォーマンスを見せて話題を全て持って行っちまったせいで、それほど評価が高くならなかった。続く有馬記念で6番人気だった(使い詰めもあろうが)ことでそれが分かるだろう。
「菊花賞をレコード勝ちした馬がフロックなわけねーだろ」と誰もが自分に突っ込みを入れたのは、逃げを打ったマヤノトップガンが2着タイキブリザード以下を突き放し、ヒシアマゾンやナリタブライアン、サクラチトセオーといった実績馬には影すら踏ませぬ完全勝利を達成、そして田原騎手がゴール直後にカメラに向けて投げキッスをするのを見てからだった。これでGIを2勝としたマヤノトップガンはこの年の年度代表馬に選ばれている。なおこの年の年度代表馬争いは年間を通じて活躍した馬がおらず、中央・地方交流元年ということで交流ダート重賞で大活躍したライブリマウントが上がる始末だった[1]。デビューが4歳でしかも夏まで完全無名だった馬が、その年の年度代表馬になるなんて前代未聞の事であった。
これで完全に主役の座に躍り出たマヤノトップガンだが、それでもなお「有馬記念のレース内容は競艇(賞金王決定戦)に負けた[2]!」などという声も上がっていたし、何より強さの証明としたい翌年の初戦についても、そうは問屋が卸さなかった。
翌年初戦は阪神大賞典。マヤノトップガンから主役の座を奪ったのは前々年の三冠馬ナリタブライアンだった。誰もが復活を願っていたブライアン。マヤノトップガンはこの英雄とこのレースで4コーナー手前から一騎打ちを演ずる。直線中壮絶な追い比べになり、必死の差し返しも実らずトップガンはブライアンに頭差敗れる。傍目には名勝負と言って良い素晴らしいレースだったが、このレースはあくまで「ナリタブライアンが復活したレース」だった。田原騎手も騎乗については「ひと呼吸待てば勝っていた。(中略)覚醒剤より後悔しているね」と語っているものの、レースに関しては「あれは名勝負でもなんでもない。おれの馬は直球を投げた。カーブもフォークもあるのに使わなかった。それをブライアンに打たれただけだよ」と語っている。
阪神大賞典の評価はさておいて、「これで天皇賞は決まり」とかなりの人が思った。春の天皇賞は二強対決と言われ、マヤノトップガンは2番人気だった。ところがこのレース、マヤノトップガンはどうした訳か道中引っ掛かりっぱなし、4コーナーで先頭に立つものの直線で伸びず5着。ついでに言うとナリタブライアンは2着。勝ったのは後にマヤノトップガンと共に97年古馬三強に数えられるサクラローレルで、馬券売り場で真っ白になった本命党が大勢いたという。
続く宝塚記念にはナリタブライアンもサクラローレルもおらず、如何にもメンバーが手薄。はっきり言って、流石にマヤノトップガンが負ける要素がなく、実際ほとんど持ったままで圧勝。しかしながらあまりに面子が揃わなかったせいでこのレース、物凄く注目度が低かった。「あれ? 宝塚記念今日だっけ?」と新聞見て驚く人がいたくらいであった。ただ田所祐オーナーは前年の阪神淡路大震災の被災者でもあったため、本馬の勝利は被災者に勇気を与えたらしい。
秋を迎えてオールカマー。マヤノトップガンはこの辺りから掛かり癖が目立っていて、このレースも掛かって直線延びずに4着。天皇賞もやはり伸び切らずに2着。有馬記念はなんだか太い上にやる気が見られず7着に沈んだ。正直、この頃はみんなしたり顔で「トップガンは終わったな」「いやいや、負かしてきた馬が弱かっただけ」とか語ったものである。
ところが、トップガンがようやく主役に躍り出るのはこの後なのであった。
翌年の阪神大賞典、田原騎手はマヤノトップガンを思い切って最後方に持っていった。これで折り合いがついたマヤノトップガンは3コーナーから捲くって行くと直線は独壇場。田原騎手が持ったままで差が開く一方。身震いするような強さで圧勝した。
普通なら、菊花賞馬が阪神大賞典をあの強さで勝ったのであるから、続く天皇賞では当然1番人気になってしかるべきであったろう。しかしながら、彼は1番人気にならなかった。有馬記念以来の休み明け、しかも骨折休養明けのサクラローレルに1番人気を譲ったのである。これにマーベラスサンデーを加えてマスコミは「三強対決」と盛り上げた。
この時、マヤノトップガンの馬体は筋肉ムキムキ。ぴっかぴか。遂に本格化したことが分かる見事な仕上がりだった。レコードで菊花賞を制した馬が過去最高の仕上がりで、ステップレースを最高の勝ち方で勝って、何の不安もなく出走してきたのである。負ける筈がなかったのだ。
一方の田原騎手は、勝つために「意識を消すこと」が全てという考えに至り、アル・パチーノのビデオを何度も見て精神修養に励んだ。
スタートから抑え気味に行ったマヤノトップガン。サクラローレルとそれをマークしたマーベラスサンデーも後方で前半はスローペース。しかし向こう正面でサクラローレルが外から上がって行き、連れてマーベラスサンデーも捲ってペースが一気に上がった。
しかしマヤノトップガンは慌てない。落ち着き払った田原騎手とぴったりと折り合ったまま4コーナー手前で外に持ち出す。
だが、サクラローレルとマーベラスサンデーは4コーナーを綺麗に回ると一気に後続を突き放した。そして二頭で物凄い追い比べを開始したのである。他の馬はあっという間に置いて行かれてしまう。もうこれは決まりだ! 誰もがそう確信したその時。
大外から恐ろしい勢いで襲い掛かってきたのがマヤノトップガンであった。
栗毛の馬体が弾丸のように飛んできて、サクラローレルとマーベラスサンデーをねじ伏せるように交わすと、1馬身1/4突き抜けたのである。ゴール直後、田原騎手はガッツポーズではなくマヤノトップガンの頭を荒っぽくガシガシと撫でた。
三強が余すところ無く力を出し尽くした素晴らしいレースだった。トップガンが2頭に並びかけた瞬間ほど競馬を見ていて鳥肌立った瞬間は無い。このレースこそ90年代ベストレースだったと考える人は少なくないだろう。
余談だが、直線で実況の杉本清アナウンサーが「おお、外から何か一頭突っ込んでくるぞ! トップガン来た、トップガン来た、トップガン来た!」と叫んだ瞬間「知っとるわ!」と思わず突っ込んだファンが多数いたという(当然分かっていたけど盛り上げるためにわざと言ったらしい)。
勝ち時計3:14.4はライスシャワーのレコードを2.7秒も更新する驚異的なもので、普通ならサクラローレルとマーベラスサンデーの一着二着でも全然おかしくないレースであった。ちなみにこのレコード「未来永劫破られないだろう」とまで言われたがディープインパクトに1秒も破られ、さらに2017年、キタサンブラックによって0.9秒縮められた。
名実ともに現役最強馬となったマヤノトップガンだったが、残念ながらこの後この激走の反動か、屈腱炎を発症。そのまま引退となった。
通算21戦8勝2着4回。掲示板を外したのは1回だけというなかなか堅実、ややもすると勝ち味に遅いところのある馬であった。気性が良くなく、レースで引っ掛かる癖があったのである。先行して更に粘る脚を持っていただけに、後方一気の競馬に切り替えるまでに時間が掛かったのも止むを得ないだろう。4つ勝ったGI全てで勝ち方が異なるという自在脚質が有名だが、言い換えればそれは田原騎手の試行錯誤の結果でもある。田原騎手は事前に作戦を決め打ちすることはせず、ゲートの出方次第で位置取りを変えていたという。
GI7戦4勝という驚異の勝率を誇りながら、GIで1番人気になったことが宝塚記念での一度しかない。どんだけ信用が無いんだよという話である。勝っても田原騎手のパフォーマンスや乗り方が注目されるというのはやはり華の違いというものなのだろうか。栗毛のきれいな馬だったのだが。でろんと白い鼻面でマッチョだったけど。
種牡馬としては重賞勝ち馬をそこそこ出しているので失敗ではないものの、GI馬も出ていないし、他の多くの*ブライアンズタイム産駒の活躍馬と同様、期待からするとちょっと微妙な成績であった。地方競馬でも一頃はよく見かけられたが、これはやはり見た目がマッチョな馬が多いからだろうか。チャクラが唯一の後継種牡馬だがほとんど種付けを行っておらず、父系は残りそうにない。
ちなみに、JRAの「20世紀の名馬100」では15位にランクされている。びみょー。如何にもマヤノトップガンらしいといえばらしい。
2015年に種牡馬を引退し、2019年11月3日、繋養先の優駿スタリオンステーションで老衰のため死去。27歳だった。
*ブライアンズタイム Brian's Time 1985 黒鹿毛 |
Roberto 1969 鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Bramalea | Nashua | ||
Rarelea | |||
Kelley's Day 1977 鹿毛 |
Graustark | Ribot | |
Flower Bowl | |||
Golden Trail | Hasty Road | ||
Sunny Vale | |||
*アルプミープリーズ Alp Me Please 1981 栗毛 FNo.14-a |
Blushing Groom 1974 栗毛 |
Red God | Nasrullah |
Spring Run | |||
Runaway Bride | Wild Risk | ||
Aimee | |||
Swiss 1974 栗毛 |
Vaguely Noble | *ヴィエナ | |
Noble Lassie | |||
Gala Host | My Host | ||
Huspah | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Nasrullah 5×4(9.38%)、Alibhai 5×5(6.25%)、Nearco 5×5(6.25%)
掲示板
69 ななしのよっしん
2022/09/16(金) 09:07:54 ID: RgzCvnu9ef
>>66
殿堂開設時の選定は基準もないので例外(トウショウボーイは異論が出るはずもない馬だけど「開設時でなかったら入らなかった馬はいる」というのは当時の選定委員でさえ言っている)
70 ななしのよっしん
2023/01/12(木) 15:22:53 ID: WY1WjKRtDj
馬主さんは当時、阪神淡路大震災で弟夫婦亡くされて
病院も大きな被害受けたんよね
そんな年でもG1勝ったのは馬主さんに少しでも光が差し込んだのかなぁ
71 ななしのよっしん
2024/02/07(水) 14:12:59 ID: tWMhxoHqI1
カルストンライトオの訃報ツイッターで、同じ牧場にいたチャクラが昨年8月に他界していたとの報告が…。
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最終更新:2025/01/13(月) 13:00
最終更新:2025/01/13(月) 13:00
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