ミステリー(mystery)とは、「謎」「不可思議」「神秘的」「推理作品」などの意味を持つ単語である。
ミステリーとは本来は「謎」の意味である。しかし、そこから転じて推理物全般に使われている。
ニコニコ動画では、推理ドラマや推理小説、推理ゲームはもちろんのこと、それらを基にしたMADなどにもタグがつけられることがある。
また、たとえ動画に推理要素がなくてもその原義から、「心霊現象」「未確認飛行物体」などの一般に「神秘的な」「理解できない」と思われる要素があれば、つけられるタグでもある。
なかなか万人が納得できる定義をあげるのは難しい。
狭義に考えるなら、「殺人などの事件を探偵が捜査し、犯人を指摘する」ような筋書きを、おそらく推理物と聞いて多くの人間が連想するであろう。あるいは広義には「謎解き」や「事件」の存在によって、ミステリーだと判断する場合もある。この辺りの派生したサブジャンルは下記のジャンル分けも参照にしてほしい。
ミステリーの歴史がどこから始まったのかということについては、論者によって意見が分かれるが、大雑把にふたつあげられる。
ひとつはアメリカの作家エドガー・アラン・ポーの短編「モルグ街の殺人」(1841年)が最初のミステリーだとする説。
「モルグ街の殺人」は「とある家宅で母娘が惨殺されるが、警察はまったく犯人をあげられない。そこに探偵役となる没落貴族オーギュスト・デュパンが登場し、明確な論理をもとに犯人を指摘する」という筋書きであり、ここにいまのミステリーのスタイルを容易に見出せるであろう。これは前述した定義のうち、狭義のものの起源といえる。
ちなみにこのあとポーはデュパンものを2つ(つまり「モルグ街の殺人」を含めて計3つ)、また他にもミステリーの走りとされる短編をいくつか書いており、以上の作中で「実在の事件を推理する」「人間心理の盲点」「暗号」「探偵役=犯人」といった、後世で何度も扱われたテーマをすでに先取りしている。これを指して、ポーは始祖でありながら同時にミステリーを網羅してしまった、と賞賛する論者もいる。
起源のふたつ目は逆に広義、即ち「謎解き」や「事件」があればミステリーなのだ、とする説。
この論に立つなら起源ははるか神話の時代にまで遡れる。例えばイギリスのミステリー作家ドロシイ・L・セイヤーズ(代表作はピーター・ウィムジィ卿シリーズ。特に「不自然な死」は名作)が編纂した、ミステリーのパターンを網羅せんとするアンソロジーには、ミステリー濫觴の時期の作品として、聖書やギリシャ神話から寄せられたものがある。
ただしこちらには、そのように過去の物語からミステリーを「発見」する行為に意味などない、という批判も存在する。
以上は、どちらが正解かという問題ではない。むしろ個々人、あるいはどういう文脈で、ミステリーという言葉が用いられたかによって変化するものであろう。
前述の通りミステリーの起源といえるのは19世紀半ばのエドガー・アラン・ポーだが、ポーのあとすぐ「ミステリー」という小説ジャンルが形成されたわけではない。ポー以降もミステリーに該当する作品はぽつぽつ書かれていたが、「ミステリー」という小説の形式が定着するのは、それから半世紀後、19世紀の終わり頃のことである。
1891年、イギリスの『ストランド・マガジン』誌で、とある小説の連載が始まった。名探偵が様々な怪事件を相棒とともに解決していく、という1話完結の連作ミステリーという形式を採ったその作品は、掲載誌の発行部数が10倍になるほどの爆発的な大ヒットとなった。
そう、アーサー・コナン=ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』である(このときホームズ譚は既に『緋色の研究』『四つの署名』の2長編が発表されていたが、この2作は当初はさほど話題にならなかった。大ヒットしたのは『冒険』の連載からである)。
ひとつ歴史的な大ヒット作が生まれれば、後追いの作品が雨後の筍のように現れるのは世の習いである。当時のイギリスの作家たちはこぞってミステリーを書き始めた。ソーンダイク博士(オースチン・フリーマン)、ブラウン神父(G・K・チェスタトン)、思考機械(ジャック・フットレル)などなど、「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」と呼ばれる様々な名探偵たちが生み出され、現代でいう「ミステリー」という小説の形式が、ひとつのジャンルとして定着することになる。
ホームズとそのライヴァルたちの時代は、ホームズが短編中心だったこともあって短編が主だったが、1913年、E・C・ベントリー『トレント最後の事件』が大ヒットすると、いよいよ長編ミステリーの時代が花開く。それまでミステリーの中心であったイギリスではアントニイ・バークリー、アガサ・クリスティー、F・W・クロフツなど、アメリカでもS・S・ヴァン=ダイン、エラリー・クイーン、ジョン・ディクスン・カーなどが続々と登場、現代まで知られるミステリーの古典名作の多くがこの時代に書かれ、この1910年代~1930年代は「黄金時代」と称される。
そんな黄金時代の最中の1920年代終わり、アメリカではダシール・ハメットが『血の収穫』でデビュー、30年代終わり頃からレイモンド・チャンドラーやロス・マクドナルドがそれに続き、ハードボイルドというジャンルが確立される。
第二次大戦を挟み、戦後にアメリカでミッキー・スピレインの『マイク・ハマー』シリーズや、イギリスでイアン・フレミングの『007』シリーズが登場すると、ハードボイルドやスパイ小説が一気に大衆化してブームとなる。エド・マクベインの『87分署』シリーズのような警察小説も登場し、欧米でのミステリーは黄金時代のような謎解き中心のものから、犯罪小説、ハードボイルド、サスペンス、警察小説、冒険小説といったジャンルが主流になっていき、その傾向は現代まで続いている。
戦前から海外の作品が広く翻訳され読まれた他、日本人の手によるミステリーも多く書かれた。特に江戸川乱歩の影響は戦後含めて大きく、実作家のみならず評論家としても没後まで力を残すことなった(これは良くも悪くも、である。後年、乱歩の影響下から抜けだした評価を作品に与えたいと努力した評論家もいる)。当時はミステリーは「探偵小説」と呼ばれ(Detective Novelの訳語)、謎解きを重視した「本格」と怪奇幻想趣味を重視した「変格」に大雑把に分類されていた。
戦中は当局の検閲によって実質的に探偵小説の執筆が不可能になり、一部の作家は時代小説の捕物帳という形で細々と探偵小説を書き継いでいた。
戦後、探偵小説の執筆が解禁されると、横溝正史を筆頭に、鮎川哲也、高木彬光などの作家が続々と登場、探偵小説が復興する。そこへ1958年、松本清張『点と線』の大ヒットをきっかけに「社会派」と呼ばれるムーヴメント(社会派という言葉自体は古くからあったようだが)が起き、ミステリーが大衆文芸として受け入れられる。これは今までのミステリーにどうしてもついて回った遊戯的な側面――例えばわざわざ人を殺すのに大げさなトリックを用いるなど――をそぎ落とし、社会的な問題意識なども取り込んだ「リアリズム」のミステリーだといえるだろう。この頃から、「探偵小説」は「推理小説」と呼ばれるようになっていく。
なおこのムーヴメントは、海外においてダシール・ハメットやレイモンド・チャンドラーなどがそれまでのミステリーを批判し、新たにリアリティを大きく取り込んだ作品を書くようになった「ハードボイルド」スタイルと、時代のズレはあるが呼応している(ただしハードボイルドは必ずしもそれまでのミステリーに対する批判意識から生まれたジャンル、というわけではない。ハメットのデビューはクイーンより先だし)。
しかし社会派は推理要素の形骸化などで60年代半ばぐらいに一度勢いを失う。70年代に入ると森村誠一や夏樹静子といった作家の活躍、特に森村作品の映像化もあって社会派推理小説の人気は持ち直す。80年代に入るとノベルスという判型が隆盛を誇り、赤川次郎・西村京太郎・内田康夫・山村美紗らが大ブレイク。トラベルミステリーなどのジャンルで多作な作家たちがミステリーを量産し、それが2時間ドラマとして盛んに映像化される時代が訪れる。
ただ、この70年代~80年代に量産されたミステリー群は、もちろん中には傑作や意欲作もあったものの、「社会問題を浅くつついた風俗小説に、申し訳程度の密室トリックやアリバイ崩しがついただけ」みたいなものが多かったことは否めず、古典や海外ミステリを愛好するマニアはそういった薄味のミステリーの氾濫にうんざりしていたことが、当時の時評やファンダムの会報などから窺える。
そういった状況の中、1968年から桃源社が「大ロマンの復活」というシリーズで戦前の探偵小説・大衆小説の復刻ブームに火を点け、探偵小説方面では夢野久作や小栗虫太郎といった作家の再評価が進む。その流れの中、70年代に角川文庫と角川映画が仕掛けた空前の横溝正史ブームもあって、推理小説にかつてのロマンの復権を求める流れが生まれてきていた。
そうした状況の中、ゆり戻しのように起きたのが、1980年代以後の若手たちによる、古典の遊戯性を大胆に再現した次のムーヴメント、すなわち「新本格」である。彼らは古典的なミステリーのスタイル(不可能犯罪、名探偵の推理、複雑なトリックetc…)をいわばルネッサンス的に現代に蘇らせたのだ。このムーヴメントは日本のエンターテイメントに大きな影響を与え、以後ライトノベルなどにも影響下にある作家が出現した。
その一方、「新本格」と同時期に翻訳ミステリーの影響で冒険小説・ハードボイルドのブームが沸き起こり、「このミステリーがすごい!」などのランキング企画が登場、ミステリーの範囲を幅広くとってジャンルの多様性を積極的に広げた。ミステリーの形式を用いてそれまでの「社会派」よりもさらに重厚に社会性を追及する宮部みゆきや高村薫といった作家の登場もあり、90年代にはミステリーは大衆文学の中心と言えるジャンルにまでのしあがった。
90年代後半に京極夏彦や森博嗣が登場したあたりからは、もともと若い読者が多い「新本格」方面がライトノベルの読者層と交差しはじめ、その傾向の究極というべき清涼院流水の登場がミステリー界に大きな議論を巻き起こした。一方、『金田一少年の事件簿』『名探偵コナン』といったミステリー漫画の大ヒットや、『古畑任三郎』などの推理ドラマのヒットで、さらにミステリーは幅広く人口に膾炙していく。
2000年代に入ると新本格とライトノベルはますます読者層が重なり合い、西尾維新などの登場で完全に垣根が崩れる。そんな中で米澤穂信がブレイクしたことがきっかけで「日常の謎」がミステリーの主要ジャンルのひとつに躍り出て、現在まで続くキャラクター重視のライトミステリーブームが始まる。また、21世紀に入ると横山秀夫の登場を契機に警察小説の一大ブームが起こり、こちらも現在まで続いている。他にもイヤミスのブームや叙述トリックの流行、近年では特殊設定ミステリのブームなど様々なトピックがあり、現代のミステリーの状況を一言で言えば「多様化」ということになるだろう。
現代日本では、ミステリーは小説のみならず多くのエンターテイメント/フィクションにその姿を見ることができる。狭義のミステリーも連日出版され、海外の未翻訳作品も次々と翻訳されつつある。「隆盛」と呼んでいい状況ではないだろうか。
ミステリーというジャンルには、その内容に応じて多様な内部ジャンルが存在する。その分け方は人それぞれであるが、ここにいろいろと例を挙げておく。
もちろん、ここに挙げた以外のジャンルも多数あり、題材となっている分野の名前をつけた「○○ミステリー」という表記はよく使われる(例:青春ミステリー、医療ミステリー、落語ミステリーなど)。
なお、以下は日本国内についての記述がメイン。各ジャンルの代表的な作家も挙げるが、挙げた作家がそのジャンルしか書いていないわけではない。また、複数のジャンルにまたがる作品も数多い。
謎解きの興味を前面に押し出したミステリー。名探偵が出てきて、連続殺人が起こり、密室トリックやアリバイトリックを解明して、限られた登場人物の中から犯人をズバリと指摘する――という、一般的に「ミステリー」というジャンルのお約束・様式美としてイメージされる形式は、この本格ミステリのもの。単に「本格」ともいう。海外での呼称は「パズラー」など。
もともとは戦前の探偵小説を、謎解き重視の「本格」と、怪奇幻想趣味重視の「変格」に分類したときに生まれた言葉。江戸川乱歩が1950年に探偵小説の定義として提唱した「主として犯罪に関する難解な秘密が、論理的に、徐々に解かれて行く経路の面白さを主眼とする文学」というのが、だいたい本格ミステリの一般的な定義に近いが、何を「本格」と見なすかは人による。
前述の通り、松本清張の台頭以降しばらく雌伏の時代が続いたが、80年代後半から新鋭作家による「新本格」ムーブメントが起こり、それが定着して現在まで一定の支持を得続けている。かつて日本の本格ミステリは欧米の本格ミステリを手本として発展していったが、欧米ではその後古典的な本格はほぼ滅亡してしまい、日本の本格ミステリがあちらに翻訳されて「honkaku」と呼ばれるという逆転現象も起きている。
詳しいことは本格ミステリの記事も参照。
古く(戦前から70年代)は江戸川乱歩、横溝正史、高木彬光、鮎川哲也、泡坂妻夫などが代表的な作家。80年代の「新本格」直前およびそれ以降では、島田荘司、綾辻行人、有栖川有栖、法月綸太郎、麻耶雄嵩、森博嗣、京極夏彦など。
現代社会を舞台に、現実の社会問題などが絡む事件を描いた、リアリズム重視のミステリー。
前述の通り、1958年の松本清張『点と線』の大ヒットを契機としてミステリー界を席巻したが、推理要素が形骸化してしまってブームはしぼむ。70年代後半ぐらいから森村誠一の活躍で持ち直したあと、90年代に入るとより重厚な作品が書かれるようになり、大衆文学の中心としてのミステリーというジャンルを支えることになった。実際に起きた事件をモデルにした作品も多い。
80年代までの代表的な作家は松本清張、水上勉、森村誠一など。90年代以降は宮部みゆき、東野圭吾などが代表格。近年では薬丸岳、柚月裕子、葉真中顕など。
謎解きよりも、ハラハラドキドキの心理的な緊張感やドンデン返しがメインのミステリー。
火曜サスペンス劇場など、ミステリーものの2時間ドラマがよく「サスペンス」と題していたため、サスペンス=ミステリーみたいに思われることもある。ミステリーの内部ジャンルとしては、女性作家が書く謎解き要素の薄いミステリーが「サスペンス」(心理サスペンス)と呼ばれることが比較的多いが、他のジャンルと比べてもはっきりした定義が見当たらず、謎解きよりプロット(ストーリーの展開)を重視した作品にとりあえずつけられる名称に近い。
ちなみに「犯人が誰かわからないのがミステリー、犯人が最初からわかっているのがサスペンス」という、いったい何をどう勘違いしたのかもわからないツッコミどころしかない謎定義が流布しているが、もしこれを真面目に言っている人を見掛けたら、その人の言うことは真に受けたら駄目である。
代表的な作家は夏樹静子、小池真理子、乃南アサなど。近年では心理サスペンスは「イヤミス」(後述)に取って変わられている感もなきにしもあらず。
元々は心理描写や感情表現を廃した簡潔な表現を用いて、行動で登場人物の心理を示す文体のこと。そうした文体で書かれた小説群に私立探偵が主役のミステリーが多かったことから、私立探偵小説ぐらいの意味まで範囲が広がった言葉である。ハードボイルドの記事も参照。
アメリカで1920年代のダシール・ハメットあたりから広まったジャンルで、日本で確立されたのは1950年代に大藪春彦や河野典生が登場したあたり。1980年代から90年代にかけては冒険小説とともにブームを築いたが、21世紀になってからは冒険小説ともども下火になっている。
代表的な作家は大藪春彦、北方謙三、大沢在昌、原尞、東直己など。基本的に男性作家が男性読者向けに書くジャンルだが(北方謙三作品がブームになった80年代には「男のハーレクイン・ロマンス」なんて評言もあった)、仁木悦子や若竹七海など女性の書き手もいる。
ヒーローが何らかの危機や困難に挑むのが中心の、アクションがメインの活劇小説。RPG的な冒険ファンタジーとは意味が違うので注意。冒険小説の記事も参照。
おそらくハードボイルドからの派生でミステリーの内部ジャンルとして扱われるが、謎解き要素が全くないことも珍しくない。翻訳冒険小説の影響を受けて、1980年代に大きなブームを形成したが、90年代半ばぐらいでブームは終息し、現在は散発的にヒット作が出る程度。当時冒険小説メインだった作家は警察小説や時代小説に移行したりしている。
代表的な作家は船戸与一、逢坂剛、佐々木譲、志水辰夫、福井晴敏、近年では月村了衛など。
暗黒小説とも。ハードボイルドから派生した、ヤクザやマフィアなどの裏社会を主な舞台に、主に犯罪者を主人公にしたダークでハードな小説。
本邦ではもともとハードボイルド・冒険小説からの派生で大藪春彦や西村寿行のバイオレンス小説が人気を博していたが、1996年にジェイムズ・エルロイの影響を強く受けた馳星周が『不夜城』でデビュー、一世を風靡し、以後「ノワール」というジャンルとして定着。『不夜城』の生んだブーム自体は一過性のものだったが、あまり大きなブームにはならなかったためか大きく縮小することもなく、現在も一定の書き手がいる。
代表的な作家は馳星周、黒川博行、新堂冬樹、東山彰良、深町秋生など。
犯罪に至る過程や犯罪計画、犯罪者の心理を描くことを主題にしたミステリー。「クライムノベル」とも。
華やかでトリッキーな犯罪計画で魅せるものには、詐欺師の騙し合いを描くコン・ゲームものや、プロの犯罪者集団が一攫千金を狙うケイバーものなどが該当し、冒険小説に近くなる。犯罪者の心理や犯罪に至る過程を描くものは、社会派ミステリーやハードボイルド、ノワールに近くなる。また、その完全犯罪が警察や探偵によって瓦解するまでを描くと倒叙もの(後述)にもなる。犯罪者の心理を深く掘り下げるものは純文学にも接近するため、文学賞などで評価されやすい。
日本各地の観光地や有名な場所、あるいは鉄道や駅を主な舞台としたミステリー。旅情ミステリーとも。2時間ドラマの原作としておなじみ。
1978年の西村京太郎『寝台特急殺人事件』の大ヒットを機に、1980年代から90年代にかけて主に新書判のノベルスで大量に書かれ、ライト層の読者を大量に獲得した。しかし21世紀になってからはすっかり下火で、ジャンルを支えた有名作家もほとんど鬼籍に入ったため現在ではほぼ絶滅寸前。
警察組織を主題に、捜査班による組織的な事件捜査や、警察組織内の軋轢などを描くミステリー。よく刑事ドラマの原作になる。
刑事が主役のミステリーは松本清張による社会派ミステリーブーム以降大量に書かれていたが、刑事がひとりで地道に捜査して真相を突き止める、というような話が多かった。1990年代になって警察組織をよりリアルに描く作品が増え、90年代末には横山秀夫が刑事ではなく管理部門の職員を題材にしたミステリーを描いて大ヒット。以降、警察組織ものが多数書かれるようになり、現在までブームが続いている。「ガラパゴス的進化を遂げた」とか言われることも。警察小説の記事も参照。
代表的な作家は横山秀夫、今野敏、佐々木譲、誉田哲也、堂場瞬一など。
犯罪が絡まない、日常生活の中に生じる謎を解き明かすミステリー。
それ以前にも該当する作例自体はいくつかあったが、1989年に北村薫が『空飛ぶ馬』でデビューし、殺人事件が無くても論理的なミステリは書けることを広く知らしめた。以後、多数のフォロワーが生まれ、ジャンルとして定着している。
血腥い事件が起きないため青春もの・学園ものやお仕事小説と相性が非常によく、近年は特にライト文芸の分野で主要ジャンルのひとつとなっている。日常の謎の記事も参照。
代表的な作家は北村薫、加納朋子、米澤穂信、相沢沙呼、坂木司など。
読むとイヤな気分になるミステリー。ドロドロした人間関係を描き、ドンデン返しを仕掛けたものが多い。
2008年に湊かなえ『告白』が大ヒット、続いて2011年に真梨幸子『殺人鬼フジコの衝動』と沼田まほかる『九月が永遠に続けば』がベストセラーとなったことで、これらの作品が「イヤミス」と名付けられた。現在も一定の支持を受けてヒット作が出続けており、ジャンルとして定着している。女性作家が書いて女性読者が主に読むジャンルで、女性向けのノワールなのかもしれない。
代表的な作家は湊かなえ、真梨幸子、沼田まほかる、秋吉理香子、芦沢央など。
事件ではなく、現実の歴史上の謎を解き明かすことを主眼にしたミステリー。
日本では邪馬台国の所在地、明智光秀の動機、坂本龍馬暗殺事件、東洲斎写楽の正体といったメジャーなものから、マニアックなものまでいろいろ。あくまで娯楽であるので、作中ではもっともらしく説明されるが、学術的に見れば奇説・珍説・俗説の類いを真相として設定している場合が多いのであまり真に受けないように。中には歴史ミステリーを書きながら俗説断固否定という高井忍のような作家もいる。
叙述が転倒している、すなわち通常のミステリーが捜査側の視点から描かれるのに対し、犯人側の視点から犯行を描き、その犯罪計画がいかに瓦解していくかを主眼にしたミステリー。
犯人と探偵・警察との心理戦や頭脳戦、そして探偵・警察がどこで犯人の犯行を見破ったか、などが見所。倒叙の記事も参照。
テレビドラマの『刑事コロンボ』と『古畑任三郎』が代表例。小説でもいろいろ書かれているが、倒叙ものが作品のメインという作家はほぼ居ない。代表作に倒叙ものがある作家では大倉崇裕、相沢沙呼など。
殺人事件が起こっても血腥くなく、深刻になりすぎない空間で、主に素人探偵が謎を解く。両者の区別としては、ドタバタの笑いを中心にしているものがユーモアミステリ、料理や食事などの日常描写の比重が高く読み心地の良さを重視していればコージー・ミステリ、といったところか。
前者は男性作家、後者は女性作家が多い。後者は特にアガサ・クリスティの作品をイメージしてもらえればいいだろう。
日本では赤川次郎、東川篤哉、若竹七海などが代表格。現代の主にライト文芸で出るお仕事ミステリや日常の謎も、多くはコージー・ミステリの範疇に入る。
裁判を主な舞台にしたミステリー。弁護士が依頼人の無罪を勝ち取ろうとする話が基本だが、私設裁判ものや証人保護プログラムの話など、いろいろなバリエーションがある。
日本を代表する法廷ミステリーは、ゲーム『逆転裁判』シリーズだろう。小説では洋の東西を問わず、元弁護士のミステリー作家がこのジャンルを得意とする。日本では和久峻三、小杉健治など。
時代小説の中のミステリー作品。岡っ引きや目明かし、同心などが江戸の事件を解決する。ミステリーの内部ジャンルというよりは、時代小説の内部ジャンルと見なされることが多い。
1917年(大正6年)に連載が始まった岡本綺堂『半七捕物帳』シリーズは、日本のミステリーというジャンルそのものの草分けとなった作品のひとつ。戦前から現代まで連綿と書き継がれているジャンルで、戦時中には探偵小説の執筆が事実上禁止されたため、横溝正史のようにこのジャンルでミステリーを書いていた作家もいる。
代表的な作家は岡本綺堂、野村胡堂、池波正太郎など。都筑道夫、泡坂妻夫、宮部みゆきなど現代もののミステリーと並行して捕物帖を手掛ける作家も90年代ぐらいまでは多かった。
SF的な設定やファンタジー的な世界観など、現実世界とは異なる部分を持つ世界観の中で展開されるミステリー。敢えてそういう設定の中でミステリーをやる以上、その設定ならではの謎解きに注力することが多いため、多くは本格ミステリの範疇に入る。
たとえばミステリーの解決で「実は犯人は超能力者でした」とやれば普通は本を壁に投げつけられるが、そもそも超能力者がいることが自明の世界であれば、「どんな超能力を使ったのか?」「なぜわざわざ超能力で殺したのか?」など、その世界ならではの特殊な謎や論理、トリックを展開することができる。
源流を辿れば1964年のランドル・ギャレット『魔術師を探せ!』あたりが本格的な始祖になると思われるが(もっと早い作例だと1954年のアイザック・アシモフ『鋼鉄都市』など)、日本では新本格以降、山口雅也『生ける屍の死』や西澤保彦『七回死んだ男』あたりから登場した、比較的新しいジャンル。最初の頃は「SFミステリ」と呼ばれていたが、ファンタジー系の特殊設定も増えたため、現在は「特殊設定ミステリ」という呼称が定着した。2009年の綾辻行人『Another』、2010年の米澤穂信『折れた竜骨』あたりを皮切りに、2010年代以降は特に本格ミステリの分野でこのジャンルを得意とする有望な新人が続々と登場し、流行ジャンルとなっている。特殊設定ミステリの項目も参照。
代表的な作家は山口雅也、西澤保彦、近年では白井智之、阿津川辰海、今村昌弘など。
謎解きを中心にしたミステリーは、謎の主眼をどこに置いているかで、おおよそ以下のように分類することができる。ひとつの作品が複数の謎解きジャンルを含む場合も多い。
たとえば年末のランキング本に「このミステリーがすごい!」と「本格ミステリ・ベスト10」があるように、ミステリー業界では「ミステリー」と「ミステリ」の2つの表記が併用されている。
使い分けに明確な基準はないが、おおよそ「ミステリー」はサスペンス・ハードボイルド・冒険小説などを含む広義のジャンル、「ミステリ」は謎解き要素をメインにした狭義のジャンルを示す表記として使用されているようだ。
ニコニコでも「ミステリー」「ミステリ」の2種類のタグが使われている。その区別は動画投稿主、視聴者の主観に任せたものであり、明確な基準があるものではない。強いて傾向を述べるとすれば、「ミステリー」タグはいわゆる「オカルト」の領域の動画も含んでしまい、推理物の動画を探すのには不便なため、推理色の強い動画は「ミステリ」タグを用いているようだ。
余談だが、「ミステリィ」というタグは使われていない。
ニコニコ大百科内に記事のあるミステリー作家。漫画家、脚本家、ゲームクリエイターなどの「小説家」以外の人物や、「ミステリー作品を書いたこともある」程度の人物、評論家なども含んでいる。
※海外の人物などで姓が名より後に来る場合でも、姓の五十音順で掲載しています。
ニコニコ大百科内に記事のあるミステリー作品。「最初はミステリーだったが途中から別のジャンルになった作品およびシリーズ」や「分類するなら別のジャンルだがミステリーの賞を獲ったり年間ランキングに入ったことがある作品」など、単純に「ミステリー作品」とは言い難い作品も含む。二次創作は除外。
ニコニコ大百科に記事のある、ミステリーを扱った動画を投稿している動画投稿者。ただし代表作がミステリー関連とは限らない。
掲示板
145 ななしのよっしん
2024/05/08(水) 16:21:01 ID: Wz4P20B5m5
殺人不謹慎まではないだろう。ミステリでもなんでもないジャンルで暴力とか殺人の表現が規制されるならともかく、正直「ひとが死んでからが本番」な部分あるじゃない。
きらいではないが、誰も死なないほのぼの日常系ミステリばかりになったらなんかやだなあ。
146 ななしのよっしん
2024/05/24(金) 21:10:44 ID: C4C1Gi03el
可能性は無くは無いんじゃない
実際大昔には規制されてたし、暴力表現といわれればそれはそう
147 ななしのよっしん
2024/05/24(金) 21:46:45 ID: FchBJQQLlH
残虐表現の規制についてはアメリカのコミックス・コードとか先例が有るからね。
http://p
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最終更新:2024/09/10(火) 11:00
最終更新:2024/09/10(火) 10:00
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