ムジェロサーキットとは、イタリア・トスカーナ州フィレンツェ県スカルペリア・エ・サン・ピエロにあるサーキットである。
MotoGPのイタリアGPが開催される。2020年はF1のトスカナGPが開催された。
本サーキットが位置する盆地のことをムジェロ盆地という。
1920年代からムジェロ盆地の公道で自動車レースが行われていた。1964年から1970年にかけても、公道を閉鎖して1周66kmのコースを作って自動車レースが行われていた。
1970年に公道レースが終わった。予選や決勝では公道を閉鎖するように規則を決めていたが、練習走行に関してはそのような規則がなく、公道を閉鎖せずに練習走行を行っていた。1970年の練習走行で地元出身のドライバーが事故を起こしてしまった。
1973年にムジェロ盆地でサーキットの建設が始まり、1974年に開業した。
1988年にフェラーリ社によって購入され、フェラーリのテストコースとして使用されるようになった。また、大規模な改修が行われた。
ムジェロサーキットで初めてMotoGPのイタリアGPが開催されたのは1976年である。その2年後の1978年にもイタリアGPが開催された。
1982年と1984年に「サンマリノGP」という名称でムジェロサーキットでMotoGPが開催され、1985年にイタリアGPという名称でムジェロサーキットでMotoGPが開催された。
1991年からムジェロサーキットで毎年MotoGPが開催されるようになり、2019年まで29年連続でMotoGPの開催が続いた。ちなみに、1991年と1993年の開催名は「サンマリノGP」で、1992年と1994年~2019年の開催名はイタリアGPである。
同じサーキットなのに大会名が変わっていてややこしい。イタリアGPの記事に表が掲載されているので参照されたい。
2020年はコロナ禍の影響を受けて、ムジェロサーキットでのMotoGPが中止となった。
開業してから長い間F1が開催されていなかった。
2012年5月1日から3日までF1の合同テストが行われた。このとき本サーキットを賞賛する声が多かった(記事)。
2020年のF1はコロナ禍の影響を受け、ヨーロッパの外でレースを行うのが難しくなり、ヨーロッパで行うレースを増やす必要に迫られた。そこでムジェロサーキットで「トスカナGP」として9月13日に初めてF1を開催することになった。なぜ「トスカナGP」かというと、9月6日にすでに「イタリアGP」をモンツァサーキットで開催していたためである。また、9月13日のトスカナGPはスクーデリア・フェラーリ(フェラーリF1チーム)の1000戦目だったので「Ferrari 1000」という言葉も大会名に加えられた。フェラーリの企業カラーである赤色に塗装されたセーフティーカーも用意された(記事)。
本サーキットはフェラーリが所有している。フェラーリはイタリアを代表する巨大企業であるフィアット社の傘下に入っているので、「フィアットがムジェロサーキットを所有している」と表現されることもある。
イタリアを分割する北アペニン山脈の中のムジェロ盆地に位置する内陸部のサーキットで、海岸線から85km離れている。地形図、航空写真、Google地図、のいずれを見ても、北アペニン山脈の中にサーキットが位置していることがわかる。
ムジェロ盆地の北端のこの場所にムジェロサーキットがある。その近くにはボルゴ・サン・ロレンツォ、スカルペリア、ルーコといった自治体があり、これらはムジェロサーキットのコーナー名になっている。
ちなみに北アペニン山脈は、イタリア北部とイタリア中部を分割する山脈である。工業が発達したイタリア北部、文化遺産だらけのイタリア中部といった区別がある。
北アペニン山脈で作る線はラ・スペツィア=リミニ線と言われ、この線を境にして言語の特徴が変わる。複数形を作るとき語尾にsを付けるのが北側、母音を変化させるのが南側。言葉が大きく変化するのだから古来から北アペニン山脈が人の往来を阻んできたことがよく分かる。
ついでながら、ローマより南をイタリア南部という。産業が今ひとつ発達せず、所得水準がちょっと低めで、ギャングやマフィアが少し多い。
ムジェロサーキットは山の中のサーキットなので、雨が降りやすい。山地は上昇気流が発生しやすく雲が起こりやすく、雨が降る可能性が平地よりも高い。
MotoGPの開催される5月のフィレンツェは平均降水量70.0mm・平均降水日数8.4日で(資料)、これはそれなりに雨が少ない部類に入る。しかし「フィレンツェで曇りなのにムジェロサーキットでは雨が降っている」ということもよくある。
こちらやこちらやこちらが現地の天気予報なので、レースが開催される時にはよく確認しておきたい。
ムジェロサーキットは、花の都フィレンツェから北へ26kmの場所に位置している。フィレンツェは煉瓦色の屋根に白い壁という建物ばかりで(画像)、おとぎ話のような雰囲気になっている。景観を維持するため近代的ビルの建設が厳しく規制されている。そのため大型ホテルがない。
本サーキットで事故が起こったら、ドクターヘリで23km離れたこの場所にあるフィレンツェ市内のカレッジ総合病院へ運ばれる。外科手術ではイタリア随一の水準の病院である。2010年にヴァレンティーノ・ロッシが負傷したとき、この病院に担ぎ込まれた(記事1、記事2)。
本サーキットはフェラーリが所有しており、同社がテストコースとして使用している。フェラーリの本社はマラネッロにあるのだが、本サーキットから直線距離で70kmしか離れていない。高速道路アウトストラーダ・デル・ソーレで南下すればすぐにムジェロサーキットに到着できる。
フェラーリは、他のイタリア企業にもムジェロサーキットでテストすることを許可している。ドゥカティの本社はボローニャのボルゴ・パニガーレ地区にあるのだが、本サーキットから直線距離で55kmしか離れていない。ドゥカティにとって大変便利な位置にある。
アプリリアの本社はノアーレにあり、本サーキットから直線距離で180km離れていて遠いのだが、それでも本サーキットで盛んにテストをしている。1997年から2001年までアプリリアワークスに所属していた原田哲也さんは頻繁にムジェロサーキットでテストしており、「ムジェロサーキットは人生で最も多く走ったサーキット」と語っている。ちなみに原田さんがテストをするときはフィレンツェのホテルに泊まっていたという。
フェラーリはフィアット・グループ所属であるのに対し、ドゥカティはフォルクスワーゲン・グループ所属で、アプリリアはピアッジオ・グループ所属である。フェラーリにとってドゥカティやアプリリアは同じ企業グループではないのだが、コース使用料をしっかり払ってくれるのでテストを許可している。
冬のムジェロサーキットはしっかり雪が降って雪化粧する(画像1、画像2、画像3)。このため冬季にはテストできない。
ムジェロサーキットのすぐ近くのこの場所にはトンネルがあり、高速鉄道ボローニャ-フィレンツェ線が走っている。この動画の0分27秒あたりで、動画の下側に赤い電車が左から右へ過ぎていく様子が映っている。
ムジェロサーキット入り口あたりからトンネルが始まり、この地点で久々に地上に出たらまたトンネルが始まり、ここで日光を浴びたらまたトンネル、ここでまた顔を出してトンネルが続き、ボローニャ中央駅まで辿り着く。トンネルだらけの路線である。
ムジェロサーキット前で止まってくれれば良いのだが、レースがないときのムジェロサーキットなど野ウサギが駆け回るだけの田舎に過ぎない(画像1、画像2)。高速鉄道が止まってくれるわけがないのであった。
ムジェロサーキットの周辺はただの田舎なので、ホテルが少ない。
観光都市のフィレンツェ周辺にはホテルが多い。景観保持のため建築規制があり大型ホテルがないが、修道院や個人の邸宅などを改修したような小規模なホテルがいっぱいある。
ただし、フィレンツェからムジェロサーキットまでの交通事情が劣悪である。
ツインリンクもてぎなら30km離れた宇都宮市や水戸市からシャトルバスが運行される。フィレンツェからムジェロサーキットへは26kmなのでシャトルバスがありそうだが、ない。
そこで鈍行の鉄道でフィレンツェ中央駅からボルゴ・サン・ロレンツォ駅まで40分~1時間20分ぐらい掛けて行く(資料)。ボルゴ・サン・ロレンツォ駅に降り立ったら何もない(画像)。タクシーもあったりなかったり、シャトルバスは決勝の日だけ運行される程度である。4~5kmほどテクテク歩かねばならない。人間の徒歩は時速4kmとされるから、1時間歩くのである。しかもムジェロサーキットの方向を示す看板などないので迷いやすく、疲れ果てること間違いない。
レンタカーを借りて車でフィレンツェから行くのもお奨めできない。フィレンツェからサーキットへは片道2車線の高速道路アウトストラーダ・デル・ソーレ(E35)、片道1車線の一般道路SR65とSR302、この3つである。一般道路のSR65とSR302は勾配だらけ・カーブだらけの見通しが悪い道である。しかもイタリア人の運転は乱暴で、恐怖を体験する可能性がある。そして帰りは地獄のような渋滞になる。
そこで残る選択肢は1つ、ムジェロサーキットで野宿する・・・これになる。キャンピングカーで行ってその中で寝泊まりしたり、普通の車で行ってテントを張って寝泊まりしたり、そういった方法を選ぶイタリア人が多い。ムジェロサーキットで行われるイタリアGPでは観客席にテントが多く見られるが(画像1、画像2)、このためである。空撮でもキャンピングカーやテントが密集した様子が映し出される(画像)。
観客達が夜になって寝静まるはずもなく、バイクを空ぶかししたり歌ったりと夜通しでお祭り騒ぎする。バイクからエンジンやマフラーを外し、それを空ぶかしして遊ぶ人たちもいる(動画)。サーキット内のモーターホームで宿泊するライダーが耳栓をして寝ようとするがなかなか寝付けない。観客達の中には朝になってレースが始まると睡魔に耐えきれず眠ってしまう人が多いらしい。
山の中のド田舎で近くに街がなく、騒音を出しても苦情を出してくる人たちが非常に少ない。ゆえに観客達は好き放題に騒ぐ。MotoGPの開催されるサーキットの中でも一番騒々しい場所である。
ムジェロサーキットの夜を示す画像は検索すると出てくる。何が起こっているか察することができる。
Youtubeにもムジェロサーキットの夜の動画が多く上がっている(動画1、動画2、動画3、動画4、動画5、動画6、動画7、動画8、動画9、動画10)
こういう人達がレース後にお行儀よくしているはずがない。レース後に観客達がコースに乱入するのはおなじみの光景になっている(動画)。壁を平気で乗り越えてくる彼らを止めるすべはない(動画)。
ムジェロサーキットの正門はこの場所にある。ここには木製のアーチと巨大な赤いヘルメットがある(画像)。
ムジェロサーキットの正門を航空写真で見ると白い屋根しか見えないが(画像)、横から見るとこんな具合になっている。また、少し斜めから空撮で見るとこんな具合になっている。赤を企業カラーとするフェラーリのホームコースなので赤いヘルメットが置かれた。
ただ、この正門はレース関係者専用の門で、一般客は通れない。一般客の門は東に少し離れたこちらになっている。
ムジェロサーキット公式が発表しているサーキットの地図を見ると、正門は「Ingresso Paddock」と書かれている。Ingressoはイタリア語で入口という意味で、Paddockはレース関係者が使うピット施設という意味である。
先ほども述べたように、正門はこの場所にあり、レース関係者のトラックが出入りするところである。ここで許可を受けたトラックはそのまま北に進み、6コーナーと7コーナーの間のこの場所にある地下道をくぐり、ピット施設(Paddock)へ進入して物資を届ける。
メインストレートのこの場所にトンネルがあり、転倒したライダーがここを通ってピットに戻る。
メインストレートのこの場所に歩道橋があり、転倒したライダーがここを通ってピットに戻る。
ムジェロサーキットのメインスタンドの屋根は全て太陽光発電パネルである。これはMotoGPのスポンサーとしておなじみのプラマック社が作った。
プラマック社は1966年創業の発電機メーカーで、2015年には世界14カ国で事業展開している。2011年頃に太陽光発電事業の不振で窮地に陥ったが、不死鳥のごとくよみがえっている。本社はイタリア・トスカーナ州シエーナ県カーゾレ・デルザにある。
プラマック社長はパオロ・カンピノティ(Paolo Campinoti)という人なのだが、この人はなんとMotoGPに参戦するプラマックレーシングのチーム監督を兼任している。レース大好き企業と言える。
ムジェロサーキットには医療設備がある。
ムジェロサーキットの地図がこの記事に載っているが、その地図には赤十字のマークで医療設備の位置が示されている。その地図が示す場所はこの場所であり、ドクターヘリ用の「白い十字に赤字のH」の塗装もある。
2019年12月9日にムジェロ盆地で地震が起こった(記事)。そのとき数百人ほどの被災者が家を出るはめになったのだが、彼らを助けるためサーキットが開放され、医療設備で寝ることを許した(記事1、記事2、記事3、ツィート)
2020年1月頃からコロナ禍がイタリアを襲った。このときムジェロサーキットは医療機器をトスカナ州の病院に貸し出した(記事、ツィート)。
ムジェロサーキットはフェラーリが所有しており、同社がテストコースとして常に使用している。このため、他のサーキットとは少し違った様子が見られる。
ムジェロサーキットは、コースを横切るアーチが少ないサーキットとなっている。メインストレートに歩道橋とアーチ看板が1つずつあるだけである。
イタリアを代表する大企業であるフィアット社の傘下にあるフェラーリが所有しているから広告収入に頼らなくてもよいのだろう。
純粋なテストコースとしてサーキットを使う場合、アーチ看板はすこしだけ邪魔な存在となる。アーチ看板に雨の水滴が溜まって、乾いた路面に垂れ落ちる可能性がある。2輪も4輪も、ドライ路面の上にわずかな水滴がばらまかれただけで走行が大きく変わってしまう。
2015年にサーキットオブジアメリカズで行われたMotoGPで、コースを横切るアーチ看板から水が垂れ落ちてきてレース進行が遅延してしまったことがある(記事)。
ムジェロサーキットはテストコースとして大事にされているらしく、トラックレースが開催されない。FIAヨーロッパトラックレーシングがムジェロサーキットで開催された例は無い。
イタリアを代表する大企業であるフィアット社の傘下にあるフェラーリが所有しているから、トラックレースのような無茶苦茶なイベントを誘致しなくてもやっていけるのだろう。
そのためかムジェロサーキットの路面の状況はどの年も良好とされていて、路面の状況が悪いという不平不満がMotoGPライダーから語られることがわりと少ない。
ムジェロサーキットのコーナーには異名がついている。
MotoGPではコーナー数を15個と数えるため(動画)、それに倣うことにする。
名称 | 由来 | |
1コーナー | サン・ドナート (San Donato) |
4世紀にドナートというキリスト教徒がいて、アレッツォというトスカナ州の街で他界したので「アレッツォのドナート」と呼ばれるようになった。キリスト教カトリックによって聖人と認定され、「サン・ドナート」という名が与えられた。彼にちなんだ地名や教会はイタリアの各地に存在する(記事1、記事2)。 |
2コーナー | ルーコ (Luco) |
ムジェロサーキットすぐそばのこの場所を「ルーコ・ディ・ムジェロ(ムジェロ盆地のルーコ)」という。 |
3コーナー | ペッジョ・セッコ (Peggio Secco) |
ペッジョは「より悪い」、セッコは「乾燥している」という意味である。ペッジョ・セッコは「より悪く乾燥している」という意味になる。 |
4コーナー | マテラッシ (Materassi) |
レーサーのエミリオ・マテラッシが由来である。ムジェロサーキットすぐそばのボルゴ・サン・ロレンツォ出身で、四輪ドライバーとして活躍した。 |
5コーナー | ボルゴ・サン・ロレンツォ (Borgo San Lorenzo) |
ムジェロサーキットすぐそばのこの場所にボルゴ・サン・ロレンツォという自治体がある。ボルゴは村という意味である。自治体の真ん中のこの場所にサン・ロレンツォ教会があり、934年に創建されたと伝えられている(記事)。 |
6コーナー | カサノヴァ (Casanova) |
18世紀のジャコモ・カサノヴァが由来と思われる。 |
7コーナー | サヴェッリ (Savelli) |
不明。ローマ法王や枢機卿や軍人を輩出した名家のサヴェッリ家が由来なのかもしれない。 |
8コーナー | アラビアータ・ウノ (Arrabbiata uno) |
「怒っている」という意味のイタリア語の形容詞arrabbiataが由来。8コーナーは本当に難しいのでこの形容詞が付けられた。唐辛子を効かせたトマトソースを使った料理のこともアラビアータというが、「あまりに辛くて怒り顔になる」というのがその料理名の由来とされる。 ウノはイタリア語で1という意味で、ドゥエはイタリア語で2という意味である。 |
9コーナー | アラビアータ・ドゥエ(Arrabbiata due) | |
10コーナー | スカルペリア (Scarperia) |
ムジェロサーキットが属する自治体の名称。この領域のなかにサーキットがある。 |
11コーナー | パラージオ (Palagio) |
ムジェロサーキットから南に32km離れたこの場所にヴィラ・イル・パラージオという古城があり、その周辺の農場で作られるワインをイル・パラージオという。トスカナ・ワインの1つとして知られている。1990年代初めに英国のロック歌手スティングがこの邸宅と農場を購入している(記事1、記事2) |
12コーナー | コレンタイオ (Correntaio) |
不明 |
13コーナー | ビオンデッティ・ウノ(Biondetti uno) | レーサーのクレメンテ・ビオンデッティが由来である。彼はムジェロサーキットに近いフィレンツェで育ち、F1ドライバーとして活躍した。 |
14コーナー | ビオンデッティ・ドゥエ(Biondetti due) | |
15コーナー | ブーチネ (Bucine) |
ムジェロサーキットから南に60km離れたこの場所にあるブーチネという自治体が由来と思われる。 |
コース全長は5245mで、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から6番目である。コーナー数は15ヶ所で、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から7番目である。
山地の中のこの場所にあるサーキットなので、高低差が大きい。最大高低差は40mで、13階立てビルに相当する。
高低差が大きいのでそこら中にブラインドコーナーがあり、先が見えない中でアクセルを開けていかねばならず、ライダーは感覚の鋭さと賢さと勇気を試される。
最終コーナーが緩い角度でアクセルを開ける下り勾配コーナーで、それに続くメインストレートが長く、直線での加速が強烈である。最大排気量クラスの最高速記録はここで記録されることが多い。
右に左に切り返すS字コーナーが多く、それらを短い直線でつないでいる。中高速コーナーが多く、アクセルを開け続ける、いわゆる「開け開け」のサーキットである。
ブレーキを弱めにして車速を残して進入する緩い角度のコーナーが目立ち、ブレーキには厳しくない。ブレンボ(イタリアのブレーキメーカー。MotoGPクラスのほとんどのマシンにブレーキを供給する)が選んだ「ブレーキに厳しいサーキット」の中で、本サーキットは「MEDIUM」グループに入っている(記事)。
強いブレーキングをする場所は1コーナー(サン・ドナート)だけであり、1周につきたった1ヶ所しかないので、ブレーキディスクが冷えやすい。最大排気量クラスで主流のカーボンディスクブレーキは冷えてしまうと効きが悪くなる。そのため最大排気量クラスの各チームはブレーキにカバーを付け(画像)、ブレーキが冷えないよう工夫する。
5月のMotoGP開催時は暖かな日光が降り注ぐので少し想像しがたいが、冬にはしっかり雪が降り、路面が雪で覆われる(画像)。こうした雪が降る場所のサーキットには目の粗いザラザラしたアスファルトを敷きにくい。目の粗い路面に水が入ってから凍結すると路面がひび割れる可能性がある。ゆえに目の細かいツルツルした路面になっていて、タイヤのグリップがもの凄く良いとはいえない(青山博一の解説ブログ)。
こちらがMotoGP公式サイトの使用ギア明示動画である。一番低いギアは2速で、1速を使わない。
主なパッシングポイントは、メインストレート、メインストレートエンドの1コーナー(サン・ドナート)、2コーナー(ルーコ)、4コーナー(マテラッシ)、7コーナー(サヴェッリ)、8コーナー(アラビアータ1)、10コーナー(スカルペリア)、11コーナー(パラージオ)、最終コーナー(ブーチネ)の入り口、あたりとなる。
メインストレートは1141mと長い。軽量級のMoto3クラスではスリップストリームが強烈に働き、順位変動が起こりやすい。
メインストレートの前半は真っ直ぐだが、後半は緩やかにS字を描いている(空撮映像1、空撮映像2)。チェッカーラインを過ぎたあたりでごく僅かに右に曲がり、ピットレーン出口あたりでごく僅かに左に曲がるという、トリッキーな形状になっている(動画)。
1コーナー(サン・ドナート)から見たこの画像を見ても、最終コーナー(ブーチネ)から見たこの画像を見ても、もはや直線とは言えず、S字としか言いようのないコース形状である。
このため各ライダーは、1コーナーが右コーナーであるのにも関わらず、メインストレートをコース右側に沿って走る。ピットレーン出口あたりではコース右の縁石をゴリゴリッと踏んで走って行く。前方車載動画、後方車載動画、テレビ中継動画、空撮動画のいずれでもモロに縁石をゴリゴリッと踏んでいる様子が分かる。縁石は凸凹があって走りにくいのだが、それでもこのラインを通る。そうすれば、メインストレートの終わりでは良い具合にコース左側に移動することができ、1コーナーでアウトインアウトの理想的なラインを通ることができる。
最終コーナーは緩やかな下り勾配で(画像)、ピットレーン入口付近で急な上り勾配になり、それを登りきると緩やかな下り勾配になり、チェッカーラインを横切っていく。チェッカーラインから見てみると(動画1、動画2、動画3)、グイッと急に上っていることがよく分かる。
チェッカーラインを過ぎてピットレーン出口付近で急な上り勾配になり、それを登りきると緩やかな下り勾配になり、そのまま1コーナー(サン・ドナート)へ向かって行く。
テレビ中継では、ピットから出てくるライダーをピット外側から写すことがあるが、ライダーたちがヌッと出現しており(動画1、動画2)、ピットレーン出口に急な上り勾配があることをうかがわせる。ピットからピットレーン出口を映した画像もある(画像)。こうした急な上り勾配は、隣接するメインストレートにも生じている。
最終コーナー(ブーチネ)から見た画像はこちらやこちらやこちらで、ピットレーン出口付近の急な上り勾配がよく分かる。
1コーナー(サン・ドナート)から見ていると、ライダーたちがピットレーン出口付近の上り勾配を駆け上がってヌッと出現するように見える(動画1、動画2、動画3)。ヌッと出現して、ぴょんと跳びはねるので(動画)、ジャンピングスポットということもある。
ちなみに、ピットレーン出口付近の起伏は、エンジンの寿命を左右するポイントになっている。
ギア6速でアクセル全開にしてエンジンを最高回転数ぎりぎりに回して最高速で山を乗り越えるのだが、山を乗り越えるときフロントタイヤが浮き、次いでリアタイヤもわずかな瞬間だけ地面から離れる(画像1、画像2)。
エンジンの回転を伝えるリアタイヤが路面から離れることでリアタイヤが無制限に回転し、エンジンは設計で想定された最高回転数を超えてしまう。ホルヘ・ロレンソの発言によると後輪が浮くと500~700回転ほど上がってしまうらしい。
最大排気量クラスの強力エンジンだとこうした回転数超過が深刻な問題となる。ピストンやバルブといった部品が損傷し、白煙を上げてエンジンが壊れてしまう。
そうならないように各チームは回転数が上がりすぎないように電子制御で調整するが、2016年のヤマハワークスは電子制御をミスってしまったらしく(記事)、ホルヘ・ロレンソが日曜朝のウォームアップでエンジンブロー(動画)、ヴァレンティーノ・ロッシが日曜決勝でエンジンブロー(動画)、と立て続けに故障させてしまった。
ピットレーン出口付近の起伏は派手に前輪が持ち上がってウィリーしてしまうところである。ウィリーすると最高速が伸びなくなるし、そもそも危険なので、できる限り避けたい現象である。
2018年以降のMotoGPは空力パーツが発達していて、高速走行中にフロントタイヤをグイッと下に押しつけている。このため、ムジェロサーキットのピットレーン出口付近の起伏をアクセル全開で走ることが容易になったという。
空力パーツが発達していない時代において、ピットレーン出口付近の起伏を出力全開にすると、どうやっても前輪が浮き上がってしまっていた。このため電子制御のアンチウィリーを効かせて、出力を落としていた。
空力パーツも電子制御も発達していなかった500ccクラス時代は、ピットレーン出口付近の起伏を通るときにライダーがアクセルを戻し、最高速を少し落として走行していたという(記事)。
メインストレートが右に左に曲がっていて、かなりの高速で走るピットレーン出口付近に隆起がある。こうした要素は、危険としか言いようがない。
とくにライダーたちが危険視しているのがピットレーン出口付近の起伏である。2019年には「削って平らにしよう」という意見が出された(記事1、記事2)。
1コーナー(サン・ドナート)はMotoGP屈指のハードブレーキングポイントになる。
Moto3では4台が横に並ぶ4-WIDE、5台が横に並ぶ5-WIDE(画像)、そういう激しいブレーキ合戦となる。
メインストレートの終盤部分が緩やかなS字になので、マシンを左に傾けながらブレーキングする。右コーナーの進入なのにマシンが左へ傾いているという、珍妙な姿になる(画像1、画像2)。
メインストレートの終盤部分に山がありマシンがジャンプして(画像)、着地した直後にブレーキングが始まる。
マシンが傾く&マシンが着地した後という悪条件でハードブレーキングするのでやたらと難易度が高い。ブレーキングの最中にマシンが左右に振れるスネーキングが起こることもあり(動画)、見るからに恐ろしい。
1コーナー(サン・ドナート)のブレーキングは非常に難しい。ブレーキングの上手さに定評のあるアンドレア・ドヴィツィオーゾが「1コーナー(サン・ドナート)は世界で一番難しいブレーキングゾーンの1つ」と語ったこともあるほどで(記事)、名手揃いの最大排気量クラスでもオーバーランするライダーが多い(動画)。
メインストレートと2コーナー(ルーコ)の間は谷になっていて、緑色の山肌が見えており(画像)、施設など何もない。本サーキットが山の中に作られたサーキットであることが良くわかる。
1コーナー(サン・ドナート)の立ち上がりからは上り勾配をぐいぐい上っていく。2コーナー(ルーコ)~3コーナー(ペッジョ・セッコ)のS字はどちらも上り勾配になっている。
1コーナー(サン・ドナート)でパッシングしようと無理な進入をすると、脱出速度が落ちる。1コーナー(サン・ドナート)で抜いて前に出たが2コーナー(ルーコ)で抜き返される事は多い(動画)。
3コーナー(ペッジョ・セッコ)を立ちあがってしばらくしたら、緩やかな下り勾配に切り替わる。ここから8コーナー(アラビアータ1)まで、長い間ずっと下り勾配が続いていく。
4コーナー(マテラッシ)~5コーナー(ボルゴ・サン・ロレンツォ)のS字はどちらも下り勾配である。下り勾配で車速が乗るので4コーナー(マテラッシ)で抜きにかかるライダーが多い(動画)。
5コーナー(ボルゴ・サン・ロレンツォ)を脱出するとしばらく下り勾配が緩やかになるが、6コーナー(カサノヴァ)の進入から崖から落ちるかのように下り勾配が急激になる(動画)。
6コーナー(カサノヴァ)、7コーナー(サヴェッリ)、この2つを合わせたS字をカサノヴァサヴェッリと言うが、ここの下り勾配が急激で、ブラインドになっていて先が見えず、パッシングが発生しやすい勝負所となる。カサノヴァで近づいて、切り返してサヴェッリで一気に抜く、そういうシーンが多い(動画)。
ちなみにカサノヴァというのはイタリア・ヴェネツィア出身の女たらしで有名なジャコモ・カサノヴァのことである。強烈な下り坂が恋に落ちる様を表している、のだろうか。
このサーキットでピットに入る道は2つあり、1つは最終コーナー立ち上がりの場所で、もう1つは7コーナー(サヴェッリ)近くのこのあたりにある。
8コーナー(アラビアータ1 アラビアータ・ウノ)は急に下りながらブレーキングする。走行中に縦Gが掛かり、ライダーは上から押しつけられる感覚と戦う。
左に傾いた状態から一気に右に切り返して進入するコーナーで、躍動感あるパッシングが見られる(動画)。
9コーナー(アラビアータ2 アラビアータ・ドゥエ)は急激な上り勾配コーナーになっていて、ブラインドになっていて先の縁石が全く見えず(動画)、感覚で何とかアクセルを開けていくしかない。こちらでも走行中に縦Gが掛かる。
8コーナーと9コーナーはとても難しいコーナーであり、そのためアラビアータ(イタリア語で「怒り」)という名前を付けられている。
9コーナー(アラビアータ2)を立ち上がり、坂を駆け上がって勾配の頂点に達したら、すぐに下り勾配が始まり10コーナー(スカルペリア)へ続いていく。テレビ中継ではいきなりマシンがヌッと出現して次の瞬間下りながら10コーナーに入っていく(動画)。
10コーナー(スカルペリア)も完全なブラインドコーナーで先がまるで見えず(動画)、難しいコーナーである。
10コーナーで抜きにかからず先行ライダーの背後に付けてスリップストリームの恩恵を受け加速し、一気に切り返しつつ11コーナー(パラージオ)でイン(コース左側)に入りこんで抜くシーンも多い(動画)。
10コーナー(スカルペリア)~11コーナー(パラージオ)のS字を過ぎると短い直線となる。
11コーナー(パラージオ)脱出時は下り坂だが、途中でぐいっと壁のように急な上り勾配を上り(動画)、上り坂を登り切ったらすぐに下り勾配が始まって12コーナー(コレンタイオ)に進入していく。
12コーナー(コレンタイオ)はぐるっと回り込んだUの字コーナーだが、かなりコーナー半径が大きいのであまりブレーキを強く掛けず車速を残したまま旋回していく。
この画像でも分かるように全体的に下り勾配で、コーナーで車速を高めていきたい。
12コーナー(コレンタイオ)にはドゥカティ応援席があり、イタリア中から駆けつけた3,000人のドゥカティスタで真っ赤になっている。真っ赤な人文字を描いたりビッグフラッグを皆で持ったりするのも恒例の風景である(画像)。こちらが2011年のビッグフラッグ、こちらが2012年のビッグフラッグ。
2012年と2015年のMotoGPクラス決勝ラストラップで、トップを独走するヤマハ所属のホルヘ・ロレンソは、このコーナーのドゥカティスタたちに手を振る余裕を見せた。
12コーナー(コレンタイオ)を立ちあがると高速S字(ビオンデッティ)になる。このサーキットで唯一上下の勾配がないS字で、かなりの高速で切り返す難しい場所である。
パッシングが起こりにくい場所だが、2016年の最終ラップにおいてここでマルク・マルケスとホルヘ・ロレンソは素晴らしい抜き合いを展開した(動画)。
高速S字(ビオンデッティ)から最終コーナー(ブーチネ)までは上り勾配の短い直線となっている。
最終コーナー(ブーチネ)はコーナー半径が大きいのでブレーキ弱めで車速を残して進入していく。
最終コーナー(ブーチネ)は全体的に下り勾配で、水が流れ落ちるかのようにライダーが駆け下る(動画)。メインストレートに向けて加速しやすい。
最終コーナー(ブーチネ)の後半部分のライン取りがメインストレートの加速に直結する。あまり外にぶん回すのは望ましくなく、しっかりインをかすめていきたい(動画)。
最終コーナー立ち上がりからチェッカーラインまでかなりの距離がある。
最終ラップの最終コーナー立ち上がりで後続を走っていたライダーが、スリップストリームを使って加速して一気に追い抜き、大逆転というシーンが多く生まれる。Moto3クラスでは毎年のように見られるし、2016年のMotoGPクラスでもそういう光景になった(動画)。
スリップストリームは前方車と後方車が離れていても効かないが、近すぎていても効きにくい。前方車の真後ろにピタリ付けたが意外に加速せずチェッカーラインまでそのまま、ということも多い(動画)。
「バイクの最高速の差が時速で5km以上離れていると、スリップストリームを使える位置に付いても直線で抜くことができない」とよく言われる。前方車両の直後にいる間はスリップストリームが効くが、そこから横に出て一気に前に出るには前方車両と同等以上のエンジンパワーが必要なのである。ムジェロサーキットの最終コーナー立ち上がりから少し離れたところには急な上り勾配があるので、なおさらエンジンパワーが必要となる。
スリップストリームを使ってチェッカーラインまでに大逆転するには、前方車との適度な距離を保つライダーのテクニックとエンジンパワーの両方が必要となる。
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最終更新:2024/04/20(土) 08:00
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