ユリシーズ(Ulysses)とは、「銀河英雄伝説」に登場する戦艦である。「ユリシーズ号」とも。
自由惑星同盟軍、エル・ファシル独立政府革命予備軍、イゼルローン共和政府軍所属の戦艦。「古代の伝説の英雄から名をえた」とされる。
同盟軍第2艦隊、第8艦隊、イゼルローン駐留艦隊(ヤン艦隊)などに所属し、アムリッツァ会戦、バーミリオン星域会戦など数々の戦いに参加。僚艦のほとんどを圧倒する戦歴と武勲に飾られたイゼルローン駐留艦隊有数の”闘士艦(ファイター・ウォーシップ)”として名を馳せ、無数の死闘を生き延びた強運の艦。
のちにメルカッツ独立艦隊を経てエル・ファシル革命予備軍に参加し、ヤン・ウェンリーの旗艦となる。つづくイゼルローン軍でも軍事司令官ユリアン・ミンツが旗艦として座乗し、シヴァ星域会戦で講和が成立するまで戦い抜いた。
艦体は流線型で、Go型スペクトルの恒星光環境下では銀灰色に輝く。搭載兵装は磁力砲(レール・キャノン)、熱線砲(ヒート・キャノン)、核融合ミサイルなど。この他、戦闘艇スパルタニアンの運用能力を持ち、レーダー、質量計、エネルギー計量装置、先行偵察衛星群などからなる索敵システムを装備する。
乗員は140名(宇宙暦797年初頭当時)。艦長はニルソン中佐→大佐(遅くとも796年10月までに着任)、副長はエダ少佐(同上)がつとめ、航法担当士官としてフィールズ中尉が所属する。このほか、ヤン艦隊→イゼルローン共和政府軍の旗艦を務めた頃には司令部要員を乗せ、スパルタニアン・パイロットとしてオリビエ・ポプラン中佐、カーテローゼ・フォン・クロイツェル伍長なども搭乗したことがある。
宇宙暦795年9月当時、第2艦隊(司令官パエッタ中将)所属。同月のレグニツァ上空遭遇戦に参加する。
翌796年、第8艦隊(司令官アップルトン中将)の指揮下で帝国領侵攻作戦に出征し、10月のアムリッツァ会戦に参加。戦闘中盤の被弾により、排水処理システムを破壊される軽微な損害をうけたものの、ほかに損傷はないまま本国への帰還を果たした。
出征からの帰投後、第8艦隊の消滅とともにイゼルローン要塞駐留艦隊(司令官ヤン・ウェンリー大将)に移る。797年1月20日、イゼルローン回廊における訓練をかねた哨戒任務中、捕虜交換の申し出を携えた帝国軍戦艦<ブロッケン>と遭遇し、交信している。
798年1月、要塞駐留艦隊の分艦隊(司令官ダスティ・アッテンボロー少将)を構成する一隻として回廊帝国側にて大規模な訓練および警備・哨戒任務を実施。帝国軍アイヘンドルフ少将の部隊との交戦(イゼルローン回廊帝国寄り宙点における戦闘)中には、旗艦<トリグラフ>の直近に位置した。
第八次イゼルローン要塞攻防戦を経た同年11月19日、回廊帝国側への哨戒へ出立。翌20日、帝国軍オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将麾下の大艦隊の侵攻を最初に発見し、戦闘を回避して撤退、要塞に通報した。これが”神々の黄昏”作戦最初の遭遇であり、以後第九次イゼルローン要塞攻防戦が発生することとなる。翌799年1月にイゼルローン要塞が放棄されると、輸送船の不足から軍艦にも民間人の分散搭乗が実施され、<ユリシーズ>も600人の乳児と母親、および医師・看護師を乗せての撤退となった。
799年4月、ヤン艦隊とラインハルト・フォン・ローエングラム直属艦隊のあいだにバーミリオン星域会戦(本戦)が発生する。無条件停戦命令による戦闘終了後、<ユリシーズ>は戦艦<シヴァ>など艦艇60隻からなる“動くシャーウッドの森”(メルカッツ独立艦隊)に参加し、秘密裏に戦場を脱出した。これにともない、<ユリシーズ>は同盟軍の資料上、バーミリオン星域会戦において完全破壊とされている。
同盟軍からの離脱後はメルカッツ独立艦隊の一員として活動し、惑星ハイネセンを脱出したヤンの合流によって“ヤン不正規隊”の旗艦をつとめるようになる。さらに司令官とともにエル・ファシル革命予備軍に参加し、宇宙暦800年の回廊の戦いにおいても、前哨戦から全戦闘を通してヤン艦隊旗艦の重任を果たす。
同年6月1日のヤン・ウェンリー暗殺事件に際しては、暗殺計画の情報を受け、<ユリシーズ>を含む戦艦6隻が帝国との交渉に向かうヤンの座乗する巡航艦<レダⅡ>を追跡した。ユリアン・ミンツ、ワルター・フォン・シェーンコップらが搭乗した<ユリシーズ>は、地球教の暗殺者が乗り組む帝国軍駆逐艦1隻を破壊したのち、<レダⅡ>に強行接舷してユリアンたちを突入させている。その後は暗殺されたヤンと回収された死亡者の遺体を乗せ、6月3日にイゼルローン要塞へ帰投した。
8月、イゼルローン共和政府の成立にともない共和政府軍(イゼルローン革命軍)所属。801年2月の第十一次イゼルローン要塞攻防戦では、軍事司令官ユリアン・ミンツの座乗する革命軍旗艦として、中央部隊前方第10列に位置した。
同年4月、“オーベルシュタインの草刈り”により共和政府幹部のハイネセン出頭が求められると、ユリアンやフレデリカ・グリーンヒル・ヤン共和政府主席の座乗艦として巡航艦3隻、駆逐艦8隻をひきい要塞を出立。しかし4月17日、回廊を出たところでラグプール刑務所事件発生の報を得たため、反転して要塞に帰還することとなる。翌日には随伴の巡航艦の動力部異常を原因とする行動の遅れから100隻程度からなる帝国軍部隊に捕捉されるが、同乗するアッテンボローの指揮によって難を逃れた。この後、ユリアンは情勢の変化に即応するため艦隊とともに回廊出入口付近に留まることを選んだため、乗艦である<ユリシーズ>も要塞に戻らず待機した(フレデリカは移乗して要塞へ帰投)。
つづく5~6月のシヴァ星域会戦でもイゼルローン軍を指揮するユリアンの旗艦を担い、司令官の気質もあって最前線で戦闘に参加する。戦闘後半ではユリアンが帝国軍総旗艦<ブリュンヒルト>への強行突入に参加したため、残留したアッテンボローが<ユリシーズ>に移乗して指揮を取った。講和成立まで生き残り、戦闘終了後には無数の傷病者を収容して病院船の役割も果たした。
「ユリシーズの武勲にあやかりたいものだな。みんな、かっこうが悪くてもいい、生き残れよ!」
艦橋内に笑い声があがり、一瞬ではあったが、なごんだ空気がながれた。ユリシーズの搭乗員たちにとっては不本意であるだろうが、その名は将兵の緊張をほぐし、心身を再活性化するのに、たしかに有効だったのである。
こうした無数の武勲と戦歴にもかかわらず、戦艦<ユリシーズ>は“トイレをこわされた戦艦”という異名でよく知られている。この異名は、アムリッツァ会戦(本戦)における、ウンある幸運な不運によってもたらされたものであった。
この戦いにおいて、<ユリシーズ>が受けた損傷は、微生物を利用した排水処理システムの損壊であった。この不運きわまる損傷箇所のために、乗員たちはこの激戦を逆流する汚水の浸透強襲を受けつつ戦い抜くはめになったのである。「生還すれば笑い話になるにちがいないが、このまま死におもむくとすれば悲惨で不名誉なかぎりだった」と語られている。
そして<ユリシーズ>は、激戦の中で他の損害を受けることなく生還した。被弾した艦としては幸運そのものだったのである。つまり笑い話ルートに入ったわけであるが、なにかと悪気のない冗談の種にされるようになったのは、やはり乗員としては不本意なことであった。形容しがたい顔で「ご苦労でしたなあ」と言われたり、司令官に「かっこうが悪くても生き残った例」として出されたりするのだからたまらない。恐るべき惨敗を前に、生還した<ユリシーズ>の事態を笑い話にして理性の平衡を保ったのかもしれないにしても、それなら乗員もそれでよいと納得できるわけではないのであった。
なお、こわされたのは排水処理システムなのであって“トイレをこわされた”というのは事実誤認であるが、誰も気にしてはくれなかった(なんなら銀英伝ファンもおおかたは気にしていないように見受けられる)。作中にいわく、「人は散文的な事実より、彼ごのみの化粧をほどこされた虚構を、はるかに好ましく思うものだ。それが先方にとって、いかに迷惑であったとしても……」とのことである。こんな話でこんな金言が出てきてしまった。黄金だけにか。
「心配するな、この艦は強運のユリシーズだ。だからこそ旗艦にしたんだからな」
「しかし、これまでの戦歴で、手持ちの強運を費いはたしてるのじゃないか」
「おや、シェーンコップ中将、いつから運命定量論者になったんです?」
「なに、お前さんの言いぶんを聞いていると、運命にだって言いたいことがあるだろう、と思えてきてな」
そんな<ユリシーズ>であるが、強運の艦であることは間違いのないところであった。
レグニツァ上空遭遇戦の戦闘中盤、帝国軍ミューゼル艦隊右側面に回り込んで核融合ミサイルを発射しようとした際、隣に並んで同様の行動をとった戦艦<セントルシア>が発射孔に落雷の直撃を受けて爆沈したにも関わらず、<ユリシーズ>は落雷も爆発の影響も受けずに無傷であった。アムリッツァ会戦の時も、内実はともかく艦隊が消滅するすさまじい激戦の中でありながら軽微な損傷のみで生還したのであって、内実はともかく間違いなく幸運ではあった。
こうした強運はヤン艦隊関係者にも周知のものとなっていた。第九次イゼルローン要塞攻防戦にともなう要塞放棄時に乳児と母親たちを乗せる艦に選ばれた理由は、「きわめて強力な守護天使にまもられた艦であり、幾多の戦闘にたえて無事に生き残ってきたことから、最大限の安全と保護を必要とする乳児たちの輸送にふさわしいと考えられた」ため、というのが要塞首脳部の説明であった。ただし、当の<ユリシーズ>乗員たちは前述の件のためかひがみっぽくなっており、意気はあがらずしごくイマイチな反応だったようである。
回廊の戦い後、ヤン救出に急行したときも、ユリアンは内心で極度の不安と戦いながら「ユリシーズ号は強運の艦であり、自分はそれに乗ってきたのではないか」と、その幸運への信頼を明らかにしている。しかし、この時は信頼が報われない結果となった。
艦隊旗艦として活躍するようになったのにも、<ユリシーズ>の強運が買われたいきさつがあったようである。帝国の出頭命令をうけたユリアンやフレデリカの座乗艦になった際、「強運のユリシーズ」だからこそ旗艦にえらんだのだ、とアッテンボローが語っている(項冒頭の引用参照)。
ユリシーズ Ulysses |
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所属 | 自由惑星同盟軍 (イゼルローン要塞駐留艦隊) →メルカッツ独立艦隊 →エル・ファシル革命予備軍 →イゼルローン共和政府軍 |
艦種 | 戦艦 |
艦級 | 標準型戦艦 |
ナンバー | 913-D |
全長 | 624m |
全高 | 136.5m(含アンテナ部) |
全幅 | 65m |
乗員 | 660名 |
同盟軍で一般的な標準型戦艦。
主砲としては艦首に中口径長距離ビーム砲8門を装備し、底部に半開放式で戦闘艇スパルタニアン9機を搭載できる。
『798年度版現代宇宙艦船総覧』(宙人社『宇宙の艦船』増刊第16集)[1]では「標準型戦艦785年 GV-H2生産タイプ」の一隻とされており、宇宙暦785年4月にジャムシード中央工廠にて竣工、第8艦隊第35分艦隊に編入されたものとされている。
長篇『わが征くは星の大海』では、第四次ティアマト会戦においてヤン准将率いたほぼ無人の陽動部隊の旗艦を務め(所属部隊は不明)、そのまま<ブリュンヒルト>直下への接近も行っている。
OVA1期での登場はなかった(アムリッツァ会戦での逸話は第27話「初陣」にて触れられる)が、2期以降はおおむね原作同様に登場(原作に記述がなくても、順当に参加していてしかるべき戦闘には姿を見せている)。また、第八次イゼルローン要塞攻防戦時にワープアウトするガイエスブルク要塞に遭遇する部隊(原作では戦艦<ヒスパニオラ>ほか)も、<ユリシーズ>を含むの哨戒部隊の役割となっている。
他の標準型戦艦と形状の違いがない<ユリシーズ>の唯一の特徴である艦体のナンバーは「913-D」。作中的な意味は特になく、石黒監督版OVAのプロデューサー、田原正利氏の誕生日(DはDay)に由来するものである。
本人の語るところによれば、メカニック作画監督を務めた清積紀文氏が、<ユリシーズ>をナンバーで他と区別するから適当に3桁の数字をあげてほしい、と言いだした際、清積氏が例として「田原さんの誕生日が9月13日なら『913』とか」と適当にあげたところ、まったく偶然ながら本当に田原氏が9月13日生まれであったために、その場にいた石黒昇監督の即決で採用になったとのことである。
なお、『わが征くは~』では艦体のナンバーが黒字で描かれていたが、OVA本伝登場にあたり白字に変更されている。こちらも田原Pいわく、黒字だと見えにくかったから、とのこと。
ユリシーズ Ulysses |
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所属 | 自由惑星同盟軍 (イゼルローン要塞駐留艦隊) |
艦種 | 戦艦 |
艦級 | ユリシーズ級戦艦 |
ナンバー | 13BB11-2813 |
全長 | 995m |
一般的な標準戦艦と異なり、次世代戦艦を目して試作建造された実験艦で、ユリシーズ級の一番艦とされる。当艦の成果は次世代旗艦級戦艦トリグラフ級の設計に活かされることとなったが、ユリシーズ級としての2番艦以降は建造未定となってしまった。
形状も各所で標準戦艦と異なり、塗装も<ヒューベリオン>に近い青緑色。特に顕著な特徴は前方区画下部の形状で、機関部とワープユニットを半円状の装甲リングに収め、艦首には<トリグラフ>の三叉の艦首部で使用されているものと同配置の主砲ブロックが独立して設置されている。この装甲リングがU字型であることが「ユリシーズ」という艦名の由来で、主砲ブロックとともにトリグラフ級の設計への引き継ぎ点でもある。
主な兵装は中口径中性子ビーム砲と思われる砲門が前方区画上部に28門、下部ブロックに14門、より大口径の中性子ビーム砲と思われる砲門が両舷区画にあわせて12門、下部ブロックに12門。<トリグラフ>と同じ下部ブロックには強力な大型主砲2門も搭載している。この他、艦体各所に艦対艦ミサイル、超電磁砲類のほか、側面小口径ビーム砲群と考えられる構造も多数配置されている。後部区画の艦載艇発着ベイは両舷9基ずつで、他の戦艦と同構造であればスパルタニアン36機を運用可能となる。
アムリッツァ会戦での登場はなかったものの、原作通り第8艦隊に所属していたとされる。その後イゼルローン要塞駐留艦隊に移り(設定画には、試作艦ゆえの「予期せぬ不具合」の多さで押し付け合いがあった結果の配属という書き込みもある)、捕虜交換のシーンで使者の帝国艦と接触、イゼルローン要塞まで誘導している。その後も要塞内軍港に<ユリシーズ>とおぼしい姿を見ることができるシーンがあるが、以降は原作同様、「星乱」完結(原作「野望篇」終了)時点まででは他の登場はない。
ナンバーの付与基準は「所属/クラス/世代-個別番号」であり、まず最初の数字2桁「13」は第13艦隊(=イゼルローン要塞駐留艦隊)所属であることを示している。また、アルファベット部分の「BB」は戦艦(旗艦ではない一般の戦艦)に類別されることを示すものである。これは「星乱」完結時点でナンバーが明らかになっている艦艇では<ユリシーズ>が唯一である。
アルファベット部分に続く2桁の世代部分は「11」で、これも同様に「星乱」までで唯一(<ヒューベリオン>が「FB09」、それに次いで建造された他の旗艦クラスが「FB10」、最新の旗艦級戦艦である<トリグラフ>が「FB12」)。「BB11」のナンバーは、既存の戦艦と最新鋭の<トリグラフ>の橋渡しとなる艦であることを示すものとなる。あるいはこれからの同盟軍はユリシーズ級を量産したかったのかもしれないが、二番艦以降が未定なあたり、どうも難しそうである。
なお、いまのところ、「Die Neue These」でプロデューサーの役職にある方々の誰かが28月13日生まれであるという情報は得られていない。
掲示板
6 ななしのよっしん
2022/04/10(日) 19:40:55 ID: y3/T0lKNwh
ノイエだとユリシーズは新鋭艦って立ち位置だったけど、レダⅡは通常仕様の巡航艦だったな。どうせなら、こちらも新鋭艦にしてほしかった。というか、ユリシーズと同世代の新鋭巡航艦ってでてこないだろうか。
7 ななしのよっしん
2022/10/15(土) 15:04:09 ID: FwLDYxBqDU
本編終了後はバーラト防衛艦隊総旗艦として貴重な戦艦の生き残りになったりするかな
8 ななしのよっしん
2022/12/03(土) 20:10:39 ID: VxFp9uWJct
バーラトの和約後の同盟軍と同じようにバーラト共和政府軍も戦艦および宇宙母艦の保有は禁止されたが、かのヤン・ウェンリーとユリアン・ミンツが指揮した本艦は記念艦として唯一例外的に保有を認められた、なんて事にもなるかも
宇宙暦820頃には戦闘艦としては寿命を迎えて、以降はハイネセン宇宙港に記念艦として係留されるの
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最終更新:2024/03/29(金) 19:00
最終更新:2024/03/29(金) 19:00
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