ロイヤルネイビー(Royal Navy)とは、グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国の海軍である。
ロイヤルネイビー(王立海軍)が正式名称であり、「イギリス」などの国名は冠していない。
厳密にいうとロイヤルネイビーは連合王国海軍の総称ではなく戦闘部隊の名称である。ロイヤルネイビー(戦闘部隊)に王立補助艦艇隊と王立海兵隊、そして様々な補助組織を加えたものがNaval Service、すなわち海軍である。しかし、一般にはロイヤルネイビーの語をもって連合王国海軍全体を示すため、本記事でもそれに従う。ていうか、英国海軍の公式ホームページですらRoyal Navy表記だし。
イギリスの大抵の組織と同じく、伝統と形式を恐ろしく大切にしている。
先任軍(Senior Service)の通称が示す通りイギリスの三軍のうちでは最も歴史が古く、形式上とはいえ陸空軍の上位の格式を与えられている。たとえば、三軍を並称する場合「陸海空軍」ではなく「海陸空軍(Navy, Army and Air Force)」と呼ぶ。
アルマダ海戦から20世紀の初頭までの期間において名実ともに世界最強の海軍であり、イギリスが大英帝国として覇権を握る上で大きな役割を担った。現代においても、世界の海軍のうち少なくとも五指には入る能力を維持し続けておりイギリス軍の一翼を担っている。
海軍としてのロイヤルネイビーの歴史はアルフレッド大王の命により成立した9世紀のサクソン海軍に始まるとされる。同じ時代に東アジアにおいては「水軍」が誕生しているのだが、これは主に東アジアの呼称であり、当時イングランドでは「海軍」と呼称していた。本質的には同じである。ただ、イングランド海軍はヴァイキングとの海戦など対外戦において海軍を積極運用している。対して、水軍は河川哨戒や海賊の取り締まりを主に行っていた。
ヴァイキングはかつては海賊とみなされていたが、近年においてはスカンジナビア半島に存在する組織的集団となっている。イングランド海軍はヴァイキングを打ち倒し、その際、所有していた船は400隻と言われている。また、この時は、ガレー船ではなく帆船を多く用いた。
12世紀に入り、「ノルマン・コンクエスト」の後、イングランドが統一されると、ノルマンディー公はイングランド海軍の整備を進めた。その後、王都であるテムズ川に臨むロンドンの要塞「ロンドン塔」に海軍基地としての運用能力を付与するべく、これを整備するなど、イングランド海軍はより強力な海軍へと成長していく。また、百年戦争においては1304年のスロイスの海戦において数に勝るフランス海軍を打倒し、時には苦戦を強いられたものの、最終的にフランスに対し勝利を収めた。14世紀には712隻の船を保有していたとされる。
16世紀、ヘンリー8世は「王立海軍」としてイングランド海軍の更なる拡張を企図した。1510年に建造されたキャラック船「メアリー・ローズ号」は排水量300㌧、78門の大砲を備える強力な帆船で、黎明期の艦載砲を搭載した戦闘船艇である。この船は1545年に戦闘で沈没するが、なんと300年以上の時を経て、1982年に引き揚げられ修復され、現在はポーツマスにて展示されている。恐るべしイギリス・・・
有名なアルマダ海戦もこの頃で、フランシス・ドレーク提督の火を放った無人船を突入させる、「火船戦法」も相まって敵対したスペイン海軍を壊滅させ、略奪の限りを尽くし、その金銀財宝はイングランドの国庫を凌ぐほどであったという。
17世紀には、膨張したイングランド海軍は国庫を逼迫させ、清教徒革命やらイングランド内戦の原因になったらしい。結果的にイングランドは一時、共和国になったので、「ロイヤルネイビー」は「コモンウェルスネイビー」として議会の監督下に置かれた。ややこしいな。
しかし、1660年の王政復古宣言によりふたたびイングランド海軍はコモンウェルスネイビーからロイヤルネイビーとして返り咲くはずだったのが、以前のイングランド内戦でイングランド海軍は人材不足など疲弊しきっており、しかも、無理やり無計画な債券で再建したので以後も慢性的な予算不足に悩まされることになる。この借金苦からの海軍再建をなんとかしたのが、官僚のサミュエル・ピープス。様々な公職を歴任し、彼は「イギリス海軍の父」と呼ばれた。
先の王政復古宣言に際しイングランド海軍は全艦隊を挙げて王党派に転じたので、チャールズ2世はその忠誠を讃え正式に「ロイヤル」の称号を与え、「ロイヤル・ネイビー」としてイングランド海軍をイングランドの海の防人として認めた。
18世紀を期に最大最強の海軍として文字通りを世界を席巻していくことになり、ナポレオン戦争でのトラファルガー海戦などの歴史的大勝利など、ほとんど多くの海戦で勝利を重ね、また戦略的優位性を維持し続けた。この時期になると、主力木造帆走軍艦では最大級の「戦列艦」が運用される。これは、幾重にも砲甲板を重ね、多くの砲弾投射量を実現したいわば戦艦の先祖である。100門以上の砲を備えた大型の一等戦列艦となると全長50m、排水量3,500㌧を超えるものも現れた。(参考までに、第二次世界大戦中の日本海軍の陽炎型駆逐艦は全長118m、排水量2,500㌧)
このような莫大な海軍の維持費の対策として、政府による計画的な海軍向け債券に加え、戦闘においてもいかに効率的に海軍を運用出来るかの研究を重ねた。海上封鎖などがその一例である。また、「プライバティア」と呼ばれる私掠船免状の元、敵国の船舶への襲撃拿捕を行う行為を民間船舶に認めさせ、通商破壊戦を民間に肩代わりさせさらに、一部の拿捕した物資等を本国が回収するなど、いわば国営海賊で対応した。(いいとこ取りにも程がある) なお、この制度は1856年のパリ宣言にて国際的に放棄された。(利用するだけ利用したので、イギリスにとってはもう要らないし)
19世紀も終わりにに近づくと、産業革命もあり、ロイヤルネイビーは急速な近代化を推し進める。圧倒的火力を誇った戦列艦も陳腐化が見られ、従来の風だけを頼る方式では防御、武装とも限界があったため、内燃機関を用いた自力航行可能な戦闘艦(装甲艦)の研究が始まった。ここで有名な存在は、海軍卿ジョン・アーバスノット・フィッシャーである。彼は旧式艦を全て退役、廃棄させ、資金と人材を捻出し、かの有名な戦艦「ドレッドノート(2代目)」を1906年に作り上げるなど、ロイヤルネイビー近代化の父とも言える存在だった。(ちなみに、最初期の自力航行可能な装甲艦は1870年代の「デヴァステーション」で初代「ドレッドノート」もこの頃建造された。) 卿は紳士らしく、挑戦的で前衛的な一面もあるのか、「英国面」に代表される、よく分からない意欲的な軍艦も数多く手掛けた。
第一次世界大戦では多くの「ドレッドノート」に準ずる戦艦、通称:弩級戦艦の建造が列強各国で進められ、ロイヤルネイビーも多くの軍艦を建造した。ドイツ海軍とのユトランド沖海戦など大規模な艦隊決戦が生起するなか、ロイヤルネイビーは新しい軍艦の必要性を痛感していた。それらは巡洋艦や駆逐艦など枚挙に暇がないが、最も影響を与えと言えるのは航空母艦(空母)である。
1918年、大型軽巡洋艦「フューリアス」を空母として改装したものの、航空甲板が部分的なため発着艦に支障をきたした。後の商船改造空母「アーガス」は全通式の航空甲板を採用し、以降の空母の基本デザインとなる。
第二次世界大戦では、イギリス連邦諸国、植民地などからもたらされる潤沢な資源の輸送網を確保し続けるため海上護衛に重きを置いた。第一次世界大戦に引き続きドイツの無制限潜水艦作戦に悩まされるが、新型対潜兵器「ヘッジホッグ」や空母用カタパルトの実用化など、これまた後の現代海軍の要となる装備を開発している。
総じて、主力艦である多くの戦艦を日独両国の攻撃で失っているが、大局的には海上護衛などに尽力した結果、最終的に戦略的優位性を保持したといえる。
大戦が終結すると、イギリスは財政難に直面し、また世界を席巻したイギリス帝国も衰退を迎えることとなる。ロイヤルネイビーはその規模の縮小を余儀なくされ、またアメリカの超大国化に伴い、世界の海軍の座をアメリカに譲る形となった。しかし、核兵器の実用化により、大規模艦隊よりも、核兵器を隠密裏に運用できる戦略原潜の開発、運用とその対応が急務になった。ロイヤルネイビーは艦隊運用ドクトリンを対潜空母やフリゲート艦、そして戦略原潜の拡充に切り替え、冷戦の抑止力として機能していく。
1982年のフォークランド紛争では13,000km先の遠洋でも作戦行動が可能なことを証明した。この時、民間のフェリーまで徴用している。少なくない軍艦を喪失したものの、イギリスは勝利を収めた。ただ、当時は早期警戒機や先進的な艦隊防空及び個艦防衛システムが存在せず、これがロイヤルネイビーを悩ませた。(ちなみに、早期警戒、艦隊防空、偵察哨戒任務から航空支援までを全部ハリアーVTOL戦闘機に無理やりやらせている。)
この時、シャレにならない出来事も起こった。作戦行動中の原子力潜水艦「コンカラー」がアルゼンチン海軍による爆雷攻撃を受たのだ。幸い、被害はなかったが原潜が戦闘中に攻撃されるというのはこれが最初で最後である(今のところ・・・)
規模は縮小したとはいえ、現在でも外用での作戦行動が可能な先進的大規模海軍であることに変わりはない。現に、任意の海域において即座に作戦行動可能な態勢が整えられ、その際全てのイギリス船籍の船舶を海軍に徴用する権限を政府が与えられる法令も存在している。
後述するが、戦略原潜も複数所持し、対潜哨戒能力や防空能力は高い水準である。
前述の通り大きく分けて三つの組織の集合体として成り立っている。
イギリス海軍の本体ともいうべき組織。モットーは、「汝平和を望むなら、戦争に備えよ」。パラベラム弾で有名なアレである。
各国の軍隊の例にもれず、近年では縮小をともなう近代化に邁進している。でもお金がないからって空母をオークションにかけて売っぱらうのはどうなの。
旗艦であるアルビオン級揚陸艦ブルワークを始めとしてヘリ空母オーシャン、イラストリアスといった機動戦力を持つ。艦隊の顔だった軽空母アーク・ロイヤルが予算削減のためオークションで売られてハリアーごと退役してしまったので現役の空母は存在しないが、現在クイーン・エリザベス級空母を建造中。ちなみに、ロイヤルネイビーが正規空母を配備するのは約40年ぶりである。でもやっぱり予算の都合で色々迷走しててクイーン・エリザベスが正規空母になるか不確定だったりする
また、45型(デアリング級)駆逐艦と23型フリゲートを中心とした護衛艦群が存在する。いわゆるイージスシステムは導入されていないが、仏伊と共同開発した防空システム・PAAMSを運用しており、防空能力は一定以上の水準にある。
その他、掃海艦や哨戒艦などが所属しており、フォークランド諸島の警備任務についている改リバー級哨戒艦クライドなど、世界各地に配備されている。
国防費削減のあおりを受けて往時の規模はなく、アップホルダー級を最後に通常動力潜水艦は運用していない。それでもトラファルガー級5隻とアスチュート級2隻の攻撃型原潜、ヴァンガード級戦略原子力潜水艦4隻の原子力潜水艦を配備しており、ヨーロッパ諸国では屈指の潜水艦戦力を持つ。
特にヴァンガード級は核弾頭を搭載可能なトライデントミサイルをアメリカから借りて装備しており、英国唯一の核戦力となっている。
またLR5という素敵マシーン潜水艦救助用の潜水艇も装備している。
という感じの経緯で、現在艦上配備されている固定翼機はない。一応F-35のB型が3機配備されているが、すべて地上基地に所属している。
空母と艦載機を同時に切り替える為融通がきくと思いきや、両方の事情に振り回されおまけに根本的な問題である予算不足が慢性的な足かせとなっており、このようなぐだぐだの状況になっている。建造中の新型空母も完成前から売却のうわさが流れたり、まだまだ道のりは遠いようである。
また、哨戒、対潜などといった任務を担当する固定翼機は装備しておらず、前述の3機のF-35の他には輸送機や練習機など非常に限られた数しかない。
一方で、回転翼機は安定して運用出来ており、現状の海軍の航空戦力の大半を占めている。
給油艦や補給艦といった補助艦艇を運用する組織。形式上、文民が運用していることになっている。もちろん国防予算から給与が支払われるし、国際法上軍人として扱われるが、それでも一応民間人として扱われる。その為、軍艦旗ではなく商船旗を掲げ、階級も民間船のものが用いられる。
これは元々戦争状態になるたびに民間船を船員ごと徴用して補助艦艇に充てていたことに由来しており、補助艦艇隊を常設するようになってもこの形式は守られ続けている。
補助艦艇隊には補給艦や給油艦の他にベイ級軽揚陸艦など戦闘艦艇も配備されている。繰り返すが、補助艦艇隊は文民によって運営されている。
陸海軍将兵の海上輸送任務も担当しており、戦時には最前線で揚陸任務を担う事を期待されている。しつこいようだが、補助艦艇隊は文民によって運営されている。
ロイヤルネイビーの病院船も補助艦艇隊に所属する。ただし、病院船の機能を有するアーガスは武装を有し、赤十字や緑色塗装などを施さず、軍事的輸送任務を兼務しており、したがって軍艦として扱われる。ところで、ご存じないかもしれないが、補助艦艇隊は文民によって運営されている。
……英国人って本当に形式を大事にするよね。
と、ネタとして扱ったが、形式はともかくその能力は他国の補助艦艇と比べてなんら遜色ない。むしろ、補助艦艇の部隊が一個の組織として独立して存在するほどの規模を持っているのは、ロイヤルネイビーの行動能力の高さを示していると言える。複数の大型給油艦、補給艦を有し、ロイヤルネイビーの大規模な遠洋作戦を可能とせしめていることは英国が近年幾度もの海外派兵を行っていることからも証明できるだろう。
イギリス海軍では帆船時代から斬り込み要員および憲兵的な役割を担わせる為陸兵を軍艦に乗りこませており、これが現代の海兵隊の元となっている。アメリカの海兵隊のような即応戦力としての役割は無く、陸海両用の特殊部隊としての位置づけである。また、選抜制を取っており、指揮・練度共に高いレベルにある。
元々は陸軍であったという経緯から一貫して陸軍式の階級呼称を用いており、実は陸軍の部隊序列に組み込まれていたりする。いっその事独立部隊になっちゃえよ。
現在の編制は第3コマンド旅団といくつかの独立大隊によって成り立っている。第3コマンド旅団は海兵隊の他に陸空軍部隊も編制に含んでおり、統合部隊的性格も持つ。
また、特殊舟艇部隊(SBS)という特殊部隊も編制に加わっており、様々な任務についている。SASと同じく第二次大戦中のコマンド部隊に起源をもつ。沿岸はもちろん、ジャングルなどにも派遣されるし、空挺降下もできる。ぶっちゃけSASの上位互換。
他、海軍予備隊として訓練艦を有しており、志願者の訓練を常に行い有事に備えている。また、ロイヤルネイビーは戦時において英国船籍のすべての船舶を徴用する権限を有しており、その意味では英国に属する全ての船舶がロイヤルネイビーの予備艦艇と言える。
加えて、18世紀のトラファルガー海戦におけるネルソン提督の旗艦、戦列艦ヴィクトリーがポーツマスにて係留保存されており、船籍を残している。ちなみに、航行可能な状態。ちゃんと整備しています。流石、イギリス。
イギリス連邦を構成する各国の海軍の多くが「王立」の名を冠しており、合同演習や武装の共同開発中古兵器を押し付けたりなど関係は強い。
特に、オーストラリア・ニュージーランド・シンガポール・マレーシアとは五カ国防衛協定を結んでおり度々協力している。
掲示板
40 ななしのよっしん
2021/06/04(金) 18:41:25 ID: 97daxTDW1x
ドイツ海軍が弱いからネイビーは拘束されないって凄い理論だな。
洋上艦艇が比較的少ないってのは事実かもしれんが。
計算式間違ってないか。
41 ななしのよっしん
2021/06/28(月) 17:31:47 ID: L3Af+P0O89
42 ななしのよっしん
2023/10/27(金) 00:04:34 ID: K4Jd6yb7T9
英海軍、中国人洗濯要員の勤務廃止へ
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英国防省は海軍艦船で民間の中国人を洗濯要員として勤務させる慣習を廃止することを決めた。
1930年代以来の伝統とされてきたが、中国当局に脅されるなどして機密を探るためのスパイ活動に従事するのを防ぐためとしている。
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最終更新:2024/03/29(金) 04:00
最終更新:2024/03/29(金) 04:00
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