ワイズメアリー(Wise Mary)とは、2020年生まれの日本の競走馬である。鹿毛の牝馬。
あまりにも危険な配合で血統マニアからちょっとした注目を集めている馬。
まずは他の競走馬記事と同様に、基本的な血統情報から紹介しよう。
彼女は父キタサンブラック、母アオイスカーレット、母父ディープインパクトという血統である。
……はい、この一文だけで解る人は即座に「ヤバい」とご理解いただけるだろうが、これだけではピンとこないという人向けにもうちょっと詳しく説明する。説明されるまでもないという方は下の血統表まで飛ばしていただきたい。
競走馬の配合においては、ある程度の近親交配(インブリード)が、強い馬を生み出すための手法として確立されている。インブリードは基本的に5代以内で何代前に同じ馬がいるかによって計算され、たとえば3代前(曾祖父母)と4代前(曾曾祖父母)に同じ馬がいる配合は「3×4のクロス」と表記される。この「3×4(血量18.75%)」は強い馬が生まれやすい配合として「奇跡の血量」と呼ばれている(科学的根拠は無いらしいが……)。たとえば2021年の年度代表馬・エフフォーリアは*サンデーサイレンスの3×4である。
ただし、近親交配は体質が弱かったり、激しい気性難だったり、生殖能力に問題があったりといった難点を抱えた馬が生まれやすいというリスクもあり、血が濃くなるほどそのリスクは高まるため、あまり濃い近親交配は危険と見なされる。そのため、産駒が非常に多い大種牡馬の血を濃く持つ馬は、競走成績が優秀でも配合できる牝馬の選択肢が少なく、種牡馬として苦労することがままあるのである。
もうひとつ、競走馬は同じ父から1年に何十頭、あるいは100頭を超える馬が生まれるため、父が同じで母が違う場合は兄弟とは呼ばれず、母が同じ場合のみ兄弟として扱われる。母が同じで父が違う場合は「半兄弟」、母も父も同じ場合は「全兄弟」と呼ばれ、全兄弟はクロスを計算する場合同じ馬として扱われる(これに関しては異論もあるが、詳しくは後述)。
たとえばブラックタイドとディープインパクトは同じ父*サンデーサイレンス、母*ウインドインハーヘアの全兄弟であるため、2019年に死亡したディープの代わりとしてブラックタイドを配合するといったことは普通に行われている。
さて、以上を踏まえた上で、改めて彼女の血統表をご覧いただこう。
キタサンブラック 2012 鹿毛 |
ブラックタイド 2001 黒鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ウインドインハーヘア | Alzao | ||
Burghclere | |||
シュガーハート 2005 鹿毛 |
サクラバクシンオー | サクラユタカオー | |
サクラハゴロモ | |||
オトメゴコロ | *ジャッジアンジェルーチ | ||
*テイズリー | |||
アオイスカーレット 2014 鹿毛 |
ディープインパクト 2002 鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ウインドインハーヘア | Alzao | ||
Burghclere | |||
エリモエクセル 1995 栗毛 |
*ロドリゴデトリアーノ | El Gran Senor | |
Hot Princess | |||
*エリモファンタジー | Riverman | ||
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クロス:ブラックタイド,ディープインパクト 2×2(50%)、Lyphard 5×5×5(9.38%)
おわかりいただけただろうか。
彼女はブラックタイド産駒のキタサンブラックとディープインパクト産駒のアオイスカーレットの間の子供、すなわちブラックタイドとディープインパクトの2×2全兄弟クロス、血量50%である。
人間でいえばいとこ同士の間に産まれた子であるため、人間なら結婚できるしなんとなく問題なさそうにも思えるが、前述の通り競走馬の世界では全兄弟はクロスの計算上は同じ馬とみなされるため、血統上は父父も母父も同じ馬という扱いになるのである。
まあ、2×2の全兄弟クロス配合自体は、現代でも探せば他にも見つからないこともない。たとえば障害競走で現役の10歳馬マイネルレオーネ(ゴールデンサッシュ,サッカーボーイの2×2全兄妹クロス)や、2018年産でキャットクイル,Ocean Catの2×2全姉妹クロスのナリノストームなどがいる。
さらに同世代にはもっとヤバいクロスを持つキタノグリエル(パッシオーネの2020)(父ザサンデーフサイチ、母父ゼンノロブロイでエアグルーヴ,カーリーパッションの全姉妹2×2と*サンデーサイレンスの3×3)というとんでもない馬がいたりする。
しかしその中においても、「父キタサンブラック、母父ディープインパクト」と血統の基本情報を書くだけで一発でヤバイとわかる彼女は、色々な意味で日本の競馬ファンにまさにディープなインパクトを与える強烈な配合と言えるだろう。
もっとも、前述の通り「全兄弟クロス」理論には異論もある。たとえ全兄弟であっても能力や気性などに大きな差があるのは馬であっても当たり前であり、血統が同じだから同じ馬として扱うというのは乱暴すぎると言われれば確かにその通り。なので上記のブラックタイド・ディープインパクトの全兄弟2×2も、単に「*サンデーサイレンスの3×3と*ウインドインハーヘアの3×3」と見なすべきだという意見もある。いや、それでも両親が50%同血であること自体は変わりないのであるが……。
あと2×2全兄弟クロスに目が行きがちだが、母母エリモエクセルは1998年のオークス馬というなかなかの良血。母アオイスカーレットは未勝利で地方行きになり、地方でも未勝利に終わったが、そもそもデビューが3歳5月と遅く未勝利戦で2着3回3着1回と惜しいところであった。ダート苦手の傾向が強いディープ産駒だし地方のダートは合わなかったのだろう。
何にせよ、「アオイスカーレットの2020」として血統登録された時点から「ヤバい配合」と一部で話題になっている彼女は「ワイズメアリー」と命名され、2022年に競走馬としてデビューすることになった。先にデビューを果たしたキタノグリエルの方は苦戦しているが、彼女はどれほど走れるか、刮目して見届けたいところである。
なお、「さすがにこの配合はうっかりとか手違いじゃないの?」と思われるかもしれないが、生産牧場のチャンピオンズファームは彼女の他にも濃すぎる配合の馬をよく生産している。前述のナリノストームもこの牧場の生産(さらにサンライズジョワという全弟もいる)。他にも、父ダイワメジャー、母グレイトグレイスで父母スカーレットブーケ、母母スカーレットリボンの2×2(50%)全姉妹クロス配合もアルセーヌメジャー(2014年産)、ダブルスカーレット(2017年産)など3頭生産している。どうなってんだこの牧場。
血統以外の話もしておこう。オーナーは母アオイスカーレットを所有した新谷正子。広島の医師で、夫の新谷幸義も馬主。息子に衆議院議員・新谷正義がいる。アオイスカーレットは地方行きになった際に一度馬主が変わったが、最終的に夫の新谷幸義オーナーのところに戻ったようである。
新谷オーナー夫妻は冠名「アオイ」を用いているが、彼女には使わなかったようだ。馬名意味は「賢い+人名より」と登録されている。
栗東・千田輝彦厩舎に入厩。デビューは2022年12月4日、中京・芝2000mの新馬戦。鞍上には父キタサンブラック、母父ディープインパクトの主戦だった武豊を迎える。
レースはゲートの中で落ち着きがなさそうな様子を見せつつもスタートを決めて2番手で先行。4コーナーで逃げた馬を捕まえ先頭に出たが、直線で伸びず後続にかわされて9頭立ての5着。武豊は「気のいいタイプの馬でしたが、まだ非力な感じでした」とコメント。この場合の「気のいい」は「走る気持ちが強い」ぐらいの意味で、実際レース中やや力む様子が見られた。馬体や気性面も含め、まだこれからというところか。
掲示板
19 ななしのよっしん
2023/01/27(金) 09:37:57 ID: mhDKIu3AhN
全兄弟を同一と見做すのは単に競馬関係者が生物学を理解していないだけ
3×3がダブルであるのと2×2では遺伝子の近さが全然違う
20 ななしのよっしん
2023/02/12(日) 18:15:14 ID: KrSwvmrvZy
>>14
その馬なら今日共同通信杯勝ったで(ファントムシーフ)
果たしてハービンジャーの後継になれるだろうか
21 ななしのよっしん
2023/04/16(日) 19:31:38 ID: Idqg8VUQve
netkeiba系の形式があれなだけだよ
JBISや血統語るサイトなら普通に全兄弟は別存在扱いで表記されるから競馬関係者がとかはいうべきではない
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最終更新:2024/04/24(水) 13:00
最終更新:2024/04/24(水) 13:00
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