三公社五現業とは、1952年8月から1982年10月までの日本において国の現業をまとめて呼ぶときに使われた言葉である。
三公社五現業は、3つの公社(公共事業体)と5つの政府部門による8つの事業という意味である。いずれも国会に議決された予算に基づいて事業が行われた。
八事業を列挙すると次のようになる。
八事業はもともと全て日本政府が直営していた。日本国有鉄道の前身は運輸省鉄道総局であり、日本専売公社の前身は大蔵省専売局であり、日本電信電話公社の前身は電気通信省である。
終戦直後のGHQ占領期にGHQの意向で日本国有鉄道と日本専売公社が設立された。なお、公社形式をとったのは当時アメリカで公社形式がトレンドだったというだけで深い理由付けはなかったという。
GHQの日本占領が終わった3ヶ月後の1952年8月に日本電信電話公社が発足した。これで三公社五現業の形が完成した。
三公社五現業の労働者には公労法(公共企業体等労働関係法)が適用された[1]。
いわゆるオープンショップ制が採用されて労働者に労働組合に参加しない自由が保障されたので(第4条)、労働組合の内部統制権が弱くなりがちであった。
団体交渉をして労働協約を締結する権利が保障されたが、管理及び運営に関する事項に関する団体交渉をする権利は保障されなかった(第8条)。
団体行動権の中の争議権は保障されず(第17条)、争議行為をしたものに対して最高で解雇の処分が行われた(第18条)。
三公社五現業の労働組合は「財政民主主義が日本国憲法に明記されており、日本において国会が国の財政をすべて牛耳っている。そして我々の人件費などの予算は国会で議決されている。我々の職場は国会の支持を受けているのであり、絶対に倒産しない」という意識があり、「労働運動をしすぎると勤務先が倒産する」という恐怖から解放されており、活発に労働運動を行うことが多く、日本の労働運動を牽引する力を持っていた。
三公社五現業の労働者が結成した労働組合の中の9つは公労協(公共企業体等労働組合協議会)を結成していた。その9団体を列挙すると次のようになる。
公労協は総評(日本労働組合総評議会)に加盟しており、総評の中の中核だった。総評は1989年まで存在した労働組合の全国中央組織(ナショナルセンター)である。総評は日本社会党を支持しつつそれに多数の議員を送り込んで大きな影響力をもたらしていたので「昔陸軍、今総評」とまで言われていた。
三公社五現業の労働組合は争議権(スト権)が与えられていなかった。このため国労や動労は国鉄において頻繁に順法闘争を行ったが、これにより国民の反感を買うことになった。
また公労協は1975年11月~12月に8日間のスト権ストを敢行したが、政府側がスト権付与に反対する姿勢を最後まで貫いたため、公労協の敗北に終わった。
こうして三公社五現業の労働組合は国民の支持を失った。それを原因の1つとして、1980年代の中曽根康弘政権や2000年代の小泉純一郎政権による三公社五現業の民営化が進んでいった。
1982年10月1日に通商産業省のアルコール専売事業が新エネルギー総合開発機構という特殊法人に移管された。これにより三公社四現業になった。
1982年11月27日に中曽根康弘が首相に就任し、1987年11月6日までの長期にわたって政権を運営した。この時代に三公社の民営化が進んでいった。ちなみに中曽根康弘はスト権ストの時に自民党幹事長を務めており、公労協へのスト権付与に絶対反対の立場を取っていた人物である。1985年4月1日に日本専売公社と電電公社が民営化し、1987年4月1日に国鉄が分割民営化した。これで四現業のみとなった。
2001年4月26日に小泉純一郎が首相に就任し、2006年9月26日までの長期にわたって政権を運営した。この時代に現業の民営化が進んだ。2003年4月1日に総務省の郵政事業が日本郵政公社へ移管し、財務省の造幣事業と印刷事業は、独立行政法人造幣局や独立行政法人国立印刷局に移管した。これで一現業のみとなった。
三公社五現業のうちの七事業は「予算を国会に議決されない特殊法人」に業務が移管された。列挙すると次のようになる。
三公社五現業の中で最後に残ったのが国有林野事業である。これは2023年の時点で予算を国会に議決されている。しかし2013年には国有林野事業特別会計が廃止され、国有林野事業に関する予算は一般会計に移管している。
日本において特別会計は、国が特定の事業を行なう場合に設置される(財政法第13条)。特別会計が廃止された国有林野事業は「特定の事業」ではなくなったのであり、国が関与する現業とされるほどの規模の事業ではない。
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最終更新:2024/03/29(金) 19:00
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