信長のシェフとは、原作:西村ミツル、作画:梶川卓郎による日本の歴史または料理漫画、およびそれを実写ドラマ化した作品。芳文社「週刊漫画TIMES」にて2011年2月から2024年3月まで連載された。
単行本は全37巻。原作は西村ミツルが10巻まで担当し11巻~12巻では料理監修、以降は梶川卓郎より単独で連載している。
概要
戦国時代を描いた歴史漫画であるが、何らかの技能を持った現代人がタイムスリップして歴史上の人物と対して行くと言う点では村上もとかの「JIN-仁-」に近い作風である。また、戦や政治を中心に描くのではなく、当時の食文化や食料生産、さらに各大名たちの美意識などを中心にしており、この点では山田芳裕の「へうげもの」に近いスタイル。
原作者が元在外公館の料理人であり、幅広い料理への知識と政治家・外交官の嗜好に理解があるため主人公であるケンもそれと同等の能力を有している。また、歴史描写も最新の研究結果が反映されており、上記の歴史考証もあって出来るだけリアルな世界観に立っている。
あらすじ
料理人ケンは、平成の時代から戦国時代(信長による上洛戦直後か)にタイムスリップし、記憶を失ってしまう。三好氏の間者と思われ仲間が切り殺されてゆく中、ケンは脱出に成功し、そこで夏という女性の刀鍛冶に救われる。
幸い、現代で積んでいたと思われる料理知識は覚えており、京でそれを生かした料理を振る舞い世上で話題となる。それを聞きつけた信長はケンを半ば強引に自分の料理人に召し抱え、波瀾万丈な戦国外交の只中に身を投じて行くのであった。
登場人物
「演:○○」はドラマ版で演じた人物。
現代人
- ケン
- 演:玉森裕太
平成の世から戦国時代にタイムスリップした現代の料理人。自分が何者であるかと言う記憶は失っているが、料理の知識と戦国における最低限の知識(金ヶ崎の戦い、本能寺の変など)は有している。その経歴は不明だが、和洋中とまんべんなく網羅した料理の知識・腕前、歴史上の偉人に対しても料理に関しては決して臆しない性質から、現代においても相当な地位にあった料理人と推測される。性格は極めて温厚だが現代的倫理観は強固であり、特に職業倫理を逸する毒殺や故意の食中毒などの計略には激しい怒りを見せることがある。
- ようこ(ドラマ版:瑤子)
- 演:香椎由宇
ケンと同様にタイムスリップした現代人。洋菓子職人であり、のちに信長の宿敵となる本願寺顕如に仕えている。詳細は不明だが、ケンと面識があり記憶も失ってはいない模様。しかも、ケンとは現代では恋人以上の関係であったことを匂わせている。戦国時代に着いた時、とある事情によりPTSDを患っている。
歴史上の人物
- 織田信長
- 演:及川光博
誰もが知ってる第六天魔王。本作では改革者、実力主義者的側面が強調されており、近年の信長描写としては保守的である。現代で伝わる通り、味が濃いものや甘いものが好きで酒は好まないようだ。ケンに度々無理難題を押し付け、それをいかに実現して行くかが本作の流れ。ある意味、ラスボスである。
- 濃姫
- 信長の正室。歴史では謎に包まれた人物であるが、本作では作品の性質上信長の側で侍っており、ケンにも信長の趣味嗜好についてアドバイスをすることがある。
- 森可成
- 演:宇梶剛士
織田家家臣。ケンとは気が合い、高く評価していた。時に衝突することがあった信長との関係も取り持つことが多かった。性格は極めて温厚でありかつ忠臣。史実通りに宇佐山城の戦いで戦死。
彼を中心人物として描いた作品は珍しいが、あの鬼武蔵の父とは思えない、いい人振りに多くのファンが涙した。
- 森蘭丸
- 演:永瀬廉
森可成の三男。多くの作品で描かれるように少年である。ケンや夏の知識に興味があり、よく2人のもとへ赴いている。
- 木下藤吉郎秀吉
- 演:ゴリ(ガレッジセール)
言うまでもなくあの秀吉。信長と同様、その性格と関係は現代に伝わっているものと同等かそれ以上に強調されたものである。当初はケンを間者と疑っていたが、自分のミスを救われて実力を認めた。本作では足利義昭と同様にコメディーリリーフ的立場。
- 足利義昭
- 演:正名僕蔵
第15代足利家将軍。信長の協力で上洛に成功したが、その信長には信を置いていない。ケンが振る舞ったうずらの「照り焼き」に感動し、自分の元に寄こすよう信長に所望するが果たせなかった。関係が決裂しているにも関わらず、その後もケンの料理が食べられないことを悔しがるなど、やや小人物として描かれている。
- 松永久秀
- ご存じ戦国の梟雄。信長に臣従しているが、もちろん本心からではない。本作では老獪な側面が強調されているためか、表向きは好々爺ぶっているが料理の評価に対してはあまり遠慮がない。
- 浅井長政
- 演:河相我聞
信長の妹婿。史実同様、金ヶ崎にて信長を裏切る。信長の先見性について行けない人物として描かれているが、その妹で自身の嫁であるお市には深い愛情を抱いている。ケンには、助命したにも関わらず逃走される、姉川の戦いでの敗因を作られる、朝倉軍の撤退を呼び込まれるなど、散々な目に遭っている。
- お市
- 演:星野真理
信長の妹。伝承通り金ヶ崎で長政の裏切りを知らせて兄の命を救っている。ただし、有名な小豆袋ではなく、簗と鮎と罠をかけたものであり、その真意はケンが解いた。娘である茶々の獣肉嫌いを治せば助命するとケンに提案し、その命を救った。
- 明智光秀
- 演:稲垣吾郎
信長に仕え、史実では後に「本能寺の変」を起こしたことで知られる人物。
本作では信長に揺るぎない忠誠心を抱いており、ケンも裏切る未来を知り、疑いつつも2人の仲をより強固にするために奔走している。初登場時は30代と可成より一回り若いはずだが、信長より年上であることを強調するためか、初老めいた風貌に描かれている。
- 徳川家康
- 演:カンニング竹山
のちの征夷大将軍。信長、秀吉、光秀、可成が一斉に集うシーンで初登場しており、ケンはその錚々たる顔ぶれに震撼している。金ヶ崎後に信長との同盟に繋ぎおくため、ケンが料理を振る舞うのだが、それがよりによって「鯛のてんぷら」。しかし、家康はその味に感激し信長との旧交を思い出したため、以降も史実通り同盟を継続する。
- 本願寺顕如
- 演:市川猿之助
一向宗の長。巧みな同盟関係と豊富な鉄砲によりその地位は他の諸大名ですら圧倒している。史実通り信長の最大のライバルである。本作では現代人のパティシエであるようこから信長が横死する未来を知らされており、史実以上の野望と構想をもって信長に挑む。
- 千宗易
- 演:大和田獏
のちの利休。本作では戦国に生きる商人であることもあり、武装し外交にも尽力している。その存在感は堺の町衆でもずば抜けており、ケンもその言動から利休であることを悟ったほど。
- 今井宗久
- 演:渡辺いっけい
堺の実力者。利休と並び称される茶人だが、本作では下品な人物に描かれている。堺に赴いたケンに対して無茶振りの要求をした上に妨害まで行い、要求通りの物を出されても尚とぼけようとした質の悪いくせ者。
- 武田晴信
- つまり信玄。中国文化に精通し、アワビが好きな点は史実通り。ケンの存在を危惧し秋山信友を通じて殺害を試みる。大病を患っており、その死が家臣の間でも不安視されている。
架空の人物
- 夏
- 演:志田未来
戦国時代においてケンを救った女性の鍛冶師。腕前は相当であり、現代人であるケンから見ても数々の美品や優良品を手掛けている。ケンを憎からず思っている。
- 楓
- 演:芦名星
信長に仕えるくのいち。小谷城への潜入の際、ケンと同道した。こちらもケンに幾度となく命を救われており、ケンに思いを寄せている。くのいちらしく体で情報収集をすることも多い。
主な料理など
- 鶴
- 古来より珍重されてきた日本の鳥肉。その調理には特別な資格を擁したとされる。本作ではケンが負かした織田家付きの料理人の得意料理とされており、決して織田家の料理水準が当時において低い訳ではなかったことを示している。
- 握り寿司
- 登場時期は江戸後期であり、戦国時代には決して存在しなかった日本料理である。北畠家を懐柔する際に使用。
- バイキング
- これも実は日本生まれの料理の提供法。本作では皿の数を間違えた秀吉のミスをフォローするためにケンが提案。
- バター
- 乳製品の製造法は一部を除いて当時の日本では存在していなかった。濃姫への料理の提供の際も課題として反省している。初登場は金ヶ崎の退き口の際、病床の農民の子供に振る舞ったもの。
- てんぷら
- 家康の命を奪った料理だが、本作ではケンが信長より献上された鯛で彼に振る舞った。家康の宿が寺院であったと言う性質上、椿油で揚げる。厳密には揚げ焼きであったようだ。
- 戦国お子様ランチ
- 浅井家に捕まった際、お市に頼まれ獣肉嫌いの茶々のために調理。カモ肉をひき肉にしユリ根で臭みを取りハンバーグにし、さらに浅井家の家紋をつけた旗を持ったごはんに挿したプレートランチにした。この視覚に訴える演出も功を成し、茶々はもちろんお市までケンの力量に感嘆した。
- 姉川ホルモン焼き
- 姉川の戦いにおいて獣肉の臭いを使って浅井軍の兵卒の士気を下げるために使用。その肉は戦後、奮戦した徳川軍に振る舞われた。信長はその臭いにやや引いてしまったようだ。
- パオーン
- パンのこと。堺に赴いたケンに町衆が「かつてポルトガル人が提供したものが食べたい」と難題を突き付けた際に再現を求められたもの。捨てられていた交易品のバナナの皮から酵母を作り再現。
- アンパン
- 上記の経験から甘蔓を利用して製作。信長・濃姫をいたく感動させた一品。砂糖を多く取り寄せることを信長に認めさせた。
- マカロン
- 古典的なフランス菓子。顕如から信長に毒を盛るよう命じられたようこが用意した。大量のナツメグが使用されており、食べ過ぎると中毒を起こす。狙い通り甘党の信長だけが中毒に陥るが、同席していたケンが気付いて対応し事なきを得た。
ドラマについて
2013年1月から3月までテレビ朝日の深夜帯にて放送された。全9話。及川光博やガレッジセールのゴリ、宇梶剛士など比較的豪華なキャストで演じられ、カジュアルで分かりやすい内容もあり、深夜ながら10.8%と比較的好調であった。なお、こちらは原作とはやや違う展開が描かれて完結している。
関連動画
同じ信長を描いた作品でもあるため、平野耕太のドリフターズでも裏表紙でネタにされた。
関連コミュニティ
信長のシェフに関するニコニコミュニティを紹介してください。
関連リンク
関連項目