内野5人シフトとは (ナイヤゴニンシフトとは) [単語記事]

内野5人シフトとは、野球において内野に選手を5人配置する特殊な守備陣形。

日本プロ野球においては、マーティー・レオ・ブラウンが広島，楽天監督時代に好んで用いていた戦術として知られる。そのため「ブラウンシフト」とも呼ばれる。

概要

通常、内野手は一塁手、二塁手、三塁手、遊撃手の4人だが、そこに本来外野を守るべき選手が1人内野の守備に加わり、内野5人・外野2人という形になる。

図解すると、たとえば通常こういう守備位置なのが↓

図1：通常の守備位置

中堅手
左翼手						右翼手
		遊撃手		二塁手
	三塁手		投手		一塁手

捕手

このように変化する。↓

図2：内野5人シフトの一例

	中堅手			右翼手
左翼手			遊撃手			右翼手
		左翼手		二塁手
	三塁手		投手		一塁手

捕手

図3：内野5人シフトの一例(スクイズ警戒型)

	中堅手			右翼手
左翼手						右翼手
		遊撃手		二塁手
	三塁手	左翼手	投手		一塁手

捕手

図2が基本の形だが、二遊間はそのままで、左翼手ではなく中堅手が二塁ベース上につく場合もある。
またスクイズを警戒して、左翼手が投手の横付近まで前進した形で守ることもある(図3)。図3でなぜ左翼手が三塁側につくかの理由は、このシフトが敷かれる際はほぼ必ずランナーが三塁にいる場面で、三塁手は牽制球に備えて投球開始までは三塁ベースについている必要がある。必然的に三塁手はサード方向にスクイズを転がされても本塁方向へのダッシュが遅れるため、その部分をカバーするためにこの位置に野手を増やすのである。

外野の守備がザルになるため通常ではありえない守備陣形であり、守備側が外野フライでも1点が入り、かつ絶対に1点も取られたくない状況でのみ敷かれる。例えば同点の9回以降の裏の守備で、無死または一死で走者三塁の場面など。この場合外野フライでも犠牲フライでサヨナラである。

守備側の狙いは内野ゴロで本塁併殺打を取ること、最低でも三塁走者の本塁生還を阻止することであるため、フォースプレーとなり本塁でアウトを取りやすくするため満塁策をとる（1点入れば負けなので、走者が何人いても一緒）。また万が一外野手の守備範囲に打球が飛んだとき、浅い外野フライでの本塁刺殺の可能性を高めるため残った外野手は前進守備をとる。その上で投手には、内野ゴロを打たせるために低めの制球を心がけることが求められる。

要するに「外野に飛んだら諦める、しかし内野の打球は絶対に殺す」というシフト。内野ゴロ本塁封殺と外野フライ本塁刺殺なら前者の方が成功の可能性が高い、という考え方に基づく守備陣形である。内野の人数が増えるため打者とバッテリーにはプレッシャーがかかる、という利点もある。内野の連携が特殊な形になるため、あらかじめ練習しておかないと難しい。

二死になれば外野フライでも大丈夫なため、このシフトは解除される。内野5人シフトをとる場合、あらかじめ左翼手を控えの内野手と交替するため、解除後は本来内野手の選手が外野に入ったりする。

ちなみにゲームでも『プロ野球スピリッツ』シリーズで使用することができる。

ブラウンシフトの歴史

少年野球などではともかく、日本プロ野球においてはまず見られない守備陣形だったが、2006年から広島東洋カープのマーティー・レオ・ブラウン監督がこの守備陣形を取るようになり、プロ野球ファンにもお馴染みのものになった。

これまでオープン戦を含めてブラウン監督が7度、原辰徳監督が1度実行している。以下はその履歴。

第一次ブラウンシフト：2006/04/22　広島vs中日　12回表

投手は広池浩司、捕手は倉義和。4-4の12回表、一死満塁で打者は井端弘和。一塁栗原健太、二塁東出輝裕、三塁新井貴浩、遊撃山崎浩司に、中堅福井敬治が二塁上について発動。井端をサードゴロに打ち取り本塁封殺を達成したため、シフトとしては成功。ただしその後、打者福留孝介の場面でKURA倉義和の後逸により失点して敗戦。

第二次ブラウンシフト：2006/07/14　広島vs横浜　10回裏

投手は永川勝浩、捕手は倉義和。1-1の10回裏、一死満塁で打者は古木克明。一塁栗原健太、二塁東出輝裕、三塁新井貴浩に遊撃梵英心が二塁ベースからやや一塁寄りに立ち、森笠繁に代わった中堅井生崇光が遊撃手の位置に入って発動。左打者でプルヒッターの古木が相手なので全体的に右寄りの陣形を取った（なのでレフトはがら空き）。

しかし結果は、永川勝浩の暴投によりサヨナラで敗戦。シフトを敷きながら2度続けてバッテリーエラーでの敗戦という結果に、理にかなったシフトであるはずなのに一気にネタ化してしまい、ブラウンの珍采配の代表例に挙げられるまでになってしまった。そしてこの後しばらくブラウンシフトを見かけることは無くなった、のだが……。

第三次ブラウンシフト：2009/03/29　広島vsソフトバンク（オープン戦）　9回裏

オープン戦で3年振りにブラウンシフトが復活。投手は林昌樹、捕手は石原慶幸。3-3の9回裏、無死三塁で打者は柴原洋。一塁喜田剛、二塁小窪哲也、三塁シーボルに、遊撃石井琢朗が二塁寄りに立ち、廣瀬純に代わった左翼木村昇吾が遊撃手の位置に入って発動。ちなみにこのときは何故か最初は通常シフトで、カウント1-2になってからブラウンシフトを発動した。

結果は柴原がセカンドゴロ、続く中西健太はレフトゴロ（木村が打球を処理したため）。二死三塁となってシフトは解除され木村がレフトに入り、高谷裕亮を一塁ゴロに仕留めて試合終了。3度目にしてようやく完全な成功を収めた。

第四次ブラウンシフト：2009/05/06　広島vs中日　8回裏

投手は横山竜士、捕手は石原慶幸。2-4で中日リードの8回裏、一死一・三塁で打者は荒木雅博。一塁栗原健太、二塁東出輝裕、三塁シーボル、遊撃石井琢朗に、天谷宗一郎に代わった右翼木村昇吾が遊撃手の位置に入り発動。第三次と同じ形であり、左翼のマクレーンでなく右翼の天谷を代えたのは打順の関係である。

結果は荒木を三振に打ち取り成功。ただし試合には敗れた。

第五次ブラウンシフト：2009/06/14　広島vs西武（交流戦）　12回裏

投手は青木高広、捕手は石原慶幸。4-4の12回裏、無死満塁で打者は黒瀬春樹。一塁喜田剛、二塁東出輝裕、三塁石井琢朗、遊撃梵英心に、末永真史に代わった左翼小窪哲也が二塁ベースの手前の位置に入り発動。

結果は小窪の真正面へのゴロとなり、ホームゲッツーが完成。7-2-3のレフトゴロ併殺打という、およそ通常の野球ではあり得ない結果が記録された。その後シフトは解除され小窪に代わって嶋重宣が左翼に入り、再び敬遠で二死満塁としたのち江藤智を内野フライに打ち取って試合終了。

余談だが、この試合の実況をしていた島村俊治アナウンサーは第四次の中日戦でも実況を担当していた。また、これが広島での最後のブラウンシフト発動となった。

第六次ブラウンシフト：2010/03/10　楽天vs広島（オープン戦）　9回表

（動画募集中、うｐはされていたが削除された模様）

楽天監督となったブラウン、初のシフト発動は古巣相手だった。投手はモリーヨ、捕手は嶋基宏。押し出しにより5-5と同点に追いつかれた9回表、無死満塁で打者は喜田剛。一塁大廣翔治、二塁西村弥、三塁草野大輔、遊撃渡辺直人に、牧田明久に代わった左翼塩川達也が二塁ベース上について発動。

結果は、一二塁間を破るライト前タイムリー……のはずが、右翼の鉄平が中堅寄りに守っていたため打球は無人の右翼を転々とし、走者一掃のタイムリー三塁打に。さらにこの回広島はもう2点を追加して5-10とした。鉄平捕れよ。

ところが。9回裏、楽天が永川勝浩から2点を返しなおも攻撃中というところで雨が激しくなり、7-10の9回裏途中でコールドゲーム。記録上、9回の攻撃は表裏とも無かったことになり、試合は8回終了時点のスコアである5-4で楽天の勝利となった。

ちなみに、喜田剛は前述の通り2度ブラウンシフトに参加している。そのため、タイムリーを打ったのはこのシフトの癖を知っていたからだとも言われている。

第七次ブラウンシフト：2010/06/07　楽天vs巨人（交流戦）　10回裏

（動画募集中）

公式戦初の楽天ブラウンシフト。投手は川井貴志、捕手は嶋基宏。0-0の10回裏、一死満塁で打者は小笠原道大。一塁山崎武司、二塁高須洋介、三塁中村紀洋、遊撃渡辺直人に、牧田明久に代わった左翼内村賢介がやや一塁寄りの二塁ベース付近に立ち発動。

結果はあわやサヨナラ満塁ホームランかというフェンス際の飛球。中堅の聖澤諒は何とか追いついたものの、送球する事は出来なかったという犠牲フライとなり、三塁走者が生還。0-1で巨人がサヨナラ勝ちした。尚、逆にシフトを敷かれる側となった巨人の原辰徳監督は「絶体絶命の場面でのあのような攻撃的な守備を行なうというのは勉強になった」とコメントを残した。

その後、同年のシーズン最終戦に球団から楽天監督の解任を告げられたため、楽天ではこれが最後のブラウンシフトとなった。

そして…………、

第一次HARAシフト：2014/07/11　巨人vs阪神　6回表

あれから4年の月日がたち、ブラウン監督もNPBを去ったためブラウンシフトを見ることはもう無いと思われていたが、まさかの再来。第七次発動時に原監督が勉強したことをそのままに採用へと踏み切ったと思われる。

投手は青木高広、捕手は阿部慎之助。2-4の6回表、一死二・三塁で打者は今成亮太。一塁アンダーソン、二塁片岡治大、三塁村田修一、遊撃坂本勇人に左翼亀井善行が一二塁間に立ち発動。

しかし今成に代打・西岡剛を出されたことで一旦は通常シフトへ戻される。が2ストライク後、今度は亀井が三遊間に入る形で再びブラウンシフトが発動した。

結果は1球のファールを挟んでセンターに打ち上げるフライとなる。しかし内野5人にしたことで本来いるはずの中堅手・松本哲也が左中間方向に守備位置を変えていたため、打球は外野手2人のど真ん中を綺麗に破る格好になり、走者2人の得点に繋がるタイムリー二塁打となり2点を失ってしまうことに。「外野に飛ばされれば終わり」というブラウンシフトの性質をまざまざと体現することになった。結局このプレーで試合の流れは完全に阪神に渡り、巨人は5-12で大敗した。

そもそも内野5人シフトは前述の通りサヨナラのピンチや延長最終回など「1点でも取られたら終わり」という状況で敷くものであり、いくらでも逆転の可能性がある2点ビハインドの6回表で行なうにはリスクがあまりにも高い。またフォースアウトを取るためにシフト時は一塁は埋めるのが普通だが、なぜか西岡を敬遠して満塁策を取ることはなかった（これでは狙い通り内野ゴロに打ち取ってもクロスプレーで点が入る可能性がある）。狙いの全く解らない謎のシフトであり、巨人ファンを唖然とさせ、アンチ巨人やネタ好きからは大喝采を浴びる采配だった。

ちなみに、投手の青木は前述の第五次の際にも投球しており、ブラウンシフトに関わるのは2度目となった。

第一次中嶋シフト：2022/07/29　ロッテvsオリックス　11回裏

HARA シフトから8年の歳月が流れた2022年。オールスター明け初戦、オリックス・中嶋聡監督のもとでNPBでは8年ぶりとなる内野5人シフトが発生。

9回表に杉本裕太郎の同点3ランが飛び出し、8-8で迎えた延長11回裏。投手は阿部翔太、捕手は若月健矢。二死一・二塁で打者は代打の菅野剛士という場面。一塁太田椋、二塁大城滉二、三塁宗佑磨、遊撃紅林弘太郎に、カウント2-2となったところで中堅福田周平 が二塁後方に入って発動。

結果はフルカウントとなって7球目、菅野の打球はゴロで福田と紅林の間を抜けていく。しかし中堅の福田が二塁後方に行ったことで左翼の中川圭太が左中間をかなり浅めに守っていたため、打球はその中川の真正面へ。中川は抜けたところですぐ捕球、即座にバックホームし二塁走者の藤岡裕大はホームタッチアウト、スリーアウトチェンジ。

ツーアウトかつ満塁にせずに内野5人シフトを敷くというこのシフトのセオリーを外した布陣、そしてシフトの間をゴロで抜かれたが、結果として外野の位置が変わったところに転がったためホームタッチアウトに成功という、シフトの成功なのか失敗なのか全くもって判断しがたい結果となった。ちなみに打球自体は内野5人シフトを敷いていなければ普通のショートゴロの当たりだった。

なお、試合は延長12回表に二死二塁から中村奨吾の悪送球でオリックスが勝ち越し、9-8でオリックスが勝利した。

番外編1：2015/11/15　日本vsベネズエラ　9回裏

2015年に開催された世界野球プレミア12。4連勝で予選リーグ 1位通過を決めた侍ジャパンは、全勝通過を目指してベネズエラと対決。ベネズエラも勝てば決勝トーナメント進出決定だけに負けられない試合であった。

試合は西勇輝が2発のHRを浴びリードを許したまま終盤戦に入るが、8回裏に中田翔の2点タイムリーが飛び出し4-3と逆転。しかし9回表に松井裕樹が打たれて4-5と再逆転され9回裏へ。

代打今宮健太のヒットから死球バント敬遠で一死満塁となり、ベネズエラの抑え・ニエベの暴投で5-5の同点。さらに敬遠で再び一死満塁となり、打席には代走で途中出場の中村晃が入った。投手を左のカステラーノに交替したベネズエラは、この絶体絶命のピンチに対し、内野5人シフトを発動した（ちなみに実況と解説は気付かず、ベンチ横にリポーターとして控えていた中居正広が最初に気付いた）。

なお結果は、中村晃が三遊間をゴロで割るサヨナラタイムリーを放ち日本がサヨナラ勝ち。内野の打球は絶対に殺そうというシフトなのに内野を抜かれて敗北、さらにこの敗戦で予選リーグ5位となりベネズエラの敗退が決定するという、ベネズエラにとっては何とも言い難い結末となってしまった。

番外編2：2021/08/02　日本vsアメリカ　10回裏

東京オリンピック2020の野球、ノックアウトステージ第2ラウンド。オープニングラウンドのグループAを首位通過した日本は、グループBを首位通過したアメリカと対決した。

5回までは互いに点を取り合い、5-6と1点リードされた9回裏、柳田悠岐の内野ゴロの間に三塁走者の鈴木誠也がホームに帰って土壇場で同点に追いつき、タイブレーク（無死一・二塁からスタート）の延長戦に突入する。

10回表を栗林良吏が三振、セカンドゴロ、レフトフライで無失点に抑え、迎えた10回裏。大会初打席となる先頭の代打栗原陵矢がきっちり送りバントを決めて一死二・三塁。外野フライでもサヨナラのピンチに、アメリカはここで、中堅手のジャック・ロペスが内野に入り、内野5人シフトを発動。しかし打者の甲斐拓也は敬遠せず、そのまま勝負を選択した。

結果は、甲斐が初球を打ってライトフェンス直撃のサヨナラタイムリー。シフト無関係の一打で7-6と日本が劇的な逆転勝利を収め、準決勝へ駒を進めた。

内野5人シフト単語

概要