冠名(かんむりめい・かんめい)とは、馬主が自身の所有する競走馬に含める、特定の言葉。「冠号」とも言う。
競馬を見ていて「メイショウ~」という同じようなフレーズの名前を持つ馬が複数出走しているシーンもあるが、そのフレーズを含む馬は込み入った事情が無ければ大体馬主が一緒である。
概要
一般的に、馬主が冠名を使用する理由として、
- 自身の所有馬である事を分かりやすく、目立たせる。
- 馬名の重複を防ぎ、競走馬登録をやりやすくする。
といった目的がある。
日本中央競馬会(JRA)では競走馬に広告宣伝を目的にした名前を付けてはいけない事になっているが、冠名に自分の所有する企業の名前を付けたりする事は黙認されている。その一方で冠名の付いている馬は競走馬や種牡馬として顕著な成績を残してもレース名として使用される事は基本的に無い。
例外としては顕彰馬選出や過去の名馬・名レースを振り返る目的で競走名が変更され、「〇〇メモリアル」といった形で冠名の有無問わず使用される事がある。
地方競馬は事業者にもよるが割とおおらかで、冠名の付いている馬が普通にレース名に用いられている。例えば笠松競馬の「オグリキャップ記念」や岩手競馬の「トウケイニセイ記念」、大井競馬の「フジノウェーブ記念」など。
冠名の使用は馬主の自由であり、登録制では無いためJRA等の競馬主催者に届け出るといった事は無い。また独占権も無いので冠名を単なる名前の一部として、他の馬主が使用することもある。無関係の複数の馬主が同一の冠名を使用することもある。
例としてセイウンワンダーは馬主は「セイウン」の人でも、「ワンダー」の人でも無い。本馬は「父グラスワンダーと母セイウンクノイチの名前の一部」から名前がとられている。
全く無関係の馬主が「メイショウアグネス」とか「シルクロードシチー」とか書いて申請書を提出しても問題は無い。ちゃんとした理由があって競馬事業者が認めるかが問題。
勿論個数制限も無いので一人で複数の冠名を使う事もあるし、必ずしも名前の先頭に付ける必要も無い。
トウショウ牧場は牡馬なら先頭、牝馬なら末尾に「トウショウ」をつけるというように使い分けていたし、ニシノやセイウンで知られる西山正行は冠名を5つ以上使っていた。
無関係の複数の馬主が同一の冠名を使用した例として「カミノ」がある。この冠名は野上政次氏と保手浜弘規氏がそれぞれ冠名として使用していた。
競走馬を数十頭所有するような大馬主や名物馬主の陣営に対して、冠名を用いて「〇〇軍団」と呼称される事がある。例えばビッグレッドファームの創設者である岡田繁幸は、同じく創設したサラブレッドクラブ・ラフィアンの冠名「マイネル」になぞらえてマイネル軍団の総帥と呼ばれる事も。
ちなみに冠名は日本独自のものでは無く、海外でも少なからず使用されている。日本において海外の冠名として最も有名なのはフェアリーキングプローンの「キングプローン」であり、馬主が海老が好きな事に由来する。
冠名の由来
大きく分けると以下のパターンがある。
1. 人名や地名
- アグネス:アグネスワールド、アグネスデジタル、アグネスタキオン、アグネスゴールド
- 馬主の娘がファンであった「アグネス・チャン」が由来。
- アサクサ:アサクサデンエン、アサクサキングス
- 馬主の経営する会社の所在地、東京都浅草より。
- オグリ:オグリキャップ、オグリローマン
- 馬主である小栗孝一の姓より。
- カレン:カレンチャン、カレンブラックヒル
- 馬主の娘の名前より。
- キタサン:キタサンブラック、キタサンヒボタン
- 馬主の大野商事[1]の代表[2]の父の芸名「北島三郎」の姓名より。
- コパノ:コパノリッキー、コパノキッキング、コパノリチャード
- 馬主である小林祥晃氏の芸名「Dr.コパ」より。
- サウス:サウスヴィグラス
- 馬主である南波壽氏の「南」から。
- サダム:サダムパテック
- 馬主である大西定氏の「定」から。
- サトノ:サトノダイヤモンド、サトノクラウン、サトノアレス
- 馬主である里見治氏の姓より。
- シゲル:シゲルスダチ、シゲルホームラン、シゲルピンクダイヤ、シゲルピンクルビー
- 馬主である森中蕃(しげる)の名より。
- ショウナン:ショウナンカンプ、ショウナンパンドラ
- 「湘南」より。冠名の直後の文字は五十音の「あ」段でほぼ統一されている。
- スズカ:サイレンススズカ、スズカマンボ、スズカフェニックス
- 馬主の出身地である三重県の鈴鹿山脈から。
- 他にも「サンレイ」や「ミスズ」(ともに三重+鈴鹿が由来)の冠名も使用し、関連会社名義では「スリー」(三重が由来)の冠名を使用する。
- ダノン:ダノンスマッシュ、ダノンプレミアム、ダノンファンタジー
- 馬主である野田順弘氏の「ノダ」を「逆」にしたもの。
- タニノ:タニノハローモア、タニノムーティエ、タニノギムレット
- 馬主である谷水氏(信夫・雄三の親子)の「谷」から。
牝馬64年ぶりのダービー馬・ウオッカも谷水氏所有だが、「父親のタニノギムレットより強くあって欲しい」という願いを、ウォッカのアルコール度数の強さ、さらに何かで割るよりストレートの方が度数が強いことにかけ、わざと冠名を使わなかったエピソードがある。
- タマモ:タマモクロス、タマモストロング、タマモホットプレイ
- 馬主のタマモ株式会社の代表の出身地・高松市にある高松城の雅称「玉藻城」より。
- チョウカイ:チョウカイキャロル、チョウカイライジン
- 馬主が在住する山形県の最高峰、鳥海山から。馬主は「ヒラボク」の冠名を使用する平田牧場の社長で、馬主名義を平田牧場の法人名義に変更してからは使われていない。
- テイエム:テイエムオペラオー、テイエムプリキュア、テイエムオーシャン
- 馬主のイニシャル「Takezono Masatsugu」に由来。また自身の所有する会社「テイエム技研」から。
- トーセン:トーセンジョーダン、トーセンラー
- 馬主の苗字である島川を音読みしたもの。
- 一時娘にダサいと言われて使わなくなったが最近復活した。
- ニシノ:ニシノフラワー、ニシノデイジー
- 馬主の西山氏の苗字から。なおかつて運営していた西山牧場での生産馬用であり、購入馬には「セイウン」の冠名を使用(セイウンスカイ、セイウンコウセイなど)。この他かつて本業で運営していたクラブから「シロー」(カブトシローなど、基本末尾)など多数の冠名を使用していた時期があるが、現在はほぼニシノ、セイウンに統一されている。
- ハナズ:ハナズゴール
- 馬主の妻の名前から「花」の1文字をとり、所有格の「Hana's」としたもの。馬主がクラブを立ち上げて以降は使われていない。
- ヒシ:ヒシマサル、ヒシアマゾン、ヒシアケボノ、ヒシミラクル
- 戦後以来現在まで三代続く馬主だが、その初代の雅号「菱雅」より。なお雅号の方は音読みして「りょうが」と読む。
- ビワ:ビワハヤヒデ、ビワハイジ
- 馬主の出身地である滋賀県の琵琶湖より。
- フサイチ:フサイチコンコルド、フサイチパンドラ、フサイチペガサス、フサイチホウオー
- 馬主名(関口房朗)+一番の造語。
- マチカネ:マチカネフクキタル、マチカネタンホイザ、マチカネイワシミズ
- 馬主の出身地である大阪府の待兼山より。
- マジン:マジンプロスパー
- 馬主である佐々木主浩氏の現役時代の異名「ハマの大魔神」より。
- 現在はほぼこの冠名を使用せず、馬名の一部に「ヴ」を用いる馬名(ヴィブロス、ヴィルシーナなど)を使用している。
- ミッキー:ミッキーロケット、ミッキースワロー
- 馬主である野田みずき氏の「ミズキ」が由来。みずき氏はダノンの野田順弘氏の妻でもある。
- メイショウ:メイショウサムソン、メイショウドトウ、メイショウマンボ、メイショウボーラー
- 馬主の出身地である明石を含め、「明石の松本」を音読み。
- メジロ:メジロマックイーン、メジロライアン、メジロドーベル、メジロパーマー
- 親会社の所在地である東京都豊島区目白から。
- モエレ:モエレエスポワール
- 札幌市内にある「モエレ沼」及び、その付近で馬主が営んでいた「札幌モエレ健康センター」より。
- モズ:モズアスコット、モズカッチャン、モズスーパーフレア
- 馬主の出身地である大阪府堺市百舌鳥(もず)より。
2. 自身の運営、所有する企業や団体や生産・育成された牧場
- ウイン:ウインバリアシオン、ウインクリューガー、ウインブライト
- ウインレーシングクラブより。
- エイシン:エイシンフラッシュ、エイシンプレストン、エイシンヒカリ、エイシンチャンプ
- 栄進堂から。かつては所有者区別のため「エーシン」も使用していた。
- エリモ:エリモジョージ、エリモシック、エリモハリアー
- えりも牧場より。
- オウケン:オウケンブルースリ、オウケンムーン
- 桜拳塾より。
- オメガ:オメガパフューム
- オメガコンサルタンツより。
- キョウエイ:キョウエイプロミス、キョウエイタップ、キョウエイマーチ
- キョウエイアドインターナショナルより。
- ケイアイ:ケイアイノーテック、ケイアイドウソジン
- 啓愛義肢材料販売所より。
- サクラ:サクラローレル、サクラバクシンオー、サクラスターオー、サクラチトセオー
- さくらコマースより。
- シービー:ミスターシービー、シービークイン、シービークロス
- 千明牧場のローマ字イニシャル「Chigira Bokujo」から。
- シルク:シルクジャスティス、シルクライトニング、シルクフェイマス
- シルクレーシングより。牝馬には「シルキー」(シルキーラグーンなど)を使用していたが、社台グループ傘下入り以降は使用していない。
- シンボリ:シンボリルドルフ、シンボリクリスエス、シリウスシンボリ、スピードシンボリ、アイルトンシンボリ
- シンボリ牧場(旧称新堀牧場)から。牧場名の由来は創業地の地名・新堀(千葉県成田市)。
- ゼンノ:ゼンノロブロイ、ゼンノエルシド
- 株式会社ゼンリンから。
- タイキ:タイキシャトル、タイキブリザード、タイキシャーロック
- 社名(大樹ファーム)とその所在地である北海道の「大樹町」から。主に牡馬に使用する。
- ダイタク:ダイタクヘリオス、ダイタクヤマト、ダイタクバートラム
- 大拓株式会社より。
- ダイナ:ダイナガリバー、ダイナアクトレス、ダイナフェアリー
- 社台レースホースと提携していた日本ダイナースクラブから。
- ダイワ:ダイワスカーレット、ダイワメジャー、ダイワエルシエーロ
- 大和商事より。
- シンコウ:シンコウラブリイ、シンコウフォレスト、シンコウウインディ
- 新興産業より。
- トウカイ:トウカイテイオー、トウカイローマン、トウカイポイント、トウカイトリック
- 東海パッキング工業より。
- トウショウ:トウショウボーイ、シスタートウショウ、スイープトウショウ
- トウショウ牧場より。
- トーホウ:トーホウジャッカル、トーホウエンペラー、トーホウドリーム
- 東豊物産より。
- ニホンピロ:ニホンピロウイナー、ニホンピロアワーズ、ニホンピロジュピタ
- 日本ピローブロック(現:FYH)から。年により「ニホンピロー」だったりする。
- バイオ:マジェスティバイオ、アクティブバイオ、アニメイトバイオ
- 会社名「バイオ」そのまま。基本末尾につける。
- バローズ:ロジャーバローズ
- 株式会社バローズより。
- ピサ:ヴィクトワールピサ、フェラーリピサ
- ピサダイヤモンドより。
- ヒラボク:ヒラボクロイヤル、ヒラボクディープ
- 平田牧場より。
- ホッコー:ホッコータルマエ
- 北海土建工業より。
- マルカ:マルカシェンク、マルカラスカル
- 丸河産業より。
- メイケイ:メイケイペガスター、メイケイエール
- 名古屋競馬(中京競馬場の施設をJRAに貸し出す第三セクターの会社)より。
3. 英単語など、外国語
- アドマイヤ:アドマイヤベガ、アドマイヤグルーヴ、アドマイヤドン、アドマイヤムーン、アドマイヤマーズ
- 英語で「賞賛・感心」を意味する「admire」。
- サクセス:サクセスブロッケン
- 英語で「成功」を意味する「Success」。
- コスモ:コスモバルク、コスモファントム、コスモオオゾラ
- 英語で「宇宙」を意味する「Cosmo」。
- オーナーはマイネル総帥・岡田繁幸氏の奥さんであり、取材などは繁幸氏が「オーナー代行」として応じていた。
- サニー:サニーブライアン
- 英語で「晴れ」を意味する「Sunny」。
- シチー:タップダンスシチー、エスポワールシチー、ゴールドシチー、キョウトシチー
- 英語で「街、市」を意味する「City」。
- スワーヴ:スワーヴリチャード
- 英語で「物腰柔らか」を意味する「Suave」。馬主の苗字「諏訪」にもかけている。
- ダッシャー:ダッシャーゴーゴー
- 英語で「元気のいい人」を意味する「Dasher」。
- デルマ:デルマルーヴル、デルマソトガケ
- 英語で皮膚科を意味する「Dermatology」。馬主が皮膚科の医院を経営していたことから。
シゲル軍団と同様、冠名の後ろにつける個々の名前は年ごとにジャンルを決めている(例えば「ルーヴル」の年は「フランスの名所」だった)。
- マイネル:マイネルマックス、マイネルホウオウ、マイネルキッツ、マイネルラヴ
- 独語で「私の」を意味する「Meiner」。2011年産駒まで牝馬に女性形の「Meine」を使用していた。
- レッド:レッドリヴェール、レッドファルクス、レッドディザイア
ルージュ:ルージュエヴァイユ
- 英語で「赤」を意味する「Red」。馬主クラブが赤の勝負服を使うことから。2018年産駒の牝馬からフランス語で同じく「赤」を意味する「Rouge」も使用している。
- ロード:ロードカナロア、ロードクエスト、ロードマイウェイ
- レディ:レディパステル
- 「ロード」は英語で「君主」を意味する「Lord」(一口クラブ「ロードホースクラブ」にも由来)。「レディ」は英語で「女性」を意味する「Lady」。牡牝で使い分けている。
- また、ロードホースクラブは「モエレ」の馬主である中村和夫氏の関係先であり、中村が個人で所有していた馬にも「ロード」の冠名が付いていたことがある(ロードバクシンなど)。
4. 思い入れのある馬
- エア:エアグルーヴ、エアジハード、エアシャカール
- 馬主の所有馬であり、マイケル・ジョーダンとコラボしたスニーカーから名付けたエアジョーダンが活躍したことから。
- カフェ:マンハッタンカフェ、イーグルカフェ、カフェファラオ
- はじめて所有したカリブカフェが5勝と活躍した事が由来。現在は息子が引継ぎカフェファラオ等を所有している。
- グラス:グラスワンダー
- 馬主の兄が所有していたグリーングラスに由来。
- チョウサン:オジュウチョウサン
- 馬主の所有馬であるチョウサンが活躍した事から。元は馬主姓の長山(ながやま)の音読み。
- ネコ:ネコタイショウ
- 馬主の所有馬であり、ネコ科のサーバルから命名したネコパンチが活躍したことから。「パンチ」を末尾につける命名もある。
- ラブミー:
- 馬主の所有馬であるラブミーチャンが活躍した事から。元は愛(ラブ)+人の愛称(~ちゃん)。
- 馬主はこちらも小林祥晃(Dr.コパ)。
5. その他
- カラノテガミ:パリカラノテガミ
- デュエット曲「カナダからの手紙」が由来。馬名の末尾につける。
- ダンツ:ダンツシアトル、ダンツフレーム
- オーナーが馬主になった頃に購入した絨毯「段通」に由来。
- ドウカン:ドウカンヤシマ
- 馬主が江戸城を築城した太田道灌の子孫である事から。
- ナリタ:ナリタタイシン、ナリタブライアン、ナリタトップロード
オースミ:オースミハルカ、オースミブライト、オースミダイナー
- 「ナリタ」は馬主宅の近所にある寺、成田山明王院(新勝寺別院)にあやかったもの。
- 「オースミ」は馬主の出身地の鹿児島県・大隅半島に由来。この2つは所属厩舎により使い分けられている。
- マルターズ:マルターズアポジー
- 馬主の愛犬の犬種マルチーズから。同じ理由で「シベリアン」を使用することもある。
- ヤマニン:ヤマニンスキー、ヤマニングローバル、ヤマニンゼファー、ヤマニンシュクル、ヤマニンアラバスタ
- 馬主の屋号「ヤマニンベン」の短縮形。
- リーゼント:リーゼントロック
- 馬主である三浦大輔氏の髪型より。
その他、由来不明等多数
6. 海外馬主の冠名
- 蝦王(King Prawn):靚蝦王(Fairy King Prawn)
- 香港の劉錫康の冠名。馬主の好物から。
- 奇妙(Fantasy):極奇妙(Ultra Fantasy)
- 香港の林大輝の冠名。
- 美麗(Beauty):美麗傳承(Beauty Generation)
- 香港の郭浩泉の冠名。
関連動画
適当に日本競馬のレース動画を見れば、大抵冠名有りの馬が走っている。
関連コミュニティ
関連項目
脚注
- *いわゆる「北島音楽事務所」である。
- *元々は北島三郎の妻が経営していたが、現在は次男が経営している。