反軍演説 単語


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いわゆる「反軍演説」と通称されるものは、1940年国会にて国会議員斎藤隆夫」が行った演説である。

概要

立憲民政党所属の衆議院議員齋藤󠄁夫」(斎藤隆夫)が、第75回帝国議会衆議院会議にて昭和15年西暦1940年2月2日に、政府に対して行った質問演説である。

「反軍」演説と通称されることが多いが、その有名な呼称に反して「内容自体を見れば別段反軍義というわけではない」という摘はよくなされる。内容としては、「八紘一宇」などの「精神論」を批判する部分を含むものの、には「支那事変日中戦争)が泥沼化しているが、政府はどう収拾を付けるつもりなのか」という現実的な政府対応を問うものであった。

また、「反軍」演説と言う呼称のイメージから「平和主義演説だ」と誤解する人もいるかもしれない。だが、実際には全く「平和主義」の演説ではない。演説の中では「支那事変は損も多かったが戦果も多大であり日本全土の二倍以上を占領するに至っている、それなのに「近衛明」を文字通り実行すると終戦の際にこの占領地を放棄することになってしまう」と戦果を惜しんでいるような箇所がある。さらに、弱肉強食世界観を披露しつつ「恒久的平和など得られない。幻想だ」という趣旨の持論を展開している箇所もある。

本記事内でもその演説のうち、帝国議会議事録に残されている部分を転載する(その後に全体の要約も付する)ので、実際にどういった内容かは読んで確認されたい。

だが、この質問演説が「反軍的だ」という趣旨を含む強い批判を招いたことも事実である。その演説内容の後半約三分の二は帝国議会の議事録から削除されてしまった。さらに斎藤立憲民政党から離党勧告を受け、さらには議員除名の処分を受けるに至った(ただし、翌々年に行われた選挙当選し議員に返り咲いた)。

この「国会において議員から、政府や軍の唱える精神論を批判しつつ、政府戦争に関する今後の方針の説明をめるような質問が行われた」「だが、それだけでも「反軍的だ」などと批判され、質問を行った議員は除名されてしまった」という出来事が、政府や軍に異を唱えることを是としない挙一致をす新体制運動の流れを促進し、「各政党の解党を経ての大政翼賛会の結成」などといった全体主義的な政治形態への転換にもつながったという見方もできる。

前半約三分の一部分の転載

ここに掲載したのは、議事録に残されている前半部分である。「帝国議会会議録検索システム」で閲覧できるテキスト化データexitを元にして、OCR読み取りミス等と思われるもの各所[1]を訂正しつつ、文意から句点段落変更を補ったものである。

議事録から削除されてしまった後半部分についても、様々な書籍等に収録されている。較的的なものとしては、『戦史書』のうち『大本営陸軍部 大東亜戦争開戦経緯<1>』内に、付録二月二日議会ケル齋藤代議士ノ質問演説速記(抜)」として収録されている。これは防衛省防衛研究所の公式サイトexit内、「史料室exit」>「戦史叢書シリーズ一覧exit」>「開戦経緯シリーズexit」のページ開されているため、ウェブ上で閲覧できる。

支那ガ勃シマシテカラ既ニ二年有半ヲ過ギマシテ、外ノ情勢ハ益々重大ヲ加ヘテ居ルノデアリマス

リマシテ一月十四日、モ議後ニキマシ阿部閣ガ辭職シテ、現閣ガ成立シ、組閣二週間ノ後ニテ初メテノ議ニ臨マルルコトニ相成ツタノデアリマス理大臣ヲ首メトシテ、閣僚諸君ノ御苦心ヲ十分ニ御察シスルト共ニ、ノ爲ニ切ニ御健在ヲ祈ル者デアリマス

首相ハ組閣下ニ向ツテ、現閣ノ政策ヲセラレタノデアリマシテ、々ハ新聞紙ヲ通ジテ、之ヲ承知致シテ居ルノデアリマス。併シ其ノ政策トスルモノハ、僅ニ題ベタニ過ギナイノアリマシテ、諸般ノ政策ハテ陳述スルト附加へテアリマス

ソレ故ニ昨日ノ御演聽致シタノデアリマスルガ、相ラズ抽的ノ大要ニ過ギナイノアリマシテ、之ニ依ツテ政ニスル現閣ノ抱負綸ヲ知ルコトハ論出ナイ。併シナガラ私ハ今日ノ場合ニテ、是等ノ問題、チ第一ハ支那理、第二ハ際問題、第三ハ問題、是等ノ三問題全部ヲ通ジテ質問ヲ致ス時間ノ持合セモアリマセヌカラ、ノ中ノ中心問題デアリマスル所ノ支那理、之ニ付テ私ノ卑見ヲ述ベツツ、トシ理大臣ノ御意見ヲメテ見タイノデアリマス

支那理ハ申スマデモナク非常ニ重大ナル問題デアリマス今日政治問題トシテ是以上重大ナル所ノ問題ハナイ。ノミナラズ今日政治ハ何レモ支那ヲ中心トシテ、ノ周ニ動イテ居ルノデアルソレ故ニ々ハ申スニ及バズ、全民ノ聽カントスル所モ固ヨリニ在ルノデアリマス。一支那ハドウナルモノデアルカ、何時ムノデアルカ、何時マデクモノデアルカ政府支那スルト明シテ居ルガ、如何ニ之ヲ理セントスルノデアルカ民ハ聽カント欲シテ聽クコトガ出ズ、ノ議ヲ通ジテ聽クコトガ出ルト期待セナイ者ハ恐ラク一人モナデアラウト思フ。

曩ニ近閣ハ事ヲ起シナガラ其ノ結末ヲ見ズシテ退却ヲシタ。平沼内閣ハ御承知ノ通リデアル阿部閣ニ至ツテ初メテ事理ノ爲ニ邁進スルト明シタモノノ、民ノ前ニハ事理ノ片鱗ヲモ示サズシテ辭職シテシマツタ。

閣ニ至ツテ初メテノ問題ヲノ議ラ通シテ民ノ前ニ曝ケ出ス所ノ機ニ到シタノデアリマス。是ニテ私ハ理大臣ニ向ツテ極メテ率直ニ御尋ヲスルノデアル支那スルトハルルノデアルガ、其ノセラルルハ如何ナルモノデアルカ、其ノ容ハ如何ナルモノデアルカ、私ガ聽カントスル所ハニ在ルノデアリマス

私ノ見ル所ヲ直言致シマスルナラバ、元ノ事ニ付キマシテハ、支那側ハ申スニ及バズ日本キマシテモ確ニ見込違ヒガアツタニ相違ナイノアリマスヨリマスルナラバ、其ノ初メハ所謂現地解決、事大ノ方針ヲ立テラレタノデアリマスルガ、其ノ方針ハ支那側ノ挑行爲ニ依ツテ立ドコロニ裏切ラレ、其後事ハ日ニ大シ、躍進ニ躍進ヲ重ネテ遂ニ今日ノ現ヲ見ルニ至ツタノデアリマス支那側ノ見込違ヒ、是ハ言フヲ要シナイノアリマス

ニ御考ノ爲ニ引用スベキ文書ガアリマス。是ハ昨年十二月十三日、内閣情報ヨリセラタル所ノ週報デアリマスルガ、ノ中ニ「支那ヲ解決スルモノ」ト題シテ支那派遣軍報道部長ノ名ヲ以テ一ノ論文ガ揭載セラレテ居ルノデアルノ中ニ如何ナルコトガ現ハレテルカト見ルト、「抑々ハ、支那人、殊ニ介石ノ日本スル認識不足ト、其ノ日本力誤算カラ出シ、又日本支那スル究不足ト認識不足トニ依ツテ始メラレ、又深メラレテタ」々ト記載サレアルノ度ノ事支那日本スル所ノ認識不足、又日本支那スル所ノ認識不足、ノ二ツノ原因ニ依ツテ始メラレ、又是ガ深メラレタモノニ相違ナイ。

シナガラツテ考ヘテ見マスルトノ認識不足ナシト雖モ、日支ノ間ニキマシテハ晩一大事ガ起ラザルヲ得ナイ其ノ禍根ガ、何レノ所ニカ隱レテ居ツタ、其ノ機運ガ熟シテ居ツタ、ソレガ彼ノ北支ノ一ケル支那側ノ不法射撃ノ事ニ觸レテ外部ニ爆シタニ過ギナイノアリマシテ、是ハ仕方ガナイ、所謂運命アリマス間ニ蟠ル所ノ運命アリマスカラ、是ハ仕方ガナイ。

シナガラ其ノ後事ハ益々進展シテ、彼ノ勢力ニ勝敗ノ決モ明ニナリマシタ以上ハ、成ベク速ニノ事拾スル、サウシテ出ルナラバ再ビ斯ノ如キ事ガ起ラナイヤウニ、日支ノ間ニハル一切ノ禍根ヲ芟除シテ、以テ和復ヲ促進スルコトハ日本政治家責任アルノミナラズ、支那政治家責任アルト私ハ思フノデアリマス

問題ハドウシテ是等ノ禍根ヲ取除クコトガ出ルカ、ドウシタナラバノ安全ヲ保障スルコトガ出ルカ々ハ支那ノ立場ヲ考フルト共ニ、トシ日本ノ立場ヲ考ヘネバナラヌノデアル。ソコデ先ヅ第一ニ々ガ支那理ヲ考フルリマシテハ、寸時モ忘レテナラヌモノガアルノデアリマスソレハ何デアルカ。外ノ事デハナイ。ノ事ヲ遂行スルニリマシテ、過去二年有半ノ長キニツテ民ガタル所ノ大ナル牲デアルノデアリマスノ間ニキマシ民ガタル所ノ犠牲、チ遠クハヲ越エテ彼ノ地ニスル所ノ万二万ノ兵諸士ヲ初メトシテ、近クハ之ヲ後援スル所ノ民ガタル生命、自由、財其ノ他一切ノ犠牲ハ、ノ壇上ニキマシテ如何ナル人ノ口舌ヲ以テスルモ、其ノ分ノ一ヲモ盡スコトハ出イノアリマス

拍手

モ是等ノ牲ハ今日ヲ以テ終リヲ告ゲルノデハナイ。シキル、今後幾年ニルカフコトハ、今日何人ト雖モ言スルコトガ出ナイニアルノデアリマスノ度ノ事ハ、名ハ事ルケレドモ、其ノアルモ建未ダ曾テザル所ノ大アリマス。隨テ其ノ犠牲ノ大ナルト共ニ、其ノ果ニ至ツテモニ驚クベキモノガアル昨日ノ議場ニ陸軍大臣ノ御話ガアリマシタ通リ、今日ノ現ヲ以テ見マスルナラバ、軍ノ占領地域ハ日本全土ノ二倍以上ニ跨ツテ居ルノデアリマスシテ是等ノ占領ハ如何ニシテ爲サレタモノデアルカ。何レモ忠勇義ナル皇軍死闘ノ結果デアルチ是ガ爲ニハ、十万ノ兵ハ場ニ屍ヲ埋メテ居ルデアリマセウ。之ニ幾倍スル十万ノ兵ハ、悼マシク傷ニ苦シンデ居ルデアリマセウ。万ノ皇軍ハ今尙ホ場ニ留マツテ、有ユル苦難トツテ居ルニ相違ナイ。斯クシテ得ラレタル所ノ果、斯クシテ現ハレタル所ノノ事、之ヲ眼中ニ置カズシテハ、何人ト雖モ事理ヲ論ズル資格ハナイ。

(「ヒヤヒヤ」拍手

諸君モ御承知ノ如ク、ハ曾テ四十年前ニ支那ツタ。三十年前ニ露西ツタ。是等ノハ何レモ運ヲ賭シタルデアツタニ相違ハゴザイマセヌガ、今マスルナラバ、其ノ規模ノ大ナルコト、其ノ牲ノ大ナルコト、日ヲ同ジクシテ語ルベキモノデハナイ。然ルニ是等ノハ如何ナル件ヲ以テ、和復ヲ見ルニ至ツタカフコトハ、歷史ガ之ヲ明記シテ居リマスルカラ、ニ述ベル必要ハナイ。ソレ故ニ之ヲ過去歷史ニ鑑ミ、又之ヲ東亞ケル大日本帝國ニ鑑ミ、之ヲ基礎トシテ、以テ事理ノ容ヲ充スルニアラザレバ、出征ノ士ハ言フニ及バズ日本民ハ斷ジテ之ヲ承知スルモノデハナイ。

(「ヒヤヒヤ」拍手

政府テ其ノ用意ガアルカナイカ、私ガ問ハントスル所ハニアルノデアリマス首相ハ事理ニ付テハニ確乎不動ノ方針ガ定メラレテ居ル、斯クセラレテ居ルノデアリマスルガ、其ノ方針トハ何デアルカ。所謂近明ナルモノデアルニ相違ナイ。チ一昨年十二月二十二日ニセラレタ所ノ近明、是ガ事理ニスル不動ノ方針デアルコトハ、申スマデモナイコトデアリマス

所ガ私ハ元ノ近明ナルモノニ向ツテハ、聊カ疑ヲ抱イテ居ルノデアリマスノ際誤解ヲ防グガ爲ニ御斷リヲシテ置キマス。キツパリト御斷リヲシテ置キマスルガ、私ハ今ニ近明ニ反ヲスル者デハナイ。サリトテ贊成ヲスル者デモナイ。贊成ヲスルカヲスルカハ、政府明ヲ聽イテ、然ル後ニテ考ヘル積リデアリマス

拍手

今日ハ質問デアリマス。質問ハンデ字ノ如ク疑ヲ質スノデアルソレ故ニノ考ヲ以テ御聽取ヲ願ヒタイノデアリマス

明ノ中ニハドウフコトガ含マレテルカト言ヒマスルト、大五ツノ事柄ガ示サレテ居ルノデアリマス。其ノ一ツハ支那ヲ尊重スルトフコトデアル。第二ハ領土ヲ要シナイ、償金ヲ要シナイトフコトデアル。第三ハ係ニ付テハ、日本上ノ占ヲヤラナイトフコトデアル。第四ハ支那ケル第三益ニ付テハ、之ヲ制限セヨトフ如キコトヲ支那政府ニハ要シナイ。第五ハ防共地域デアル所ノ附近ヲ取除ク其ノ他ノ地域ヨリ日本軍ヲ撤兵スルトフコトデアリマスノ五ツガ近衛明ニ含マレテ居ル所ノ要項デアル

シテ明ハ日本ミニスル明デナケレバ、又支那ミニスルデモナイ、ニ全世界スル所ノ明デアリマスルカラ、如何ナルコトガアツテモ之ヲ更スルコトガ出ルモノデハナイ。ニ是ハ更ヲ許サナイノアル。若シ苟且ニモ之ヲ更スルガ如キコトガアリマスナラバ、際的信用ハ全ク地ニ墜チテシマフノデアリマス

ソレバカリデハナイ、御承知ノ如ク彼ノ汪兆銘氏、同氏ハノ近明ニ呼シテ立上ツタノデアルノ近明ヲ本トシテ、和ノ旗ヲ押シ立テテ、新政立ニ向ツテ進ンデテ居ルノデアル。其ノ後同氏ハ屢々明書ヲ表シテ居リマスルガ、明書ヲ見マスルト尾近明ヲ文字通リ、額面通リニ解ヲシテ居ルノデアルチ同氏ガ屢々、表シマシタ所ノ明書、明書ニ現ハレテ居ル所ノ文句ヲ、其ノ儘取ツテテ綜合シマスルト、斯ウフコトニナルノデアリマス。近明ノ如クデアツタナラバ支那ニ取ツテハ別ニ不利益ハナイ。日本明ニ依ツテ全ク侵略義ヲ抛棄シタノデアル日本ハ是マデ侵略義ヲ執ツテ居ツタガ、近明ニ依ツテ侵略義ヲ抛棄シタノデアルト言ウテ居ル。日本侵略義ヲ抛棄シタトフコトハ、軍事上ニテハ征ラズ、上ニテハ占ヲ考ヘナイトフコトデアル。斯クノ如ク日本中ニテ反省シタル以上ハ、中深ク自ラ反省スル所ガアツテ、一日モ速ニ和現セネバナラヌ。シテ斯ノ如キ和等ノ立場ニテ結バネバナラヌ。勝者ガ敗者ニスル態度ハ一切抛棄スベキデアル。隨ツテ和件ハ決シテ支那自由スルモノデハナイカラ、何人ト雖モ和現ヲ拒ムコトハ出ナイ。明書ニ現ハレテ居リマスル所ノ文句ヲ其ノ儘取ツテテ綜合スルト、斯ノ如キモノニナルノデアル。サウシ明ヲ表シテ爾一年有ノ間、和運動ノ爲ニ進ンデテ居ルノデアリマスソレデスカラ御承知ノ通リ支那民衆、介石一ヨリニ言フニ堪ヘザル所ノ攻擊ヲ受ケ迫セラレ、身ヲ挺シテ和運動ノ爲ニ進軍シテテ居ルノデアリマスソレ故ニ同氏ノ立場カラ見レバ、明ヲバ裏切ルコトハ出ナイ。若シ之ヲ裏切ルガ如キコトガアリマシタナラバ、和運動、延イテ新政立ハ根本カラ崩壞セラレテシマフノデアル

是ニテ私ハ政府ニ向ツテ御尋ヲスルノデアル支那理ノ範容ハ如何ナルモノデアルカ。重ネテ申シマスルガ、支那全ニ尊重スル、支那全ニ尊重スル以上ハ、支那政治ニ向ツテハ苟且ニモ干渉ガマシキコトハ出ナイ。若シ干渉ガマシキコトヲ爲シタナラバ、支那ハ立ドコロニ侵セラレルノデアル。領土ハ取ラナイ、償金ハ取ラナイ。支那ノ爲ニドレダ日本費ヲ費シタカフコトハ私ハク分リマセヌ。併シナガラ軍費トシ々ガノ議テ協賛ヲ致シマシタモノダケデモ、今年度マデニ約二十億年度ノ軍費ヲ合算致シマスルト七十億。是カラ先ドレダケノ額ニ上ルカハ分ラナイ。二ニナルカ三百ニナルカソレ以上ニナルカ一切分ラナイ。ソレ等ノ軍費ニ付テハ一厘一毛ト雖モ支那カラ取ルコトハ出ナイ、悉ク日本民ノ負トナル、日本民ノヲ苦シメルニ相違ナイ。又開發ニ付テハ、決シテ日本ノミガ占ヲシナイ。支那開發フコトガ叫バレテ居リマスルガ、是モ日本ダケガ占ヲスベキモノデハナイ、第三益ヲ制限スルガ如キコトハ支那政府ニ向ツテハ要シナイ。是マデ政治家民ノ前ニ何ト叫ンデ居ツタカノ度ノ支那ハ、支那ヨリノ勢力ヲ驅逐スル、植民地態、第三カラ搾取セラレテ居ル所ノ支那解放シテ、之ヲ支那人ノ手ニ戾スノデアルト叫ンデ居ツタノデアリマスガ、是ハ近明トハ全然矛盾スル所ノ一場ノ空言デアツタトフコトニ相成ルノデアリマス。其ノ他占領地域ヨリ日本軍全部ヲ撤兵スルトフノデアルル所ニ何ガアルカソレガ私ニハ分ラナイノアリマス。殊日本軍ノ撤兵ニ付テハ、汪兆銘氏ガ如何ナルコトヲ言ウテ居ルカフト、第一次明ノ中ニ斯ウフコトガ現ハレテ居ル。近明ニテ特別重要ナル點ハ日本軍支那カラノ撤兵デアル。サウシテ其ノ撤兵ハ全部ガ急速ニ且ツ有ユル方面ニテ一ニ行ハレネバナラヌトフコトデアルチ撤兵ハ、全部ガ急速ニ、有ユル方面ニテ、一ニ行ハレネバナラヌトフコトデアル提案セラタル所ノ日支防共協定ノ存期間ニ限ツテ、日本軍ノ駐屯スベキ所謂特定ノ附近ノミニ制限セラレナケレバナラナイ。斯ニ汪兆銘氏ハ明シテ居リマスルガ、之ヲ近明ト照シマスルト、少シモ間違ヒハナイノアリマス。然ル以上ハ是ヨリ新政手ニ和工作ヲ爲スニリマシテハ、支那ノ占領域カラ日本軍ヲ撤退スル。北支ノ一附近ヲ取除キタル其ノ他ノ全占領地域ヨリ日本軍全部ヲ撤退スル。過去二年有半ノ長キニツテ、ニハ全民ノ後援ノ下ニ、外ニテハ皇軍シテ進軍シマシタ所ノノ占領地域ヨリ日本軍全部ヲ撤退スルトフコトデアル。是ガ近明ノ趣旨デアリマスカ。政府ノ趣旨ヲ其ノ儘行スル積リデアリマスカ。是ガ私ハ聽キタイノアリマス理大臣ハ言フニ及バズ、軍部大臣ニテモノ點ニ付テハ御明ヲ煩ハシテ置キタイ。

次ニ事理ニ付テハ東亞ノ新秩序建設トフコトガ繰返サレテ居リマスノ言葉ハ昨日ノ議場ニテモドレダケ繰返サレテ居ルカ分ラナイ。元ノ言葉ハ事ノ初メニハナカツタノデアリマスガ、事後約一年半ノ後、チ一昨年十一月三日近閣ノ明ニ依ツテ初メテ現ハレタ所ノ言葉デアルノデアリマス東亞ノ新秩序建設トフコトハドウフコトデアルカ昨日外務大臣ノ御言葉ニモアツタヤウニ思ヒマスガ、近頃新秩序建設トフコトハノ東洋ニバカリデハナイ、テモノ言葉ガ現ハレテ居ルノデアリマス。併シナガラケル新秩序ノ建設トフモノハ、詰リ持タザルガ持テルニ向ツテ領土ノ分割ヲ要スル、チ一種ノ際的共義ノ如キモノデアリマスガ、其ノ後ノ情ヲ見マスルト全然反アル。隨分持テル所ノ大ガ持タザル所ノ小弱迫スル、迫スル、併スル、一種ノ弱强食デアル。茲ニ至ツテケル新秩序建設ノ意味ハ全ク支離滅裂、暴極マルモノデアリマス。併シノコトハドウデモシ宜イ。ケル新秩序ノ建設ナドハ、々ニテ顧ル必要ハナイ。東亞ケル新秩序建設ノ容ハ如何ナルモノガアルカ。是モ近明及ビ之ニ呼タル所ノ汪兆銘氏ノ明ヲ照シテ見マスルト、新秩序建設ニハ確ニ三ツノ事柄ガ含ンデ居ル。ソレハ何デアルカ。第一ハ善隣友好トフコトデアル。第二ハ共同防共デアル。第三ハ提携デアリマス。是ガ是マデノ公文書ニ現ハレテ居ル所ノ新秩序建設ノ内容デアリマスルガ、政府ノ見ル所モ之ニ相違ナイノアルカ。新秩序建設トフコトガ野ノ間ニテ屢々謳ハレテ居ルノデアリマスルガ、其ノ新秩序建設ノハ以上述ベタル三ツノコトニ過ギナイノアルカ。尙ホノ外ニ何モノガアルノデアルカ。ナケレバ宜シイ、アルナラバソレヲ聽キタイ。アツテモ言ヘナイトハルルナラバソレモ宜シイ。是ホドク、是ホド强ク高調セラレテ居ル所ノ的デアリ牲ノ的デアル所ノ東亞新秩序建設ノハ、政府ノ見ル所ハ何デアルカ。之ヲ承ツテ置ケバ宜シイノアリマス

之ニ聯シテ御尋ヲシテ置キタイコトガアルニ昨年十二月十一日附ヲ以テセラタル東亞新秩序答申案要旨トフモノガアル。是ハ院ニテ委員ヲ設ゲテ審議セラタル所ノ其ノ答申案デアリマス。之ヲ見マスルトフト、々ニハ中中難カシクテ分ラナイ文句ガ大分ベテアルチ皇的至上命、「ウシハク」ニ非ズシテ「シラス」コトヲ以テ本義トスルコトハガ皇根本原則、支那王道ノ理想、八紘一宇ノ皇謨、中々是ハ難カシクテ精神講話ノヤウニエルノデアリマシテ、私共政治ニ頭ヲ突込ンデ居ル者ニハ中々理解シ難イノアリマス

拍手

併シソレハ別ト致シマシテ、近頃ニナツテ東亞新秩序建設ノ原理原則トカ、精神的基礎トカスルモノヲ、特ニ委員デモ設ケテシナクテハナラヌトフコトハ一ドウフコトデアルカ東亞新秩序建設ハノ大ノ大犠牲ノ的デアルノデゴザイマス。然ルニノ犠牲、的デアル所ノ東亞新秩序建設ガ、事約一年半ノ後ニテ初メテ現ハレ、更ニ一年ノ後ニテ特ニ委員デモ設ケテ、其ノ原理、原則、精神的基礎ヲシナクテハナラヌトフコトハ、私共ニテハドウモ受取レナイノアリマス

拍手

ノ點ハ理大臣ニ限ラズ、院ノ裁デ宜シイノアリマスカラシテ、何故院ニテハ特ニ委員デモ設ケテ、斯ウフコトノ究ニ著手セラレタノデアルカ、之ヲ聽イテ置キタイノアリマス

要点を言え、要点を!

小田栄君「要点ヲ言エ、要点ヲ」ト叫ビ、ソノ他発言スル者多シ)

議長(小山寿君)
静粛ニ願ヒマス小田君ニ注意致シマス

確かに長いので、小田君らが不満を述べるのも理もないことであります

そこで、要約を箇条書き形式で記す。

議事録に残されている前半約三分の一部分の要約

  • 支那事変日中戦争)が勃発して二年経過した。この処理は重大な問題である。だから米内光政総理大臣にこの件について質問する。
  • 日本側と中国側の見込み違いから発生した戦争だが、起こってしまったものは仕方がない。収拾をつけなければならないが、これまで日本国民が払った生命自由財産などの多大な犠牲についても視野に入れて論じなければならない。
  • この支那事変の処理についての方針は、近衛文麿首相によるいわゆる「近衛明」なのだろう。この明には「日本は領土の割譲も賠償金も請しないし、権益もしないし、日本軍は撤兵する」といった事が含まれている。
  • この明は反故にすることができない。各からの信用を失うし、例の汪兆銘政権もこの「近衛明」を前提として日本と協調してくれているからだ。
  • だが、「近衛明」をそのまま実施すると、わがが多大な犠牲を払って得た占領地を手放した上、領土割譲も賠償金も権益もめないということになるが、本当にそれでいいのか?
  • また、処理について「東亜の新秩序建設」と言う言葉が開戦から一年くらい経ってやはり近衛文麿内閣から出てきて、以後繰り返されている。だが具体性がないのでこの「東亜の新秩序建設」がどういうことかわからない。汪兆銘政権は「善隣友好」「共同防共」「経済提携」ということだと理解しているようだがそれで間違いないのか?
  • あと、近頃その「東亜の新秩序建設」の原理原則、精神的基礎について委員会まで発足させて研究し始めたようだが、この大戦争的について「開戦から一年経って出てきて、更に一年経ってその内容について研究を開始する」というのはどういうことか。

議事録から削除された後半約三分の二部分の要約

  • 八紘一宇の精神で、世界平和のために戦っている戦だ、先の利益など顧みない」と仰るのかもしれない。だが高邁な理想に拘って現実を見ない策はただの想だ。
  • 歴史を見てみればわかる。恒久的平和など断じて得られないと思う。また、正義が勝つのが戦争ではない。戦争は力の争いだ。戦の美名に隠れ、やれ共存共栄だのやれ平和だのの精神論のせいで国家年の計を誤るわけにはいかないだろう。本当に近衛明を不動の方針としてよいのか?
  • また、汪兆銘政権中国の新政府として、蒋介石重慶政府は和交渉の相手にしない、そういう方針らしいが大丈夫か。汪兆銘政権は武力不足に見えるし、最近重慶政府に停戦講和の電文を打ったりもしているところを見るととの関係が変わらず円満に行くのか不安も感じる。
  • 軍部では「重慶政府徹底抗戦するだろう、だから撃滅する必要がある」と考えているようだが、前内閣阿部信行総理大臣は汪兆銘の新政府が成立したら重慶政府に働きかけて和へ動くだろう」と甘い考えを持っていたようだ。つまり軍部と政府の間で意見の相違があるようにも見えるがどういうことか。そもそも「重慶政府を交渉の相手にしない」という方針をにしているのに「汪兆銘の新政府には重慶政府との交渉をさせる」という考えは矛盾していないか。
  • 重慶政府を撃滅しつつ、汪兆銘の新政府を援助する、この二つを同時に行わなければならないわけだが、どうなのか? 言える範囲で説明してほしい。
  • それに汪兆銘の新政府にはどうも広大中国全土を統括するだけの実力があるようには見えないが、政府は彼らにその力があると確信しているのか?
  • 政府はしきりに民に精神運動をやっている。大事なことではあろう。だが民に緊せよ、耐せよというだけが政府ではないだろう。言論弾圧までされても民が耐しているのは愛し政府が解決してくれると期待しているからだ。その期待が裏切られればどうなるか。
  • 日清戦争伊藤内閣において始められ伊藤内閣が解決した。日露戦争内閣が始めて内閣が解決した。日露戦争の時は講和条約への不満から日焼討事件まで起きたがそれでも責任を負って解決してから身を引いた。だがこの支那事変では出る内閣出る内閣が収拾を付けずに辞職する。今回は繰り返すな。
  • とにかく支那事変の処理は重大な問題である。総理大臣は以上の私の質問に答えるのみならず、また抱負や政策案を自ら積極的に披露してほしい。

関連項目

脚注

  1. *「汪銘」→「汪兆銘」など
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掲示板

  • 1 ななしのよっしん

    2025/10/13(月) 21:43:06 ID: OKUfOOuUvI

    当時の価値観正義とみんなが思ってる中でこれを堂々と言ったことに意味があるって全く理解してないアホが多すぎる
    自分の価値観と違うやつの発言どことか存在すら許せん連中ほどこれを絶賛するのはもはや笑えないギャグ

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