古典アルメニア語

古典アルメニア語とは、かつて存在した言語である。

概要

現在のアルメニア語の祖先であり、インド・ヨーロッパ語族に属する5世紀以降の文献史料に記録が残る言語である。アルメニア語は当初イラン語の方言とみなされていたが、19世紀にハインリヒ・ヒュプシュマンの手によって行われた体系的な研究が画期となって、独立した語派として認定された。

上記の通りアルメニア語の文字による伝承は比較的遅く、「古典」と記されても紀元後のものである。おおよそ5世紀から11世紀ころまでを統一的な標準文法が存在したとし、単一の言語としてみなされている。

文字体系

アルメニア文字の記事を参照。

音韻体系

母音

• 単母音：/a/ (ա), /i/ (ի), /ə/、またはシュワ― (ը), /ɛ/、または広いe (ե), /e/、または狭いe (է), /o/ (ո), /u/ (ու) (ラテン文字表記ではそれぞれ、a, i, ə, e, ē, o, u)
  uは二文字で書かれるが二重母音ではない
• 二重母音：ay (այ), aw (աւ, later օ), ea (եա), ew (եւ), iw (իւ), oy (ոյ).

子音

		両唇音	唇歯音	歯茎音		硬口蓋歯茎音	硬口蓋音	軟口蓋音	口蓋垂音	声門音
				通常	軟口蓋化
鼻音		/m/ մ		/n/ ն
破裂音	有声	/b/ բ		/d/ դ				/ɡ/ գ
	無声	/p/ պ		/t/ տ				/k/ կ
	有気	/pʰ/ փ		/tʰ/ թ				/kʰ/ ք
破擦音	有声			/dz/ ձ		/dʒ/ ջ
	無声			/ts/ ծ		/tʃ/ ճ
	有気			/tsʰ/ ց		/tʃʰ/ չ
摩擦音	有声		/v/ վ	/z/ զ		/ʒ/ ժ
	無声		/f/ ֆ	/s/ ս		/ʃ/ շ			/χ/ խ	/h/ հ
接近音	側面音			/l/ լ	/ɫ/ ղ
	中線音			/ɹ/ ր			/j/ յ
ふるえ音				/r/ ռ

文法体系

名詞

単複の2数、主/対/属/与/位/奪/具の7格で、文法姓は存在しない。

活用の種類は母音語幹（a-語幹、o-語幹、i-語幹、u-語幹）、子音語幹（r-語幹、ł-語幹、n-語幹）、不規則名詞の8種類存在する。

a-語幹

	単数	複数
主格	am	amk'
対格	am	ams
属格	ami	amac'
与格	ami	amac'
位格	ami	ams
奪格	amē	amac'
具格	amaw	amawk'

o-語幹

	単数	複数
主格	get	getk'
対格	get	gets
属格	getoy	getoc'
与格	getoy	getoc'
位格	get	gets
奪格	getoy	getoc'
具格	getov	getovk'

i-語幹

	単数	複数
主格	ban	bank'
対格	ban	bans
属格	bani	banic'
与格	bani	banic'
位格	bani	bans
奪格	banē	banic'
具格	baniw	baniwk'

u-語幹

	単数	複数
主格	cov	covk'
対格	cov	covs
属格	covow	covowc'
与格	covow	covowc'
位格	covow	covs
奪格	covē	covowc'
具格	covow	covowk'

r-語幹

	単数	複数
主格	oskr	oskerk'
対格	oskr	oskers
属格	osker	oskerac'
与格	osker	oskerac'
位格	osker	oskers
奪格	oskerē	oskerac'
具格	oskerb	oskerawk'

ł-語幹

	単数	複数
主格	astł	astełk'
対格	astł	astełs
属格	asteł	astełac'
与格	asteł	astełac'
位格	asteł	astełs
奪格	astełē	astełac'
具格	astełb	asteławk'

n-語幹

	単数	複数
主格	azn	azink'
対格	azn	azins
属格	azin	azanc'
与格	azin	azanc'
位格	azin	azins
奪格	aznē	azanc'
具格	azamb	azambk'

動詞

数は単複、人称は１、２、３、法は直接、接続、命令の3種類である。現在語幹とアオリスト語幹の二つを活用する。

現在語幹からは

• 直説法現在
• 未完了過去
• 接続法現在
• 命令法現在
• 不定詞

が作られ、アオリスト語幹からは

• 直説法アオリスト
• 接続法アオリスト
• 命令法アオリスト
• 分詞

が作られる。

動詞の幹母音が5種類存在するため、活用語尾との結びつきもそれぞれ5種類存在する。

直説法現在

活用語尾は

	単数	複数
1人称	-m	-mk'
2人称	-s	-yk'
3人称	-y	-n

実際に活用させてみると、以下のようになる。

	-e-類	-i-類	-a-類	-u-類	-o-類
1人称単数	sirem	sirim	lam	hełowm	gom
2人称単数	sires	siris	las	hełows	gos
3人称単数	sirē	siri	lay	hełow	goy
1人称複数	siremk'	sirimk'	lamk'	hełowmk'	gomk'
2人称複数	sirēk'	sirik'	layk'	hełowk'	goyk'
3人称複数	siren	sirin	lan	hełown	gon

未完了過去

活用語尾は

	単数	複数
1人称	-i	-ak'
2人称	-ir	-ik'
3人称	-yr	-in

接続法現在

形成祖-ic'-のあとで-em語尾などを活用させる。

命令法現在

禁止の意味でしか用いられない。

不定詞

必ず-lで終わる。

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関連項目

• 言語の一覧
• 死語
• インド・ヨーロッパ語族
• アルメニア文字