夕暴雨とは
ここでは2を説明する。
この項目は、ネタバレ成分を多く含んでいます。 ここから下は自己責任で突っ走ってください。 |
刊行は2010年。主人公の安積警部補が勤務する東京湾臨海警察署は、二階建てプレハブ小屋という粗末な作りから「ベイエリア分署」とあだ名されていたが、本作では七階建ての立派な新庁舎をに移る事になった。また人員も拡充され、本格的な中規模警察署へと整備されたという記念すべき作品。
物語は新庁舎に移った安積班が、東京ビッグサイトで開催されるイベントへの爆破予告を捜査していくというもの。また本作では異色のコラボレーションが行われた事でも話題となった。
安積班(臨海署刑事課強行班係)の面々は新庁舎への引越しに勤しんでいた。七階建てとなった真新しい新庁舎は中も広くなり、組織としても人員が増やされ拡充されている。また臨海署移転に伴い水上警察署が廃止され、警備艇を擁する部署も臨海署に移転されることになった。刑事課にも強行犯二係が新設されることになり、安積班は強行犯一係と名前が変えられた。
臨海署庁舎に駐在する交通機動隊も新庁舎へと移ったのだが、同隊の速水警部補はあることを気にしていた。臨海署から1kmほど南に下ったコンテナターミナル付近に建設されている、警備部が使用する臨海署別館。おおよそ警察の施設とは思えない、まるで格納庫のような様相をしている別館の実態は、臨海署に属する者は署長も含めて把握していない。警視庁のごく限られた関係者以外は、警察官であっても簡単には近寄れないからだ。別館はどんな施設なのか、どんな部隊が使用しているのかも不明であり、全ては警備部の厚いベールに包まれている。
速水は彼自身のコネを使って、別館を使用するのが警備部に新設される特車二課であることは突き止めていた。だが特車二課がどんな部隊なのかは速水にも分からない。警備部で特車と言うからには特科車両隊のようなものだろうが、特車隊が運用する車両の大きさは大型トラックや大型バス程度であり、比べれば建物はあまりにも大きい。何故にあれほど大きな建物が必要なのか。しかも特車二課の一個小隊は小隊長を含めて四人であり、機動隊など他の警備部の部隊と比べてあまりに少ない。四人の小隊であれほどの規模の建物を使うとは・・・特車二課とは何なのか、見当がつかなかった。
得体の知れぬ特車二課もそうであるが、それ以上に気になることが速水にはあった。彼が良く知る人物が、特車二課に配属になったのだ。速水は安積にその人物について語る。
後藤喜一・・・その名前は安積も覚えている、というよりも記憶に刻まれている。後藤は、安積や速水と同期で警視庁に入庁した。カミソリという異名通りの切れ者で、安積は後藤と話をするだけで劣等感を抱きそうになる程だった。速水は、交通警察を歯牙にもかけないような後藤の態度が気に入らないのか、以前から彼を一方的にライバル視している。そんなカミソリは公安部にいた筈だが、新設される特車二課とやらの小隊長になり、また今では昼行灯などとあだ名されているらしい。
速水が特車二課と後藤を気にするのと同じように、安積にも気になることができた。強行犯二係の係長として、なんとあの相楽が赴任してきたのだ。相楽は何かと安積に挑戦的な態度を取るので、一緒に仕事をするのに難のある人物。野心的で仕事に積極的なのは、必ずしも悪くないのだが・・・。
新臨海署が開署して間もなくのこと。管轄内にある東京ビッグサイトで行われる模型関係の大きなイベントに対し、ネット掲示板で爆破予告が書き込まれた。臨海署刑事課としても対応する事になったものの、安積班の一人でヲタクの須田が「ただのイタズラ」と見切ったため、安積班は警備協力程度に止めていた。実際、爆破は起きなかった。一方で安積をライバル視する相楽は手柄を上げようと躍起になり、ハイテク犯罪対策センターの協力も得て、爆破予告犯を威力業務妨害で検挙。意気揚々としている。
だがその直後、新たな爆破予告がネット掲示板に書き込まれる。今度は同人誌即売会のコミコンに対する爆破予告が書き込まれたのだ。「またイタズラか」と思われたが、そう受け止めないものがいた。須田である。須田はネット中毒者特有の嗅覚で、これが本気であることを感じ取っていたのだ。だが須田の勘だけでは本格的な警備は行えない。かといって、動員人数が数十万人にもなる大規模イベントのコミコンを、臨海署だけで守りきるのは不可能だ。
須田の嗅覚を信じた安積は、安積班の面々を率いて捜査に乗り出す。
あらすじを読んでもらえれば分かる通り、安積班シリーズと機動警察パトレイバーのコラボ作品になっている。安積班シリーズといえば、佐々木蔵之介主演の刑事ドラマ「ハンチョウ」として、TBS月曜8時枠でドラマ化もされた本格派警察小説である。それが機動警察パトレイバーとコラボするというのは、意外に思うかもしれない。しかも夕暴雨は異色のコラボ作品と言っても、安積班シリーズの外伝とかパラレルワールドではなく、立派なシリーズ本編の一つなのである。但しコラボといっても、飽くまで安積班シリーズの一作としてのあり方を外さないように書かれている(それはそれで凄い)。
今野敏は、友人の押井守曰く「ガンダム青年」。現に、彼は自宅でガンプラを組み立てている[1]。また先の引用リンク及び文庫版巻末の解説にあるが、今野はワンダーフェスティバルにフルスクラッチの模型を出展している(先生仕事してください)。つまりヲタクであり、そういう点から見ると、このようなコラボレーションもアリであろう。
本作で描かれる事件の被害に遭うのは模型イベントや即売会であり、それらは今野にとっても馴染み深いイベント。故に会場の雰囲気が活き活きと描かれている。主人公の安積は刑事であること以外は普通のオッサンなので、良い大人が漫画のイベントに集うことに戸惑う描写が見られた。だが作者の今野自身は安積側ではなく、安積が怪訝な目で見ていた客側の人間ということになるだろう。
冒頭の概要にもある通り、元々の臨海署はプレハブ小屋は粗末な作りで、その小ささから「ベイエリア分署」などと揶揄されていた。そして臨海署は一度廃止になり、安積班は新設された神南署へと移った。しかしお台場の発展と共に警察署が必要となり、臨海署は再び設置され、プレハブ小屋での活動が再開した。これがシリーズ第一巻となる「東京ベイエリア分署」から「境界線」までの流れである。
そんな臨海署もついに真っ当な警察署として整備されることになった。また水上警察署が廃止になったことから水上安全課が移管されており、従来と比べて組織面でも充実している。
こういったことを踏まえると。本作からの臨海署は階数が七階建てと低いことや、交通機動隊が駐屯としているといった違いはあるものの、立地も含めて概ね東京都江東区青海2-7-1のアレに近い。但し「ここに警察署を建てよう」と考えたのは今野敏が先。ついでに言うと、お台場のあの警察署よりも先んじている。
所属 | 第一方面本部 |
所在地 | 東京都江東区青海2丁目 |
署長 | 警視 野村武彦 |
副署長 | 警視 本田喜信 |
組織 | 地域課、交通課、刑事課、水上安全課(水上署廃止に伴い移管) など |
庁舎共用 | 交通部交通機動隊、警備部特車二課(別館) |
その他施設 | 待機寮 |
本作に登場する特車二課は作中の描写を踏まえると、パトレイバーの特車二課と同じく歩行型の特科車両を運用する部隊だと思われる。しかし世界観が異なることから、パトレイバーとは異なる点も多い。
所属 | 警備部 |
所在地 | 東京都江東区青海3丁目付近 東京湾臨海警察署別館 |
課編成 | 2個小隊・計8名 |
1個小隊編成 | 小隊長(警部補)1名、他3名 |
装備 | 特科車両、同輸送用大型トレーラー |
まず時代設定だが、これはかなり異なる。あらすじにある通り、夕暴雨に登場する特車二課は新設される部隊なのだが、その時代設定は作品が発表された2010年頃。パトレイバーの特車二課は作品毎によって差異がおるものの、概ね1997年頃に課又は特機部隊として新設され、1998年には拡充されて第二小隊が編成されている。つまり特車二課の設置時期が、パトレイバーとは十数年の隔たりがあるということ。
レイバーについては、夕暴雨では作業機械として一般化しているという描写は一切無く、特車二課が使う特車についても「作業用の重機を特科車両に転用したもの・・・と言う噂」と語られている。つまり特車二課はレイバー犯罪に対処する目的で編成されたわけではなく、特車二課が運用する特車は、その存在自体が極めて特殊なものであることが分かる。そういった違いからか、パトレイバーの特車二課が秘密でもなんでもない執行隊として描かれているのに対し、夕暴雨の特車二課は警察関係者でも詳細を知るものが限られている秘密部隊である。
特車二課棟は、パトレイバーでは倒産した工場を買い取って二課棟にしたという設定があるのに対し、夕暴雨では新たに建設されている。巨大な特車を置く事から、二課棟が非常に大きな格納庫という点では共通している。
後藤喜一は、カミソリ後藤又は昼行灯の異名を奉られていること、公安部に所属していた経歴を持つこと、特車二課第二小隊長という点でパトレイバーと共通。一方で、後藤が安積や速水と同期である設定は夕暴雨独自のもの。これは作品世界に合わせたものである。ドラマ版の安積(佐々木蔵之介)や速水(細川茂樹)と比べると・・・後藤隊長って老けてるな。年上の同期なんだろうか。
特車二課の編成については、一個小隊は小隊長を含めて4名、二課全体では二個小隊態勢となっている。後者は共通しているが、前者に関してはパトレイバーよりも少ない。一個小隊4名であれば、操縦者、指揮者、キャリア担当が1名ずつということになる。後藤指揮下の三人については名前は出てこないものの、「後藤がヒヨッコを集めた」と評されていることから、恐らくパトレイバーにも登場した第二小隊員であると思われる。それが誰なのかは不明だが、ビッグサイトが蜂の巣にならなかった事を考えると、泉、篠原、山崎だろうと推測される。但し、泉が操縦者であれば、あの状況では拡声器を通じて「私のパトちゃんが濡れちゃうよぉ!」と叫んでいるはずなので、太田が操縦者で熊耳が抑えていたという可能性も否定できない。しかし優秀な熊耳、経験は豊富な太田がいるとすると、ヒヨッコという表現は合わない。そう考えると、やはり一号機の面子なのだろう。
装備に関しては具体的な描写があまり無い。安積は特車を目撃してはいるのだが、豪雨で霞む向こう側に巨大な何かがいるのを認識しただけであり、明確に見たわけではない。よって特車の外観が、98式のような見るものに与える心理的影響まで考慮されているのが、大将のように押井好みの鈍重なスタイルなのかも不明。比較的具体的な点をあげると、アクチュエータが出す電磁波が無線の電波と干渉し、安積らが使う携帯無線機にノイズが入ったこと。これと、須田が言う「油圧でフレームを動かすクレーンより、複雑な機械かも知れません」といった推測から、リニアアクチュエータが使用されていると考えられる。
装備のうち、レイバーキャリアについては多少だが描かれている。巨大なトレーラーで、警備部特有のクリームとブルーの塗装を纏っていた。巨大なトレーラーというのは共通しているが、塗装はパトレイバーのパンダカラーに対し、こちらでは警備部の標準的な塗装になっているのが分かる。
夕暴雨の単行本の帯で、押井は「安積班にパトレイバーが出るなら、パトレイバーに安積警部補が出ても問題ないよね?」とのメッセージを寄せていた。それが実現したのが、押井の小説「番狂わせ」である。こちらでは安積班の須田が登場している。
また作者の今野敏自身もパトレイバーとコラボし、TNGパトレイバーに警視総監の役で登場した。じゃあ上海亭のオヤジも無職になった御大にやらせれば良かったのに。
作中のあのメタい発言を考えると、ないんじゃね。実際に読んで判断して。
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最終更新:2024/03/19(火) 13:00
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