実相寺昭雄とは、日本の映画監督・テレビディレクター・脚本家・小説家である。
1937年3月29日生まれ、東京都出身。妻は女優の原知佐子。
主にウルトラシリーズを中心に、他と一線を画す独創的な特撮映像を作り出したことで有名。
「エキセントリック」「前衛的」など、その作風を表す言葉は様々である。
『天才』とも『問題児』とも言われた、とにもかくにも強烈な演出家であった。
一方、ピンク映画の世界においても、押しも押されぬ変態監督として名を馳せた。
苛烈な性描写と、それを目も眩むような色調やカメラワークで映し尽くす彼のピンク映画は、非常に衝撃的な映像体験である。
が、登場人物のモノローグだけで申し訳程度に物語を進行させたり、説明臭い会話ばかり使ってしまったりと、演出的には褒められたものでない部分もある。これは、ピンク映画に限らない。
1959年に早稲田大学を卒業。外務省勤務を経てラジオ東京(現:TBS)に入社。演出部に配属され、演出家の第一歩を歩み始める。
音楽番組やテレビドラマの演出を手がけていたが、スチール写真の多様、唐突な街頭インタビューの挿入、過度にアップや引きを多用する、ラストシーンに突然暗転させて雪を降らせるなど奇抜な演出を多用したため、TBS上層部や視聴者から抗議や苦情がよく殺到した。
しかし、この奇抜な演出を円谷英二は評価していた。
この後、英二の息子で、当時TBSに勤務していた円谷一の口添えもあり、TBSのテレビ映画制作セクションであった映画部に異動することとなる。ここに籍を置きつつ、外注先への派遣という形で円谷プロダクションの作品にも演出家として関わることとなっていく。
1970年にTBSを退社。映画監督として独立。盟友である美術監督・池谷仙克を社長とする映像制作会社コダイグループを設立。
本編においては、小道具・大道具越しに登場人物を映す構図が有名。特に鳥篭と食器が大好き。
また、役者を正面や真横から取るのを嫌っているのか、ひたすら斜めから映りまくる。そして、時には魚眼レンズを用いて凄まじい接写を行い、かなり歪んだ映像を作り出す。
これらの特徴だけで恐らく、実相寺の作品であると見分けが付く。
また、照明の使い方が非常に独特で、人によっては「邪道」と見なすほど。
特に後期において、シチュエーションに沿っているかどうかは二の次で、まるで心象風景のような強烈な光を作り出すことを優先している。何気ないアパートの一室で、緑やら赤やらの照明を躊躇なく用いている。
時には凄まじい逆光の中で撮影を行うこともある。これは、後述の『故郷は地球』などで顕著に見られる。
ちなみに、役者に関しては基本的に興味がなかったようで、演技よりも画作りにひたすら集中していたという。
逆にピンク映画を作っている間の、性行為のシーンにおいての演技指導、というより役者への注文はかなり細かかったらしい。
初めてメガホンを取ったのは、ウルトラマン第14話『真珠貝防衛司令』であった。
真珠を餌にする怪獣・ガマクジラを醜く肥った怪獣として描き、美しく上品なイメージの真珠と醜い怪獣の対比をストーリーに取り入れようとした。
見る人によってはガマクジラは充分醜い怪獣だが、当時の実相寺が求めていたのはまだまだこんなものではなかったようだ。
同作品史上でも異色として知られる第23話『故郷は地球』では、母国に見捨てられた悲壮な怪獣(人間)・ジャミラを登場させた。
目が眩むような光・色調の中、ジャミラの悲壮な運命が明らかになって行く本編描写が特徴的で、特にラストシーンにおいてのイデの独白が有名。
そして、エキセントリックな余り円谷プロを追い出されかけたのが、第34話『空の贈り物』であった。
全体的にギャグ調に描かれているこのエピソードでは、科特隊の面々が、カメラに向かって一列に並ぶ「家族ゲーム」にも通じるような構図でカレーを食べている中、怪獣・スカイドンが出現する。
ここで実相寺は、慌てたハヤタがスプーンで変身しようとするというシーンを作り出した。
これが円谷プロ内のベテランスタッフの怒りを買い、ひと悶着起きてしまったようだ。
完全に追い出されてしまったのが、ウルトラセブン第8話『狙われた街』。
モロボシ・ダンとメトロン星人による“ちゃぶ台シーン”が生まれたエピソードである。
撮影当時は、実相寺を含めてスタッフ一同大笑いしながらこのシーンを作り上げたそうだが、放映後になって、海外輸出を視野に入れているのに何でちゃぶ台なんぞ出したのだとプロデューサーから大目玉を喰らい、本作及び同時撮影だった第12話『遊星より愛をこめて』(現在欠番)放送後しばらく、ウルトラセブンに関わらせてもらえなくなってしまった。
なお、ちゃぶ台シーンだけでなく、夕焼けを背にして対峙するセブンとメトロン星人の映像も人気である。
番組終盤、怪獣ブーム衰退に伴う番組の視聴率低下と予算削減の影響により「金をかけずにそれなりの画が撮れるから」と呼び戻され、第43話『第四惑星の悪夢』・第45話『円盤が来た』で再び監督を務める。
第43話は元々『宇宙人15+怪獣35』というタイトルで50体以上の怪獣が登場するストーリーだったが、予算削減の中で怪獣や宇宙人の着ぐるみが登場しないエピソードを作らざるを得なかった状況であったため没となった。完成作品も着ぐるみは登場しないものの、後年にはセブン屈指のハードSFとして高い評価を得た。
第45話では、『狙われた街』でこっぴどく注意されたにも関わらず、再び当時の川崎市を舞台とした庶民目線のドラマを仕上げている。
『帰マン』以来ウルトラシリーズに関わらない期間が続いたが、今作で久々に復帰。
第37話『花』、第40話『夢』を演出する。
『花』では、満開の桜の咲く日本庭園をハレーションの強い映像で表現しつつ、ティガとマノン星人の対決の中に、檜舞台の上での舞うような戦いのシーンを挿入した。
『夢』では、夢の世界から飛び出して暴れる怪獣に、同じく夢の中で変身して立ち向かうティガの姿を描いた。
第38話『怪獣戯曲』を担当。
錬金術によって生み出され、創造主の書いた戯曲の通りに暴れまわるバロック怪獣・ブンダーを登場させる。
節々に挿入されるアメコミの描写など、いつも通りに冴え渡る本編の演出もさることながら、実相寺の演出意図に極力近付こうとした佐川和夫監督による特撮にも、次回作『ウルトラマンガイア』でお馴染みとなる"ウルトラマン登場の際、地面に着地した瞬間土煙が舞う"演出が試験的に導入されているなど、見るべき点が多い。
中でも空間を捻じ曲げる能力を持つブンダーの様子を万華鏡や鏡に映されたような映像として表現し、ウルトラマンやブンダーがあたかも分裂したり消滅したり…という不思議な描写を繰り返す戦闘シーンは、『ウルトラマン』に登場したブルトンの描写にも通じる強烈な映像描写であった。
最後のウルトラシリーズ演出となったのが、ウルトラマンマックスの第24話『狙われない街』であった。
タイトルどおり、『狙われた街』のセルフリメイクというか続編であり、何と『狙われた街』に登場し、アイスラッガーで真っ二つにされたメトロン星人がこっそり生きていたという設定。
親しい役者である寺田農をメトロン人間体に据え、前作の描写を踏襲しつつ、地球に愛想をつかせたメトロン星人が帰って行くという物語を作り上げた。
幼少期からの筋金入りの鉄道ファンとしても知られる。
生前、とくに雑誌「東京人」において都電や地下鉄など鉄道関連の特集が組まれた際には、必ずと言っていいほど寄稿していた。それをまとめた著書が『昭和電車少年』である。
実際に著書を読んでみるとわかるが、辛辣な物言いが目立つのが特徴のひとつだった。
氏の趣味は本業の監督業にも影響した。ウルトラシリーズに登場する宇宙船を製作する際、大好きな東急玉川線(玉電)200形の丸みを帯びたスタイルを採用しようとしたが、複雑な構造を再現できず断念したというエピソードが残っている。
鉄道模型への関心も強く、本人プロデュースにより「昭和情景博物館」という食玩シリーズを出している。これは中身の分からないブラインドパッケージに無動力の電車か建物をパッケージしたもので、どちらもウェザリング(年月を経たように見せる汚し加工。ドラマなどでも使われる技法)済みということで注目を集めた。
普通ブラインドパッケージ販売のときは所謂サーチ行為を防ぐために錘などを入れ選別できないようにするのが普通だが、実相寺氏の意向であえてそれを行わず、電車か建物かを選んで買える(電車が軽く、建物は重い)という特徴があった。
電車は石畳の併用軌道、建物は犬小屋や物干し台などの付属品がついたことも特徴で、Nゲージ鉄道模型に組み込めるので便利なアイテムであった。
解説:電車は両形式とも当時既にMODEMOがモデル化していたが、ウェザリングの施された車体は実感的であったため、MODEMO製品の動力を利用して本シリーズの車体を動力化したファンもいた。
建物についても、当時看板建築の製品はなかったので歓迎された。
解説:東京都電6000形は第一弾に引き続いての登場だが、金太郎塗りと呼ばれる旧塗装での登場となった(ALWAYS三丁目の夕日第一作に出てくる緑とクリームの塗り分け)。阪神国道線の電車は「金魚鉢」の愛称を持つ大型窓が特徴的な電車で、当時モデル化されていなかったので大いに驚かれた(ごく近年になってMODEMO製品が発売された)。
建物も、より古い時代の蔵造りのものが登場したが、電車同様第一弾の色を変えただけのものも含まれていた。
本当は第三弾以降の計画もあったそうだが、実相寺氏逝去に伴いこれで打ち止めとなった。
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最終更新:2025/01/03(金) 08:00
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