宿屋仇(やどやがたき)、または宿屋の仇討(やどやのあだうち)とは、落語の演目であり、前者は上方落語、後者は江戸落語の演目名となっている。
侍、商人、そして町衆の3人のやりとりが面白く、また下げのわかりやすさでくすぐりも多く、面白く、東西問わず人気の噺であるが、多くの登場人物を演じ分ける高い技術が求められる熟達者レベルの噺であり、五代目・桂文枝、桂枝雀、柳家小さん、立川談志など大御所の噺家が得意としていた。
また、江戸落語ではかつて「庚申待」という演目で、宿屋仇とは別の展開であったが、後にわかりやすい宿屋仇のスタイルを江戸を舞台にアレンジされたものが主流となった。
ある侍が、ある宿に泊まる。侍が言うには「昨日泊まった宿が、恋人同士がいちゃついたり、坊さんがお経詠んだりと喧しくて眠れなかったので、部屋が狭くてもいいので、静かな部屋に泊まりたい」と宿主に伝える。主人は手際よく侍を案内した後、旅連れの仲のいい男3人がやってきた。男たちは到着するや、始終3人で泊まると言って広い部屋を手配し、そこに芸者も連れて酒宴を始めてしまう。よりによって、侍の部屋の隣だったから、たまりかねた侍はもう一度主人を呼ぶ。
主人は侍の苦情を聞き入れ、即座にどんちゃん騒ぎの3人の部屋にやってきた。男たちは当然文句を言うが、その相手が侍と知っては仕方ないと、不貞腐れながらも寝る準備を始める。だが、すぐに眠るのもつまらないので相撲話で盛り上がる。エスカレートするや、部屋で相撲を取り始めてしまい、その騒音がまた侍の耳に。また、侍が主人を呼びかけた。
主人はまた、3人の部屋に入り、相撲に盛り上がる3人を注意する。その場は「すまないすまない」とやり過ごすが、まだ眠る頃でもなかったので、今度は3人色話で盛り上がろうとする。そして、ある男が「ある武士の妻と懇ろになって、その弟を斬って、妻も斬って、そして渡された金を持ち逃げしてきた」(実は近松門左衛門『堀川波の鼓』のパロディ)と列伝を伝えると、男は「人は見かけによらないもんだ。源兵衛は色事師!色事師は源兵衛!!」と言って大声で囃し立てる。
これで三度目、また甲高い声で侍は主人を呼びつける。主人は「またか…」と思いながらも部屋に向かうと「拙者は、世を忍び、3年前、妻と弟の仇討ちのため旅をしていたが、遂に因縁の相手が隣の部屋にいる。すぐに斬られるまで待つか、今すぐ斬られにこちらに来るか訊いてまいれ!」と言うものから、ただ事ではないとばかり、男たちに伝える。源兵衛はそれを聞いて真っ青になりつつ「あれは嘘、他人から聞いた噺」と弁解する。
しかし、部屋に戻り主人が伝えても聞く耳持たず。だが、主人から暖簾に関わると懇願されると、それも尤もだと翌朝、橋の欄干で「出会い仇」にするという。そして、もし逃がしたりしたら宿の者皆斬ると念を押した。それを伝えるや3人はすっかり萎縮し、泣き寝入りしてしまった(江戸落語では逃さないように三人をふん縛りにしてしまう)。
翌朝、ご機嫌で侍が目を覚まし、主人を呼ぶ。主人の方もろくに眠れず渋々と侍の元に近寄るが、宿代と心付けも受け取ると少し得意になって、「この通りあの3人はおります、後は好きにしてください」と侍に姿を見せた。すると侍は高笑いし「あれは嘘じゃ」と主人に伝えるや、主人は驚き、そして「なぜ、そのような嘘を!?お陰で我々も一睡もできなかったんですよ」と文句を言うと、侍は一言。
「ああでも言わないと、今後も自分を寝かしてくれん」
この噺では、桂枝雀が演じた「枝雀落語」の中で、オンエア中に勢い余って自分の見台を壊してしまうというハプニングを起こしたことがある。しかし、枝雀はそれも噺の中に取り入れ、得意になって語る源兵衛に対し、清八が「お前…脇息潰したのとちゃうか」とアドリブを入れ、視聴者の笑いをとっている
なお、見台と脇息は全く別の器具であるが、すぐにそれを物語の世界観に合わせるように、壊れた見台を脇息と言い換えており、枝雀の機転の早さと天才的なセンスが伺える名シーンである。
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最終更新:2024/04/24(水) 17:00
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