小さな政府(Small Government)とは政治学用語の1つである。反対の概念は大きな政府である。
小さな政府という言葉に対しては2つの定義が考えられる。
2.の定義に基づく小さな政府は、巨大企業1社が市場を独占する状態や、巨大企業2~3社が市場を寡占する状態となっても、「自由競争の結果として優秀な企業が勝ち残っただけだ」と肯定的に受け止め、独占禁止法や反トラスト法を適用せずに放置する。
政府の役割を警察・消防・刑務所運営・入国警備・軍隊のような治安分野に限定する国家のことを夜警国家という。
夜警国家の中で治安分野への予算や人員が小さい国家があるが、そういう国家は1.の定義に基づく小さな政府に該当する。しかし、夜警国家の中で治安分野への予算や人員が大きい国家があり、そういう国家は1.の定義に基づく小さな政府に該当しない。
夜警国家は治安分野以外への予算や人員が少ない政府を抱えることになり、市場占有率が高い企業の暴走に歯止めをかける権力が小さい政府になる。そのため、2.の定義に基づく小さな政府に該当する。
ソ連とは1922年から1991年まで存在した国家である。
ソ連においては国内の全ての企業が国有化されて全ての国民が公務員となっていた(経済企画庁の1992年資料)。そのため1.の定義に基づく小さな政府に該当しない。
ところがソ連は、国内の全ての企業が国有化され、政府が「国内の全ての産業を独占する超巨大企業」になり、政府が市場を独占し続ける国家であった。そのため2.の定義に基づく小さな政府に該当する。
小さな政府とは、政府の予算と人員を減らして経済政策・社会政策の規模を小さくし、労働運動が沈静化するように誘導して使用者と労働者の格差を拡大し、市場への介入を行わず大企業の活動を制限せず中小企業を保護しないことで大企業に勤める労働者と中小企業に勤める労働者の格差を拡大し、国家を格差社会・階級社会に近づけようという考え方である。
小さな政府を目指すときは政府の予算と人員を減らし、GDPの中の政府購入を減らす。こういう財政政策を緊縮財政という。
軍隊というのは政府の一部門である。軍隊の予算や人員を減らすという軍備縮小(軍縮)も「小さな政府」の考え方の1つといえる。
小さな政府になると、行政サービスが乏しくなり、何らかの危機に対する対応力が低くなる。人員の余裕がないので何らかの危機に対する政府の対応力が低い。
小さな政府になって三公社五現業のような国の現業を減らし、民営化を推し進めると、国内の労働運動が退潮する。民間企業の労働組合は「労働運動をやり過ぎると企業が倒産してしまう」と尻込みして強気に労働運動できず国内の労働運動を引っ張れないのに対し、国有企業の労働組合は「政府は絶対に倒産しない」と考えて強気に労働運動できて国内の労働運動を引っ張っていく存在だからである。このため小さな政府の国では労働運動が盛んにならず、労働三権が軽視され、労働者の社会的・経済的地位が低下して労働者と使用者の格差が拡大し、格差社会・階級社会になっていく。
小さな政府になると民間企業を規制監督する非現業の予算と人員が減り、解雇規制が緩和されて非正規雇用が増え、大企業が生まれやすくなり、企業が合併して大企業になっていくことが肯定される。それにより中小企業が営業しにくくなり、中小企業が大企業の協力企業になったときに大企業に対して価格交渉しにくくなり、中小企業の労働者の賃金が上がりにくくなる。このため小さな政府になると大企業の労働者と中小企業の労働者の格差が拡大し、格差社会・階級社会に近づいていく。階級社会になると人が人に話しかけにくくなり、人々の積極的情報提供権(表現の自由)が大きく制限される社会になり、情報の流通が活発に行われない社会になり、社会が発展せずに停滞するようになる。
小さな政府になると地方切り捨てと呼ばれる政策が導入され、生産性の低い土地における公共事業が削減され、生産性の低い土地から生産性の高い土地へ人々が移住することが加速し、地方の過疎化が進み、都市圏への人口流入が進み、都市国家への回帰が進んでいく。それと同時に人口空白地域が増え、凶悪犯罪の証拠品を捨てやすい土地が増え、凶悪犯罪を実行しやすい状態になっていき、治安が悪化していく。
小さな政府になると社会保障が不十分になり、高齢者が病気になって死亡しやすい国になり、高齢者が少ない国になる。高齢者は医療器具への需要を作り出す存在であるから、小さな政府になると医療器具への需要が少ない国になる。医療器具というのは加工することが非常に難しいものが多いので[1]、医療器具への需要が少なくなると高性能な工作機械を買う需要が減って企業の設備投資が減り、現時点において実質GDPが減りつつ将来において資本ストックが減少して供給力が低くなる。つまり、小さな政府になると医療産業を通じた経済発展が進まなくなる。
経済学者のアダム・スミスやデヴィッド・リカードが小さな政府と自由貿易を重んじる経済政策を提唱した。これを古典派経済学という。
経済学者のフリードリヒ・ハイエクや、それに影響を受けたミルトン・フリードマンは、小さな政府を重んじる立場だった。彼らのことを新古典派経済学という。また、ミルトン・フリードマンはシカゴ大学で教鞭を執って弟子を育て続けたので、彼を慕う集団をシカゴ学派とかシカゴボーイズという。
経済学者のロバート・マンデルやアーサー・ラッファーは総供給の拡大を重視する経済政策を提唱した。そうした経済政策の影響を受けた経済理論をサプライサイド経済学といい、その支持者のことをサプライサイダーという。国家の総需要を拡大するときに使われやすいのが政府購入の拡大であり、そうしたことを必要としないサプライサイド経済学は小さな政府との相性が良い。
1981年にアメリカ合衆国大統領へ就任したロナルド・レーガンは、レーガノミクスという小さな政府を目指す経済政策を実行した。レーガンを支持する人々をレーガニスト(Reaganist)という。
1979年にイギリス首相に就任したマーガレット・サッチャーは小さな政府の政策を実行した。サッチャーの経済政策をサッチャリズム(Thatcherism)という。
自然率仮説という仮説があり、「総需要を拡大して正の需要ショックを引き起こしても長期において有利な供給ショックが生まれず、総需要を縮小して負の需要ショックを引き起こしても長期において不利な供給ショックが生まれず、長期において実質GDPが自然率水準に戻る」という考え方である。この考え方に従うと総需要の拡大に消極的となり、政府購入の拡大に消極的となる。ゆえに自然率仮説は小さな政府と相性が良い。
商品貨幣論という貨幣論がある。これは「お金というものを作り出しているのは、市場である」という考え方であり、「政府や中央銀行の通貨発行権は、市場の信認を得られる範囲内にとどめられる」という考え方を導くものである。さらにいうと、「政府や中央銀行の通貨発行権は大きく制限されるので、政府の経済活動は大きく制限される」という考えをもたらす。つまり、商品貨幣論は小さな政府と親和性がとても高い。
均衡財政論という財政思想がある。「政府は税収の範囲内に支出を抑えるべき」という考え方で、プライマリーバランスの黒字化を目指すもので、小さな政府と親和性が高い考え方である。代表的な提唱者はジェームズ・マギル・ブキャナン・ジュニアである。
租税財源説(税金は財源)という税制思想がある。租税は政府の財源として課されるというもので、政府に対する憎悪感情や非難感情を煽りやすい思想であり、政府を悪者として扱う傾向のある思想であり、小さな政府との親和性が高い。
新自由主義(市場原理主義)は、比較優位の思想に基づいて自由貿易を絶対的に支持する思想であるが、それと同時に小さな政府を目指すものである。自由貿易を極限まで活性化するには、政府の規制を撤廃する規制緩和が必要である。規制緩和をするには、国会で法律を改正して制度を変えるという面倒な手段もあるが、それよりもっと簡単なのが小さな政府の実現である。小さな政府を実現して規制を担当する政府の人員を徹底的に減らせば、規制する業務をしたくてもできなくなり、規制緩和が進むことになる。小さな政府が規制緩和を生み、規制緩和が自由貿易を生む。そのため自由貿易を愛する新自由主義者は小さな政府を目指す。
株主資本主義(株主至上主義)は労働者の賃金を削って株主(使用者)の配当を増やして企業の体力を高めようという思想である。この思想は自由貿易に対応できる企業を作り出すために必須の思想であり、新自由主義と一体不可分の思想である。ゆえに小さな政府との相性が非常に良い。
リバタリアニズムという政治思想を支持する人々をリバタリアンという。彼らは、個人の自由を絶対的に追求することを目標としており、それゆえ、小さな政府を理想視している。
無政府主義(アナーキズム)と「小さな政府志向」の関連性はしばしば指摘される。いずれも政府の役割を低く評価する思想である。2020年現在の日本において、無政府主義は左派の一部によって支持され、小さな政府は右派(保守派)の一部によって支持されていると言えるが、政府の役割を否定しようとする点で実によく似ている。
成果主義とか能力主義という経営思想がある。成果や能力に応じて労働者の賃金を増やす思想であり、使用者が恣意的に変化させることができる概念で労働者の賃金を決める思想であり、使用者の権力を大きくするものである。そしてこれらの思想はエリート主義という思想を導くし、これらの思想を突き詰めていくと優生学(優生思想)になる。小さな政府になると国内の労働運動が沈静化していき、労働組合の発言力が弱まり、使用者の権力を拡大しようとする風潮が強くなる。つまり、小さな政府は成果主義や能力主義やエリート主義や優生学と相性が良い。
自助論という思想がある。「自助をすることは尊く、誰かに助けてもらおうとするのは卑しい」と考えるものである。小さな政府になると政府の人員が少なくなるので政府が国民を助けることが難しくなり、自助論が肯定される世相になっていく。
自由及び権利には責任及び義務が伴うという思想がある。小さな政府になると国内の労働運動が退潮していき、労働者が労働三権を行使することを控えるようになるのだが、その一方で「労働者に労働三権を行使させてはならない」と考える者が政治において主導権を握るようになる。「労働者に労働三権を行使させてはならない」と考える者は、「自由及び権利には責任及び義務が伴う」と連呼することで、労働者に「権利を行使したら責任を追及されて義務を課される」と思い込ませて「労働三権を行使するのは止めておこう」と考えさせようとする傾向が強い。
小さな政府になると経済の効率化が推し進められる。政府の支出が削減され、地方切り捨てという政策が支持され、生産性が低い土地で大規模な公共事業を行わなくなる。たとえば、クマしかいないような土地に立派な高速道路を建設することを中止するようになる。
そうなると生産性が低い土地の雇用が減少して、生産性が低い土地で生活することが難しくなる。生産性の低い土地に住んでいる住民が次々に生産性の高い土地へ引っ越すようになり、生産性が高い土地への人口集中が進んでいく。
人が生産性の低い土地に縛り付けられなくなり、人が生産性の高い土地に集中することになり、人口資源が効率的に配分されていく。このように、小さな政府になると経済の効率化が一気に進む。
小さな政府になると治安が悪化していく。
小さな政府になると、生産性の低い土地への公共事業が減らされるので、生産性の低い土地から逃げ出す人が増え、人口空白地域が増える。人口空白地域というものは凶悪犯罪の証拠品を隠滅しやすい場所である。このため、人口空白地域が増えると凶悪犯罪者にとって凶悪犯罪の証拠品を捨てやすい状況になり、凶悪犯罪をしやすい状況になり、治安が一気に悪化する。
小さな政府になると、警察の人員と予算が減り、警察の治安能力が低下する。
小さな政府になると、行政各部の人員と予算が減り、規制する事が難しくなり、悪行を行う団体が跳梁跋扈する事態になる。例えば、文化庁宗務課は2022年10月の時点でたったの8人であり、その少ない人数で全国の18万の宗教団体を管理している(記事)。これだけ文化庁宗務課の人員が少ないのなら、児童虐待を繰り返して霊感商法で暴れ回るカルト宗教団体が出現しやすくなり、人々の生命・身体・自由・財産が危険にさらされやすくなり、治安が悪くなりやすい。
小さな政府になると経済の効率化が推し進められる。政府の支出が削減され、生産性が低い老人に対する年金や医療費補助金や介護費補助金が削減され、老人がさっさと逝去するようになる。
そうなると老人を世話する産業の雇用が減少する。医療業界や介護業界といった「老人を世話する産業」に従事する人たちが次々と転職していき、「生産性の高い人を世話する産業」への人口集中が進んでいく。
人が「老人という生産性の低い人を世話する産業」に縛り付けられなくなり、人口資源が「生産性の高い人を世話する産業」に集中することになり、人口資源が効率的に配分されていく。このように、小さな政府になると経済の効率化が一気に進む。
小さな政府になると、製造業の技術水準が停滞する。
小さな政府になると、生産性が低い老人に対する年金や医療費補助金や介護費補助金が削減され、老人がさっさと逝去するようになる。そして、老人の命を救うための医療器具への需要が一気に減っていく。そして、医療器具というものは製作することが非常に難しいものが多い。
大きな政府になって医療器具への需要を増やすと、高品質な切削工具・切削油・工作機械・CAD・CAMへの需要が増え、製造業の技術が大いに底上げされる。
小さな政府になって医療器具への需要を減らすと、高品質な切削工具・切削油・工作機械・CAD・CAMへの需要が減り、製造業の技術が停滞する。
掲示板
61 ななしのよっしん
2024/10/03(木) 19:46:29 ID: x6pg9+QbWb
62 ななしのよっしん
2024/11/09(土) 18:27:47 ID: +iZw2JcPOj
>>53-54
これは重要な指摘で、いかに小さな政府論者といえども全てを切り売りしたいわけではないんだよな
そんなことをすれば無政府主義になってしまうから
必然的に守るべきものとそうでないもののラインをどこに設定するかという議論が発生することになる
新自由主義が高確率で新保守主義を伴っているのもそのため
だから小さな政府論者こそかえって王とか宗教とかその他伝統的な価値観に親和的だったりする
63 ななしのよっしん
2024/12/03(火) 18:23:40 ID: 30zSZG3Wxs
譲れない一線以外は好きにしていいよ派で自由を重んじる派とかぶるんでそんなもんでしょう
つか何でも行政が介入口出しされる社会がいい派が多すぎて怖いわ
でもマイナンバーは嫌~って頭本当にイかれてるのかと
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/04(水) 00:00
最終更新:2024/12/03(火) 23:00
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