嵐が丘とは (アラシガオカとは) [単語記事]

『嵐が丘』（原題： Wuthering Heights）とは、イギリスの詩人・小説家であるエミリ・ブロンテ（Emily Jane Brontë）唯一の長編小説。以下はその派生作品である。

E.ブロンテの小説を原作とした同名の映画・ドラマ・舞台作品など
上記映画の一つをモチーフにした、イギリスの歌手ケイト・ブッシュのデビューシングル
椿屋四重奏の楽曲。E.ブロンテの小説との関連性は無い
布袋寅泰の楽曲。上記作品とは関係ない。

同名異表記の楽曲については項目「嵐ヶ丘」を参照。

小説の概要

舞台は英国ヨークシャーの田舎町の外れ。吹雪の中「嵐が丘」館を訪れた男は住人たちの奇矯さに疑問を抱き、ついに古参の女中から、主人ヒースクリフと今は亡き幼馴染みキャサリンにまつわる数奇な運命の物語を聞き出す。――かつて孤児であったヒースクリフはある日、想いを寄せていた身元引受先の娘キャサリンの心無い陰口に深く傷つけられ、独り屋敷を去った。それから3年半後、ヒースクリフは一廉の紳士となって嵐が丘にもどってきた・・・・・・自分を殊のほか侮辱したキャサリンの兄ヒンドリー、最愛の女性を奪ったキャサリンの夫エドガー、そして何より最も憎らしい不実なキャサリンに復讐を遂げるために。やがてヒースクリフの毒牙は彼らの子供たちにまで及び・・・・・・。

1847年にエリス・ベル（Ellis Bell）という男性風ペンネームで出版された（女性作家への偏見が強かった当時は、作者が女性というだけで大衆からは見向きもされなかったので、こうした方法は広く行われていた）が、序盤以降は救いの見出せない陰鬱な展開が延々と続く事もあり、エミリ存命中は評価されないどころかむしろ酷評されていたという。しかしそうした表面的な批評は裏を返せば確かな人物造形や自然描写などが在ればこそ生まれるものであって、やがて半世紀後には再評価が進み、現在ではゴシックロマンスの古典的名著の一つに位置づけられている。

エミリは英国教会の牧師一家ブロンテ家（カトリックの多いアイルランド系の姓 Brunty をプロテスタント風に改めたもの）に生まれた一男五女の四女。とりわけ『ジェイン・エア』で有名な三姉シャーロット（Charlotte Brontë）と、日本ではややマイナーだがイギリスでは『ワイルドフェル屋敷の人々』が2度ドラマ化された末妹アン（Anne Brontë）の３人はブロンテ三姉妹としてイギリス文学史上重要な存在である。しかし他の兄弟姉妹ともども結核等で若くしてこの世を去っており、残念ながらいずれも作家としては寡作に終わっている。

ちなみに wuthering というのは「（鞭などを）シュっと鳴らす、（風などを）ピューと鳴らす、力強く揺らす」という意味の動詞 wuther の現在分詞（形容詞用法）。この動詞は古語であり、イングランド北部等の方言に見られることがある。本題名の定訳を『嵐が丘』としたのは英文学の重鎮であった故・斎藤勇で、けだし名訳。

K.ブッシュの楽曲

――ヒースクリフ！　ほら私、キャシーよ！　館にはとっくに着いていたから、すっかり身体が冷えてしまったの
――ねえ、窓からあなたの部屋に入れてちょうだい・・・・・・

1978年に発表されたケイト・ブッシュのデビューシングル。また、ファーストアルバム『天使と小悪魔』（原題： The Kick Inside）にも収録されている。詞と曲は彼女自身によるもので、この歌で唯一の全英一位を獲得した。

1970年制作の映画版（監督：ロバート・フュースト）がベースになっているため、原作小説とは少し雰囲気の異なる描写になっているが、歌詞は概ね物語後篇のヒースクリフの前に現れる亡きキャサリンの幻影の視点で描かれている。それが当時19歳のブッシュの伸びやかなファルセットによってエモーショナルに展開する曲と混じり合い、狂気と幻想に彩られた愛と憎しみの地平が広がっていく。