弥栄(いやさか)とは、「ますます栄えること」を指す言葉である。「万歳」(ばんざい)に近い用法の叫び声としても用いられる。
縁起の良い言葉であるため「彌榮自動車」(ヤサカタクシー)などの地名・企業名にも使われてきた。詳しくは後述。
「弥」で「いや」と読み、この部分の意味は「益々(ますます)」「いよいよ」「より一層」「以前にも増して」といった感じ。「暑さもいや増す今日この頃ではございますが」などと言った言葉を耳にしたことがある人も居ると思うが、この「いや増す」も漢字で書くと「弥増す」と書く。あまり知られていない漢字表記でありわかりにくいためにひらがなで書かれることが多いが。
「栄」で「さか」と読み、これは「栄える(さかえる)」という言葉/表記が一般的なのでわかりやすいだろう。「繁栄する」「興隆する」「発展する」と言った意味である。
現在では「弥栄を祈る」というかたちで用いられることが一般的。要するに「益々のご発展をお祈り申し上げます」の「益々のご発展」の部分に相当する言葉であると考えれば、まあ大体合っている。
「弥」は新字体であり、旧字体では「彌」と書いた。「栄」も新字体であり、旧字体では「榮」と書いた。つまり古くは「彌榮」と書いていたようだ。
上記のように縁起が良い言葉であるため、多くの地名・企業名などで使われている。この場合は「やさか」「やえい」等と読む場合もある。
なお「弥栄神社」という神社もあり、牛頭天王・スサノオを祀る祇園信仰の神社に多い名である。関連が深い神社としては「八坂神社」があり、読みが同じ「やさか」である。
鹿児島県南さつま市の加世田周辺には「弥栄」の苗字が多いが、「やえ」「みえ」と読むことが多い。
大正時代に法学者であり神道思想家だった「筧克彦」が「万歳」(ばんざい。当時の表記は「萬歳」)の代わりの掛け声として用いることを提唱したことがあったようだ。
この主張は、筧克彦による大正5年(1916年)の著作『御即位禮勅語と國民の覺悟』(現代の表記では「御即位礼勅語と国民の覚悟」)内に収録された「附言 「ばんざい」と「いやさか」と」の中で述べられており、著作権が切れているために「国立国会図書館デジタルコレクション」の中で無料で全文読める。
要約するに
「万歳は中国の言葉だしね。個人主義でだらだら長生きすることだけを尊んでいるみたいな言葉だし、わが皇国の精神にはふさわしくないね。発音も「ばんざい」は最初が「ば」と濁音で濁るし大声で言おうとすると「ざい」じゃなくて「ざー」みたいになるからよくないね。「いやさか」は「い」で下腹に力を籠められるし、最後の「か」は末広がりな感じがしていいよね。だからこれからは「ばんざい」の代わりに「いやさか」と三唱することにするよ。天皇陛下 い-やさかー い-やさかー い-やさかー」
とか言った感じのことが書かれている。最後の「い-やさかー」三唱の部分は末尾部分に本当にこのまま書かれているから確認してみよう。
当時はそれなりに支持されたらしく、「ばんざい」の代わりに「いやさか」と言うようになった団体も一部にはあったようだ。現代の辞書にも「繁栄を祈って叫ぶ声。ばんざい。」と記すものがある[1]程度には影響を与えている。
また、現在でも日本のボーイスカウトでは大正時代に「弥栄」が祝声として採用されたものが残っており、2020年にボーイスカウト日本連盟が発行した「基本動作・礼式の基準」にも掲載されている。
ただし、戦前の時代の記録映像や音声などで「ばんざーい!」などと皆で叫んでいるものが多数ある割に「いやさかー!」と叫んでいるものが乏しいことからもわかるように、「たいていは万歳がそのまま使われた。一部で受け入れられなくもなかったが」というレベルのものであったようだ。
「昔は乾杯のときに「乾杯」の唱和の代わりに「弥栄」が使われていた」という話も、インターネット上で流布されている(GoogleやTwitterでの検索で発見できた限りでは、2010年7月26日付の個人ブログの一記事に掲載されていたのが最も古い例のようだ)。
これは「一部では」事実ではあるようで、「Googleブックス」で「乾杯」「弥栄」などで検索してみると、1983年出版の石垣福雄『北海道方言辞典』(北海道新聞社)において、
という記述があった[2]。
ただし、「乾杯」の代わりに「弥栄」を使用するのが全国的に一般的な言葉であれば『北海道方言辞典』に載せる(しかも「炭鉱では」との但し書き付きで)のはおかしな話であるため、少なくとも「1983年時点において、この書籍の著者は」、「乾杯の音頭の代わりに弥栄を使うのは一般的ではない」と見なしていたこともわかる。
以上の他には、国立国会図書館デジタルコレクションやGoogleブックスでも、「乾杯の音頭として「乾杯」の代わりに「弥栄」を使う」という行為についての記述を発見できなかった。探し方が悪くて見逃しただけかもしれないが、少なくとも「容易に見つかるような一般的な行為」ではなかったと思われる。上記の北海道の炭鉱での例のように、「一部ではそういう珍しい例もあった」という程度の話であったのではないかと思われる。
さらに「戦前はこれが一般的だった。戦後に「完敗」に通ずる「乾杯」がGHQによって広められただけ」という趣旨の言説も2021年ごろからネットで囁かれている。
上記のように、資料記録からして「過去に「乾杯」のときには「弥栄」と唱和するのが一般的だった」ということはまずないので、これは非常に高い確率でただの陰謀論でありデマである。「日本全国にGHQがこの押し付けを広め切り、しかもその一切の記録も残さず密かにやってのける」のはどう考えても無理であろう。
GoogleやTwitterで「弥栄 乾杯 乾杯」などで検索してみると、2018年8月には「戦争で負けてから乾杯(完敗)になったそうです」という真偽の怪しい投稿が既にTwitterに投稿されている。ただしここには「GHQが……」などといった内容は載っていない。
検索で発見できる限り、「GHQが」といった内容が追加されるのは2021年6月28日のTwitter投稿が最初のようだ(検索には出てこない、または既に消えてしまっているウェブページや投稿でもっと古い例があった可能性は否定できないが)。
あまり知られていないマイナー陰謀論にとどまっていたようだが、2023年2月25日に「健康情報を伝える」という体裁のTwitterアカウントがこの内容を投稿し、1万件以上の「いいね」や3000件以上の「リツイート」を集め、いわゆる「バズった」状況となった。
ツイートを読み込み中です
https://twitter.com/Daisuke_F369/status/1629413655740833794
この状況に対して、ウェブメディア「BuzzFeed News」はファクトチェック記事を投稿している。
ツイートを読み込み中です
https://twitter.com/BFJNews/status/1631580217696215041
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2024/09/14(土) 14:00
最終更新:2024/09/14(土) 13:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。