徳川家康三方ヶ原戦役画像 単語

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徳川家康三方ヶ原戦役画像とは、徳川家康が描かれているとされる肖像画である。

その特徴的な表情から「しかみ像」の通称で知られており、著名な逸話とあいまって非常に知名度が高い肖像画ではあるものの、その逸話の出自に疑問が出ている。

まず最初に…

聞は一見にしかず、当該肖像画をご覧ください。

概要

所蔵は徳美術館作者は不明であるが、描かれているのは徳川家康と見られており、そのなんとも言えない特徴的な表情が非常ににつく。

通説では、「三方ヶ原の戦い武田信玄の挑発に乗り寡兵ながら野戦を仕掛けた結果惨敗した徳川家康が、その敗戦直後に自らの姿を描かせ、それを生来自分のそばに置くことでめにした」というエピソードがよく知られている。故に、この表情は敗北による恐怖され続けた事による憔悴から来る表情であると解釈されている。

後に家康下人になった事から、己の失敗を受け入れて教訓とすることで成功をつかむというこの逸話は「鳴くまで待とうホトトギス」と相まって家康人生譚として教科書にも掲載される事が多い。

だが、近年の研究においてこの逸話自体が後世に作られた、…しかも割と最近に作られた話である可性があるという。

出自と変遷

この肖像画がどういった出自でどういう流れで現代に伝わっているのかを整理する。

  1. 安永9年(1780年)に、紀州徳第7代・徳宗将のである聡院従が、尾9代・徳の養子である治行にぐ際の入り具に入っていた
  2. 聡院従後、文化2年(1805年)に家康の遺品やゆかりのある物を入れる御清御長持にこの肖像画が収められる
  3. 明治期に入り、宝物の整理をしている際に便宜上長篠の戦いの時の家康肖像画」であるとした
  4. 明治43年(1910年)、尾初代当徳川義直ゆかりの宝物の展示会が開かれた際に、この肖像画に「長篠の戦い敗戦の、家康の苦を忘れないように義直が描かせた」という話が盛られた
  5. 昭和10年1935年)、徳美術館が開館する際に「長篠の戦いでの敗戦の画」から「三方ヶ原の戦いでの敗戦を義直が狩野に命じて描かせた画」へと変化
  6. 昭和47年1972年)、現在に伝わる「家康が自らめの為に命じて描かせ、生来そばに置いた」逸話の初出

つまり、現在に伝わるこの逸話はわずか50年前に作られたものであると摘されている。ツッコミどころが多いので下記で説明していく、

Q&Aコーナー

三方ヶ原の戦いなの?長篠の戦いなの?どっちなの?

そのどちらでもない。上記の通りこの肖像画が「三方ヶ原の戦いの時の家康肖像画」とされたのは1972年のことである。それまではこの肖像画は「長篠の戦いの時の家康肖像画」と考えられていた。

これは肖像画が収められたに「長篠合戦時の肖像画である」というが貼られていたからのだが、どうも宝物を整理する際に「似た要素の家康肖像画が2つあったから、便宜上区別するために著名な長篠・長久手合戦図屏になぞらえて片方を長篠の戦いとする」としてを貼っただけものを、後世になってそのソースに「これは長篠の戦いを描いた肖像画である」と誤認してしまった可性がある(ちなみに、もう片方の長久手とが貼られた方が『徳川家康長久手戦中画像』と考えられる)。

つまり三方ヶ原にしろ、長篠にしろこれが描かれたとされる時代に「これはこういう画である」と記された記録はない。よって、正確な情報だけ掻い摘むと、この肖像画がどの合戦時に描かれたものかはわからない。なので、様々な要素から推察・考が進められている。

長篠の戦いって家康が勝った戦じゃないの?

Exactly(そのとおりでございます).

どうもその当時はまだそこまで歴史認識が一般層にまで広まっておらず、「長篠の戦い織田・徳連合軍は武田軍に敗北した」と大嘘をぶっこいてもツッコまれなかったらしい。マジかよ。

ただ歴史が下るに連れてそのあたりが知れ渡るにつれて、家康が快勝している合戦に「敗戦の苦」というエピソードはそぐわなくなってきた。このため家康敗北した」という褄を合わせるために、家康が大敗した戦としてよく知られている三方ヶ原の戦いすり替えられたと見られている。

家康が戒めにするために自らを描かせたというのは?

大嘘実は家康三方ヶ原の戦いでの敗戦を悔やむようなエピソード一切。それどころか出撃をした事を武士の誉れとして肯定的に捉える逸話が圧倒的に多い。

結果的に大敗を喫したものの、そもそも後悔するどころか出撃して良かったと思っている以上、めの為に自分を描かせたというエピソード全に破綻している。そうでないのであれば、家康がこの事を恥として考え一族のごくごく少数に対して門外不出の教訓として伝え、対外的にはこの事は誉れであると口外したとしか考えられないのである。

あくまで仮説だが、家康の「鳴くまで待とうホトトギス」の逸話とリンクした結果、"家康"という要素をクローズアップする的がこのような逸話を生み出した可性がある。なお近年では「ストレスを抱えると噛むがある」という伝承が伝わる事から、家康が短気で神経質なタイプであった可性も摘されている。

で、う○こはもらしたのか?

漏らしていない。またそもそも「脱糞を後悔した事を描かせた」絵でもない。

三方ヶ原の戦い恐怖のあまり脱糞したのを臣にツッコまれ「これは焼き味噌である」と言い訳した(ちなみに家康味噌が大好物)エピソードはあまりにも有名だが、これには元ネタがある。

大久保治左衛門(忠隣)、大音揚げ、御の口付に向て、『其御く見よ。があるべきぞ。を垂て遊玉ひたる程に』と悪口す。

『三河後土記』巻十三 

現代訳すると「家康様のうんこが付いてるぞ!家康様は臆病うんこマンだ!」的な感じだろうか。

これは、江戸幕府成立後に作られた「三河後土記」に収録されているエピソードで、三方ヶ原の戦いである一言坂の戦いにて、家康臣の大久保忠隣が「家康に過ぎたる物」とまで称された大活躍をした本多忠勝と不甲斐なく逃走する人・家康の姿を較して罵ったとされる。が、同時代資料にこのような逸話は一切収録されていない。

おそらくだが、家康独立直後から徳たる地位を務めながらも慶長19年(1614年)に易された忠隣に、ヒールとしてのキャラ付けをするために作られた逸話の一つと考えられている。ちなみに家康はそもそも一言坂の戦いに出していないとされることが多い。

まただいぶ穿った見方だが「仮に本当に脱糞大久保忠隣に咎められていたのであれば、忠隣の叔父大久保忠教が書いた君をディスる史料『三河物語』に家康の痴態の様子が詳細に書かれているはずであり、その三河物語に収録されていないのは不自然」という見方もある。


この一言坂の戦いのエピソード三方ヶ原の戦いエピソードに変化したのは歴史小説である『徳川家康(著:山岡荘八)』とそれを原作とした大河ドラマと見られる。

要するに「脱糞エピソード三方ヶ原の戦いということになったのも昭和になってから1950年代~)」ということである。

正体

推察・考が進んだ結果、この肖像画がどういったものかに関しては非常に有な説が導き出されている。

  • 三方ヶ原の戦い1月)の戦いであるのに対して、革足袋といったの装備をしていないこと
  • 描かれている装備は安・鎌倉期の武将のもので、安土桃山時代にはすでにれて不自然なものであること
  • 江戸時代中期に、祖先を賛美する的で古手な具足を装備させる肖像画が流行したこと
  • この肖像画の独特な姿勢は「半跏思惟」と呼ばれる、像が瞑想にふけるポーズであること
  • 家康後「東照大権現」としてとしてられたこと
  • 特徴的な「しかめ面」が恐怖や憔悴を表すものではなく、憤怒や威圧を表していると考えられること
  • 正面からの構図が礼拝像として相応しいこと

と、様々な要素を並べてめて考えてみると、この肖像画は…

江戸時代中期頃に、先祖である家康武神になぞらえて敬う的で描かれた礼拝像の肖像画

と考えるのが自然である。入り具に入っていたという背景を見るに「他いでも(共通の祖先である)家康様が災いからお護りくださる」という意図があったかもしれない。

もう一度見てみよう

以上の説明を経て、もう一度この「しかみ像」を見てみよう。

何か違って見えるところはあっただろうか?

結び

全く違う的で描かれた肖像画だったものなのに、付加価値をつける為に盛ったエピソードが後世の人がめた家康像に都合よく合致してしまった結果教科書などにも載ってしまい、事実とは異なる形で多く知られるようになった事を肯定することは難しい。

このためこの学説が出されて以降は、この像に対して通説である上記の教訓を掲げないケースも徐々に見られてきた。

だが50年もの間このボラ逸話・教訓が人々を動かしてきた事もまた事実であり、この事実そのものが史実として価値があるため、史実的整合性がいからと言って単純にそのものの価値を毀損するわけでもないのが伝承や美術品の難しいところである。

なお、徳美術館にはこのような逸話の史実的整合性が怪しいものがいくつかある模様。

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