惑星とは、
- 恒星の周りを公転する天体。恒星と異なり、見かけ上の位置が変化することから「惑う星」という名称になっている。該当する条件・定義は太陽系の惑星と、太陽系外惑星では異なる。詳細は「太陽系」「太陽系外惑星」を参照。また、物語などに登場する創作上の惑星については、「架空の惑星一覧」を参照
- イギリスの作曲家グスターヴ・ホルストが1916年に発表した管弦楽組曲。本項で解説する。
概要
近代クラシックの中でも人気の高い作品の一つで、名実共にホルストの代表曲でもある。地球を除く全ての惑星を占星術によるインスピレーションに基づいて作られており、実際の天体やギリシャ神話に由来している訳ではないことに注意したい。
革新的な音楽運動が盛んだった当時のクラシック音楽界において、海王星の合唱付きなどの斬新な内容もあるが、イギリスの伝統的かつ保守的な部分もあるこの曲は、ホルストの死後一時期忘れられてしまった。しかし、カラヤンをはじめとする多くの指揮者によって演奏されることにより、再評価されて現在に至る。但しその特殊な演奏構成から、コンサートで演奏されるより、むしろレコード・CDによって聞く機会が多い。
ホルストが惑星を完成させたのは1916年だが、初演はその4年後の1920年と遅く、さらにその10年後には、新たに冥王星が発見された。これまで、CDなどのライナーノーツには、「ホルストは冥王星を付け加えるつもりはなかった」と記されることが多かったが、実際には「冥王星の新曲を作ろうとしたが、その途中に病没したため未完成のまま終わった」というのが真相らしい。2000年にイギリスの作曲家コリン・マシューズが付け加えた冥王星をはじめ、多くの現代作曲家によって追加オリジナル曲が作られている。
しかし、そのわずか6年後に冥王星が準惑星に降格されてしまい、太陽系の惑星はホルストの楽曲と同じ構成に戻った。冥王星の降格直前にマシューズ作曲による冥王星付きのCDの売り上げが殺到したが、元々ホルストとマシューズの曲調が大きく異なる上に、終曲・海王星の静かな余韻が無くなり、冥王星の曲自体が消化不良的な終わり方が「蛇足だ」と否定的な意見も多数聞かれる。そのため、「『本来の海王星で締めくくる構成』に留まり、かえってホルストの冥王星も未完成のまま付け加えられずに良かった」という声も多いと言う。
後述する通り、惑星の楽曲は歌詞が付けられたり、テレビやゲームの挿入曲、さらには発車メロディなど様々な分野で使われている。オーケストラ以外の純粋な演奏曲としては、火星・木星・天王星が吹奏楽アレンジされて「全日本吹奏楽コンクール」の自由曲で演奏される他、冨田勲のシンセサイザー編曲によるアルバムが有名である。
楽曲一覧
- 火星(戦争をもたらすもの)
- 「ダダダ・ダン・ダン・ダダ・ダン」という5/4拍子のリズムが印象的(5/4拍子が全体を通して使われる曲はとても珍しく、有名な作品では他に「スパイ大作戦のテーマ」くらいしかない)。ホルストが第一次世界大戦を予感して作曲したと言われており、戦慄が走るような緊張感が否が応でもテンションを高めている。惑星の演奏時間は、指揮者・演奏団体によって最大1分近くの開きがあるが、火星は約7分前後である。
木星に次いで演奏される機会の多い人気曲で、戦闘曲のような曲調から様々な場面で使われている。東京ディズニーランドはこの曲がお気に入りらしく、CMやナイトショーに使用された。
- 金星(平和をもたらすもの)
- 火星とは対照的に、終始穏やかで癒されるような曲調。実際の金星は曲とは真逆の灼熱地獄だから、火星と曲を交換しろと考えるのは野暮であろう。演奏時間は約7分半~約8分。
- 水星(翼のある使者)
- 最も短い曲だが起伏に富み、小節数は木星に継ぐ第2位。サブタイトルの通り、飛ぶようにスピーディーな展開であるため、意外に難易度があり、高度な演奏技術が要される。演奏時間は約3分半~約4分。
- 木星(快楽をもたらすもの)
- 全7曲中最も有名な、クラシックの人気曲。典型的急・緩・急の三部形式で、主題部(急)、後述の著名なトリオのある中間部(緩)、主題部が転調した再現部に分かれており、コーダでは中間部の旋律も戻り華麗に締めくくる。演奏時間は約8分前後。
イギリスでは「威風堂々第1番」「ルール・ブリタニア」など、愛国歌・第二の国歌として現在もなお国民から愛唱される名曲が多いが、木星もその一つである。特に知名度の高い中間部は、「我は汝に誓う、我が祖国よ」という題が付けられた歌曲として、イギリスの式典で数多く使われている。
日本では本田美奈子.や遊佐未森が歌ったバージョンが以前から存在したが、平原綾香の「Jupiter」はその中でも特に有名であり、新潟県中越地震の被災者応援ソングなど様々な場面で使われた。また、宮川彬良は平原綾香の「Jupiter」を本来の原曲であるオーケストラ編成にアレンジし直したバージョンを編曲しており、冒頭とコーダはホルストのオリジナルスコアをほぼ忠実に再現している。
この他にもアレンジバージョンとして、ラグビーワールドカップのテーマソング「World In Union」が特に知られている。2019年に日本でラグビーワールドカップが開催され、「ONE TEAM」が流行語になった日本ラグビーチームの活躍もあって、この曲が再び日本でも脚光を浴びることとなった。
- 土星(老年をもたらすもの)
- 前半は陰鬱で重々しく、不協和音が心理的に不安を与えるが、後半は宗教音楽のような荘厳な雰囲気に変わっていく。老境の不安と救済をイメージしたとも言われるこの曲は、ホルストが最も気に入った作品であった。演奏時間は約9分前後。
- 天王星(魔術師)
- 水星と同じくスケルツォの比較的短い曲だが、その曲調は大きく異なる。ディズニー映画「ファンタジア」でも有名な「魔法使いの弟子」を基に構想したとも言われており、目まぐるしい変拍子が続き、ティンパニや鍵盤楽器など管弦楽ではあまり出番のない打楽器が大活躍する。ソ(G)・ミのフラット(Es)・ラ(A)・ファ(F)の4音がこれでもかというぐらいに多用されているが、4音のメロディーを繰り返して構成される曲としては、ベートーヴェンの交響曲第5番(通称「運命」)などに、この手法を取り入れている。演奏時間は約5分半~約6分。
- 海王星(神秘をもたらすもの)
- 中盤から入る、歌詞の無い女声合唱が特徴。太陽系の最果てまで来てしまった寂量感を、合唱とチェレスタがかき立てながら、最後は合唱のみとなって消え入るように終曲となる。演奏時間は約8分前後。
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関連項目