抗菌薬 単語

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コウキンヤク

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医学記事 【ニコニコ大百科 : 医学記事】
※ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。

抗菌薬とは、細菌を殺したり増殖を抑制するである。

概要

人間の体に侵入し感染症を誘発する病原微生物に対して使用される。人間の体は菌と同じく細胞で出来ているため、菌に特異的な細胞構造を攻撃するように設計されている(選択性を持つ)物が多い。

「抗生物質」「抗生剤」と呼ばれることもあるが、それらは抗菌薬の中でも「微生物の産生した抗菌作用のある物質」をした言葉である。実際抗菌薬の大半は抗生物質であり、ほぼ同義として使われている。

世界で初めて発見された抗生物質「ペニシリン」が1940年代に実用化されてから、抗菌薬の開発は盛んになった。抗菌薬がなかった頃、負傷兵は破傷などにかかって死ぬか、化膿を防止するため腕を切り落とすなどの対処しか取られていなかったため、第二次世界大戦では多くの兵を(連合側で)救った。

その一方で、1960年ごろから抗菌薬に耐性を持つ病原菌(耐性菌)が出現し始めており、現在も問題になっている。

抗菌薬の開発と耐性菌の出現はいたちごっこであり、耐性菌をいたずらに生み出さないよう適正使用がめられている。そのためには弱い菌に強い抗菌薬をむやみに使用しないのは論のこと、生き残りを出さないよう確実な殺菌をすることが重要となる。近年は解析の研究が進み、体内での濃度に効果が依存する(濃度依存性)、菌が発育できない濃度を上回っている時間に効果が依存する(時間依存性)が判明し、それに合わせた投与設計の見直しが行われつつある。

症状が収まったからと言ってを飲むのをやめてしまうと生き残った菌に耐性がつく恐れがあるので、処方通りしっかり飲みきることが大切である(障害アレルギーなど気になる症状が出た場合は医師薬剤師に相談を)。

ちなみに細菌菌(カビ)、ウイルス寄生虫、原は全く別物なので、それらの感染症に抗菌薬を使用しても根本的な治療効果は得られない(免疫の低下による合併症を防ぐ役割はある)。治療には「抗真菌薬」「抗ウイルス薬」などそれぞれに対応するものを使わなければならない。

風邪の原因は大半がウイルスだが、病院に行くと抗菌薬が出されることがある。これは風邪によって膜が腫れたりすると菌が増殖しやすくなり、副腔炎、中炎、膀胱炎など二次的な感染を引き起こすことがあるので、それを抑えるため。前述の耐性菌の問題もあり、この処方については賛否両論である。

β-ラクタム系抗菌薬

β-ラクタム環という特徴的な構造をもつ抗菌薬。菌に特異的な細胞(ペプチグリカン)の合成に関わる、トランスプチダーゼという酵素を阻する。菌は細胞を作れず浸透圧で崩壊し、免疫細胞の餌食になる。細胞を持たない「マイコプラズマ」という特殊な菌には効。

菌が防御のために出す「β-ラクタマーゼ」という酵素で分解されてしまうが、それを阻する剤(スルバクタムクラブランなど)を組み合わせた合剤が対策として開発されている。

以下に挙げるペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系などに分類される。

ペニシリン系

ペニシリンG

1928年アレクサンダー・フレミング(英)がカビから発見した世界初の抗生物質「ペニシリン」を基にした抗菌薬。1940年代に実用化された。天然ペニシリン分解されやすく注射でしか使用できなかったり、一部の菌にしか効かなかったりと欠点が多かったが、それを補う形で開発が進んでいった。名前語尾に「~リン」とつくものが多い。

セフェム系、ニューキノロン系の台頭でを退いた感はあるが、アミノ基をくっつけて吸収を善した「アモキシシリン」がピロリ菌の除菌に、耐性が高く院内感染が問題となりやすい「膿菌」にも有効な「ピペラシリン」が重宝されていたりとまだまだ現役である。多くの菌に効く「広域ペニシリン」はグラム陰性桿菌に第一選択で用いられる。

1960年代ごろからペニシリン耐性菌の問題が騒がれ始め、それに対抗するためメチシリン現在ど使われていない)が開発されたが、1990年代からメチシリンをはじめとした多くの物に体制を持つ「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)」が大きな問題となっている。

現在MRSA感染症に対してはバンコマイシン、テイコプラニン、アルベカシン、リネゾリド、ダプトマシンの5剤が有効とされている。

セフェム系

セファロスポリンC

1960年代に実用化された。ペニシリン系にべてに強く、ペニシリン耐性菌にも効いたことからペニシリン系に代わってとして重宝されたが、何にでも多用されすぎた結果か1980年代ごろから同じように耐性菌が問題になり始めた。腸内の菌バランスを崩して偽膜性大腸炎を起こすことが多いとされる。名前の頭に「セフ~」とつくものが多い。

菌は構造からグラム陽性菌、グラム陰性菌に大きく分けられるが、セフェム系はグラム陰性菌に対する効果が弱かったため、それを善するように開発が進んできた。

2世代の「セフォチアム(商品名:パンスポリン」は多くの菌に効き、小児にも使用できることから重宝される。

第4世代の「セフェピム(商品名:マキシピーム)」も黄色ブドウ球菌膿菌など院内感染の原因菌にも効くことから世界的によく用いられているが、腎臓で排されるため腎機が低下していると意識障害など症の副作用が出ることがある。

ちなみにペニシリン系が第二次世界大戦で用いられたのに対し、セフェム系はベトナム戦争に用いられた。

カルバペネム系

β-ラクタマーゼで分解されにくく、非常に多くの菌に効く。そのため「とりあえず」という形で使われることもあるが、本来は多剤耐性菌による悪性の感染症などに最終兵器として使うもの。近年耐性菌が大きな問題になっている。名前語尾に「~ペネム」がつくことが多い。

腎臓にあるデヒドロペプチダーゼIという酵素で分解されやすく、分解物が腎臓を悪くすることがあるため、酵素を阻する「シラスタチン」というとの合剤で用いられることもある。「メロペネム(商品名:メロペン)」はこの酵素で分解されにくいよう善されている。

モノバクタム系

β-ラクタム環に他の環がくっついていないことから命名された。膿菌を含むグラム陰性菌に効くが、高価なこともあり第一選択となる機会が少なく、影が薄いペニシリン系やセフェム系にアレルギーがある患者に対し代替として用いられている。

グリコペプチド系抗菌薬

細胞の前駆体にくっついて細胞合成を阻する。デビュー1955年かったものの、腎障害、第8神経(内神経障害など副作用が多く人気が出なかった。その後問題となった各種耐性菌に効果があることから、再び使われるようになった。バンコマイシンテイコプラニンに使われているが、近年バンコマイシンの耐性菌が問題になっている。

有効血中濃度と副作用の出る濃度が近く、血中濃度の測定が必要になる。また急速な点滴はアレルギーのような症状(レッドネック症候群)を誘発するので60分(テイコプラニンは30分)以上かけて点滴するなど、注意すべきことが多い抗菌薬。

タンパク質合成阻害薬

タンパク質合成する細胞内小器官「リボソーム」のはたらきを阻する。ヒト細菌と同じようにリボソームを持つが構造が異なるため、細菌へ特異的に作用するよう設計されている。

アミノグリコシド系

ストレプトマイシン

ペニシリン系に続いて1940年代に開発され始めた。消化管吸収が悪いため注射で用いる。語尾に「~マイシン」とつくものが多い。有効血中濃度と副作用(腎障害、第八神経障害など)の出る濃度が近く、血中濃度の測定が必要になる。

不治の病とされてきた結核の治療「ストレプトマシン」が有名である。ちなみにストレプトマシンの発見者は大学院生アルバート・シャッツで、研究を始めて3ヶほどで発見したという。これを上の微生物学者ワクスマンが自分が発見者とし、発見者としてノーベル賞を受賞した。裁判にまでもつれ込んだが、最終的にシャッツは「ワクスマンの共同研究者」ということになった。

テトラサイクリン系

テトラサイクリン

構造中に4つの環を持つことから命名された。語尾に「~サイクリン」ととつくものが多い。様々な菌に効くが、菌交代現光線過敏症など副作用が多いのが難点。の着色、成長抑制の副作用があることから、妊婦授乳婦、8歳未満の小児への使用は避けなければならない。

金属イオンと結合しやすいため、牛乳と一緒に飲むとカルシウムとくっついて吸収が低下してしまう。への着色もこの性質によるもの。

マクロライド系

エリスロマイシン

1952年登場。構造中に大きな(=マクロ)環を持つ。語尾に「~スロマイシン」とつくものが多い。いろいろな菌に効き、「みんな使ってるから」という日本的な理由で人気がある。肝臓で代謝されるため、肝障害を起こすことがある。

細胞がないためβ-ラクタム系の効かないマイコプラズマにも有効だが、近年耐性化が進んでいる。その他、他の抗菌薬で対処しにくいレジオネラクラミジアにも効き、ピロリ菌の除菌にも用いられる。

また弱点として「苦い」ことが挙げられる。苦味は小児の用を不規則にするので、耐性菌出現の原因になり得るためである。そのため各社は飲みやすいよう甘い味のコーティングなどを施しているのだが、多くは性条件であるで溶けるよう設計されているため、甘酸っぱいジュースなどと一緒に飲む(あるいはジュースを飲んだ後に飲む)とコーティングが溶けて悲惨なことになるので注意が必要。

クロラムフェニコール系

構造中に塩素chlorine)を含む。腸チフスやサルネラに有効である。安価であるため東南アジア発展途上国などで使われているが、造血機障害を起こすことから日本では点眼液や産科の錠など限られたところでしか使われていない。

リンコマイシン系

1962年リンカーンという土地で発見されたためこう命名された。「リンコマシン」「クリンダマイシン」など名前に「リンマイシン」とつくものが多い。

核酸合成阻害薬

細菌DNAが作られるのを阻し、菌を殺す

ニューキノロン系

レボフロキサシン

キノロン系と呼ばれる「ナリジクス」を基に開発された抗菌薬。DNA合成に関わるDNAポイメラーゼに作用し、DNA合成を阻する。構造中にフッ素を導入することで効果を高めており、語尾に「~フロ(fluoro=化物キサシン」とつくものが多い。効は濃度依存性のため、1日分を1回で投与する。

吸収がよく、多くの菌に効くので経口投与の抗菌薬としては現在最もよく使われている。特にレボフロキシン(商品名:クラビットは非常にメジャーであり、外来で処方される抗菌薬としてド定番。2010年には抗うつ薬のパロキセチン(商品名:パキシル)やアルツハイマー治療のドネペジル(商品名:アリセプト)等と共に特許が切れることから医メーカーの収益に重大なを与えるとして「2010年問題」と騒がれた。

また大部分が未変化体で腎排されるため、尿感染症の治療にも用いられる。

前述のテトラサイクリン系と同じく、金属イオンと結合するため牛乳と一緒に飲むと吸収が低下してしまう。カルシウムにもくっついて関節障害や成長障害を起こすことがあるので、小児への使用はほぼ全ての剤で禁忌になっている。

葉酸合成阻害薬

細菌DNA合成で原料となる葉酸合成を阻することで、菌を殺す

スルホンアミド系

生物由来ではないため抗生物質とは呼ばれない合成抗菌薬。

葉酸の原料となるパラアミノ安息香に構造が類似しており、菌体へ代わりに取り込まれることで葉酸合成を阻する。構造中に硫黄(sulfur)を含むため「サルファ剤」とも呼ばれ、名前の頭に「スルファ~」とつくものが多い。

特に「スルファメトキサゾール」は葉酸の活性化を阻する「トリメトプリム」との合剤(ST合剤)が発売されており、ニューモチスシ炎に使われる。

同じように葉酸代謝に拮抗する抗リウマなどとの併用は作用が増強されるため注意が必要となる。

菌交代現象

抗菌薬に特徴的な副作用。抗菌薬によって腸内の細菌バランスが崩れ、通常増殖しない菌が増えてをなすこと。剤耐性の高い菌ほど生き残って増えやすくなることが多い。

クロストリディオデス・ディフィシル菌による偽膜性大腸炎が代表的なもので、リンコマシン系、ペニシリン系、第2世代セフェム系に多い。バンコマイシンの経口投与などで治療する。

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