日本後紀とは (ニホンコウキとは) [単語記事]

日本後紀とは、日本の歴史を記した歴史書の一つである。勅命により編纂された六つの歴史書である「六国史（りっこくし）（「日本書紀」「続日本紀」「日本後紀」「続日本後紀」「日本文徳天皇実録」「日本三代実録」の六つの総称）」の第三にあたる。

概要

　日本後紀は上述の通り、勅命により編纂された正史である。完成は承和7年（840年）で延暦11年（792年）から天長10年（833年）にわたる約42年間、すなわち桓武天皇の治世の途中から平城、嵯峨、淳和帝に至る四代について記述されている。全四十巻だが現存はそのうち十巻だけで、その他、「類聚国史」や「類聚三代格」等に引用されている日本後紀の文章から、逸文という形でいくらか復原されている。記述は編年体で漢文でなされているが、一部和歌や宣命体の部分は万葉仮名で記述されている部分もある。

　編纂にあたっては、同じ勅撰国史である他の六国史と同様、勅命によって選ばれた編者にを中心に編纂された。尚、弘仁10年（819年）に嵯峨天皇の命により編纂が開始されてから完成の承和7年（840年）まで21年間もかかっているため（歴史書の編纂に年単位の時間がかかることは珍しくないが）、最初から最後まで編纂にかかわったのは藤原緒嗣一人だったといわれている。また、この間天皇は嵯峨帝、淳和帝、仁明帝と三代に亘っている。

　内容としては他の六国史と同様、編年体で日付順に、天皇の事績を中心として、時に地方で起こった事へも触れつつ、政治や儀式に関する事や叙位任官記事など多岐にわたる事柄を記述してある。特徴的な点としては薨伝・卒伝という形で上級貴族が死去した際、簡単な故人の来歴等を記してある点は他の六国史と同様だが、日本後紀の場合その薨伝における故人の評価が非常に辛辣な場合がある点があげられる。

例えば延暦15年7月に薨去した藤原継縄（ふじわらのつぐただ：桓武朝で右大臣を務めた人物。妻が百済王氏出身で同じく渡来系の高野新笠を母に持つ桓武天皇の信頼厚かったとされる）の薨伝は

右大臣正二位兼行皇太子傅中衛大將藤原朝臣繼繩薨。（中略）謙恭自守。政迹不聞。雖無才識。得免世譏也。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（日本後紀　巻五　延暦十五年秋七月乙巳　条より）

（だいたい訳）
右大臣正二位兼行皇太子傅中衛大将であった藤原継縄が亡くなった。（中略）慎み深く、上から人を見るような人ではなかったが、大きな政治的な功績もなく、才能も見識も無かった。しかし、他人から才能が無い点について誹りを受けるようなことも無かった。

とまあ、なかなかの評価である。もっとも才能が無かったと言われつつも、人から非難を浴びなかったのは、薨伝にも有る通り、人柄は良かったそうなので、なんだかんだでうまく政治をまとめていたんじゃないかとも思うが。
　最後にもう一つ薨伝を見てみたい、次は大中臣諸魚（おおなかとみのもろな）である。この諸魚は、大中臣清麻呂の子で光仁・桓武朝で武官を歴任し長岡京造営にも深くかかわった人物である。更に、二官八省の内の一つの官である神祇官の長官にも登り詰め、後紀以外の資料では仏教への帰依篤く、天皇・貴族からの信頼も厚かったとされる人物の卒伝であるので後紀でもそのような評価がされているだろうと思うが・・・