時効とは、時間経過による免罪符である。
この記事では主に1及び2について説明する
一般的な言い方では、免罪符として使われることが多いが、法律的には民法と刑法で意味合いは異なる。
が、時間経過によって「その間で形成された法律関係を尊重して」あったことにする、又はなかったことにするという意味合いでは時効という言葉は使われている。
人間は忘れる生き物だし、変化する生き物でもある。そのため、いつまでも前の状態にこだわりつづけることは必ずしも社会にとってプラスの作用をもたらすとは限らない。そのため、時効という概念で権利を所有する人間を時間的に制約する必要があるのだ。
法律の世界における有名な格言に「権利の上に眠るものは保護に値せず」というものがあり、特に民法の取得時効や消滅時効にその考え方が現れている。
時効の期間がすべて経過することを、時効完成といい、当記事でもそのように記述する。
- 第250条
- 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの(死刑
に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
- 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
刑事訴訟法より
我が国においては刑事訴訟法に規定されており、刑法に定められている懲役や禁錮の期間に応じて、このように時効の長さが定められている。
時効が成立すると、検察は起訴することが不可能になるため、法廷を開くこともできない。よって法律上で裁くことはできないという仕組みになっている。ただし自首又は出頭してきた場合に、警察が調書をとったりすることはできる。
かつては刑法に規定された全ての罪状について時効が定められていたが、昨今の被害者遺族の要請や国民世論の影響で、2010年4月の改正刑事訴訟法により、殺人罪を筆頭として、人を死亡させてかつ法定刑に死刑が定められている罪状については時効が廃止された。(殺人以外にも強盗殺人や強制性交殺人が該当する)
同じ人の死に関わる罪状でも、危険運転致死傷や、強制性交等致死は該当しない。人を死に至らしめたという事実だけでなく、あくまで刑法の殺人罪として裁ける範囲でないと時効は依然として存在し続けるという点は気をつける必要がある。
刑事法における時効の存在理由には、証拠の散逸による立証の困難さや、時間経過による社会的な処罰感情の希薄化などがあげられるが、大きな理由としては冤罪の防止があげられるだろう。
仮に五十年前の事件について新たな証拠があがったとして、容疑者として警察に捕まった人が、反証となる証拠を保持しているかといえば持っていないのが普通である。そのため、結果として容疑者や被告人の防御権(裁判や取調べなどで反論する権利)が大いに侵害されてしまうことが公訴時効が存在する主な理由としてあげられる。実際に先述の時効廃止について国会で議論されたときには、弁護士会をはじめとして人権団体から少なからぬ批判があげられていた。
また、弘前事件のように時効成立後に真犯人から真相が語られる例もあるため、その可能性を潰しているという批判もあがっている。
一方で、時効は裁かれるべき犯人の逃げ得を認めてしまうという欠点もあるため、被害者や、社会一般からの評判はあまり宜しくない。如何に刑事法が憲法の国家権力への枷を実体化する存在とはいっても、感情ではなかなか納得できないというのも真理であるため、難しい問題である。
先の時効廃止の改正から10年経った現在では、ひき逃げなどへの時効廃止を求める声があがるなど、公訴時効に対する議論は続いている。
刑事ドラマなどでは、時効成立の当日や前日などに逮捕してめでたしめでたしになることが多い。
しかし、刑事訴訟法には時効は検察が起訴して初めて停止すると規定されている(254条1項)。警察官が逮捕して留置場にぶちこんだけでは時効は進み続けるのである。警察に逮捕されて、取り調べを行い、調書を作成し、検察に送致して、検察官が取り調べをおこない、公判を維持できるだけの資料を整えてようやく起訴ができる。
そのため、最低でも時効成立の数週間前程度には逮捕しないと、公訴時効が完成して起訴できなくなってしまうのだ。
また、国外に逃亡した場合も、時効は停止すると定められている(255条)。よど号事件における国外逃亡などが代表例としてあげられるだろう。
民法には、新たに財産の所有権を得る取得時効と、債務などの支払を免れる消滅時効の二種類が存在する。
- 第162条
- 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物
を占有
した者は、その所有権
を取得する。
- 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意
であり、かつ、過失
がなかったときは、その所有権を取得する。
民法より
土地や財産などについて、一定期間(20年又は10年)保有していると、その物の所有権を取得する。
民法において所有権とは最強の権利であり、原則として何者も干渉できない権利である。平たく言えば、たとえ盗んだものや、不法にごねて勝手に住み着いた土地であっても、時間が経過すればその人の物になるわけである。
一見するとゴネ得もしくはパクった物勝ちじゃねーか! ってなる制度だが、当然ながら本来の所有者にもその間権利を取り戻すための機会が与えられている。それが時効の更新や完成猶予という概念である。
例えば不法に土地を持っている側が、所有者の退去要求や訴えに対して、相手方の物だと認めればそれは「承認」となり、時効の期間が一からリセットされる時効の更新が適用される。
そうでなくても、裁判に訴えたり、退去の催告(不法占拠の相手方に内容証明郵便を送りつけるなど)を行えば、時効完成が六ヶ月延長される、時効の完成猶予が適用されるのだ。
- 第166条
- 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
- 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
- 二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
- 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。
- 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。
民法より
平たく言えば、借り手からすれば借りた金がチャラになる、貸し手からすれば取り立てることができなくなるのが、消滅時効である。
時効完成までの期間については、かつては債権、すなわち貸した金の発生原因によって細かく期間が分かれていたが、2020年の民法改正によって一律で発生した時から10年、債権者が事実を知った時から5年というふうに改正された。
取得時効と同じように、時効の更新や完成猶予の概念が存在する。
借金以外にも、犯罪や事故などの不法行為による損害賠償請求権も、消滅時効の対象になる。例えば殺人の被害者遺族が民事裁判で損害賠償請求を起こすとして、公訴時効はないからいつでも起こせるのかといえば、そうではなく被害者が殺害されてから20年又は知ったときから5年経過すると時効が完成して、損害賠償が請求できなくなるのだ。
時効は完成期間まで放っておけば自動的に有効になるというものではない。
時効が完成した後に、債権者に対して「時効ですよね? だから返済しませんよ(引き渡しませんよ)」と主張しなければ時効の効果は発生しないのである。これを法律用語では援用という。
これは債権者が時効完成を知らなかった場合に、債務者に請求して支払いがあった時、法律では債権者が支払いを期待していたという状態を保護するという意味合いでこの概念が存在する。権利があるならあるで、債権者にそれを主張するのがフェアでしょう? と法律は考えているのだ。
また、時効完成を知っていても、良心などからその利益を使いたくないと考える人もいるため、それを尊重する意味合いもある。
なお、その場合支払った後に債務者が時効完成に気づいて、援用を主張しても、支払った段階で債務承認とみなされるため、時効が10年間更新されることになる。なので、時効の利益を行使したいならば、完成日時を把握した上で、一刻も早く伝えることが肝要である。
なお、これは原則論であり、例えば税金など地方自治体が多くとりすぎていた場合においては住民の公平処理の原則から、取りすぎていた場合においては援用不要として5年以上遡って税金の住民側からの還付請求権は消滅するし、住民を気の毒に思って行政がその利益を放棄してその分を支払うことはできないと定められている(地方自治法236条2項)。
ただ、あまりにも消滅時効のかかる年数が大きいとそれはあんまりだということで、川越市で37年にわたって固定資産税と都市計画税を401万円分過大徴収していた事例においては、1986年から2002年分の消滅した分は返還しないかわりに、還付加算金と利息を多く計上することで帳尻をあわせ、403万円を還付することを決定している。
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最終更新:2025/03/29(土) 11:00
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