書体とは、ある一意の特徴や体系に指向した文字・字体への肉付け、様式などの特徴付け、デザイン(造形)のありさまのことである。文字デザイン。英訳としては「Typeface(タイプフェイス)」がこれを示す単語として現在では用いられている。
歴史的には、書道におけるいわゆる「五体」のような流儀、近代からはレタリング・活字・フォントなどによる文字装飾の種類まで指す。そうした特徴付けの共通する文字の集まったかたまり(フォント)自体を表す場合もある。
また、フォントや活字などのための書体をデザインすることを「書体デザイン」「書体設計」などといい、デザイナーを「書体設計士」と呼ぶ。
書籍の本文を構成する格式ばった文字、筆記具で書かれた細くて丸い手書きの文字、毛筆で書かれた流麗な文字、看板に書かれている奇抜な文字、それに今こうして画面を通して表示されている記事の文章も、構成する文字には何らかの特徴があるだろう。このような、文字を表出させるための様式の決まりごとや属性が書体である。
均等・バラバラ、太い・細いなど、骨組みに対しての特徴付けの全てが「書体」である——人間で言うところの、どのような髪型や衣装で体を飾っているか、というような外観の情報の部分にあたる——という、実に包括的な概念である。
つまり文字はその種類や方法を問わず、「書かれた(あらわされた)その時点」で何か一つの「書体」という属性を持っていることになる。
また実際には装飾だけでなく、縦横比や位置バランスなど、装飾に応じて変化する字体や字形なども含めた観念であるように思われる[1]。
書体はおおまかには、用途・環境ごとに大別されることも多い。言語では日本語のものを「和文書体」「邦文書体」、英語のものを「欧文書体」と呼称するとか、環境の場合は打ち込み文字の書体を「活字書体」「写植書体」などと区分したり、手書きの文字を「手書き書体」と言い分けるなどである(環境ごとの「書体」項を参照されたい)。
その中で装飾の違い、類似する装飾でも細かい書風や流儀の違いに枝分かれしており、多岐の書体が様々な形で存在している訳である。
書体の役割はアニメーションにおける声優の声色のようなものであって、緊張から緩和まで、文面の雰囲気を大きく左右する。書体を活用するユーザーが意識すべき重要な点は、用途に合った適切な書体を選ぶことである。
読者は冒頭文を読んで、書体の英語はタイプフェイスではなく「フォント」ではないか?と疑問を持っただろうか。確かに、フォントという言葉は書体と同じ意味合いでしばしば用いられる。
しかしフォントというのは、共通した書体を有する文字がパッケージングされた結集のことを指すのであり、デザインされた文字、特徴付けられた文字といった書体の概念そのものを指すわけではない。
看板や特定のロゴのためにデザインされた文字の特徴などを指す場合も、手書きされた文字の特徴を言う時も、色などの特定の飾り付けのされた文字を言う時も、「フォント」ではなくて「書体」である。
既に少し本文中にも出てきているが、上記で紹介した「フォント」との区別の他にも、文字の造形概念を言い表す単語は「字種」「字体」「字形」「書体」「書風」「活字」「タイポグラフィ」「レタリング」などとあり、混同されることが実に多いのだが、これらも異なる部分を定義している。
ここで、それら周辺にある各単語の細やかな定義についても確認しておこう[2]。
これらが文字の構成要素や条件の概念を示す一方で、デザインや外見を規定する部分の定義を言い表すのが「書体」ということである。あーもうややこしい!
概要にも述べた環境ごとの書体の有りようについて、ここで触れておこう。
フォントや活字の文字、書道の文字など、それぞれの界隈にそれぞれの「書体」の決まりごとがあり、社会の中に複雑に絡み合って併存しているのが実際である。
そうした体系の一部に名前が付けられて、歴史的に現在まで続いているというわけである。
書き文字や書道などの現場では、一定の様式を定めて伝えるものがある。文字の筆記を安定させ、可読性もしくは能率、記録の性能を向上させる目的で手法が築かれ、現在に至っている。
そうした傾向は様々な国家・言語体系にみられるが、本項では漢字・和字・英字の例をとって紹介する。
書道の世界には「五体」という主に中国の各時代に由来した漢字の流儀区分がある。
これらを単に書体ということもあり、大抵の場合は以下の五つを指す。
書道における個人由来の書の特徴については、先のコラムで挙げた「書風」で語られる。ただし、それをもとに活字体、フォントなど参照可能な状態にまとめられた場合には「書体」として区別されるようになる、という傾向がある。
日本に於いては、江戸期以降に確立した「江戸文字」も知られる。書道における五体が長文を書き表すための書体であるのに対して、宣伝用とか表示用といった特定の用途に特化しているのが特徴で、見出し用なのでいずれも太いという特徴がある。
より装飾要素が強く、五体と違って緻密に書き加えられていくため、書家ではない専門の書き文字職人によって書き下ろされるのが基本である。
この頃の書体デザインは、のちの活字体における極太なディスプレイ書体の考えなどに影響を与えている。
欧文に於いても、手書きのための文字として一定のスタイルが確立していた。手書きで美しく、かつ情報を効率よく記すためのものだが、東洋と違うのは毛筆でなく羽根ペンや金属ペンなどの専用の付けペンを用いたところであろう。
横書きのために、ある程度共通する何段階かのラインを揃えて書くなど、図形的・規則的なアプローチが体系化されており、のちに活字・フォントのタイプフェイスデザインにも強く影響を残している。
あらかじめ用意された文字を複製する形で繰り返し打ち込んで文章を構成するための、フォント・活字のための書体、いわゆる「活字書体」「活字体」であって、一般的に「フォント」と呼ばれるモノ。
活版印刷機・写真植字機・電子計算機(コンピューター)といった、文字の複製を行って表示する技術媒体のために設計されてきた。書籍として文字表を発売、これを複製させる体裁のものもある。
筆記のためのものとは異なる要件で設計や用意を行う必要がある。統一感を保ち、いかなる形で文字を組んで列を構成しても、違和感のない可読性をもつことが大事であるし、初期の活字時代は、彫刻を行うことから彫りやすい造形であることも求められた。
表現の幅の広がった写真植字以降は、活字専用ではない手書きにおける書体の多くも活字体化されており、デザインを構成する一要素として汎化している側面がある。
ここでは活字のために体系化された代表的なカテゴリを挙げるが、同じ体系の中にも設計士や企業の違いで設計思想の異なるバリエーションが細分化されている。同じ書体区分の中でも、異なる設計であれば異なる書体とみなされることを留意したい。
漢字圏における活字の書体区分はある程度共通しているが、各国で微妙に呼称が異なっている場合がある。ここでは日本語のメディアである本サイトの記事として、日本式の呼称で紹介を行う。
日本語の書体区分が若干入り組んでいるのに対し、欧文の書体区分はもう少し平易である。大別された区分の中でも書風の更に細かい分類化が進められており、厳密にはもう少し詳細で説明する専門的な表現が用意されている。
概要において、書体選びが重要であると少し述べていたが、具体的にどう選べばいいのよ、という話になってくるだろう。実際に書体は上記のように区分けしてなお多く、フォント製品としても何千何万と存在しており、その中からバシッと選ぶのは、困難なように思われても無理はない。
実際決まりはないし、感覚やフィーリングで選ぶことにはなるのだが、その中でもある程度のセオリーや指針というものはあるので、ここで書体の構成要素の紹介も兼ねて、選び方を紹介しよう。この項目は特に記事筆者の偏見・持論を含むので、実際に試すなどし、確実な方法を探ってほしい。
ウエイト(太さ)は書体を構成する最も基本的な要素の一つである。同じ画面の中でも、長く読ませる文章を細くする、強調したい部分を太くする、など用途によって太さを変化させるのがセオリー。
書体が異なることで全く太さの雰囲気が異なる、あるいは近い太さの雰囲気を持っているといったことがあるほか、同じ書体の系列でも、太さが異なるものが用意されたファミリーである場合は少なくないだろう。
基本的なこととして、書体が太くなるほど力強く、細いほどスマートに主張できる傾向があるが、太い文字ほど読める領域は狭まるというデメリットが現れる。
極端に言えば、小さい文字表示に太い書体を採用すれば細部が「潰れ」てしまって読めなくなるし、潰れていなくても、人間の目には太いほど文字というのを判別するのが難しくなってしまう。長文をずっと太い文字で読まされるとツラいものがあるので、高ウエイトは長い文字列であるほど自重を必要とする。
動画など次々切り替わる文字を表示する上では短文の連続であることも多いし、その場合では太いウエイトをバンバン使っても意外と平気であることもあるのだが、そうした条件も含め、伝えたい物事の強弱と環境に合った太さを書体から選ぶとよいだろう。
特にゴシック体や明朝体などを選ぶときなどでは、似たような特徴があるので混乱してしまいがちである。そこで字の骨格に着目する。書体には書体ごとに骨組みの特徴が規定されるが、これを言い表す中に「フトコロ」「重心」という概念がある。
文字のパーツの配置を幅に対してどれほど広げるか、その横軸の広さがフトコロである。キュッと引き締まっていれば「フトコロが狭い」、四角に均等に書かれれば「フトコロが広い」と言う。前者が緊張感、後者が優しさをイメージさせる。
そして重心、これが縦軸におけるパーツの配置である。上に寄って詰まるほど「重心が高い」、均等なほど「重心が低い」と言うわけである。前者に高級、後者に庶民的な感じがあると評されることが多い。
そしてここから、オールドスタイル・ニュースタイルという区分を示すことができる。
古典的なものに多い特徴、新しい潮流の書体に多い特徴がそれぞれ分かれたためにこうした区分名がついたのだが、「フトコロが狭く重心が高い、かつ装飾がある」書体がオールドスタイル、「大ぶりで均等、無装飾」の傾向を持つ書体がニュースタイルと呼ばれている。
単純に、普段使いにニュースタイル、気取りたいときにオールドスタイルの傾向を探す……これだけでも書体選びの方向性が決まりやすくなるのではないだろうか。
フトコロ・重心といったスタイルは、同じ書体区分に属する複数書体から選択する時に役立つが、デザイン書体なども含めて検討したい、ということも多いだろう。
そこで検討するのが整理感である。当然一概には括れないが、大雑把には以下のようなことがある。
ほか、一見すると不揃いな書体、完成度が低く見える書体といったものも、活かし方次第で「低クオリティ」ではなく「味わい」に変わったりもする。
活字・手書き、本文・見出し、いずれにおいてもこの選び方はある程度効く。丸みや装飾性などの物差しとともに多重的に検討し、書体選びを進めよう。
そもそも書体にどのようなものがあるか把握できていない場合、それを探索するための手段を講じなければならない。
とりあえずここまでに述べた書体の分類や特徴の指針を胸におきつつ、引き出しに入れておく書体探しの旅に出かけよう。
ある条件に従って書体の特徴を実際の見本とともに書体をまとめているのが書体見本である。第三者によってまとめられたもの、フォント販売を行なっているタイプファウンドリー自身が公開しているものなどがある。
有料のフォントを販売している会社のものでも、見本は売り込むために無料でネット公開していたりするため、Webサイトをチェックしてみよう。PDF、あるいはサイト自体が書体見本になっていたりもする。様々な書体のデザイン例を眺めることができるし、購入・契約などをしている場合はそれ自体がフォント選びの見本帳となる。
レタリング(書き文字)でも、バリエーションをまとめた書籍などもあるので、用途・探したい傾向に応じては検討しておきたい。
フォント選びでも、書き文字の書き起こしでも、理想となる文字の印象はある程度は予めイメージしておきたい。引き出しを物理的に持っておくことは重要である。
スクラップブックでもピンタレストでもなんでもいいが、良いと思ったデザインを保存しておけば、この雰囲気にはこういう書体が合う、というような書体の使い所の参考に。
文字装飾、色付け、バランス感なども含めて引き出しにできるところだろう。
いくら他の使用例や見本をみたところで、実際使ってみなければわからないのがやはり常である。
フォントならば入れて打ち込んでみる、手書き系なら自分で書いてみるなど、一度は実際に体験してみるのも重要である。「これはないな」と思っていた書体に、思わぬ発見や相乗効果があるかもしれない。
食わず嫌いにならず、物は試しと書体を当てはめてみてはいかがだろう。
各社有料フォントはまだハードルが高いが、デジタルフォントを増やしたい。
そんな時、強い味方がフリーフォント、そしてインディーズフォントだ。
時の流れというもので、フォントの開発環境は一般にも広がりつつある。英語はもちろん日本語のフォントでさえ、無料や安価といった条件でも選択肢が増えてきている。
様々な紹介サイトがあるが、ここではいくつかピックアップして紹介しておこう。
ここでは見本としての機能性を持ち合わせていることを意識してピックアップしたが、「フリーフォント」で検索して出てくる紹介サイトなどは他に多数あり、また個人公開のタイプファウンドリーも意外と多数ある。気が向いたら調べてみるとよい。
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最終更新:2024/04/19(金) 17:00
最終更新:2024/04/19(金) 17:00
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