柄谷行人

柄谷 行人（からたに こうじん、1941年 – ）は、日本の哲学者・思想家・文学者。本名は善男（よしお）。兵庫県尼崎市出身で、柄谷工務店の御曹司。

甲陽学園を経て東京大学経済学部を卒業し、同大学院英文科修士課程を修了。阪神タイガースの熱烈なファンとしても知られる。現代日本を代表する知識人の一人である。

元法政大学教授、元近畿大学国際人文科学研究所所長。イェール大学、コロンビア大学、カリフォルニア大学（アーバイン、ロサンゼルス）、コーネル大学など、海外の大学でも教鞭をとった。

柄谷行人とは何ものか

前期・柄谷（〜『日本近代文学の起源』くらいまで）

中高時代から哲学・文学への関心が強く持ったほか、数学でも全国模試トップを取るほどの成績を収めた。ただし柄谷はのちに理数系を専攻せず経済学科に進学。後の著作には科学哲学的な要素も多く見られ、この素養は存分に発揮される。ただし、ゲーデルなど理数系の専門用語を濫用して批判を受けたこともある。

60年安保闘争では最年少世代のアクティビストとして活動。学生時代は吉本隆明や江藤淳を熱心に読んだ。日本医科大学専任講師時代に夏目漱石論「意識と自然」で群像新人文学賞を受賞し、文芸批評家としてデビュー。

1970年代から主に哲学・文学分野で著作を発表する、同時代にまだ強い力を持っていた大正教養主義や私小説への批判、政治運動全般への距離の取り方が特徴的であった。この時期の柄谷の集大成である、1980年の『日本近代文学の起源』で大きな衝撃を与える。この著作では「近代文学」という制度の終焉可能性を提示し、古い文学的表現を解体してみせた。

以降柄谷は超人的な働きぶりを発揮、『マルクス　その可能性の中心』（1978）、『内省と遡行』（1985）、『探求』（1986）など、政治・経済、哲学、科学哲学まで幅広く手を広げ、稀有な批評活動を展開した。

近代文学の終わり、ニューアカ、そしてサブカルチャー（ニコニコ大百科向けの補足）

『日本近代文学の起源』刊行前後には、既に文学の社会的存在感は低下しつつあった。その代替としてサブカルチャーやオタク文化が台頭し、80年代の消費社会とともに黄金期を迎える。

この流れの中で、柄谷と近い立場にいた浅田彰や中沢新一らが「ニューアカデミズム」を作り出す。知識人と大衆文化の垣根を低くしたこのムーブメントに、柄谷も一部関わったが、直接的な参加は少なく批判的立場を保った。柄谷の仕事はあくまで文学・哲学の伝統的枠組みを踏まえている。

中期・柄谷（『探求Ⅰ』及び『探求Ⅱ』）

1980年代には構造主義・ポスト構造主義の再検討を行い、日本的ポストモダンを批判。仕事量と影響力が最も拡大した時期であり、海外での活動も活発化した。

しかし欧米と日本語圏のギャップに直面し、スランプ気味となる。これを突破したのが『探求Ⅰ』であり、この時期からジャンルを超えた異次元的な思索に突入。

難解な固有名詞や理論展開には批判も多く、専門家から異端視されることもあったが、その思考の射程は世界水準に達していた。

後期・柄谷（『湾岸戦争に反対する文学者声明』から現在）

1990年代、浅田彰らと「批評空間」を創刊。東浩紀を見出し育成。2000年代にはアソシエーショニズム運動（NAM）を試みたが頓挫。『トランスクリティーク』（2003）でカントとマルクスを架橋する新たな思索を提示。

2010年代以降、『世界史の構造』（2010）、『哲学の起源』（2012）、『柳田國男論』（2014）、『遊動論』などを刊行。震災後は原発問題にも積極的に発言。

この時期、柄谷の思想は世界的に翻訳され「世界のカラタニ」となったが、政治運動への接近やNAM騒動など賛否を呼ぶ出来事も多かった。

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関連項目

• 東浩紀