死体遺棄(・損壊)罪とは、犯罪の一つである。
第190条
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。
刑法より
人は死んだら、医師の死亡診断や、検死等を経て火葬場で焼却され、骨になる。
だが、中には手続きや費用を面倒くさがったり、その他様々な理由で死体をそのままどこかに捨てたり、バラバラにしたりする不届き者がいる。
死体は放置すれば蛆やバクテリアをはじめ様々な生物がたかる上に腐敗して見た目には極めて不快だし、死臭というアンモニアなどで構成される想像を絶する臭いを発する為社会生活上、それを放置することは許されない。
また、コレラや敗血症、ペストなど様々な伝染病の発生源にもなり得るため、公衆衛生の見地からしても、とても許容できるものではない。これまでの人類の歴史においても、土葬や風葬など死体を火葬せずに放置した風習によって発生したと推定される感染症やその災禍の例は枚挙に暇がない。
それに対する法律が死体遺棄・死体損壊罪である。記事名では死体遺棄罪だけだが、死体損壊罪もまとめて説明する。どちらも刑法190条に規定されている立派な犯罪である。
ここにおける死体とは、死体そのものはもちろんのこと、手や足はもちろん、その中にある肺や肝臓などのさまざまな臓器もその範囲内に入るとされる。なので当然、それらを切り離して勝手に隠して保存しても死体遺棄及び死体損壊の処罰の対象になる。
死体遺棄罪の保護法益は公衆の敬虔感情や、死者に対する敬虔感情とされている。概要では公衆衛生や不快感情から説明したが、あくまで刑法においては、我々が持ちうる死者への敬意を守ろうとしているのが目的であるといえる。また、死者の生前の人格権を含めるという説も主流ではないが存在する。
また、この罪は刑法の中では第24章の礼拝所及び墳墓に関する罪に属しており、国民が一般的に有しているそういう死者に対する敬意を保護しようと試んでいることに注目する必要があるだろう。
190条では遺骨も入るとされており、じゃあ火葬自体もアウトなんじゃないか。と思う人もいるかもしれないが、判例においてはこの場合の「遺棄」は社会風俗・習俗上の埋葬とは認められない方法によって死体(客体)を放棄することを指すとされている(大審院大正14年10月16日判決)。その為、埋葬法(墓地、埋葬等に関する法律)など合法かつ習俗上妥当な方法で埋葬された死体についてはあたらないと考えられている。保護法益が敬虔感情とされている以上、それに則った形で処しているとした場合、法が立ち入る余地はないとしているのである。
遺骨も190条の中に入る以上、火葬の後にでた遺骨を要らないからといって、骨壷をコインロッカーなどに遺棄した場合も死体遺棄罪に問われるため、注意が必要である。実際に逮捕例も出ている。その為、遺骨はお墓に入れるか、諸事情で納骨できなくても仏壇の中に入れるなど大切に保管する必要がある。
また、遺棄は作為的なその場所の移動を伴う必要がある。という点は遺棄罪と同じだが、では例えば病死した家族の遺体を適切な処置を取らずに動かさず放置した場合は死体遺棄罪にならないのか。といえば確かに場所的な移動はしていないものの、その行為は社会風俗・習俗上の埋葬をしたとはいえない為、死体遺棄罪に問われる蓋然性は高い。
なので、家の中で突然亡くなった場合は、面倒くさがらずできるだけ速やかに主治医への連絡や110番通報を行い、医師や警察など専門家の適切な指示を仰ぎましょう。ちなみに家の中で明らかに死んだと分かる場合は救急車を呼ぼうとしても、検死などの諸手続きが優先して、警察に連絡が行ってしまうので119番は最初から控えるべきである。
また、埋葬義務という概念もあり、その義務に基づいてこの罪が適用されるかどうかも変わってくる。通常は同居の親族はこれに該当し、放置した(不作為)だけでもその方向から罪に問われることになる(大審院大正6年11月24日判決)が、それ以外にも義務がなくとも、自分の有する敷地内に死体があるのを認識しながら通報せず放置した場合は軽犯罪法違反(1条18号・19号)に問われる。
遺髪については、死体に生えている髪を指しており、抜け毛などは該当しないと考えられており、遺髪を保存しておくという習俗に配慮したものである。
死体や遺骨・遺髪以外にも棺に納めている物(埋葬物)も罪の範囲内に入っているが、これは主に棺の中に入っているものを勝手に持ち出して自分のものにする(条文上では領得と表現する)事を指し、その場合も本罪で罰せられる。但し、棺そのものは死体遺棄罪の範囲外とされている。
また、この罪を杓子定規でみると、(必要最小限の範囲で)ちょっと遺体を移動しただけでも死体遺棄になるのではないかという危惧が出てくるかもしれない。しかし、運用上においてはその移動による環境の変化で、葬送までの間に死体を腐敗させたり、損壊する危険性を高めかねないような場合にはじめて死体遺棄罪が適用されている。屋外に長期間放置したり、屋内でも常温の場所に長く放っておく場合が該当する。そのあたりを総合して検察や警察は判断するため、ちょっと移動させた程度ではまず罪に問われないと考えて良いだろう。
この罪は刑事ドラマなどでも時たまあげられるように、殺人罪との関連もよく取り上げられている。この場合、例えば殺害した後に山に埋めたケースは、殺人罪とセットで併合罪として判決が言い渡される事になる(例えば殺人が懲役15年、死体遺棄が懲役3年と判断された場合、判決では懲役18年と出される)。殺人の証拠が揃わない時の別件逮捕の罪状としてもよく使われるとか使われないとか。
一方で、これはあくまで移動したケースのみが該当し、殺害した後に放置しただけでは殺人罪のみで死体遺棄には問われない。これは犯人は逃げたり証拠を隠滅したりするのは当然で、期待可能性や責任主義の観点からそれについては罰しないとする法理から導かれるものである。
遺棄だけでなく、死体を切り刻んだり、破壊した場合も死体損壊罪として罰せられる。当然だが、法律に則って行われる解剖や臓器移植については、この罪に問われることはない。
死体は当然ながら生きていないので、外形的にみれば器物と同じで器物損壊罪と同じような扱いになるが、死体という死者の尊厳や、人格権などを尊重してそれとは別に罪状をもうけている(実際に器物損壊と比べると罰金刑がないだけで、刑期はかわらない)。
また、屍姦は死体損壊罪に該当するかというのが、割とアングラな世界では語られるが、これについて判例は、「死体損壊罪は死体を物理的に損傷・毀壊する場合を云うのであって、これを姦するが如き行為を包含しないと解すべき」ものと示しているため、屍姦自体は何ら罪に問われないということになっている(最高裁昭和23年11月16日判決)。当たり前だが、あくまで死んだ後の話であり、レイプしてる最中に死んだ後も姦淫を続けた場合は不同意性交致死罪として別途問われることになる。もっとも、屍姦する状況というのを考えればそれだけで済ませるシチュエーションというのは現実的には考えづらくはあるが……。
近年、海洋や、はたまた宇宙に骨を砕いて供養を行おうとする事例が多く見られている。ブルーオーシャンという散骨を行っている葬儀社のヒアリングに基づく統計によれば、それは年間1万から1万5千件にも及ぶと言われている。我が国の死者数の実に1%弱が散骨されている計算になる。
そこで気になるのは、当たり前だが散骨には遺骨を砕かなければならない作業が入るわけだが、これは死体損壊罪に該当するのではないか? という疑問である。確かに、損壊の定義は物理的な破壊とされているのでそれだけ見ると該当するように思える。
しかし、1990年に法務省刑事局の出した見解によれば「刑法第190条の規定は宗教的感情を守るのが目的のため、葬送のための祭祀で節度を以て行われる限りは問題ない」(概略)としている。その為、散骨という社会習俗として一定のコンセンサスを得ている儀式の範囲内ならば死体遺棄や死体損壊罪に問われることはないと考えて良いだろう。
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最終更新:2025/05/20(火) 19:00
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