汚名挽回 単語

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概要

汚名挽回とは「汚名を着せられた状態から汚名を着せられる以前の状態に戻す」という意味の四字熟語
汚名返上名誉挽回は誤り、あるいは新しい日本語である。

かつては「汚名挽回は汚名返上名誉挽回が混ざってうまれた誤用」とする汚名が着せられていたこともあったが、今では汚名挽回して一部の辞書では明確に「汚名挽回は誤用ではない」とわざわざ記載されるほどになっている。
一度デマが広がると否定するのにコストがかかるという好例だといえよう。

誤用?

かつては「挽回は "失ったものを取り戻す" という意味で、汚名挽回ではいだ汚名を取り戻してしまう」として汚名挽回は誤用であるとするがなされていた時期があった。さらには、その起として「汚名挽回は汚名返上名誉挽回が混ざってうまれた」なる説までされてもいた。

しかし、そうしたは、はなはだ疑わしいと言わざるを得ないのが実際のところである。

挽回の意味

「挽回」という言葉の意味は「すでに成ってしまった不利な状況を覆す」というものである。直接的には「向きを変える」なのだが、遅くとも11世紀頃から「(物事の方向性を)変える」すなわち「現状を変える・逆転する」という用法で現在まで広く使われてきた。
悪評挽回・衰運挽回・荒地挽回・敗局挽回・頽勢挽回・不名誉挽回・遅れを挽回、等々いずれもこの用法である。

そのため「汚名挽回」の意味も「汚名を着せられた現状を覆す」であって、誤用説でされるような「失った汚名を取り戻す」にはなりえないのである。似たような用法の言葉として「故障を修復する」を思い浮かべれば理解しやすいだろう。こちらの解釈も「故障した状態から正常な状態に(修復)する」であって「故障した状態に(修復)する」ではない。

そもそも「挽回」の意味は「取り戻す」ではなかった

汚名挽回誤用説では「挽回」の意味は「失ったものを取り戻す」なのだとされるのだが、そもそも「挽回」に「取り戻す」という意味は

「挽回」は漢文由来の言葉で、北時代の文人・東坡のにも「挽回霜鬓」と登場する。漢文における「挽回」は「覆したい現状」をとする動詞で、意味は「(その現状を)覆す」というもの。これは現在中国語でも変わっておらず、『漢語大詞典』(漢語大詞典出版社)や百度百科exitで「挽回」の意味を調べてみても誤用説でされるような「取り戻す」といった用例はなく、前述の解説があるのみである。

つまり「挽回」に「~を取り戻す」という意味があるのだと仮定すれば、それは「挽回」が日本に伝わって以降に日本で独自に発展した用法ということになるはずなのだが、不思議なことに日本においても「挽回」が「取り戻す」の意味で使われていた形跡はほとんどと言っていいほど見つからない。だと思うのならば、実際に使われてきた様々な「挽回」を「取り戻す」と置き換えて意味が通るか試してみるとよい。そのどが「取り戻す」と訳しては意味が通じないことが分かるはずである。

挽回の用例

挽回の用例
挽回霜鬓
「老いてきた現状を覆す」の意味。「失った白髪を取り戻す」ではない。
霜鬓は「こめかみに生えてきた白髪」のことで老いの徴。
挽回の用法の原点とされる11世紀の東坡の
劣勢を挽回する
現在の劣勢を覆す」の意味。「失った劣勢を取り戻す」ではない。
衰運を挽回する
現在の衰運を覆す」の意味。「失った衰運を取り戻す」ではない。
頽勢を挽回する
現在の頽勢を覆す」の意味。「失った頽勢を取り戻す」ではない。
を挽回する
現在を覆す」の意味。「失ったを取り戻す」ではない。
赤字を挽回する
現在赤字を覆す」の意味。「失った赤字を取り戻す」ではない。
失敗を挽回する
現在の失敗を覆す」の意味。「失った失敗を取り戻す」ではない。
貧窮を挽回する
現在の貧窮を覆す」の意味。「失った荒地を取り戻す」ではない。
敗局を挽回する
現在の敗局を覆す」の意味。「失った敗局を取り戻す」ではない。
悪評を挽回する
現在の悪評を覆す」の意味。「失った悪評を取り戻す」ではない。
失地を挽回する
「地位/地盤/土地を失っている現状を覆す」の意味。「失った失地を取り戻す」ではない。
荒地を挽回する
「土地が荒れている現状を覆す」の意味。「失った荒地を取り戻す」ではない。
遅れを挽回する
「遅れている現状を覆す」の意味。「失った遅れを取り戻す」ではない。
不名誉を挽回する
「不名誉な現状を覆す」の意味。「失った不名誉を取り戻す」ではない。

グレー部分(文字部分を除く)をクリックすると用例集が展開されます。もう一度クリックすると折りめます。

汚名挽回(不名誉挽回)、名誉挽回、汚名返上

「汚名挽回は汚名返上名誉挽回が混ざってうまれた」とする起説も、時系列的に怪しいと言わざるをえない。

もし仮に汚名挽回が汚名返上名誉挽回からうまれた言葉であるならば、「汚名返上」と「名誉挽回」という言葉は「汚名挽回」が使われる以前から広く使用されていなければならないはずだ。

ところが、「汚名挽回」の使用が少なくとも19世紀(明治時代[1]に遡って確認できるのに対し、「汚名返上」や「名誉挽回」についてはそうした古い使用例が見つかっていないのが現状である[2]
さらには「名誉」と「挽回」を組み合わせた言い回しについても、かつては「名誉挽回」ではなく「不名誉挽回」という言い回しだったことまで分かってきた[3]。不名誉≒汚名と考えるならば、不名誉挽回は汚名挽回の言い換えと考えてもよいだろう。

つまり、時系列的には、それぞれの言葉は下記のような順番で登場してきたと考えられるのである。

 汚名挽回、不名誉挽回
 ↓
 名誉挽回
 ↓
 汚名返上

少なくとも1975年出版の『日本国辞典』(小学館)では、「汚名をぐ」の言い換えとして「汚名を挽回する」と「名誉を回復する」は載っているが、「汚名を返上する」や「名誉を挽回する」といった言い回しは載せられていない

そもそも「汚名返上」は誤用だった

このように、「汚名返上」は最近になるまでには使われていなかった言葉なのだが、それもそのはずで、伝統的な日本語においては汚名返上」は敬語の誤用とされうる言葉なのだ。

というのも、「返上」とはありがたいものを授けてくれた相手に感謝して敬い遜って用いる謙譲であって、「汚名」のようなありがたくないものと「返上」を組み合わせる用法は従来の日本語では存在しなかったのだという。
日本語教授佐々木氏によれば、汚名返上」という言葉が許容されるようになったのは較的最近の現であるという。

国語に関する世論調査

文化庁の調査exitによると、2004年に行われたアンケートでは40歳代~60歳以上(1964年以前生まれ)では「汚名挽回を使う」と答えた人が44.0~50.0と10歳代~40歳代と較して多かった。

文化庁は、これを含めた3つのアンケートの結果から「本来とは異なる言い方が、高年層で高い割合」と結論付けたのだが、前述の摘や研究成果からすると、単に「汚名挽回誤用説」が登場する以前に生まれた人たちが誤用説に騙されることなく本来の言葉を使い続けていただけと考えた方が自然なのではないだろうか。

当然、文化庁の結論が正しい可性もないではないが……。

いつ誤用説がうまれたか?

2014年5月1日国語辞典編纂者の飯間浩明氏のツイートexit話題となった。
概ね、上記の「挽回」に関する件を『三省堂国語辞典』第7版に記述した、とのこと。

飯間氏は、「汚名挽回」が誤用とされるようになったのは1976年の『死にかけた日本語』(英潮社)の摘が原因なのでは、と推測している。

この『死にかけた日本語』は「マスコミの言葉の乱れを素人る!」と称した読者参加企画本で、同書の35ページに「汚名ばん回は変である」とする読者からの投稿が取り上げられている。
この投書を編者の福田存氏が "挽回は「もとに戻す、回復」という意であるから……汚名を回復することになってしまう" と肯定的に解説してしまっているのだが、「挽回」がとるは変えようとしている「好ましくない現状」であって変える先の状態ではないので、「汚名挽回」は「汚名を着せられた現状から回復する」という意味にこそなれども「汚名を着せられた状態に回復する」という意味には決してならないのである。もしかしたら、英文学出身である福田氏は漢文由来な「挽回」の用法には詳しくなかったのかもしれない。

書籍によって誤った知識を植え付けられる事例は「ゲーム脳」などの疑似科学を扱う本が記憶に新しいが、これがもし漢文を基礎教養として学んでいた時代のことであれば、おそらく多くの人は汚名挽回誤用説に騙されることはなかっただろう。汚名挽回誤用説が一時的にでも広く信じられたということは、漢文が基礎教養としての地位を失ったことのあらわれなのかもしれない。

アニメ・ネットでの使われ方

アニメでの使われ方

「汚名挽回」という言い回しは、汚名挽回誤用説が幅をきかせる以前の古いアニメを見ているとよく散見される。

たとえば1983年7月に放映開始された「キャッツアイ」(第1シリーズ)がニコニコアニメチャンネルで放映されたときにも何度も汚名挽回というセリフが出てきて、若い視聴者からのツッコミが入っていた。

しかし、決定的にサブカルチャー業界に広まったのは、ガンダムシリーズ富野由悠季監督の「トミノ」がきっかけとされる。

1985年昭和60年3月23日に初放映されたアニメ機動戦士Ζガンダム』の第4話「エマの脱走」において、ジェリド・メサ(及び受け答えをしたバスク)が以下のセリフを発するシーンがある。

バスク 正攻法で、アーガマの新モビルスーツを略奪してもらいたいのだ。
中尉ならできるはずだ。
私に意見をするほどの、器量をお持ちだからな。
エマ しかし。
バスク なにも一人でとは言わない。
ライラ隊との共同戦線をることを許可しよう。
3機のガンダムMk-Ⅱを使っても良い。
ジェリド 大佐ガンダムMk-Ⅱを使わせていただけるのならば、自分が汚名挽回をしたく…。
バスク 汚名挽回?
その言葉は実績を見せた者がいうことだ。
どうかね、エマ・シーン中尉?

-------------------------------------------------------> 《 参考動画exit_nicovideo

セリフとして「汚名挽回」を発していたのは検証した結果この4話だけであったが(なお、劇場版漫画機動戦士Ζガンダム Define』では汚名返上」に変更されている)、ジェリドセリフではなく実際に行動でも(ネットスラングとしての)汚名挽回を繰り返すため、いつしか「汚名挽回」を代表するアニメキャラとなったのである。(詳しくはジェリド・メサの項を参照)

なお、当記事更新前に、ジェリド・メサが何度も汚名挽回と言っていたような誤った記述をしていたことをお詫びします。掲示板摘を受け調べましたが編集者うろ覚えでした。ジェリドの汚名挽回のため謹んで訂正いたします。

また、『Zガンダム』より1年前の1984年(昭和59年)3月3日から放送したアニメルパン三世part』の第2話でもやはり次元大介が「とっつぁんに汚名挽回チャンスを~」と言っている場面がある。こちらはDVD版でも修正されずそのままである。もう許してやれよ

このように「汚名挽回」というセリフアニメ業界において今でもり継がれるような名作アニメ上でも多用されたため、「誤用じゃない!(誤用じゃない!)ホントのコトバ~♪」(これはZZか)としていつしか妙な市民権を得ていったのである。そしてまた、それらのアニメを見て育った日本人にも、汚名挽回という言葉は焼き付いた。

しかし、21世紀以降のアニメでは、汚名挽回を誤用であろうと誤解した視聴者ネットですぐツッコミを入れられるようになったためか、汚名挽回というセリフを見かけることは少なくなった。そのため現在ではボケとして使われることが一般的。
似たようなものにCLANNAD春原の汚名万来という誤用もある。

ネットでの使われ方

かつて汚名挽回が「いだ汚名を取り戻す」という意味の誤用であると認識されていた経緯から、ネットでは俗語的に下記のような意味でも使われていた。

  • 普段は「汚名」通り使えない者が、急に活躍して汚名をぐものの、その後また使えなくなることで「汚名」を取り戻すこと。
  • 汚名を持つキャラだった者が、一時期汚名をいてでいた時期があり、再び汚名を取り戻す事 (ネットでの使われ方参照)。

ネットにおいて汚名挽回という言葉が流行することになったのは、2人の伝説の人物の登場によってである。

1人は「江頭2:50」。

1クールのレギュラーより1回の伝説」が座右の銘である彼はまず、1997年2月15日江頭テレビ東京の『ザ・場破り!』の企画の一環として、トルコで行われたオイルレスリング交流試合の会場に前座として乱入3000人以上のトルコ人を前にして全裸パフォーマンスを行い、暴走して肛門でんでん太鼓を刺して逆立ちというパフォーマンスをしてトルコ警察によって身柄を拘束され逮捕されるという国際問題になりかねない大伝説を残す。

その頃はまだインターネット明期であったためようつべ動画等も出まわらず本当に伝説になっただけだが、「賀子にキスして笑っていいとも永久出演禁止にされる」「北朝鮮に突入」「北京五輪聖火リレーに突入(さらに五輪会場にも)」などの過パフォーマンスを繰り返す頃にはインターネットが普及し、「汚名挽回」とは彼のためにある言葉なのではないかと、江頭2:50が稀にテレビに出演するたびネット住民は「また汚名を挽回してくれないかな~」と皆で実況スレwktkするようになったのである。

(ただし2011年東日本大震災で物資が行き届かなくなった福島県いわき市の窮状を見て満載のトラックで単身乗り込んで救援物資を届けた美談が世間に伝わると、一気に汚名返上したと話題になった。しかし本人はこれに焦り数々の美談を否定するとともに、善人キャラになってしまっては困ると再び頑って汚名挽回中である。)

もう1人は「田代まさし」。

まず、2000年9月24日東急東横線都立大学駅構内において帽子サングラスマスクという姿で女性下着盗撮しようとしている様子を撃者が通報されたのがマスコミに発覚し「ミニタコ」の名言を残した彼は、さらに2001年12月9日田代は近所の男性風呂を覗いたとして軽犯罪法違反容疑で現行犯逮捕された。

こうして盗撮することを「タシーロする」と表現するぐらいのネットスラングになり流行したのだが(「片翼の田代」等を参照)、これはまだまだ序章で「これからが本当の汚名挽回だ」であった。

この連続盗撮事件を不審に思った警察が自宅を宅捜索したところ、なんと覚醒剤が発見され、覚醒剤所持・使用容疑で12月11日、再逮捕され、所属事務所解雇されてしまうのである。

2002年3月、裁判で懲役2年執行猶予3年の判決を受けた彼は、サンデージャポンなどに出演してお詫びするものの、執行猶予中の2004年9月20日に再び覚醒剤及び渡り8cmバタフライナイフを所持していたとして銃刀法違反と覚せい剤取締法違反の現行犯で逮捕され、とうとう懲役刑になってしまう。これには師匠的存在の志村けん全にを投げたと伝わり、この頃からネットでは「またお前か」より強い言葉として「また田代が汚名挽回した」と使われるようになったのである。

出所したころ丁度始まったニコニコ動画にも出演し、ニコ生でも視聴者に更生を誓っていた彼であったが、2010年平成22年9月16日午前2時10分頃、横浜赤レンガパーク駐車場内で会議応援警備に当たっていた福岡県警察本部の警察官職務質問を受けた際、コカインをポリ袋に入れて所持していたことが発覚し、またまたまたまた汚名を挽回してしまったのである。

今度は懲役3年6ヶの実刑判決となり収監された田代2014年7月2日に仮釈放され、2015年2月、4年6ヶぶりに自身のブログ更新民間依存リハビリ施設「ダルク」のプログラムを受けていることを報告し、更にその後6年ぶりの著書「マーシーリハビリ日記」の発売イベントも行った。この会見時、やせ姿から健康的な姿に回復していたため、ついに彼は矯正を果たして汚名挽回の負のサイクルを断ち切ったかと思われた。

しかし2015年7月6日東京都世田谷区東急電鉄二子玉川駅女性スカートの中を携帯電話盗撮した疑いで事情聴取を受けていた事が報道された。約15年経ってもなお「ミニタコ」のコント構想に未練があったのか・・・。田代まさし氏の汚名挽回は残念ながらまだ続いている。

これら2名によって、汚名挽回はインターネット上で

かつての汚名を再び取り戻す汚名行為」という意味を確立した。

故に、汚名挽回という言葉は、ネット上においては

日本語の誤用かどうかの問題とは別次元ネットスラング”になったのである。

関連動画

関連項目

脚注

  1. *例えば 『第二回新潟縣農談會日誌』exit94ページの3列『關東區實業大會報告』exit143ページの11列
  2. *青空文庫内で「汚名(を)返上」という文が見つからなかったexitという報告もある。
  3. *例えば吉野作造『所謂帷幄上奏に就て』exit(大正11年)の3段
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