油圧 単語

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 油圧とは、簡単に言うと「密閉間に閉じ込めたの圧によって、小さなで離れた場所に大きなを作用させる技術」である。

概要

 異なる断面積のピストンを2つ用意し、液体を注入してそれらをつなぎ合わせる。このとき、ピストンの片側に圧をかけると「パスカルの原理」により、断面積の大きいもう一方にも例したが得られる。つまり、てこの原理や滑の原理のように、の前に「小さな」を加えることで離れた場所に「大きな」を生じさせるのである。油圧とは、これをによって実現する技術であり、この仕組みは重機などを「人の」で操作する際に大活躍する。

 油圧の優れた部分はこうした利点を、小かつ軽量で実現できるところにある。例えば、機械式だと大きなを伝達するためには歯車や軸を大量に用いる必要があり、油圧式にべると大掛かりな装置になる。なぜなら、油圧式が荷重を均一に伝達できるのに対し、機械式は動力部の接触部形状により面圧が不均一になるために動伝達が非効率になるからだ。

 さらに、過負荷防止が容易であることも特筆されるだろう。油圧式は「安全弁」というを逃がす制御弁をつけるだけでこれを実現できるが、電気式では定期的な交換が必要な「ヒューズ」や落ちるたびに入れなおす必要のある「ブレーカー」が必要になる。

 他にも制御弁のみでが調節できる「制御の容易さ」、圧縮率の高さによる「ショックや振動の軽減」、荷重が均一なことによる「摩耗の少なさ」など油圧を用いるメリットは多く存在している。

なぜ「油」なの?

 むろん、先述の現でなくとも流体ならどれでも再現できる。しかし、それでもが用いられるのはのもつ「度」や「沸点」がなどのそれにべ、好都合だからだ。度が高く沸点も高いは、隙間から漏れにくく熱で蒸発しづらいため、航空機などの乗り物に用いるのに最適だったのである。

 もうひとつ重要な点は、は常温でもなど金属と反応して錆を生じるのに対して、であれば錆の心配はい。更には互いに弾き合うことから、で満たされた油圧配管の内部はが混入しにくい環境であり錆の発生防止となっている。

機器構成

 油圧機器は、概ね次の5要素が組み合わさることで構成される。ただし、機器によっては一部の要素が省略されており、例えば自動車バイク等のサスペンションにある油圧ダンパー式のショックアブソーバーポンプ要素を兼ねたピストン・シリンダアクチュエータと内蔵された制御弁のみ、一部高級品でタンクが外付けされている程度で、非常にコンパクトな構成となっている。

ポンプ

 外部からの機械的な仕事を受けて油圧を生み出す。油圧機器の心臓部であり最も油圧がかかる要素のため、特に頑丈に設計製作される。外部からの機械的な仕事の入エンジンないしモーターから供給されるが、自動車ブレーキ機構や、タイヤ交換に使われる油圧ジョッキのような小の油圧機器であれば人力を用いるものもある。モーター駆動であれば油圧ポンプ専用とするのが一般的であるが、エンジン駆動については油圧ポンプ専用とする場合も他の機構を駆動するエンジンから補助的に軸出を受ける場合もある。
 一口に「ポンプ」と言っても高圧の油圧を確実に押し込むことが要されるため、ポンプのような羽根を使うものはほぼ採用されず、弁や歯車やねじ等で流路を区切る【容積ポンプ】が用いられる。

制御弁

 油圧を制御してアクチュエータを望む方向に動かし、あるいは動かないように保持する為の要素。油圧機器の動作精度や安全性に直結する部分で、非常に高精度な加工技術が要される繊細な部品で構成される。使用用途によって【圧制御弁】【流量制御弁】【方向制御弁】などに分類される。制御弁の操作についても、圧による自動作動、外部からの人力操作、電磁駆動を用いた電磁弁、パイロット油圧によるパイロット弁操作など多岐にわたる。

アクチュエータ

 油圧の圧エネルギー機械的な仕事に変換する。油圧機器として大きなを取り出すメインとなる部分であり、油圧に加えて機械的な負荷も作用する場所に配置されることから、油圧機器要素の中でも大きく頑丈に設計製作される。
 動作形態で【直線運動シリンダー】【回転運動:油圧モーター】【揺動:揺動アクチュエータ】の大きく3種類に分類される。

タンク

 に常圧で作動を蓄え、温度変化に伴う熱膨張漏れによる残量減少へのバッファーとして作用する。また、に混ざりこんだ空気等や、に油圧ポンプやアクチュエータにて金属同士の接触摩擦で発生する微細な金属くず等を、常圧・ほぼ静状態のタンクに置くことで分離・沈殿させる機もある。

配管、付属品等

 油圧管については、流部分である【油圧供給管】【戻り管】【ドレン管】と、アクチュエータに油圧を供給する【動伝達管】、他の油圧機器を制御する為のパイロット油圧を通す【パイロット管】に分類される。流部分を血管に例えると、油圧供給管が油圧ポンプ=心臓からの油圧を各部に送る動脈、戻り管が各部から戻るを通す静脈、ドレン管が各部で漏れ出たを回収するリンパ管に相当する。

 付属品としては、最も一般的なものは【フィルター】であろう。タンクでも微細な金属くずや外部からのゴミ等を分離しているが、フィルターはより直接的にからごみ等を分離する。フィルターの材質は網、布、などが用いられる。また、特に金属くず対策として内部に永久磁石を埋め込んだ【マグネットフィルター】や、タンク内に永久磁石を置く【タンクマグネット】という例もある。とりわけタンクマグネットは人手でも較的点検が容易なため、油圧系統の中で金属くずが発生するような損耗の監視部品としても活用される。

 その他、温度や圧を計測する【温計】や【圧計】、を冷却する【冷却器】が付属品として一般的である。寒冷地向け機材であれば、逆に始動時に温を高める【ヒーター】を組み込むこともある。

主な油圧装置

静油圧式無段変速機・HST

 油圧ポンプと油圧モーターをワンセット筐体に組み込み、変速機とした装置が【静油圧式無段変速機(英:Hydro-Static Transmission, HST)】である。一般的に、部品の流用しやすさや制御の容易性から、油圧ポンプ・モーターどちらも【斜アキシャル式】を用いることが多い。斜アキシャル式とは、円筒形にレンコンのような行なけたアキシャルシリンダーピストンを通し、ピストンごとシリンダーを回転させる方式。ピストンが押し合う側の逆側を斜に押し付け、斜は回転させないことでピストンによるの押し引きを作り出す。斜度を変えることでピストンの押し引き移動量を変化させることができ、これを用いて変速機として活用である。初期の一般的な油圧装置を転用したタイプでは斜度可変機構は油圧モーター側に付けられていたが、HSTとして専用設計の機器ではポンプ側に斜度可変機構を備えるのが一般的である。

 HSTの特徴は、較的軽量コンパクトな装置で大きな軸トルクを伝達可なこと・段階で連続的かつスムーズに減速から増速あるいは逆転まで可なこと、一方で高速回転の伝達を苦手とすること・伝達効率がやや低くなりがちなことである。これらの特徴から、特に農業用機器の駆動部に採用されることが多い。

 同じを媒体とする変速機であるトルクコンバータとの違いは、トルクコンバータ羽根ポンプとタービンをカップリングしたもので、HSTよりも同じトルクを伝達するのに装置が大化しがち・特に低速では伝達効率が大きく低下する・一定の変速には制御できない・等の弱点があるが、装置内部の油圧が低く負担が小さいことから装置寿命が長くできる・低速での低伝達効率を逆用して速度クラッチの役を兼用可・負荷の急変が逆流しにくくエンスト防止効果がある・等の長所がある。

油圧機械式無段変速機・HMT

 HSTの技術を用いて、弱点である伝達効率を向上させ高速回転の伝達に対応させるべく、HST機械式変速機を組み合わせたのが【油圧機械式無段変速機(英:Hydro-Mechanical Transmission, HMT)】である。HMTは、HST機械式変速機・動合成部の三要素から構成され、エンジン等の動からHMTに入された軸回転動は、まずHST機械式変速機に分配される。HSTは上項のとおり、機械式変速機は歯車等を組み合わせた機構であり、通常は手動変速機のようなシンプルな外歯車の組み合わせで構成される。なお、一部機器では機械式変速機の部分に変速機い、単段の減速機や更にシンプルな軸だけで接続するHMTも存在する。

 動合成部は、遊星歯車機構が用いられる。遊星歯車機構の特徴であるシーレスな動合成を利用して、HST機械式変速機の出合成し、高効率で自由度が高い変速域を生み出すことを可としている。事実、HMTを採用した10式戦車の評価資料においても、推定トルコン付5~6速ステップAT式の戦車較して、ごく狭い最高速域を除くほぼ全てに近い運転領域で起動輪軸出で優越しており、HMTの優秀性が強調されている。ただし、動合成部の遊星歯車機構をそのまま逆転出に利用することは難しく、逆転機構は別途用意しておく方が望ましい。

 HMTの採用事例は概ねHSTに準じて農業用機器が多いが、それ以外では先にも述べた三菱重工業陸上自衛隊向けに開発した10式戦車が有名なほか、ホンダ技研にてオフロード用4輪バギーや一部オートバイにも採用されている。

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