漢那憲和とは (カンナケンワとは) [単語記事]

　漢那憲和〔（かんな　けんわ）明治十年（1877年）9月6日～昭和二十五年（1950年）7月29日〕とは、沖縄県出身の帝国海軍軍人で当時の海軍内では航海術に長けており皇太子（後の昭和天皇）の欧州視察の際には御召艦の艦長も勤めた、最終階級は海軍少将、予備役を経て数期にわたり衆議院議員を勤めたが沖縄戦により沖縄が米国に占領されたこと等により失職、その後は沖縄県の祖国復帰のため陳情等を行っていたが志半ばで昭和二十五年肺がんのため73歳で死去。

漢那提督の生涯

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～　幼少時代　～

　明治十年（1877年）9月6日、琉球藩那覇区西村（現・沖縄県那覇市西）で王府の役人を勤めていた父・憲慎と母・オトの間に長男として生まれる。
　明治二十八年（1895年）、那覇に寄港していた連合艦隊旗艦「松島」に乗り込もうと級友数名でボートを漕ぎ、出迎えてくれた佐野常羽少尉（後に海軍少将）と出会ったことにより海軍に進むきっかけとなる、この年当時通っていた沖縄尋常中学校（現・県立首里高等学校）で伊波普猷（後に民俗学者、言語学者）らと共に校長排斥ストライキを首謀し、11 月退学処分を受ける、12月下旬、文部大臣へ建白書を送る。
　明治二十九年（1896年）3月20日、当時の沖縄県知事、奈良原繁が校長の解任を決定する。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～　帝国海軍軍人時代　～

　明治二十九年（1896年）、海軍兵学校に入学、中村良三（最終階級・海軍大将）、末次信正（最終階級・海軍大将）は兵学校の同期である。
　明治三十年（1897年）、品行善良賞を授与される。
　明治三十一年（1898年）、新入生の訓練係を命じられその指導を受けた者の中に米内光政（37第内閣総理大臣、最終階級・海軍大将）らがいた。
　明治三十二年（1899年）12月16日、海軍兵学校（27期）卒業、成績優等により恩賜の双眼鏡が授与される（少尉候補生となる）。
　同年、練習艦「金剛」乗組みを命じられ翌年の明治三十三年（1900年）豪州、南太平洋方面へ遠洋航海、帰国後軍艦「常盤」への乗組みを命じられる、明治三十四年（1901年）、海軍少尉となり砲艦「橋立」乗組みを命じられ翌明治三十五年（1902年）、海軍中尉となり明治三十六年（1903年）にコルベット艦「金剛」航海長心得、明治三十七年（1904年）、海軍大尉となりコルベット艦「金剛」航海長を経て装甲巡洋艦「磐手」航海長へ、この年赤痢に罹り海軍病院に入院する、明治三十八年（1905年）、巡洋艦「音羽」航海長として日本海海戦に参加する。
　明治三十九年（1905年）、日露戦争の功により功五級金鵄勲章、勳五等双光旭日章を賜る、この年海軍大学校乙種学生となる、翌年海大乙種課程を卒業、同年海大航海術専修学生へ進学し首席で卒業、恩賜の銀時計を下賜され同時に兵学校教官兼監事を命じられその頃は南雲忠一（36期）、井上成美（37期）、小沢治三郎（37期）、栗田健男（38期）らが在校している時期であった、明治四十二年（1909年）練習艦「宗谷」航海長として米国・カナダ方面を巡航する、この年工作艦「関東」航海長に補す、明治四十三年（1910年）、旧琉球国国王尚侯爵の五女、政子と結婚する、この年横須賀鎮守府及び第一、第二艦隊連合小演習審判官陪従を命じられる。
　明治四十四年（1911年）、海軍大学甲種学生卒業、この年戦艦「石見」航海長心得となる。
　明治四十五年・大正元年（1912年）、北清方面を航海、この年勳四等瑞宝章を賜る。
　大正三年（1914年）、海軍軍令部参謀兼海軍大学校教官に任じらた後、中佐へ進級、教官在任中には山本五十六少佐（当時）や古賀峰一大尉（当時）らの学生が在学していた、翌年大正四年（1915年）、南洋群島を視察、大正七年（1918年）、在南アフリカの防護巡洋艦「対馬」艦長に補されて着任、第一次世界大戦終結により帰国後、海軍大佐となり海軍軍令部参謀に補す。
　大正八年（1919年）、特別大演習審判官、
　大正九年（1920年）、皇太子殿下欧州外遊のため御召艦戦艦「香取」艦長を拝命する、翌大正十年（1914年）、皇太子殿下欧州外遊のため途中沖縄に立ち寄りその後欧州方面を航海、各国政府から勲章を授与され、帰国後大正天皇より金杯を賜る、同年12月1日、戦艦「扶桑」艦長に補す。
　大正十一年（1922年）、戦艦「伊勢」艦長に補す、翌大正十二年（1923年）横須賀防備隊司令に補す、海軍少将に昇任する、大正十三年（1924年）、海軍軍令部出仕を命じられる、大正十四年（1925年）7月30日、「待命」（予備役編入）が伝えられる、漢那提督四十八歳のときである。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～　衆議院議員時代　～

　昭和二年（1927年）、沖縄からの衆議院選挙出馬を決定、県出身者移民などへの後援要請のためハワイ、北米方面へ遊説、翌昭和三年（1928年）、民政党から出馬し第16回衆議院選挙で初当選、昭和五年（1930年）、第17回衆議院選挙で再選、翌昭和六年（1931年）、民政党常任幹事になる、同年南米諸国を視察、昭和七年（1932年）、第18回衆議院選挙で落選。
　昭和十年（1935年）、後備役編入、翌昭和十一年（1936年）、第19回衆議院選挙で当選、昭和十二年（1937年）、第20回衆議院選挙で当選、この年北支派遣軍慰問議員団団長として渡中、昭和十三年（1938年）、民政党総務に就任、この年衆議院満州視察団団員として渡満する。
　昭和十四年（1939年）、平沼内閣の内務政務次官に就任する、五つの委員会の委員に任じられる、高等官一等へ叙せられる、昭和十六年（1941年）、陸軍を批判する内容の講演を行ったため特高に監視される、昭和十七年（1942年）第21回衆議院選挙に当選、選挙活動中に政子夫人が倒れ半身不随となる、昭和二十年（1945年）、第87回帝国議会で衆議院議長候補に推される、同年12月18日、衆議院を解散、沖縄や千島等での選挙は行わないことが決定された為１７年の政治生活を終える。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　～　晩年　～

　昭和二十一年（1946年）、公職追放令、軍人恩給が停止される、マッカーサー元帥へ沖縄復帰嘆願書を提出、母オトが疎開先の沖縄本島北部で死去（享年87歳）。
　昭和二十五年（1950年）7月29日、「沖縄主権の回復を聞いてから眼を閉じたい」と語っていた漢那憲和であったが、肺がんのため東京の自宅にて死去（享年73歳）、葬儀の日には昭和天皇が侍従をお使いに立てられたほか岡田啓介元大将（３１代内閣総理大臣）や野村吉三郎元大将（元駐米大使）、兵学校のクラス（同期生）など元海軍軍人らが多数集まって彼の死を悼んだ。同年１０月１３日、公職追放令が解除される。
　昭和二十六年（1951年）9月8日、サンフランシスコ講和会議が開かれる。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　昭和四十七年（1972年）5月15日、沖縄県が日本に復帰。

昭和天皇の艦長　沖縄出身提督漢那憲和の生涯　　恵　隆之介著　より一部抜粋