異端審問(Inquisitio)とは、中世西ヨーロッパでカトリック教会が異端信仰者を正統側へ復帰、もしくは異端者として排除することを目的として作り出した制度及びそれに当たる人物、そしてその裁判そのものの総称である。
中世後期において、キリスト教徒は「異端」を大きな問題とした。地方では未だに「異教(Pagan,Heresy)を奉していたためである。これに対してカトリック教会は1229年にフランス国王と共にフランス国内における全司教区に専門の委員会を作り、異端に対する弾圧を行うようになる。そして1232年、教皇グレゴリウス9世はドミニコ会に異端審問官の役職を委ね、この後よりドミニコ会が異端審問を担うこととなった 。
その初期においては純粋に「異端」に対しての組織であったが、その後世俗側からの要求にこたえる形で「魔女」に対してもその幅を広げた。
その異端者に対する残虐な態度から、中世ファンタジー等における「悪役」扱いされることが多い。
既に述べたように、1229年にそれが作られているわけだが、同年はカタリ派に対する異端討伐十字軍(アルビジョワ十字軍)が終結した年であること、教皇庁がフランス国王と共にその委員会を作っていることから、カタリ派残党を排除することを目的に創設したと考えるのが普通では無いか、と思う。
その後1232年に説教を中心的な活動としていたドミニコ会にその役職が委ねられるが、これはドミニコ会が異端に対していかにカトリック信仰が正しいかを説くため、徹底した学問研究を行っていることからも見られる。なお、中世におけるスコラ学を担ったのもドミニコ会であった。
その後も彼らは活動を続け、14世紀頃に異端に対する審問は最盛期を迎えることとなる。この頃の最も有名な異端審問官はベルナール・ギーで、彼はその役職を終えた後、膨大な量の異端に対する史料を残した。特に「異端審問の指針書」は、魔女狩りに対する「魔女に与える鉄槌」のような扱いを受け、異端審問官への教科書とされた。
15世紀からは彼らは所謂「魔女」に対してその審問を行うようになる。この時の有名な人物としてはスペインでその任に当たったトルケマーダがあげられる。
異端審問官はInquisitorというのだが、彼らのうち特にドミニコ会士(Dominicanis)に委ねられて以降、ドミニコ会士の異端審問官はその名前からDomini canis、すなわち「主の番犬」と捩って自らの誇りとしていた。また、異端者側からはこのドミニコ会士を「主の犬」として侮蔑していた。絵画においても彼らは教皇座の足元に犬として描かれることが多い。
なお有名な人物としてはベルナール・ギーが挙げられ、彼の残した史料から異端審問とはどのようなものであったかが読み取れる。
悪者にされがちな彼らであるが、彼らの名誉のために言っておかなければならないのが、彼らの心理である。
まず、異端審問官の疑わしきは罰するという態度であるが、これは彼らの置かれた状況から作られてしまう。まず、その土地の司教にとって、異端審問官は「自分の土地を荒らす者」であり、司教側は極めて非協力的であった。また、場合によっては異端審問官は異端者によって殺される可能性もあるため、彼らにとっては自分以外は全て敵に見えた、と考えられる。
また、彼らの裁く罪とは「魂の犯罪」であったため、その現世における罪は余りにも曖昧なものであった。
そして何より、彼らは当時、「知的エリートの中でも超エリート」であり、「主の番犬」としての強い「正義感」を以ってその任に当たっていた。そのため、彼らの行動に付きまとう邪魔に対して常に悩まされなければならなかった。いうなればウルトラマンであるとか、5色の戦士たちに似た感じである。
教会は基本的に「民衆は正しい教えなくしては異端に陥りやすい迷える子羊」と言う考えを持っており、そのため、先にも述べたとおり、所謂「異端」に陥った民衆の犯した魂の犯罪を断罪し、そして正統信仰つまりカトリックへと復帰させることが最大の目的である。決して彼らを火刑に追い込むことが目的ではない。
しかし、中世後期においては後述のように密告が奨励され、さらに密告をした者には金銭が支払われたため、報酬目当てに無辜の市民を密告する者や、教会内における自身の地位を高めるべく「異端者を増やす」審問官がいたため、時には無罪の者でさえ死刑コースまで送る事もあったという。
まず異端審問官は一つの集落、村、都市に赴き、そこで最初に説教を行う。この時点で自らの罪を告白するものもおり、そういったものに対しては軽い罪のみで、後に異端審問官となるというようなケースも見られる。だが、実際にこの時点で告白するケースは稀で、多くの場合、異端者は密告によって審問官に知らされる。なお、告発者の名前は伏せられ、公表されない。
その後対象者を招聘して裁判が始まる。現在の裁判は被告、検察、裁判官の3つの柱で構成されるが、当時は異端審問官が検察と裁判官両方を勤めた。
そして始まるのが「罪の自白」を促す措置、すなわち拷問である。ちなみに拷問は1252年に「滅ぼすべきは」という教皇の回勅により認可されている。まずはじめは軽い拷問で、鎖につなぐ、飢餓状態に置く、不眠などがあげられる。なお、最も効果的なのは不眠であった(やったことがある人は分ると思うが、3日寝ないと世界が回りだし、4日寝ないと幻視が見え、5日寝ないと会話が成立しなくなり、6日寝ないと倒れる)。この段階でも自白しなければ、鞭打ち、逆さ吊り、炭火焼、足かせ、水責め等々が行われる。一回の拷問は30分までであるものの、告罪するまで繰り返されるのが常だった。また、殺すことは絶対に許されず、殺した場合拷問に当たった刑吏が殺される。そして、拷問中に被告が発した言葉は、たとえうめき声であろうと全て記録され、罪を告白した時点で終わる。
その後十字の着用、鞭打ち、巡礼、財産没収、終身懲役といった刑罰が課される、それでも改悛しなかった場合に死刑(火刑)となる。
なお、火刑は世俗の手に委ねられるため、審問官が担当するのは判決までであるものの、例え火をつける直前であれ、火をつけた後であれ、被告が「改悛」した場合、その命は助けなければならないとされている。
この方法のマイナス面としては「疑わしきは罰する」というやり方であるものの、プラス面としてはある種の合理性、証拠重視ということであり、現代の裁判制度の原型がこの異端審問制度であった。
しかし後期では、特に密告制度ではありがちな疑心暗鬼と金銭欲にまみれ、この審問は苛烈にして無意味を極めた。
異端審問官は本来、「異端」にのみ、その対応を任されていたものの、15世紀ごろになるとその対応を「魔女」にまで広げる。
魔女が出てきたのは13世紀ごろからと考えられるが、この時点で教会は魔女について「ものぐるい」「精神病患者」のようなものとしており、魔女の存在に否定的である。これらのことは当時の史料からも伺える。
だが、14世紀終わりごろには世俗君主側から教会に対してこれら魔に属する者の裁判はいかにすべきか、事実犯罪は犯しているが、それは世俗の法の範囲内ではないことから、「魂の犯罪」にかんする裁判を教会に任せるという形をとるようになる。そのため15世紀からは教会が魔女狩りを中心的に行うようになった。
やがて魔女への苛烈な措置はエスカレートしていき、異端審問とは独立した魔女への迫害、すなわち「魔女狩り」に発展することとなる。
詳細は「魔女狩り」の記事を参照。
ここでいう魔女とは、いくつかの意味がある。
異端審問の刑として最も有名なのが火刑であるが、この方法は極めて非合理的、非経済的である。
まず火刑にした場合、被告は焼死する前に一酸化炭素中毒で死亡する。しかし、教義によってその遺体は灰になるまで燃やされ続け、そのためには大量の薪が必要になる。火刑は外で行われるので、約3日ほどまきを投入し続けることとなるのである。
さらに灰となった後は川や海などにその灰は捨てられ、その痕跡までも徹底的に排除することになる。
なぜならば火刑とは単なる刑罰ではなく、火によって魂を清める儀式と考えられていたからである。
なお、宗教改革の折に火刑にされたフスの場合、その灰が触れた土を「聖遺物」としてフス派の信者が崇拝することを恐れた教会は、火刑が行われた場所の周りの土ごと川に捨てている。
掲示板
112 ななしのよっしん
2024/01/29(月) 19:19:51 ID: FOCcKa1ymV
異端ってのはあくまで宗教活動から見て中央の教義から外れるものを指す
アベだトランプだ反ワクチンだを異端と称するのは自分が宗教感覚で政治語ってることを暴露してるだけやぞ
というか異端審問に期待してるものも、証拠がなくても有罪で苛烈な拷問のち火あぶりでしかないでしょああいう手合い
113 ななしのよっしん
2024/04/29(月) 14:23:28 ID: zsSn38CZCx
異端審問官=悪とは思わないな。あくまで違う正義、道徳ってだけだと思う
現代日本の道徳や国際的な人道を信奉する人にとって聖書(や教会)を信奉する人は悪魔に見えるのだろうか
114 ななしのよっしん
2024/05/22(水) 20:51:04 ID: X/1RIoCg2/
火刑は「神による復活を許さない」という面もあった筈。アブラハムの宗教では土葬が基本なのも終わりの日に神が蘇らせてくれることを期待してのものだし(どうやら土の中で腐ってバラバラになった程度なら神様がどうにかしてくれるらしいw)
だから行き倒れたアブラハムの宗教の人を荼毘に付すと大変なことになる。というか昔なった。
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最終更新:2025/03/31(月) 22:00
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