秀吉包囲網とは、1584年(天正12年)に日本の各地で起こった複数の勢力による対羽柴秀吉の一連の軍事行動である。特に「小牧・長久手の戦い」が代表的。
山崎の戦い・賤ヶ岳の戦いに勝利して、織田家臣の身でありながら主家に迫るほどの勢力を持った羽柴秀吉に対し、それを危険視した織田信雄・徳川家康らが共謀して戦った。各地の諸侯は秀吉体制を歓迎する者、逆にそれを警戒する者、織田徳川との関係を築く者など、様々な思惑の下に両者に追従した。
その結果、中央政権である織田家中は真っ二つに分かれて対立し、この内乱に巻き込まれる形で戦いは関東から九州に至るまで全国各地で発生。ほぼ全国の大名が2つの陣営に分かれて戦ったことは、のちの関ヶ原の戦いに至る「日本全国に波及する総力戦」の前哨とも言える。
戦役自体は小競り合い・睨み合いが続くなど長期化した末、和睦が結ばれて結果的には痛み分けに終わる。しかし、羽柴秀吉の官位が一気に引き上げられるなど、朝廷の秀吉支持が明確化した。この戦いを(勝利しなかったとはいえ)切り抜けた事で、羽柴秀吉の勢力拡大を止められる者はいなくなったと言える。
やがて四国征伐を経て朝廷の庇護の下に関白に就任、豊臣家を創設、織田・徳川も事実上臣従させ、数年後には豊臣政権における天下統一が成し遂げられた。
呼称については諸説あり、江戸時代は「小牧の陣」「長久手合戦/長久手の戦い」と呼ばれる事が多かった。特に徳川幕府の目線で話が語られる関係で、数ある局地戦闘のひとつであるはずの長久手合戦(徳川方が戦術的に勝利)が全体像であるかのような「小牧・長久手の戦い」という呼び方が流布していったようだ。
明治時代以降は一連の戦役を指して「小牧の役」とする呼び名が登場。近年では広範囲の戦争を指す「天正十二年の東海戦役」という名称も提案された。とは言え、これらは学術的な用語の域に留まっており、世間一般的には「小牧・長久手の戦い」が戦役全体の名称として用いられているのもまた事実である。呼称議論は未だに続いており、現状確定を見ていない。
この記事では東海地方(小牧・長久手)の争い以外も含めた、秀吉相手に信雄・家康が計画した全国規模の多方面作戦に主眼を置く形で「秀吉包囲網」を記事名としている。
羽柴秀吉と織田信雄・徳川家康連合が争った『小牧・長久手の戦い(長久手合戦)』(詳細は該当記事参照)を中心に、近隣地域でも連動する形で複数の戦いが発生した。
関東では北条氏と反北条連合の戦いである『沼尻の戦い』が、北陸では前田利家と佐々成政が争った『末森城の戦い』が起こっている。
西に目を向けると紀伊の雑賀衆、四国の長宗我部氏も秀吉陣営への攻撃を仕掛けており、『秀吉包囲網』と例えられる広範囲での戦いが繰り広げられた。
東北や九州では大規模な衝突こそ起こらなかったが、やはり親秀吉派・親信雄・家康派に分かれての対立関係が形作られている。
「賤ヶ岳の戦い」以前の前史については「本能寺の変」「山崎の戦い」「賤ヶ岳の戦い」「織田秀信の勢力版図と政権体制」を参照。
本能寺の変から2年。信長亡き後の織田政権の主導権を握る争いが繰り広げられた結果、「当主代行・織田信雄」「政権の最大実力者・羽柴秀吉」という二頭が並び立つに至った。信雄は賤ヶ岳の戦いの後、「三法師の後見人」「織田家の当主代行」という地位をゲットして安土城へと移った。一方秀吉も摂津に巨大な大坂城を築き、新たな拠点とした。
また、長年の織田家の同盟者である徳川家康も勢力を伸ばし、存在感を高めていた。やがて、それまで協調していた信雄と秀吉も対立が深まっていく。信雄と家康は手を組み、更には利害の一致する「反秀吉派」の諸侯たちにも呼びかけながら秀吉と対峙する事になった。
この時点で織田家の当主(代行)は信雄であり、秀吉はあくまで織田家臣の立場である。だが秀吉は京都や堺も影響下に置いており、織田家中に占める勢力の割合は並ぶ者のいないレベル。このいびつな力関係が、両者の対立へと繋がっていく。織田秀信は当時3歳であり、この対立を止めることはできなかった。
一方、長年の織田家の同盟者である徳川家康は、天正壬午の乱を経て甲斐と信濃中南部を新たに支配下に置いた。この乱で対立した北条氏とは、家康の娘・督姫が北条家当主・北条氏直に嫁ぐ事で和睦・婚姻・同盟関係を結ぶ。この仲介役になったのが織田信雄だった。
こうして信雄・家康・北条の友好関係が作られていく。対する佐竹義重・宇都宮国綱といった東関東諸侯は同盟を組み反北条を貫き抵抗。同時期秀吉へと接近を試みる。
それ以外の諸侯の同時期の動きについては「本能寺の変により変動した主な勢力」を参照。本稿では賤ヶ岳の戦い以降からの動向を中心に記述する。
一時は滅亡寸前まで追い込まれていた上杉景勝は、本能寺の変でなんとか命拾いした。その後は北信濃に勢力を伸ばしつつ、新発田重家の乱の鎮圧にも兵を割いている。対立していた柴田勝家の滅亡などもあって、やがて秀吉への接近を考え始める。
柴田勝家亡き後の能登・加賀には前田利家が入り、越中は佐々成政が引き続き治めている。この両者は同僚ではあるが以前から微妙な関係である。利家は賤ヶ岳での寝返り以降は秀吉と昵懇な関係だったが、一方の成政は飛騨のいい笑顔・姉小路頼綱とともに、信濃まで勢力を拡げた家康へと接近していったようだ。
紀伊の雑賀衆は石山本願寺が降伏した後、織田に従おうとする鈴木重秀(孫市)と、反織田を主張する土橋守重とが対立。本能寺で信長が斃れると、孫市は追放された。その後は根来寺や畠山氏残党などとも協力関係を結び、織田政権(実質的には秀吉)と対峙していた。柴田勢の生き残り・佐久間安政も落ち延びて、ここに合流している。
安芸の毛利輝元、備前の宇喜多秀家は、この時期親秀吉派である。
四国の長宗我部元親は、賤ヶ岳の戦いでは信孝・勝家に味方するなど反秀吉の姿勢を取り続けている。讃岐の十河存保は秀吉方について長宗我部に抵抗していたが、戦況は厳しかった。
1584年時点で、秀吉は紀州・四国の征伐を企図している(実際に行われるのは翌1585年)。
1584年には既に羽柴秀吉と織田信雄の関係は険悪化しており、信雄は安土城を退去させられていた。関係悪化の理由については諸説あり、はっきりしていない。秀吉が野心を剥き出しにして信雄を追いやったとか、逆に信雄が三法師にとってかわって恒久的な当主になろうと考えたとか、色々言われているが現状推測の域である。
3月、秀吉との決戦を渋る三家老(津川義冬・岡田重孝・浅井長時)を誅殺した信雄は、徳川家康らと同盟して挙兵する。これが全国規模へと伝播する戦乱の始まりとなった。
主な秀信・秀吉派 | 主な信雄・家康派(反秀吉派) |
---|---|
北陸方面 | |
関東方面 | |
畿内・西国方面 | |
その他各地の勢力も、中央の争いと連動するように戦いを開始する。
1584年3月、織田信雄は徳川家康と語らって挙兵。更に長宗我部元親にも協力を要請した信雄は、元親への書状で「秀吉が天下を意のままにしている」と主張するなど、反秀吉の態度を明確にした。その後、家康は信雄の領内である清洲城に入城した。
秀吉側は信雄の所領の尾張に侵入。重要拠点の小牧山を巡っての戦いが起こった。
詳細は「小牧・長久手の戦い」の記事内「小牧・長久手の戦い前哨戦」の項を参考。
秀吉も尾張に出陣したが、戦況は陣地構築戦に移り、たがいに手出しが難しくなってしまい、にらみ合いに終始する事になる。
正攻法で太刀打ちするのが困難と考えた信雄・家康は、積極的に味方を募って連携を強めるべく行動を開始する。家康は娘婿の北条氏直に協力を要請し、信雄は長宗我部元親・雑賀衆にも協力を募った。
信雄・家康の協力要請を受諾した紀州雑賀衆は、根来寺・粉河寺や淡路衆と協力して和泉岸和田へと出張り、そのまま進軍して堺まで迫った。ちょうど秀吉が大坂を出発した翌日(3月22日)に岸和田城と堺が襲撃されている。なんというジャストタイミング[6]。岸和田城の守将は中村一氏であり、劣勢ながらもなんとか守りきった。この時、大蛸に乗った僧侶が現れて城を守ったという「蛸地蔵伝説」が伝わっている。
だが堺の街は占拠され、紀州勢は続いて大坂へと進軍する。
紀州勢の数が3万にも及んだとされる一方、主軍が尾張へと向かった後の大坂を守る軍勢は当時8千程度と言われ、防備を固めていた黒田長政らが必死の防戦を見せた。鉄壁の要害という印象が強い大坂城ではあるが、前年に築城されたばかりの当時は城下の整備も終わっていない状況で、苦戦を強いられたが紀州勢をなんとか撤退させた。
結局、大坂の街は散々に被害を蒙り、秀吉が一時大坂に戻らなければならないほどであった。当時の雑賀衆は長宗我部元親と同盟を結んでおり、信雄・家康はさらに長宗我部氏にも即時参戦を要求したが、これは戦略上の問題を理由に元親から断られている。
家康は北条氏直に協力を要請した[7]。こうした遣り取りは先年より行われていて、予定の範疇と言えるものであった。北条氏は要請に応え、尾張方面へ援軍を送るつもりであったと言われる。だが一方で、前史でも述べた通り、佐竹義重・宇都宮国綱を中心とした反北条派も団結し秀吉へと接近していた。
尾張戦線が緊張している1584年4月、関東では小競り合いを契機として佐竹・宇都宮ら反北条諸侯が挙兵した。北条勢と反北条勢は5月に下野国沼尻にて対陣する。戦い自体は大きな衝突がほとんどないまま4ヶ月間続き、8月に和睦が成立した。
大きな被害もなく終わった戦いであるが、結果的に北条氏は予定していた尾張への援軍を派遣できず、反北条勢の挙兵の背景には秀吉による企図があったと見られている。
同時期、上杉氏が秀吉の要請で信濃国境に派兵し、徳川家康の背後を脅かしたと言われる。こうした秀吉側の遠交近攻策によって信雄・家康陣営は撹乱される事になる。
睨み合いの続く尾張戦線だったが、4月上旬、羽柴秀吉がついに動いた。長久手の戦いの始まりである。
秀吉は別働隊による三河奇襲作戦(中入り)を実行に移すが、信雄・家康はこれを看破して撃退し、秀吉側の池田恒興・森長可を討死させた。詳細は『小牧・長久手の戦い』記事内、「長久手の戦い本戦」の項を参照。
この戦い自体は家康・信雄側が戦術的勝利を収めたが、秀吉の戦力は依然として大きく、再び両陣営はにらみ合いに入る。
羽柴秀吉は長久手での局地的敗北を受け、今度は広範囲で軍団を動かし圧迫していく作戦へと移行した。
伊勢方面の指揮は弟・羽柴秀長に命じて、松ヶ島城を攻め落とすなど信雄の領地を攻略していく。一方の家康に対しては、先述の沼尻の戦いや、手薄な信濃方面に謀略を仕掛けるなど後方撹乱を図った。更に秀吉自らは大軍を率いて、得意の城攻めで尾張各地(加賀野井城・竹ヶ鼻城など)を攻略していった。ちなみに竹ヶ鼻城では水攻めも行っている。
この時の秀吉は不用意な力攻めは一切せず、信雄・家康の主力軍を警戒しながらの城攻めに徹した。信雄・家康も滝川雄利や本多忠勝を援軍に派遣したが、ことごとく阻止されてしまう。しかし秀吉は信雄・家康主力軍との決戦を望んでいたのか、援軍が来ないとわかるとあっさりと降伏条件を出して、寛容な態度で開城に持ち込んでいる。信雄・家康側も後詰を送れない状況から、城将には降伏を受け入れるように伝えるしかなかった。
こうして各地の城が陥落してはいたが、大規模な激突は起こらず尾張戦線は再び膠着、お互いに決め手を欠く状態が続いた。
一方で、長久手の戦いにて森長可が戦死した影響で、東美濃では戦局が動いた。かつて長可に領地を追われた遠山利景を庇護していた家康は、彼を東濃に派遣して旧領を回復させ、秀吉の後方を脅かした。
少し時系列は順序するが、長久手の戦いにおける信雄・家康軍の勝利は、想像以上に大きい影響力があったようだ。家康たちは信雄の上洛も視野に入れ、長久手の勝利を喧伝し、更なる協力要請を広範囲にわたって行っている。東濃方面への進出も長久手の直後であり、余勢をかって行ったものである。
この宣伝活動が功を奏したか、5月頃には畿内でも「秀吉が尾張にて敗戦・退却した」という風聞が流れ、一時は騒然とするが、6月頃にはそれも落ち着いていった。また秀吉が佐竹義重に対して「絶対的優勢」を大本営発表書状で伝えるなど、お互いに情報戦が盛んに行われた。
再び膠着状態になった尾張戦線とは対照的に、西側がにわかに慌ただしくなった。織田信雄・徳川家康の協力要請を受けていた四国の長宗我部元親が、遂に軍事行動を開始したのである。
当時の四国は、三好一族の生き残り・讃岐の十河存保が織田家および秀吉の支援でなんとか抵抗していた。元親はこの十河勢を次々と攻略し、6月11日に本拠地・十河城を落城させる(第二次十河城の戦い)。敗れた十河存保は秀吉のもとへ逃れた。
更に信雄・家康は、元親に渡海しての大坂攻撃を依頼する。秀吉打倒のあかつきには褒賞として信雄は備前を、家康は摂津・播磨・淡路を長宗我部氏に与えようと約束する太っ腹っぷりであった。取らぬ狸の皮算用とも言う。元親は淡路・雑賀衆らとも同盟を結んでおり、それほどに当時の長宗我部家の勢いは強かった。これには秀吉も警戒し、一度大坂に戻っている。
その後も信雄・家康は元親との交渉を続けており、「秋には上洛可能」という内容の大本営発表書状を伝えている。
長宗我部元親はこの後、渡海・畿内進軍をにおわせ続けたが、結局渡海する事はなかった。なんという渡海渡海詐欺。実際のところ、まだ伊予の河野通直[8]とは敵対関係で、河野のバックには毛利がおり、そして毛利は秀吉側…という訳で、安易に土佐を留守に出来るような状況ではなかった。それでも元親の存在は秀吉に対する一定の牽制になっており、続く蟹江城の戦いに大きな影響を与える事になる。
伊勢方面には羽柴秀長・蒲生氏郷らが進軍していた。だが対する信雄・家康陣営は、救援がほとんどないにも関わらず頑強に抵抗を続けていた。のちに中立的態度を取っていた織田信包(安濃津城主)が秀吉側に味方するも、状況はあまり変わらなかった。
そこで秀吉は、昨年の賤ヶ岳で敵対して蟄居の身となっていた滝川一益を赦して復帰させ、海路を利用しての諸城攻略を命じた。ターゲットは尾張南西に位置する蟹江城である。ここは信雄の本拠地長島城と、家康が滞在する清洲城の中間点にあり、これを分断するのが目的だった。
6月16日、一益の電撃作戦が始まり、信雄方についていた九鬼嘉隆や前田長定・前田長種父子[9]らを寝返らせ、佐久間信栄[10]らが守る蟹江城、下市場城、前田城などを次々と占拠した。
しかし大野城の山口重政は降伏せずに抵抗し続け、翌日には信雄・家康の援軍が到着したため、当初の作戦は破綻する。一益は蟹江城に籠城したが、援軍は来ず、7月3日に降伏に追い込まれた。一益らは助命されたが、前田長定は殺害された。
この時の秀吉は長宗我部元親などへの対応にも追われて各地を転々としており、素早い判断ができなかった。蟹江城を確保できなかった事で、羽柴秀長や堀秀政らによる伊勢への大侵攻も見送られ、結局これまで通りの小競り合いが続くことになる。長久手の戦いに続き、ここでも秀吉は総兵力の利を活かした大合戦に持ち込めずに終わってしまった。
その後も伊勢方面における信雄方の頑強な抵抗は続いた。9月になって蒲生氏郷が木造具政と戦って勝利しているが、戦局が好転することは結局なかった。
8月、羽柴秀吉は再び尾張にて織田信雄・徳川家康連合軍と対峙していた。だがこの頃になると流石に両軍とも厭戦気分なのか、直接的な軍事衝突はほとんど見られなくなった。
だが、膠着する一方の中央戦線に対し、地方では連動した合戦がいくつか発生している。
北陸地方では、信雄らと友好関係にあった越中の佐々成政がついに挙兵する。秀吉と昵懇な関係を築く前田利家が領する隣国・能登へと怒涛のごとく進軍し、9月9日には能登と加賀を結ぶ位置にある末森城を攻囲した。戦況は佐々軍に有利であったが、前田利家も援軍を率いて急ぎ駆け付け、11日に佐々軍に奇襲をかける。これに敗れて成政は撤退していった。両軍同数程度の犠牲であったという。
末森城を守る奥村助右衛門は必死の防戦をみせ、彼の妻も城兵を介護し叱咤激励するなど大いに奮戦した。この戦いは漫画『花の慶次』にも描かれている。小便鉄砲くらいやがれーっ!
この後、秀吉の意を受けたのか、越後の上杉景勝が越中方面に軍を派遣し、国境付近にある佐々成政の城を数ヶ月かけて攻め落としたりもした。
9月、徳川傘下にあった木曽谷の領主・木曽義昌が、数々の内応工作の末についに羽柴秀吉へと帰順した。秀吉との戦いで戦地を離れられなかった家康は、家臣としていた信濃領主たち(保科正直・諏訪頼忠・小笠原貞慶など)を木曽討伐に派遣するが、妻籠城を守る木曽家臣・山村良勝の前に敗退した。
秀吉方の調略の数々によって、家康の信濃支配は動揺し始める。翌年にはかの有名な真田昌幸が離反して、第一次上田合戦が発生する事になる。
ここにきて、約半年に渡る戦争を続けながらも、両軍ほぼ完全な膠着状態に陥り続けた中央勢力は、次第に和睦へと方向を転換する。和睦の意図としては、織田秀信・羽柴秀吉陣営は大軍を一箇所に駐屯し続けていることが既に限界に達し、特に四国の長宗我部元親、九州の島津義久が敵対行動を続けながら勢力を拡大させており、早急な善処が見込まれることが理由であったと言われている。
一方の織田信雄・徳川家康陣営では、局地的な勝利こそいくつかあげているものの、兵力差における圧倒的な戦力差があることや、徳川領信濃、織田領伊勢といった中心戦地以外での不穏分子や抗戦限界を放置し続けることが難しい状況にあった。また当時の徳川家康本人の体調が芳しくなかったことが史料から確認されており、翌年生死の境を彷徨っていることからこれが和睦の一つの理由になったかもしれない。
とまれ、ここに両陣営の思惑から、11月15日に羽柴秀吉・織田信雄による和睦が結ばれ、その直後に羽柴秀吉・徳川家康の和睦が結ばれることとなった。なお後年この行為が「家康様は秀吉に勝てそうだったのに、信雄の無能がgkbrして勝手に和議結びやがった」とスケープゴート徳川顕彰のダシに使われる羽目になる。
この和睦は、あくまでも天正十二年における一連の戦争に対する和睦であり、この戦争でどちらかの陣営を一方的に崩した、ということはなく、この段階では痛み分け、という結果に終わった。
しかし、この一連の戦争を和睦という形で終わらせたことで、誰が一番得をしたか?それは羽柴秀吉その人に他ならない。
羽柴秀吉は和睦を結んだ直後から一気に自らの勢力強化と、敵陣営の切り崩しを行う。和睦後の12月には自らの養子である織田秀勝と毛利輝元の娘を婚姻させ、毛利氏との関係を強化。
あけて1585年に秀吉は、敵陣営の切り崩しを一気に成し遂げる。春に紀州征伐で紀伊雑賀衆を無力化して降伏させると、5月には四国征伐で羽柴秀長らの活躍のもと長宗我部元親を降伏させる。8月には佐々成政と姉小路頼綱を降伏させ、越中、飛騨にも勢力を伸ばした。
同年同月、秀吉は朝廷の内部対立を利用して関白に就任。翌年には豊臣氏まで賜り、朝廷の威光を背景に自らが天下人、天下の統治者であることを明確化し、藤原氏の権力も手中にして全国の大名を従えんとする。かつて織田信長を輩出し、天下統一をほぼ達成した織田家が、朝廷の権力をも手中に収めた豊臣秀吉の後塵を拝することになる瞬間であった。
一方の同年における徳川家康は、病で生死の境を彷徨ったり、真田昌幸に離反され、追討軍を派遣するも撃退され、さらには重臣の石川数正らが離反するという事態になるなど、明暗別れる年となった。
やがて当事者の織田信雄や徳川家康をはじめ、各地の大名は順次豊臣政権に従属。秀吉の主君にあたる織田秀信も、こうなっては秀吉に従わざるを得なくなった。織田家は天下の主の座から転落し、以後天下統一をする政権のもと、後塵を拝しながら存続を続けた。しかし結果的に、秀吉を苦しめる形でその後も力を蓄えつつ臣従した徳川家康は、秀吉の死後、豊臣家を滅ぼし天下統一をすることと相成った。
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218 ななしのよっしん
2023/06/02(金) 04:27:49 ID: yfaT7nCgMS
秀吉の野心などという、あやふやかつデウス・エクス・マキナな理由よりも
後見人となった織田信雄が甥っ子より自分の息子に継がせたかったっていう
応仁の乱再来の動機の方がしっくり来るんだよな。
最初筋目を通そうとした秀吉が後から秀次事件で信雄と同じことやるまでがセットで
219 ななしのよっしん
2024/02/10(土) 00:24:42 ID: RUThRPThCf
織田宗家自体は信雄筋ってのが秀吉時代からで秀信は実は宗家から外れてたみたいで…
「清州会議」の結果三法師が織田家家督として立てられ信孝の後見を受けるが信孝が三法師を擁して秀吉と対立
→秀吉は丹羽長秀、池田恒興らとともに三法師の織田家家督を剥奪、信雄を新たな家督に立て岐阜城を攻撃
→三法師は羽柴を名乗らせ(羽柴秀勝の跡継がせる形に)織田宗家の家督相続権すら消滅
後に淀殿周りは秀頼も宗家を外されて、例えば木下家に行かされるってのを恐れてたとかかな(小早川秀秋存命時は挿げ替えられる恐れもなくはなかった…?)
信雄は単純に秀吉>信雄という構造が気に入らなかった、政治的優位性を奪還したかったって感じがしっくりきそう(戦になったのはそれこそ取次への危害が発端ってのは大坂の陣と一緒だし)
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最終更新:2024/03/29(金) 04:00
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