窮人三件套 (簡体字:穷人三件套) とは、中国のネットユーザーを中心に使われている語で、『貧乏人三点セット』を指す語。
インスタント麺・ザーサイ・コーラの3つを指しており、「庶民の生活必需品」として扱われる。
窮人三件套とは、中国において生活必需品とされる、インスタント麺 (方便麺 / 方便面)・ザーサイ (搾菜) ・コーラ (可樂 / 可乐)のことである。なぜこの3つをひっくるめた言い方が生まれたのかというと、まずは皮肉としての用法が主となる。中国で太陽光発電、リチウムイオン電池、そして電気自動車が、経済を牽引する「新三様」と呼ばれたことを捩っているというのだ。
そして、もうひとつの理由が、実際に庶民、それこそ貧困層にとってはなくてはならないものだからというものがある。例えば中国では路上で労働者がインスタント麺を食べている光景はしばしば見られるし、ザーサイも庶民の食卓に並ぶ中国の定番おかずである。コーラは一見日本人からは奇妙に見えるかもしれないが、飲用水として捉えたときに重要なポイントがある。
2020年代に入り、日本を含め多くの国でインフレーションに見舞われた——もちろん中国もである。この窮人三件套がどうなっているかも合わせて確認していこう。
中国は世界で消費されているインスタント麺のうち、その半分を消費している国である。こうした巨大な市場で、そのおよそ半分のシェアを持っているのが、台湾資本の 康師傅 (康师傅) である。庶民の味であり、安く手軽にお腹を満たせる康師傅のインスタント麺は広く食べられ続けてきた。
2024年、この康師傅の袋麺が2.8元 (約60円) から3元 (約65円) に、カップ麺は4.5元 (約98円) から5元 (約108円) に値上がりした。特に後者は労働者層に大打撃であり、「カップ麺5元時代に突入した」とネットで話題となった。外でインスタント麺を食べる多くの労働者は、カップ麺のほうがより割高な値上げ幅となってもそれを買うしかないのだ。
また、特に労働者層は大きいサイズを買う割合が高く、その場合は5.5元 (約110円) から6元 (約120円) にまで上昇している。このため、一部のネットユーザーたちは急騰する台湾企業のインスタント麺をやめ、代わりに国産の 白象 のインスタント麺を食べようと呼びかけ始めている。白象なら同じサイズでも5元で済むからだ。
1898年、涪陵の商人・邱寿安が考案したザーサイは、世界三大漬物として無形文化遺産にも登録されたほどの食材であり、中国においては当然ご飯のお供といえるものである。もともと、同名のからし菜の変種である野菜のコブの部分を香辛料などで漬けたものであり、お粥などと一緒に食べるのが一般的である。
このザーサイのなかでも最も有名なブランドである 烏江 ザーサイは、2008年以来13回も値上げを繰り返し、内容量も80gから70gに減少し、当初は0.5元 (約10円) だったが、今は3元にまでなっている。人々の食卓に並ぶ定番のおかずにして、もっとも安いおかずが6倍の価格になってしまったのだ。それでも庶民はこのザーサイを買うしかない。
最後はコーラである。……いやいや待って、なんでコーラなんだ、と思った読者諸賢も多いだろうが、そもそも日本と日本国外では「水」というものの価値が全くといっていいくらい異なる。一旦中国の話からは離れるが、コーラがどれだけ世界で庶民に飲まれているかを見ていこう。
まず第一に、日本のように水道をひねったら飲用水が出てくる国はほとんどないということを抑えておきたい。海外で水を飲もうと言うならミネラルウォーターかウォーターサーバーの2択である。海外のレストランで水を頼むとお金を取られる。そして欧米のレストランでは、料理に合う美味しい度合いのお水は当然高級な水になるので、それならコーラを頼んだほうが安いという現象さえ起きている。欧米でさえこれなら、ましてもっと貧しい地域は?
まずはメキシコはチアパス州である。この地域は豊富な水資源を湛えている。にもかかわらず、住民は水を容易に手に入れることができない。水道は週2回しか使えず、水を手に入れるには給水車から水を購入せざるを得ない。そしてこのチアパス州では、あろうことか水よりもコーラのほうが安いうえに、どこでも手に入ってしまうという逆転現象が起きてしまっている。なぜなら水源はコカ・コーラ社に独占されているからである。このため住民はなんとも困ったことに、日々の飲用水はコーラに置き換えており、果ては儀式に使う聖水までコーラに置き換えてしまっている。日本で神様にコーラを捧げるなんて言ったら「何を言ってんだ」となるが、この地域では民間信仰すらコカ・コーラに牛耳られてしまったのだ。結果若年層でさえ糖尿病になっており、メキシコでは問題となっているが、コカ・コーラが雇用を支えている側面があるためなんともできない事情がある。
同様の問題はアフリカでも起きている。アフリカもきれいな水を手に入れられるイメージはあまりなかろうが、それでも農村部などでは現地の住民はまだその井戸水などを飲んでいる。しかし同じアフリカでも都市部の人々や、開発支援などのための外国人が農村部に行くと、その水を飲んだだけでお腹を壊してしまう。そんな地域の野外市場ではミネラルウォーターも売られていることがなくはないが、それよりも確実に在庫切れすることがなく、かつ安心安全で安価に手に入る物がある。コカ・コーラである。このため、安全な飲用水としてのコカ・コーラの価値は高い。無論わかっていてコカ・コーラはアフリカの奥地にさえコーラを供給している。
そして東南アジア圏。こうした地域でもコーラは一定のニーズを占めている——というより、水を買うよりコカ・コーラを買うほうが安全であるというのがこの東南アジアでの定説である。コカ・コーラは品質に厳しく、かつ安易にニセモノを作れない炭酸飲料であるいっぽうで、水はそのへんのゴミ箱をあさって出てきたペットボトルに水道水や溝水をつめてパッキングされていることさえある。露店で水を買うのは自殺行為だ——それよりはコカ・コーラを買え。
だいぶ話は遠回りしてしまった。しかし中国でも事情は正直変わらない。中国で水道水を飲もうなどまず考えてはならない。蛇口を捻って出てくる水がまず清潔か……どころか透明かどうかさえわからない。そしてミネラルウォーターも安全かどうかわからない。東南アジアと同様、詰め直しが売られていることがあるためだ。ツアーなんかでは最初にガイドから水を配られて「この水だけ飲んでください」なんて言われるケースさえある。
しかしそんなコカ・コーラも3元だった販売価格を3.5元に引き上げてしまった。ペプシコーラも同じタイミングでコカ・コーラに合わせて価格を上げている。砂糖が値上がりしたからとコカ・コーラは説明している。
実際のところ、窮人三件套はなぜ値上がりするのか。もちろん、原材料の高騰や世界中を覆うインフレーションはまったくもってそのとおりであろう。しかし、同じタイミングで中国では高級車や高級酒などはどんどん値下がりし、住宅価格なども急落してしまっている。
ただし、高いものがいくら安くなろうと、国民の給料は上がっておらず、当然消費は上がらない。しかし中国共産党からすれば国民の消費目標を上げなければいけないという至上命題は存在している。
そこで狙い撃ちされたのが窮人三件套のような生活必需品だったのではないかという分析があるわけだ。どれだけインスタント麺・ザーサイ・コーラが値上がりしても人々はそれらを買い求めなければ生活がままならない。
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最終更新:2025/12/09(火) 22:00
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