もしかして: 羅切(らせつ) - 「魔羅をちょん切ること」を表す隠語で、羅刹とは特に関係は無い。
羅刹(らせつ)とは、
元々はバラモン教およびその後裔であるヒンドゥー教の神話に登場する食人鬼の総称であり、その名前 राक्षस はサンスクリット語で「損害を及ぼす者」を意味する。日本のゲームや小説等では「ラクシャーサ」「ラクサーシャ」「ラークサシャ」等々と表記されることがあるが、サンスクリット語の転写として最も適切なのは「ラークシャサ」である。現代のヒンドゥー語等では長音や語末母音が略され「ラクシャス」と発音されるため、現代的な文脈ではこう表記される場合もある。
男女の別があり、男の方は羅刹娑(ラセツシャ。 Rākṣasa (ラークシャサ)の音写)あるいは羅刹婆(ラセツバ。娑と婆を混同したもの)と云い醜悪とされる。女のほうは羅刹斯(ラセツシ。 Rākṣasī (ラークシャスィー)の音写)あるいは羅刹女(ラセツニョ)* と云い男と違って美麗、あるいは美女に化けるとされる。羅刹鬼(らせつき)とも、足が速いことから速疾鬼(そくしつき)とも、その恐ろしさから可畏(かい)とも呼ばれる。またそのイメージは性質のよく似た日本の鬼や地獄の獄卒の造形にも影響を与えたとされる。
* 『西遊記』の牛魔王の正妻・羅刹女(彼女の場合はラセツジョとも読む)は地仙(下級仙人)・鉄扇公主の別称であり、この羅刹女が女の羅刹であるとは単純に言い切れない。とはいえ原本によると起源は古来の風雨の精らしく、羅刹のように変身能力にも優れ(しかも化かし合いの相手は聖人をサポートする化け猿。後述)、芭蕉(バナナの葉の)扇=南方、というように羅刹に通じるイメージが盛り込まれている。なお、後代の続篇『後西遊記』では羅刹国で祀られるほどの上級仙人になったようだ。
原初においては自然界に身近に存在する精霊のような存在だったようだが、その内に魔術や幻術を操ってその身を変化させ、人に憑依したり惑わせる恐ろしい霊的存在とされた。また優れた戦士でもあり、神族(デーヴァ)もしくは魔族(阿修羅、アスラ)や悪鬼(夜叉、ヤクシャ)の軍勢に加わったり、時には人間の軍隊に加勢することもあった。
しばしばラークシャサはアスラやヤクシャ等と混同されることもある。というのもインド神話では、例えばラークシャサの王ラーヴァナとヤクシャの王クベーラは互いに異母兄弟である、といったように兄弟姉妹であっても母系の血筋によって異種族と捉えられることがしばしばであるため、ますます混同が進むというわけだ。
ヒンドゥー教の神話によれば、かつてラークシャサたちはその傲慢ゆえにランカー島(俗説では現在のスリランカだが、学問上の定説ではない)を逐われてしまっていた。10の頭部と10組の腕を持つ巨漢のラークシャサ王ラーヴァナは、一族再興を願い1000年もの間に自ら9つの頭部を切り落とす等の苦行を果たし、ついに原初神ブラフマー(父方の曽祖父)の加護を得た。そしてランカー島を治める異母兄弟クベーラと争ってこれを破り、彼を遥か北のカイラス山(ヒンドゥー教ではシヴァの象徴(リンガ)、チベット仏教では須弥山と同一視)へと追放して宿願を果たしたのだった*。しかしそれだけで飽き足らぬラーヴァナは他の兄弟たちとも争い、冥王ヤマ(閻魔)や神王インドラ(帝釈天)を始めとする神魔にも挑んでその尽くを降していくが、猿神族ヴァナラたちの補佐を得た王子ラーマ(秩序神ヴィシュヌの化身(アヴァターラ))に討ち取られた。
* おもしろいことに、これより以前にクベーラも1000年間の苦行を経て曽祖父ブラフマーに認められ、神の位と戦車を与えられたが、戦車はこの戦いでラーヴァナに奪われた。そしてこの1000年単位の兄弟ゲンカを仲裁したのは彼らの父ヴィシュラヴァ・・・つまり、ある意味この争いの張本人。この曽祖父、父にしてこの息子である。
羅刹は仏教(密教)に取り入れられ、その王は十二方位を守護する十二天の一、羅刹天となった。天(デーヴァ)とはバラモン教・ヒンドゥー教の善神族や善化した鬼神族で、羅刹天が守護する南西の果てには羅刹国があるとされる。
羅刹天は別名を涅哩底王(ネイリチオウまたはニリチオウ。Nirṛtī-rāja (ニリティー=ラージャ)の音写&翻訳)と云い、白獅子に跨り剣を振るう武人の姿をしている。こちらは元々はヒンドゥー教のローカパーラ(八方位+天頂&地底の十方を守護する神)の一柱で、南西を守護する白馬の女性武神である。その起源はバラモン教の破壊と滅亡を司る女神であり、ニリティーの男性形 Nirṛta (ニリタ)は嵐魔族ルドラの一柱の名でもある。その名は「吼える者」を意味するとも「無法者」を意味するともされる。その属性と方角の近似性から、死者の国のある南を守護する閻魔(ヤマ)とも大いに混同されたり、協力関係にあるとされたりする。よってその眷族である羅刹は(本来は閻魔の領分である)地獄の獄卒「地獄卒」を指すときもあり、その象用は鬼の造形に大きな影響を与えている。
仏教における羅刹たちは基本的に護法神(護法善神、諸天善神とも。仏法を守護する諸々の霊的存在)として、四天王の一である多聞天(または毘沙門天。元来は夜叉王クベーラで地中の財宝を司る)の下で夜叉たちと共に仏法に仕えているとされる。また羅刹女の中にはそれぞれに本地仏(化身としての羅刹に対する、仏としての本来の姿)を持つ者がいるとされ、経典によっては8体とも10体とも12体とも72体(!)とも言われている。
このように羅刹国が南(西)方にあり、羅刹の女は恐ろしくも美しく、王も女性であるということから、遥か南の果てに美しい鬼女ばかりが住む羅刹国の伝説が生まれた。
玄奘は『大唐西域記』でスリランカ建国伝説の一つとして、羅刹女の島に漂着した大商家の息子・僧伽羅(シンガラ)の話を紹介している。僧伽羅が天馬に乗って脱出すると、羅刹の女王が追ってきて妖術で本国を滅ぼしてしまった。代わりに僧伽羅が王となり島を攻めて羅刹を退治し、その名がシンハラ(スリランカの多数派民族名)になった。
日本の『今昔物語』にもこの物語が収録されているが、僧伽羅は仏僧・伽羅(きゃら)と解釈され、500名の漂着者の中で彼だけが仏の加護を得て島を脱出する、と元ネタの前半部分までで説話的オチがついて終わる。
なお、囚われた男たちはみな誘惑され羅刹女たちの伴侶にされた。というのもギリシアのアマゾネスの伝説しかり、女ばかりでは子孫が残せないからである。先述のとおり子の種族は母方の血縁で決まるので、生まれる子供は全て羅刹となるというわけだ。
日本にも古来より遥か東方か南方の海上に浮かぶ女性ばかりの島の伝説があり、それが羅刹国伝説と結びついて美しい鬼女の住まう「東女国」として中国にも伝わっている。
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最終更新:2024/10/07(月) 03:00
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