『羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)』とは、
本項では2.の映画版を中心に記述する。
若きFBI実習生、クラリス・スターリング(演:ジョディ・フォスター)が、連続猟奇殺人事件の犯人を追う。その中で類まれなる知性と凶暴性を併せ持つ『人食いハンニバル』ことハンニバル・レクター(演:アンソニー・ホプキンス)の助言を受ける事となるが……
原作は1981年の小説『レッド・ドラゴン』の続編。ただし話は直接の繋がりがなく、単体で読むことができる(具体的に言うと、『レッド・ドラゴン』では「重要な脇役」程度のポジションだったレクター博士を主役に抜擢したのが本作。クラリスは前作には登場しない)。映画版も同様に本作単体で見られる。
原作は刊行されるやいなやアメリカの読書界に一大センセーションを巻き起こし、優秀なホラー小説に与えられるブラム・ストーカー賞の最優秀長編賞を受賞。「サイコサスペンス」というジャンルを確立する金字塔となり、映画版の影響もあって90年代には本作と同系統のサイコサスペンスが雨後の筍のように量産されることとなった。
日本でも1989年に新潮文庫から邦訳され、同年の「このミステリーがすごい!」海外編1位に輝く。その後、膨大なフォロワーを生んだ〝新しい古典〟としての地位は不動のものとなり、2012年に週刊文春が行ったオールタイムベスト投票「東西ミステリーベスト100」では9位にランクインしている(第二次世界大戦後の作品では、この上には6位のレイモンド・チャンドラー『長いお別れ』と7位のウンベルト・エーコ『薔薇の名前』しかいない)。
映画版の監督はジョナサン・デミ。
ジャンルはサスペンスだがホラー映画としての側面もあり、視聴に際してはグロ注意である。
第64回アカデミー賞で主要5部門(作品賞・監督賞・主演男優賞・主演女優賞・脚色賞)を受賞。サスペンスというジャンルでのアカデミー賞受賞は極めて異例であり、当時話題となった。またアカデミー賞の主要5部門すべてを独占したのは第7回(1934年)の『或る夜の出来事』、第48回(1975年)の『カッコーの巣の上で』に次ぐ3作目となった。
その他にも第49回ゴールデングローブ賞を始めとした、多くの栄誉に輝いている。
ミズーリ州を中心としたアメリカ各地で、若い女性が殺されて皮を剥がれるという連続猟奇殺人事件が発生。皮を剥ぐという行為から犯人は『バッファロー・ビル』と称されていたが、手掛かりは皆無だった。
FBIアカデミーの実習生、クラリス・スターリングは、バージニア州クアンティコでの訓練の日々を送っていたが、上司のジャック・クロフォードからある任務を課される。
クロフォードは『バッファロー・ビル』事件解明の為のプロファイリングを行っていたが、元精神科医にして凶悪犯罪者のハンニバル・レクターはFBIへの協力を拒否し続けていたのだ。協力を乞うため、クラリスは彼が収監されているボルティモア州立精神病院に向かう。
傲慢な院長・チルトン博士や、親切な看護士・バーニーらとの出会いを経て、クラリスはレクターの独房に辿り着く。レクターは率直なクラリスを好ましく思うものの、クロフォードの意図を見抜いて彼女を挑発し、すげなく追い返した。地上に戻る途中、隣の独房の患者・ミッグスから精液入りのコップをぶつけられたクラリスに対し、レクターは「隣人の非礼」の詫びにと、一つのヒントを示唆する。これがきっかけとなり、クラリスはレクターから情報を引き出す手がかりを掴んだ。
一方その頃、ルース・マーティン上院議員の娘、キャサリンが行方不明となる。彼女は『バッファロー・ビル』に誘拐され、地下室に監禁されて死を待つばかりであった。
一刻の猶予もない状況で、チルトンはFBIを出し抜いて名声を得ようとし、マーティン上院議員に働きかける。レクターを精神病院から待遇の良い施設へと移送し、情報を引き出そうとした。この妨害により今後の接触が絶望的になったクラリスだったが、最後にレクターと面会した時、彼女が内に秘めていたトラウマを初めて打ち明ける事となる。
父の死。引き取られた農場。羊達の悲鳴。助けられなかった命……
レクターは「もしもキャサリンを助ける事が出来たら、羊たちの悲鳴は止むと思うかね?」と言葉を投げかける。答えを見出せないクラリスがチルトンによって追い返される中、鉄格子越しに預かっていた書類を渡したが、そこには誰にも教えていない犯人への手がかりが記されていた。
そしてレクターは警備の隙をつき、病院職員や警備員を殺害して脱出に成功、姿を消す。
一方でクラリスは最後の手がかりから『バッファロー・ビル』に辿り着き、遂にその自宅に踏み込むが……
主人公。FBIアカデミーの実習生。つまりこの時点では正式な捜査官ではない。その為イレギュラーな事態において都合よく運用されている事は自覚している。目を引く美貌の持ち主で、男性主体の世界ならではのいやがらせも受けている。強い正義感を持ち、気丈な気質。
レクターとの初対面は失敗したものの、一つの手がかりを示唆された事をきっかけに、『バッファロー・ビル』の正体に近づいていく事となる。
幼少時、保安官だった父が殉職。親戚の農場に引き取られたが、明け方に聞こえた物音で目覚めて見たものは、屠殺される羊達の姿だった。一頭の子羊を抱いて逃げ出したが連れ戻されて養護施設に送られ、子羊は殺された。この事がトラウマとなっており、レクターに打ち明けた事で彼の興味をおおいに引く事となる。
事件解決後、レクターは彼女に手紙を書く(映画では電話をかける)。後にFBI捜査官となるが、その後は続編『ハンニバル』にて語られる。
天才的な頭脳、優秀な精神科医、そして殺人鬼にして食人鬼。それ故に『人食いハンニバル』と呼ばれている。前作『レッド・ドラゴン』開始前に逮捕されたが、収容先の病院で看護婦を襲って瀕死の重傷を負わせており、精神病院に終身収監されている。
クラリスの事を最初は田舎の小娘と見なして追い返したが、隣の独房のミッグズの「非礼」に憤り、詫びにと一つの手がかりを示す。その後ミッグズを「言葉」で追い詰め、自殺に追い込んだ。
チルトンの指示で移送前にクラリスと最後に対面し、彼女のトラウマを聞き出す。鉄格子越しに書類を返す際、彼女の指をなぞるシーンは屈指の名場面である。
脱走後は南米に飛び、整形手術を受けた。小説ではクラリスを始めとした人々に手紙を送る所で、映画ではチルトンを追って雑踏に姿を消す所で物語は終わる。人物詳細は個別記事を参照。
FBI行動科学課の主任調査官。クラリスの上司で、大学では教師でもあった。幼少時に父を失ったクラリスからは、無意識的に「父性」の象徴として慕われている。
『バッファロー・ビル』の手がかりとしてプロファイリングを行っていたが、猟奇殺人における貴重なサンプルであるレクターの協力を得られず、手詰まりになっていた。そこでクラリスを使って「若い女性の連続殺人」に関する情報を得ようと、地味にひどい任務を与える。
終盤、『バッファロー・ビル』逮捕の手がかりを得て彼の自宅に踏み込むが……
ボルティモア州立精神病院院長。レクターの「主治医」を自負する傲慢な男で、レクターからは軽蔑されている。『バッファロー・ビル』事件解決の栄誉を受けようと先走り、クラリスを妨害して別の施設にレクターを移送しようとした。だが結局レクターには嘘八百の情報を与えられた上、監視の隙をついて脱走を許してしまう。
後に南米に逃亡、厳重な警備によって守られる事になる。しかしレクターは手紙で「近いうちに夕食に招待する」旨を彼に知らせた(映画では電話越しにレクターが「親しい友人を夕食に……」とクラリスに告げる)。その後は行方不明になった事が『ハンニバル』で語られている。
ボルティモア州立精神病院の看護士。職務に忠実な男で、レクターに対しては礼儀正しく接し、芸術や文学について教えを受けると共に、脱走する為のいかなる行動をも起こさせないよう注意深く監視していた。クラリスにも穏やかに応対し、何かあったらすぐに駆け付けると知らせている。
後にレクターはバーニー宛に長年世話をしてくれた礼を手厚く述べ、謝礼金を同封した手紙を送った。その後『ハンニバル』にも登場したが、レクターが着用していた噛みつき防止のマスク(マニア垂涎のお宝)をこっそり隠し持つなど、存外抜け目のない所を見せる。
上院議員。娘のキャサリンがバッファロー・ビルに誘拐されたのを受け、テレビを通じて解放を訴えた。功を焦ったチルトンによってレクターを別の施設に移送するよう手配したが、最終的に娘を救ったのはクラリスだった。この事に深く恩を感じ、続編『ハンニバル』では窮地に陥ったクラリスに力を貸そうとする。
マーティン上院議員の娘。明るく聡明な少女。怪我人を装って近づいてきたバッファロー・ビルに誘拐され、地下室の井戸に監禁される。
体を洗い、皮膚を美しくする為の手入れをするよう命じられるが、機転を利かせて彼の愛犬を手元に呼び寄せ、人質ならぬ犬質にする事に成功。ほんのわずかではあるが、時間稼ぎになった。
連続殺人鬼。若い女性を誘拐、殺害してから身体の皮膚を剥いで遺棄している。皮を剥ぐという手法がバッファロー・ビル(実在の西部開拓者。数千頭ものバッファローの皮を剥いでなめした)を彷彿とさせた事からこの名がつき、報道される事となった。犠牲者の検死の際、アジアにしか生息しない蛾のサナギが喉に押し込まれていたのが見つかり、これが手がかりとなる。
本名はジェイム・ガム。幼い時に母を失った事をきっかけに、「美しい女性になりたい」という歪んだ変身願望を抱くようになる。「変身」の象徴として珍しい蛾を輸入し、手ずから育てていた。
肉付きのよい若い女性を誘拐し、皮膚を手入れさせてから痩せさせ、殺害後に「剥がしやすくなった」皮を剥いで死体を遺棄。綺麗になめした皮を使って「乳房のついた服」を作っていた。ペットの小型犬・プレシャスを溺愛していたが、キャサリンが井戸に誘い込んで人質ならぬ犬質にした為、激しく激昂。錯乱し、迷った末に彼女を殺そうとした所にクラリスが訪ねてくる。彼が犯人だと理解したクラリスに銃を突きつけられるが逃走。真っ暗闇の部屋で暗視スコープを使い、背後から近づいて射殺しようとしたが、撃鉄を挙げた音で気づかれ、返り討ちに合い死亡した。
掲示板
提供: mototenn
提供: palle
提供: ゆんなの
提供: (っ'ヮ'c)!
提供: (^ー^)v
急上昇ワード改
最終更新:2025/04/18(金) 17:00
最終更新:2025/04/18(金) 17:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。