虚無への供物 単語

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キョムヘノクモツ

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虚無への供物(きょむへのくもつ)とは、日本ミステリー三大奇書の一冊で、アンチミステリーの代表とされる小説である。1964年刊。作者中井英夫。

小説天帝げる果物、一行でも腐っていてはならない」

――中井英夫

概要

夢野久作ドグラ・マグラ小栗太郎黒死館殺人事件(ともに1935年刊)と並び、日本ミステリー三大奇書と評される一作。繰り広げられる推理合戦と『死館』のを強く受けた衒学趣味推理小説というジャンルへの過剰なまでの自己言及性、そして最終的に推理小説というジャンルとその作者読者をまとめて断頭台にかけるような結末で、反推理小説――アンチミステリーと称される。

本作が構想されたのは1955年のこと。その後、ゲイ雑誌『アドニス』に潭(みどりかわ ふかし)名義で途中まで連載された。ゲイ雑誌に連載されたからゲイバー舞台なのか、ゲイバー舞台だからゲイ雑誌に連載されたのかはよくわからないが、『アドニス』掲載版は現行のものよりもっと同性愛描写がはっきりと描かれている。

1962年、前半まで書き上がったところで、第8回江戸川乱歩賞に応募。最終選考まで残ったが、選考会では天藤真『陽気な容疑者たち』を含めた四つ戦の末、戸川子『大いなる』と佐賀潜『やかな死体』に敗れ落選した。選考委員のうち、本作を1位に推したのは荒正人。選考委員だった江戸川乱歩が本作のメタ的な趣向をして「冗談小説」と評したのは有名な話である。

のちに後半を書き上げ、1964年晶夫(とう あきお)名義で講談社から出版された。1969年に『中井英夫作品集』に収録されて以降は、中井英夫名義に統一されている。

ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』とともに、日本推理小説史上において特異な位置を占める大作としてくから特別視されていた。その後、竹本健治匣の中の失楽が登場した際に、『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』と本作の3作をまとめた「三大奇書」という名称が『匣』の掲載誌である「幻影城」誌で提唱され、以後それが定着して現在に至る。この経緯に関しては「奇書」の項も参照。

のちの「新本格」の仕掛け人である宇山日出臣が本作に惚れ込んで、文庫化されていなかった本作を文庫化するために講談社に入社したのは有名な逸話。その山が手掛け、1974年に出た講談社文庫版は長く読み継がれた。現在2004年に出た上下巻の新装版で読める。

本作にを受けた作家・作品は多く、また前述の通りこの作品が存在しなければ宇山日出臣講談社に入社することはなく、山がいなければのちの「新本格ムーヴメントがあのような形で発生したかどうかは疑わしい。その意味で、間接的にではあるが日本ミステリ史に多大なを与えている。本作のが強い『匣の中の失楽』が「新本格」に多大なを与えたことも含め、松本清張以後の「社会推理小説」の時代に発表された本作は、社会リアリズムの時代において、戦前探偵小説ロマンと現代の本格ミステリとを接続する巨大な地下脈となった存在と言える。

三大奇書の中では最も読みやすく、『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』にべると普通に面白い作品とよく言われる。歴史的な価値も含めて現在まで評価は極めて高く、1985年2012年に「週刊文春」が行ったオールタイムベスト投票東西ミステリーベスト100」では、1985年版・2012年版とも横溝正史獄門島』に次ぐ2位ランクインしている。とはいえ読みやすいのはあくまで『ドグマグ』『死館』にべての話で、オールタイムベスト2位だからってミステリー初心者がいきなりこれを読んで面がれるかと言われると……。まあ、だからこその「奇書」なのだが。逆に新本格以降のミステリー読み慣れた読者だと、なんだか既にどこかで読んだような話で、別に奇書でもなんでもないのでは? と思うかもしれないが、本作が「アンチミステリー」と呼ばれる所以である忘れがたい結末は現代の読者も一読の価値あり。

あらすじ

ザ・ヒヌマ・マーダケース
氷沼殺人事件――

 1954年台風船舶5隻が沈没し死者あわせて1430人を数えた洞爺丸事故から三ヶ後のこと。下町のゲイバー田亜利夫は駆け出しのシャンソン歌手奈々久生をアイちゃん(氷沼)と引き合わせる。久生はこれから氷沼で起こる殺人事件の被害者犯人殺人方法を推理してみせると言い放ち、やがて本当に家族が『病死』する。客人の藤木田老人も交えて三者三様の犯人と殺方法を推理する一行だったが、やがて第二の『事故死体』が発見され……

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掲示板

  • 17 ななしのよっしん

    2020/05/18(月) 21:48:36 ID: 4yiRxPDNr9

    後の世の虚勢りの無能リスペクトとイキりのネタとしてげられた供物っぽくなってて

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  • 18 ななしのよっしん

    2020/05/18(月) 21:53:20 ID: Pe+lvOmEag

    原点とかとりあえず省いても面いと思うけどなあ、確かに中だるみする感じは否めないけど最後は心打たれたよ

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  • 19 ななしのよっしん

    2021/01/23(土) 18:32:08 ID: sdVoQiWEJT

    「事件が起きる前に犯人を捕まえる」「犯人は死人の中にいる」みたいなミステリの前衛じみた奇想→ 確かに読んでて面かったが、論理が練られてなくてわかりにくかったりこじつけが多かったり
    犯人の思想→独りよがりな理屈だけど新本格っぽくも思える
    知識→自然対数の底定義式が間違っている。バラや不動尊のことはわからないが、この辺はたぶん間違いはないと思う
    社会人間の愚かさの批判→これ。これはこのコロナ禍でもかなり身にしみた人が多かったはず

    もちろん面かったけど他の人に勧めたいみたいな気にはならない

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